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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第7話

一階のエレベーターからミナカタの仲間二人が離れてドアがしまった時、中にあったガラクタの一つ、冷蔵庫が一瞬にして向きを変え、扉がゆっくり開いて中から青年が現れた。


「ふう…。何とか上手く行きましたか…。」


冷蔵庫の中に隠れていた人物、それはアキトである。アキトはエレベーターに甲冑を纏って飛び込んだ後、甲冑を召喚で一気に外して床に置き、自身はエレベーターに載せてあった中身のない冷蔵庫の中に隠れたのだ。

そして、扉の向きを壁側を向くように召喚し直し、男達に開けられないようにしたのである。空の甲冑を置いて置くことで、エレベーターが囮であるとミナカタの部下に思い込ませたのだ。


「全員屋上に向かったのは嬉しい誤算でしたね、何人かは下の階に来るのでは無いかと思っていましたが…。」


五階を離れる前に、車の中に召喚しておいた植物からの情報により、ミナカタ達は全員屋上に向かったとわかった。アキトは、何人かは下の階に来るだろうと見ていたが、予想に反して全員が屋上に向かってくれたために、余裕を持って逃げられるだろうと考えた。


「じゃあ、脱出しますか。」


まだ一階に敵が二名残っていたので、アキトは静かにエレベーターを二階に移動させた。エレベーターが二階に移動すると、開く前に冷蔵庫の影に隠れて外を伺う。二階には誰も居なかった。


「それでは、慎重に…。」


アキトは植物を召喚して辺りを警戒させつつ、物陰に隠れながら素早く移動する。


「非常階段は…っと。」


アキトは足音を立てないように移動し、外の非常階段に通じる扉をゆっくりと開ける。四階から五階への非常階段は破壊してあるが、二階から一階へのそれは壊していないので、それを伝えば一階の敵に見つからずに逃げる事が可能である。

警察が来たために敵のスナイパーは撤退しただろうと推測していたが、やはり不安がある為、注意深く辺りを見回す。


「大丈夫みたいですね…。」


周囲の安全を確認したアキトは上を見る。どうやら敵は未だに屋上に居るらしい。アキトは、念の為に盾を召喚して、上からの射撃に備えながらゆっくり階段を降り、近くの建物の中を注意深く通って警察に接触、無事保護して貰う事に成功した。


「後は頼みましたよ、ヤクモさん。」


アキトは、店の近くに先まで無かった木が生えているのを確認して、小さく呟いた。








「貴様…、木導術使い!」


ミナカタは、不意に何処からか現れた人物に銃の狙いをつけながら怨嗟の声を上げた。その目は血走り、歯を噛み砕かんばかりに食い縛り、さながら鬼のような形相であった。


「おやおや、随分と御立腹の御様子。カルシウムが足りてないのでは?」


その対象の人物であるヤクモは、その声を受け流し、余裕の表情を崩さなかった。


「ふざけるな!召喚導術使いの裏切者は何処へ隠した!」

「私が貴方達にそれを教えるとでも?」


直後、発砲音と共に、ヤクモの顔の側を銃弾が掠めた。


「止めて頂けませんか?風切り音が煩くて敵いません。」

「うるさい!次は当てるぞ!」

「当たらなくても、結構痛いんですよ?」


ヤクモは頬を摩りながら呟く。ミナカタは感情を逆撫でられ、益々激昂する。


「貴様の導術が縁絶鋼に弱い事は知っている!加えてこの人数差、貴様に勝てる道理は無い!」


実際、合計十六人の縁絶鋼製銃弾を防ぎきれる導術は、今のヤクモは持ち合わせていなかった。しかし、それでもヤクモは余裕の表情を崩さない。そのまま移動し、屋上の中央近くまで移動する。ミナカタ達は警戒しながら後ずさる。


