第6話
「クソッ!忌々しい導術使い共め!」
ミナカタは苛立っていた。侵入経路を塞がれた挙げ句、窓経由で先に突入した仲間と連絡が取れない。アキト達にやられたと見て間違いないであろう。
「まだ、警察が到着していないのは助かるが、このままでは埒が開かない。」
ミナカタは、続けて五階に侵入出来た仲間には、四人以上で慎重に敵に当たれと指示していた。しかし、それでもミナカタは不安であった。
「階段からのルートはまだ使えないのか?」
ミナカタは近くに居るニシカタに問う。窓から侵入する経路は、やはり一度に入り込める人数に限りがあり、身動きも取れないために襲われればひとたまりも無いという危険性がある。一刻も早く階段からのルートを使えるようにしたいとミナカタは考えていた。
「今窓から侵入した部隊が植物を狩りながら防火シャッターに到着、これを開けて仲間を五階に引き入れる所です。
五階の植物はあらかた片付けた模様です。まだ、召喚される可能性も有りますが、その都度対処すれば難しくはないでしょう。人質は見当たらないそうで、恐らく転送したのでしょう。」
「ようやくか。人質を逃したという事は、奴らにも人の心が残っていたという事か…。だが、容赦はせん。人質がいない分、ありがたく全力で掃討させて貰おう。」
「ええ、これで併せて十四名、一斉に五階を占拠します。時間が掛かりましたが、これでやっと裏切り者を始末出来ます。」
ニシカタは嬉しそうに声を弾ませる。縁絶鋼製銃弾を持つ十四の兵士が、人質も居ないたった二人の導術使いに遅れを取るとは思えない。必ずこれで勝利できると踏んでいた。
ミナカタ達が勝利を確信した時、外の方が騒がしくなる。
「チッ!警察が到着したか!それに、思ったより数が多い…。まあ、陽動を止めたのだから、仕方ないな。」
ミナカタが外を覗くと、何十台もの警察車輌が雑貨店の前に停まり、車を盾にしつつ何人もの警察官が現れ、店を囲むのが見えた。別働隊により引きつけられていた警官隊の殆どの部分がこちらに殺到した模様であった。人質役と見張り役の男は、時間稼ぎのために窓の近くに行き、人質役を盾にして警察相手に芝居をうつ。何とか騙せたようで、警察は突入の素振りを見せない。
「屋上への通路は?」
「無事に閉鎖しました。これで奴らは袋のネズミです。」
「よし、外を見張る部隊に連絡。総員その場より退避せよ。」
ニシカタは五階の仲間との連絡を切り、外の狙撃班と連絡を取る。外に出る通路は仲間が閉じたため、もうアキトが外に逃げれる可能性は低い。後は逃げ道を塞ぎつつ追い詰めるだけである。そうなればもう外を見張る必要は無く、外にいる警官に見つかるのも厄介である。ひとまず先に退散させる事にし、そして出来ることならば、これからもこの国の為に働いてくれる事を願うと伝えさせた。
続けてニシカタに通信が入る。別働隊の副隊長、ヒガシカタからシルバーナを発見したとの報告であった。強盗に入った銀行は学園に近かったため、短時間でシルバーナを発見することが出来たのだ。加えて今学園は臨時休業中で、中に人は殆ど居らず侵入も容易く、中を調べていた警官も銀行強盗事件に駆り出されていた。
「『山羊を発見、これより狩りを開始する』だそうです。」
「そうか、これであの魔族も抹殺できる。我らの目的が達成出来るというわけだ。」
ミナカタは口角を上げて嗤う。しかし、すぐに油断する自分を戒める。アキトが居れば、シルバーナを召喚して別働隊から逃せるし、そこから別の場所に転送すればここからも逃がせてしまう。やはり一刻も早くアキトを殺害する事が重要だとミナカタは思う。
「俺も上に行く。下でただ待っていてもしょうがない。恐らくこれが最後の仕事だからな、しっかりと働いてこの国に貢献しよう。」