「成る程確かに仰る通りです。それでは、これならどうですか?」

「なっ、コンクリート製の床を剥がしただと⁉︎」


ヤクモは体から自身の全てを覆い尽くすほどの大量の蔦を生成して操作し、近くのコンクリートをはがして体の周りに持ち上げた。即席の防御壁である。


縁絶鋼は、確かに導術に対して絶大な効果を誇る。しかしそれは、あくまで導術に対してのみであり、通常の物質に対しては唯の銃弾でしかない。加えて、銃弾が標的の体内に留まり導術発動阻害効果を発揮しやすいように、ある程度の軟性を持たせているため、逆に貫通力は犠牲になっていた。そのため、ヤクモが用意した即席の盾を貫通する事は不可能であった。


更に、爆弾を投げつけても投げ飛ばされる可能性ある為、迂闊な行動はできない。


「これで私を殺せますか?」

「クソが‼︎」


ミナカタは悔しそうに悪態を吐く。その様子を見ながら、ヤクモは口角を上げる。


「さて、状況を冷静に鑑みて頂けた所で、本題に入ります。」

「…本題だと?」

「貴方達はもう終わりです。ここで大人しく投降して下さい。」

「ふざけるな!」


ミナカタは大きな声で叫んだ。そして、さり気なくニシカタにアイコンタクトを取る。ミナカタはヤクモと話しながらゆっくり移動を開始し、ヤクモの注意をひきつけながら背後に回り込む。


「貴様ら裏切者に敗けを認め助けを乞うような、そんな生き恥は決して晒さない!我々は、例え肉の一片と成り果てようとも、憎き魔族と恨むべき裏切者を一匹残らず排除すべく、その全身全霊をかけて戦う誇り高き愛国者達だ!」

「では、投降はしない…と?」

「無論だ!そんな事をする位ならば、一匹でも多くの侵略者共を地獄に道連れにしてやる!我々は、決して屈しない!必ずや愛する祖国を、守り抜いて見せる!そして、いつか魔族共をこの世から一匹残らず消し去る!それこそが我々の誇り!使命!存在意義だ!」

「…下らないですね。」

「フン!貴様らの様な裏切り者に馬鹿にされようと痛くも痒くも無いわ!俺は、我々は例え一匹だろうと敵を消す事が出来るのならば…!」


そして、急にミナカタは床に伏せる。丁度、ミナカタから見てヤクモを挟んだ反対側に、ニシカタ達は待機している。


「喜んでその命を地獄に投げ入れよう。」


店の屋上に連続で銃弾が発射される音が鳴り響く。ニシカタ達が一斉にヤクモに射撃を仕掛けたのだ。しかし、ヤクモ操る蔦に掴まれたコンクリート破片に全て弾かれ、ヤクモには全く当たらない。


「この程度ですか?」

「舐めるなァ!」


男が三人程突撃して来た。手には各々手榴弾を持ちそのままの状態で起爆しようとする。紛れもなく自爆特攻であった。


「…命は、粗末にする物では有りませんよ !」


ヤクモは少し語気を強めて言い放つ。同時に蔦を何本も伸ばし、突撃する男達の手に絡みつかせ、爆弾を奪いとる。ピンを抜いてある物は高く投げ上げ、そうでない物は抜いてfから投げ上げる。天空高く飛び上がった三個の爆弾は、夕日の花火となって爆音を轟かせた。


「今です!」


ニシカタの指示で後ろの男達がヤクモ目掛けて一斉に射撃を開始する。その射線上には、先に突撃した三人も居た。


「仲間を殺すつもりですか!」


ヤクモは更に語気を強め、三人を守りつつ銃弾を防御する。しかし、元々守りながらの戦いを不得手とするヤクモは操作が追いつかず、操る蔦の一部に銃弾を当てられてしまう。当たってしまった蔦は千切れて弾け飛ぶ。

ヤクモはニシカタを睨み付け、蔦を操り捕えようとするも、近くの仲間がまたもや自爆をしようとしたため、そちらを優先して捕らえて処理している間に植物に銃弾を当てられてしまう。


(やはりな…、奴は甘い。)


ミナカタは、ヤクモが余裕の無い表情でニシカタ達と戦う様子を後ろから眺めてほくそ笑む。彼は、最初にニシカタの車を爆破して彼を殺そうとした時に、他ならぬヤクモが彼を助けた事を思い出していた。


(奴は殺さない。そして助けようとする。それが例え自爆しようとする敵であったとしても。)


ミナカタは、ニシカタに指示して仲間を犠牲にするような戦い方をさせた。そしてニシカタは、仲間に自爆特攻をさせたり、仲間ごとヤクモを撃つように指示し、仲間はそれを実行した。

結果として、ヤクモに自爆や敵の射撃から守りながら敵を捕縛しなければならないという変則的な戦い方を強いさせた。そして、ヤクモの操る植物にダメージを与えることに成功していた。


(愚か者め、敵に情けをかけるからこの様な目に遭うのだ。もしも貴様が防御に徹していたならば、間違いなく貴様の勝ちだった。だが、情けを貰ったからとて、こちらが貴様に情けを掛けるつもりは無い!)


ミナカタは、ヤクモの甘さを鼻で笑う。敵にも被害を出さないようにするヤクモのその姿勢が、酷く滑稽に見えた。


(幸い、召喚で逃げない所を見るに、あのガキはこの男を過信して、負けるはずがないと思い込んでいるみたいだが、甘いな!召喚導術使いのクソガキには逃げられたが、この実力者を排除出来るのなら、我々の犠牲は無駄にはならない!)


ミナカタは、次々と植物を剥がされ、次第に防御壁が薄くなっていくヤクモの後ろ姿を虎視眈々と狙っていた。操る植物の蔦が少なくなってきたため、ニシカタ達の方に防御用のコンクリート破片を集めていたので、背中の方は破片が少なく隙間が有る。

更に、ヤクモが仲間を捕らえようと蔦を伸ばす時に、一時的に背中の隙間が大きくなる事も、ミナカタは観察により発見していた。ここを狙えば、ヤクモに銃弾を撃ち込める。そして導術が使えなくなれば、ミナカタの勝利である。


ミナカタはゆっくりと銃を構え、ヤクモの背中に狙いを定める。


(さあ、隙を見せろ!)


そして、狙っていた時が来る。ニシカタの方に捕縛の為の蔦を伸ばしたのだ。背中の隙間が大きくなり、コンクリートに守られていない蔦の壁が見える。ミナカタは、ゆっくり確実に狙いを定め、引き鉄を引き絞る。


「……死ね。」


短い言葉に殺意を込めて、ミナカタは敵の命を刈り取る凶弾を解き放った。弾は一瞬にして蔦の塊を貫き、中にいるヤクモに当たったかに見えた。


「……何⁉︎」


すぐに、蔦はその場に力無く崩れ落ちる。しかし、そこにヤクモの身体は無かった。


「奴は、一体何処へ?まさか!間一髪、召喚で逃げたか!」


ミナカタの仲間達も心配そう見つめてくる。ミナカタが蔦の固まりに恐る恐る近付くと、急に蔦を破って何かが出て来る。太い木の枝がであった。


「枝⁉︎」

「床に穴を掘って逃げたのか!」

「早く撃って動きを止めろ!」


ミナカタ達は現れた木の枝に縁絶鋼を撃って沈黙させる。しかし、その木の枝が沈黙するや否や、下の階の窓が残らず割れ、そこから何かが現れた。大量の木の枝であった。


「何⁉︎」

「木の枝だ!巨大な木の枝が下の階に大量に!」

「何故だ!店の中の木は残らず制圧した筈だ!」


大量の木の枝と言う言葉に、その場に居る全員が戦慄する。店の中や周辺の木々には縁絶鋼を撃ち込んだ筈である。しかし、周囲には数え切れないほどの木の枝が伸びウネり、今まさに彼らを丸ごと屋上に閉じ込めてしまう檻ができようとしていた。