「私も行きましょう。どうせ散るなら、活躍して散りたいですから。」
ミナカタとニシカタは上で戦う仲間を支援し、一刻も早くアキトを殺害するために行動を起こす。銃を手に取り、二人の仲間に警察を任せ、急ぎ階段を駆け登る。
「もしかしたら、もう終わっているかもしれませんね?」
「だとしたら喜ばしい事だ。」
「私は少し残念に思いますが。」
二人は期待を胸に階段を登る。まだ四階から上への階段は少し油で滑るために慎重に進む。そして、五階について二人が目にしたのは…
「あれは何だ⁉︎」
「ジープだ!」
「こっちに来るぞ、避けろォ!」
“花”が運転する“ジープ”に追い掛けられ逃げ惑う仲間達の姿であった。
「な、何なんだ一体⁉︎」
予想外の光景に、ミナカタは言葉を失った。しかし、すぐに冷静になり、状況を分析する。
「まさか、この建物の中にあの車を召喚したのか!」
アキトは敵に囲まれる前に、学園長のジープを召喚し、手持ちの植木鉢と共に乗り込んだのだ。植木鉢の花は器用に蔦を動かして車内に隠してある鍵を取り出し、エンジンをかけて車を操作したのである。
ジープはその力を存分に活かし、辺りの商品を破壊しながら武装した男達に突っ込んだり、片輪走行して狭い道を通ったり、低い商品棚をジャンプ台にして跳び上がったりして男達を翻弄していた。男達は銃で応戦するが、このジープは防弾性能も優れていたため、男達の銃弾など屁でもない。ただ表面が銃痕で酷く傷つくのみであった。
巨大な動く鉄の塊に追いかけられ、男達は無様に逃げ惑う。通路の広いところは多くないがそこをジープの馬力と花の素晴らしい運転技術でカバーしながら無理矢理押し通り、男たちを追い掛けまわす。
「何をやっている!早く無反動砲でジープを破壊しないか‼︎」
ミナカタは叫ぶ。しかし、すぐに無反動砲を誰も持って来ていない事に気付く。建物内で使うことが危ないのと、必要性を感じられなかったが為に、誰も持って来ていなかったのだ。
「クソッ!」
ミナカタは急ぎ階段を駆け降りる。一階の仲間に連絡を入れて無反動砲を持って来させつつ、自分も受け取りに行く。そして目当ての物を受け取り、担いで急ぎ階段を駆け登ると、狙いを定めた。
「撃ち方止めい!装甲車相手では弾の無駄だ!それよりも、ジープから離れろ!無反動砲で破壊する!」
そして、仲間が皆離れるのを確認すると、引き金を引いた。
「くたばれェ!」
ミナカタは、ジープが真っ直ぐに自分に直進して来る所を狙って発射した。通路は狭く上手く曲がれない上、車体は大きく、加えて距離も近い。弾は確実に目標に直撃するものと思われた。
「転送…召喚!」
「何だとォ⁉︎」
ミナカタは目を疑った。無反動砲を発射した瞬間、ジープが甲冑姿のアキトを残して消えた。アキトはジープを同じ階の別の場所に転送したのだ。そして、アキトは床を転がりつつ弾を回避し、再び立ち上がりながらジャンプした瞬間、中に自分が入った状態でジープを召喚した。避けられた弾は壁に当たり爆発、大きな穴を作ると、そこから夕陽が見えた。
「危ない所でした。」
アキトはジープの中で冷や汗をかく。花は蔦を伸ばして親指を立てた形を造った。
アキトは無反動砲が発射された瞬間、ジープでは避け切れないと判断し、少々危険であるが可能と判断して一連の行動に踏み切った。上手くいく自信は余り無かったが、無事に出来て良かったとほっとする。実は、花のドライビングテクニックなら何とか避ける事が出来た。しかしそれは、ヤクモだけの秘密である。
ジープを睨み付けながら、ミナカタは悔しそうに呟く。
「敵の力量を見誤った。導術使いを侮り過ぎたか…。」