「そ、総員退避ィ!」


ミナカタの悲痛な叫びが轟く。彼は分かっていた。ここはもう奴の巣なのだと。自分達は、奴の巣に引っ掛かってしまった哀れな獲物なのだと。そして、もう逃れる事は敵わないのだと。


「う、うわあああああ!」


仲間の一人が恐怖におののく。建物の中から出て来た無数の木の枝はミナカタ達を全員拘束し、武器を全て取り上げ、縛り上げ、空中に吊るし上げる。

一部の仲間が拘束される前に縁絶鋼を撃ち込むも、一部の木の枝が動かなくなるだけであった。

よく見ると、一階で見張っていた仲間も、三階でアキトにやられた仲間も同様に拘束されていた。それどころか、逃した筈のスナイパーまで捕まっていた。


「あ、あれは…。」


拘束されそうになる最中、一度ミナカタは建物の下を見た。其処には、先程は気付かなかったが、街路樹が増えており、そこから木の枝が大量に伸びていたのだ。


「クソ…。我らの…敗北か…。」


拘束され項垂れるミナカタの近くの木の枝から人が現れる。ヤクモである。


「貴様…、離れた所の縁絶鋼を撃ち込まれていない木を操り、この場所まで移動させたのだな?」

「ええ、その通りですよ。」

「縁絶鋼が効かなかった、いや一部しか動きを止められなかったのは、複数の木を使用したからか。」

「御名答。なかなかの推察力、恐れ入りますよ。」


ヤクモはアキトに転送された後、すぐに学園の木々を十数本ほど木導術で支配して動かし、アキトの籠城する雑貨店へと向かわせた。

ヤクモはアキトに召喚されたのではなく、自ら建物に来ていた。そして、一階の敵やスナイパーに気付かれない様に木を移動させ、罠に嵌った敵を待ち受けていたのだ。


複数の木を使用していたため、数発の縁絶鋼を受けようとも、一部の木が動かなくなるだけで、全体が操作できないという事態には陥らなかった。

自身が銃弾を受けそうになった際も、素早く足元に忍ばせた木の枝の中に退避したため、事なきを得ていたのである。(わざと隙を見せて愉しんでいた面も実はあった。)


「あなたの判断は見事でした。あと仲間の方も覚悟だけは認めましょう。死を恐れないというのは、それだけで脅威たり得ます。」

「世辞は要らん。惨めになるだけだ。」


ヤクモの言葉にミナカタは素っ気無く答える。実際、完全に捕らえられたミナカタには抵抗する手段は無く、味方も全員捕らえられ武装解除された今、ミナカタ達の敗北は決定していた。ミナカタは恥の上塗りをする位なら死んだ方がマシと考えるが、目の前の男がそれを許すはずが無かった。


「だが良いのか?あの魔族を放ったらかしにして。今頃殺されているのでは無いか?」


だからせめてもの意趣返しにと、別働隊の事をヤクモに伝えた。これ程の短時間で遠くの木々のこの建物に集める程のことをしたのだ。ヤクモは、学園に転送された後すぐにこちらに向かったはずである。

ミナカタが別働隊を学園に送るように指示した時、付近の植物は全て制圧していたため盗聴は出来なかった。別働隊も全く別の場所で活動していた為に、ヤクモやアキトはその存在を知り得ないだろうし、何よりミナカタ達がシルバーナの場所を知った事もアキト達は知らない筈であった。


ゆえに、シルバーナの護衛には誰も付いていないと考えられ、導術も使えない彼女に対して、別働隊が全員でかかれば、例え警察に追われていようとも、すぐに始末出来るはずだとミナカタは確信していた。

それに、雑貨店に殺到した警察車輌の数から言って、学園方面に向かった数はかなり少なかったはずである。追っ手が少ないならば尚更確実であろうと、ミナカタは渾身のしたり顔でヤクモを見る。


「ああ、それでしたら心配に及びませんよ。全て制圧して頂きましたから。」


しかし、その顔は、ヤクモの余裕の表情を見て悲痛な表情に変わる。


「う、嘘だ…。」

「嘘では有りませんよ。何なら連絡を入れてみますか?」


ヤクモは木の枝を操作してミナカタの無線を入れた。連絡先は勿論、別働隊である。その無線を耳に押し当てられ、ミナカタは縋るような思いで電話先の声を聞いた。


「もしもし、私は導力開発総合学園教師、コチヤ・ドウシンと申します。電話で大変失礼ですが、初めましてですね。ミナカタさん。」

「そんな…。」


しかし、その淡い期待は呆気なく崩れ去る。この無線の番号は間違い無く別働隊に繫がるはずの物で、その無線の先に学園の教師が出たという事は、別働隊は失敗したとみて良い。ミナカタを騙す為の物かとも考えたが、その必要性が感じられないため、恐らく事実だろうとミナカタは結論付けた。


「どういうことだ⁉︎別働隊の存在は伏せてあった。何故貴様達が知っている!」

「存在は知りませんでしたよ。あなた方の事を調べている暇は有りませんでしたからね。ただ、可能性として考えられましたし、アキト様も懸念なさっておりましたから。」

「あの裏切り者が⁉︎」

「ええ、あなた方がシルバーナ様を襲撃する可能性が有るので、誰かあなた方に対抗できる方を護衛に付けて欲しいと仰っていました。」


ミナカタは絶句する。ミナカタは、シルバーナとアキトが携帯を契約したことをニシカタを通して知っていた。故に、必ず連絡を取り合うだろうと、高性能の電波探知機器を建物内に持ち込ませていた。

果たして、やはりアキトはシルバーナに連絡を入れ、その時にミナカタはシルバーナの位置を特定したのだ。ミナカタは大層喜んだ。アキトが電波探知に気付かず、シルバーナの位置を特定されるようなヘマをしたと思ったからである。

しかしヤクモの口振りでは、まるで最初からアキトはシルバーナの位置を餌としてわざと教えることで、別働隊を罠に嵌めたように思えてくる。


「最初から我らを嵌めるつもりだったのか!あの裏切者めがァ!」


ミナカタは、悲哀と怒りの入り混じる声をあげて喚く。


「いえいえ、アキト様は貴方達を嵌めるつもりなど有りませんでしたよ。」

「何を戯言を!我等に魔族の位置が知れると分かっていて、わざと携帯を使用したのだろうが!」


ミナカタは殺意の視線をヤクモに向ける。顔は怒りで真っ赤に染まっていた。


「アキト様は、唯々シルバーナ様を心配為さっていたのです。」

「心配…だと?」

「ええ、シルバーナ様を転送した後、アキト様はすぐに連絡を取ろうとしましたが、探知される可能性があった為に我慢なさっておりました。しかし、流石に心配だから連絡を取りたい、連絡を取った後、人々と共に私をシルバーナ様の所へ転送するので、彼女を守って欲しいと私に懇願なさったのですよ。

私は快諾しましたが、私自身はアキト様を護衛するため、代わりにコチヤ様にその任を任せたのです。」


アキトは敵にシルバーナの位置を知られる危険性を承知でも、不安であろう彼女の心を心配して連絡を入れたのだ。そして、位置が知られれば必ず襲撃に来るだろうと予想し、丁度人々を転送する機会があった為に、ヤクモを護衛として学園に転送してシルバーナを守って貰おうとしたのである。

つまり、敵を嵌めるのが主目的では無く、飽くまでもシルバーナを不安がらせまいとする心遣いが先に有ったのだ。その結果生じる危険性を、ヤクモに頼って払拭して貰ったのである。それが結果としては、ミナカタ達を嵌める事に繋がったのだ。