アキトの行なった事は、召喚導術使いならばかなり集中すれば可能な芸当である。しかし、公には広く知られていない為に、ミナカタ達はアキトの導術を侮ってしまったのである。しばらくジープを睨み付けるだけのミナカタだったが、すぐにジープがある場所の前で停まるのを目にした。
「エレベーターの前に停まった?エレベーターは今動かないはず、一体何を考えている?」
ジープが一つのエレベーターの前に停まると、急にエレベーター内のガラクタが瞬間移動する。重量が軽くなったエレベーターは再び動き出し、そして蔦が伸びてボタンを押す。扉が閉まる瞬間、甲冑が飛び込む様子が隙間から見えた。
「まさか、エレベーターを破壊しなかったのは、この為か!」
ミナカタは、一階に居る二名に急ぎエレベーター前に移動する様に連絡し、ミナカタ自身も仲間を引き連れ下に向かおうとする。しかし、ニシカタに止められる。
「なんだ!急がねば逃げられる可能性が有るのに!」
これまでのやり口を見て、ミナカタはアキト達に対する認識を改めていた。他の階に停まる可能性も有るし、一階に降りたとしても二人ではアキト達に出し抜かれる可能性が有るとミナカタは考え、援護に向かわねばと焦っていた。
「焦り過ぎですよ。少し冷静になって下さい。」
「しかしだな!」
「囮の可能性が有ります。」
「何?」
ニシカタの言葉に、幾分か冷静さを取り戻したミナカタは、怪訝そうな顔をした。
「もしも、まだ奴がジープ内に居て、エレベーターに乗ったのが“甲冑のみ”であったとしたら…。」
ミナカタは驚いた顔をし、続けてジープを睨みつける。すると、急にジープが動き始めた。そのままジープは壁に空いた大穴の近くに移動する。
「しまった!本命はこちらか!」
ミナカタは急ぎジープのいる場所に向かう。すると、ジープから蔦が飛び出し、屋上に向かって伸びた。そして、続けて人影が飛び出し、蔦を掴んで上に登るのが見えた。穴の前にはジープが止まって、そのまま擬似的な壁の役割をしたために、ミナカタ達は思うように近付けない。
外の見張りは既に逃がしてある為、狙撃で殺す事は出来ない。多少離れているが高さが少し低い建物があるので、植物を召喚してロープ代わりにすれば、別の建物に飛び移り逃げる事が可能である。
「急ぎ屋上に向かえ!奴を逃がすな!」
ミナカタの指示に、その場の全員が屋上に急ぎ向かう。ニシカタは下の階の仲間と連絡を取り、やはりエレベーターはブラフで甲冑の中身は空であり、アキトは居ない事を確認した。
「何処までも小賢しい奴!必ず殺してやるぞこのクソガキがァ!」
ミナカタは、いい加減堪忍袋の緒が切れた様で、顔を真っ赤にしながら階段を駆け登り、屋上に突撃する。ミナカタ達は全員で屋上に出て、付近の建物を確認するが、そこに人影らしき物は無かった。
「何処へ行った…?」
ミナカタが怪訝そうな顔をしていると、叫び声が聞こえた。
「う…。があ!」
「どうした⁉︎」
ミナカタが声の方を向くと、仲間の一人が何者かにより腕を極められ、弾除けの盾にされているのが見えた。仲間を盾にされ、男達は銃撃を仕掛ける事が出来なかった。
「何だと!人形⁉︎」
その正体はヤクモ製木人形であった。人形には植物が組込まれていた為、ヤクモの操作により人の様に動かすことが可能であった。これをアキトは利用して、人形を動く囮とした。木人形は屋上に登った後、壁に張り付いて機会を伺い、無防備な男の一人を襲撃してこれを拘束、人質としたのである。
「では、本物は…。」
ミナカタが呟いた時、背後の建物の中へと続く戸が閉まる。下の階の植物は粗方仕留めた筈なので、誰か他の者が締めたのだ。
「ぐ…まさか…!」
「こちらも…囮…!」
ミナカタは心底悔しそうに、ニシカタは絶望した様に呟く。
「御察しの通りですよ、御二方。」
そして、その二人をさらに追い詰めるような不気味な声が、屋上に響いた。