「くっ…、畜生め…。そこまで、奴にとってあの魔族が大事だったのか…。」


ミナカタは変に毒気を抜かれてしまい、力無く呟いた。すると、ヤクモは落胆しているミナカタを更に精神的に追い詰めるべく、警察から入手した情報をミナカタに教える。


「ああそれと、警察の方に伺ったのですが、近くで銀行強盗があったそうですね。何でも犯人は、貴方達の仲間だそうで。」


ヤクモの言葉に、ミナカタは無言で目を背ける。その仕草が既に肯定を示していた。

ミナカタは別働隊を動かして別の事件を起こさせていた。警察の目をそちらに向けさせ、人員を割かせることで、本命であるアキト達を襲撃する際になるべく邪魔されないようにするためであった。


「その別働隊の隊長は、キタカタ様でよろしいでしょうか?」

「貴様に教える情報は一片もない。」


ミナカタは素っ気なく答える。例え拷問されても、仲間の情報を売るつもりは無かった。しかしヤクモはそんなミナカタの態度に構わずに流暢に喋り続ける。


「その方達は貴方の指示を受けて、警察の包囲を突破してシルバーナ様を襲撃しに来たと。」

「………。」

「しかし、コチヤ様の情報によれば、その隊長は捕まえた方の中に居なかったとの事です。」

「………。」

「捕らえた者達の中の、ヒガシカタ様と呼ばれる副隊長の方にお話を伺った所、キタカタ様は銀行の警察の包囲を突破する際に自らが囮となると言って、“銀行のお金を持って”先に出て行ったと。」

「………。」


ミナカタは沈黙を貫く。引きつけた割には、雑貨店に殺到した警察の数が多かったなど、多少首を傾げる所もあったが、特におかしい所は見当たらない。

キタカタが体を張って警察を引きつけてまでして、作り上げた絶好の機会を生かす事が出来なかった別働隊に、ただ不甲斐なさを感じるのみであった。


「それと、これは警察の方の情報なのですが、銀行の前に張り込んでいた警察官達に何者かから連絡が有り、導族貴族のシルバーナ様が反導族団体に襲われているとの情報がもたらされたらしいです。ご丁寧に、位置情報まで付けてあったそうですよ。

そして、銀行強盗は反導族団体の囮であり、警察をそちらに誘き寄せる事が真の目的であると、その電話の主は仰っていたとの事です。」

「何だと⁉︎」


しかし、その後に続いたヤクモの言葉にミナカタは絶句する。流す必要の無い情報が漏れていると言う事は、何者かがミナカタ達を裏切ったということである。

シルバーナは昨日の夜に今日の会見と、連続で“反導族団体”に襲撃されている。これ以上何か有れば、それは警察の沽券に関わると共に大きな国際問題に発展する。唯の銀行強盗など、それと比べれば些末な事である。その上、その真の目的が陽動の為と知れれば、その場に優秀な警察官を残しておくはずが無かった。

大量の警察車輌が雑貨店に殺到したのは、警察の引きつけが上手く行かなかったからではなく、押し付けられたからであったのだ。


「お陰で、急ぎ警察の方達は襲撃されているであろう雑貨店に向かったとの事で、手薄になった所をキタカタ様の乗った現金輸送車は余裕で走り抜けたそうです。追っ手を付ける余裕も無かった為、振り切られてしまったようですよ。

ヒガシカタ様達には、キタカタ様が上手く囮になった為に銀行に集まった警察が少なくなったと伝えていたみたいですが。」

「我らが…、逆に囮にされた…?」


ミナカタは、すぐにその裏切者の見当がついた。しかし、信じたくなかった。同じ志を持った、確かな仲間だと思っていたからだ。

茫然自失となったミナカタの耳元にヤクモは近付き、そっと囁きかける。その顔は意地悪く嗤っており、その声には悪魔の嘲笑が込められていた。


「まんまと利用されてしまいましたね?御愁傷様です、ミナカタ様。」

「…ああ…ああああアアアアア!キィィタァァカァァタァァァッアアアアアア‼︎‼︎」


木の枝の塊の中にミナカタの怨嗟の叫び声が木霊した。歯が折れてしまいそうな程に歯軋りし、心が煮え滾るほどの有りっ丈の怒りを、かつて信頼した仲間であり、今となっては裏切者である人物に向かって放っていた。

一頻り叫び終えた後、ミナカタはゆっくりとヤクモに顔を向ける。その顔からは先ほどまであった強い意思が抜け、目の焦点が定まって居なかった。


「…おい、木導術使い。」

「何でしょうか?」

「…恥を偲んで頼みがある。」

「内容に依ますよ?」


ミナカタの目には、最早アキトもヤクモも映っていなかった。ただひたすらに、裏切り者への復讐心のみがあった。崇高であると思い込んでいる理想も何もかもかなぐり捨てて、その虚ろな目は空を仰ぐ。


「あの裏切者を捕まえたら…。俺と同じ牢屋に入れてくれ。」

「ふふっ、善処しましょう。…ただし、呉々も殺さないで下さいね?」

「……ああ、約束しよう。あいつには、ずっと生き地獄を味わって貰わねばな…。死なせてなんか、逃がしてなんかやるものか…。フッフ、フハハハハ、クヒハハハハハハハハハハ‼︎」


壊れたように嗤うミナカタを、ヤクモは哀れそうに、また心底愉快そうに眺めていた。








「これ程の木導術、流石はヤクモさんですね…。しかし、やり過ぎてないでしょうか…。」


警察車輌の中でお茶を啜りながら、アキトはヤクモ、というよりもミナカタ達の心配をしていた。付近の警察官は、大量の木々が道路を歩いて来たと思ったら、建物の屋上から巨大な木の枝の塊が現れたのに驚き、てんやわんやしている。

ヤクモが警察に突入しないで欲しい事、保護対象は無事に逃した事などを伝えていた為、警察は外で待機していたのだが、その判断は正しかった。入っていたら、恐らく大変な目に遭っていたであろう。


「ルビィをそろそろ召喚して、ヤクモさんと一緒に学園長の屋敷に向かいたいのですが…。この騒ぎでは…。」


アキトは夕日を見ながら嘆息する。今のアキト達は重要な保護対象でるため、暫くの間、警察は離してくれないであろう。


アキトがシルバーナに携帯で連絡を入れると、シルバーナはコチヤに保護してもらって無事であるが、一刻も早くアキトに会いたいと懇願してきた。例え警察署の中に泊まることになっても良いから、アキトと共に居たいと言っていた。アキトはその熱意に負け、警察官に事情を説明してから、シルバーナに連絡してこれを召喚した。


「アキトお兄さん‼︎」

「ルビィ。心配掛けてすみません。」


シルバーナは召喚されるや否やアキトに抱き着く。顔をアキトの胸に押し付け、アキトの無事を喜びながら匂いを嗅ぐ。

アキトはシルバーナを優しく抱える。シルバーナの上気した顔がアキトを上目遣いに見つめる。アキトは母親のような慈しみの眼差しでシルバーナを見つめ返す。完全に二人だけの世界に入っていた。


「あー、感動の再会の所、水を差すようで済まないが、少しはこっちも気にしてくれないか?出来れば話を聞いてもらえると助かるんだが…。」

「はう!す、すみませんでした!」

「これはすみません、大変な失礼を。」


苦笑いの警察官に、二人は素直に謝った。

書いていて思い付いたネタ



ヤクモ「希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ悪人は一番美しい顔をする。それを与えて差し上げるのが、私のオモテナシです。」


アキト「ヤクモ…さん…?」


ヤクモ「あなた方は素晴らしかった!コンビネーションも、戦略も!ですが、しかし!」


アキト「シュッシュッ!」


ヤクモ「まるで全然!この私を倒すには程遠いんですよねぇ!では、とくと味わって下さいよ?」


アキト「ヴィ〜ン。」


ヤクモ「私のオモテナシを!」



遊戯王は最近アニメを観出した俄かです。ヤクモさんは運命の糸は操れません。

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