第5話
「ふう…。無事、全員を転送出来ました。」
ミナカタ達が三階を制圧していた頃、アキトはの五階にいた。この雑貨店は五階建てである為、屋上を除けば最上階にアキトは居た。他に人は一人も居ない。全てアキトが転送したのである。
(それにしても、ヤクモさんは強引でしたね…。)
アキトはヤクモを召喚して店内に入ると、すぐに物陰に隠れつつ学園長の屋敷からヤクモの育てた植物を大量に召喚し、ヤクモに託した。一階から四階までの至る所に仕掛けて時間稼ぎに使用するためである。更にその後は中に居る人達の保護するように求め、アキト自身は五階の各所に、ヤクモから貰った植物を召喚しては配置していった。
暫くすると、ヤクモは蔦や木の枝を駆使して、逃げ遅れた全ての人間を満面の笑みで縛って“拉致”してエスカレーターを上がって来た。ヤクモの笑顔にアキトは引き気味であったが、時間が無いのでしょうが無いと無理矢理納得していた。
(あの人達、大丈夫でしょうか…。)
アキトは連れて来た人たち全てに転移契約をするように懇願したが、始めは反対された。転移契約のデメリットは有名な話であり、また、かつて転移召喚を悪用した凶悪な拉致事件があったが為にその印象が頗る悪かった。普通ならば幾ら逃げるためとは言え契約を結ぶのを渋るのは当然であった。
アキトは土下座しながら必ず契約を解消すると誓い、また敵に人質に取られたら見捨てざるを得ない(勿論方便である)と暗に脅し、もし自分が殺されれば自動的に契約は破棄される事も説明したが、それでも中々納得してもらうことは出来なかった。『テロリストが襲撃して来たのはお前のせいだ』と罵詈雑言を浴びせられ、物を投げつけられる始末であった。
『ここで納得して頂かないと、私にも考えが有りますよ?』
しかしそんな状況も、ヤクモの満面の笑みから放たれる言葉で一変する。凄味も何も無かったが、心が底冷えする程の恐怖をひしひしと感じた。結果、人々は皆涙目になり、頼むから契約してくれと懇願して来たのである。アキトはヤクモに感謝しつつ、人々にひたすら謝り通した。
そして、無事全員と契約を終えたアキトは、シルバーナを送った所に転送したのである。沢山の人々を送るため、驚かない様に予め携帯でシルバーナには連絡を入れて置いた。ワンコールもしない内に携帯に出たのは流石である。非常にアキトを心配していることが電話越しにも伝わって来たが、何とか宥めすかして半ば無理矢理アキトは電話を切った。
転送時には、アキトはヤクモと幾つか会話した後、護衛として人々に付けて共に転送したが、人々はヤクモが付いてくると聞いて再び涙目になっていた。
(それにしても、なるべく時間を稼いで欲しい…ですか。コチヤ先生や学園長先生を呼ぶのでしょうか?何にせよ、籠城して警察の方々が到着する迄の時間は稼ぐつもりでしたが…。はあ…ルビィは大丈夫でしょうか…心配だなあ…。)
アキトはシルバーナを心配していた。それは、身の危険と言うよりも、ヤクモのあの笑みを見て怯えていないかについてであった。しかし、今更心配しても意味が無い為、首を振って心を切り替え今に集中する。幸い襲撃者達は、最初にヤクモの植物による攻撃を受けた後から、植物や罠を警戒してか動きが慎重になっており、予想していたよりも制圧速度が遅かった。
「エレベーターは停止させました。外の非常階段は破壊して貰いましたし、階段にも細工はしました。後はエスカレーターだけですね。」
アキトは下から来るであろう襲撃者のルートを制限するために、五階に呼び寄せたエレベーター内に、アキトの財産(捨てられていたテレビや冷蔵庫など)を大量召喚して重量オーバーで停止させていた。また、転送前にヤクモに頼んで非常階段を破壊してもらいつつ、自分は植物に手伝って貰いながら各所に細工を行っていた。
アキトが、停止させておいたエスカレーターに向かうと、下から複数の足音がして来る。
「思ったより遅かったですね。すぐに上に登って来るのかと思いましたが…。敵は慎重派なのでしょうか。だとしたらやり辛いですね…。」
アキトは召喚した手鏡を用いて階下の敵の動きをエスカレーターの吹き抜けから眺めながら、静かに敵の行動を観察しつつ、植物達に隠れるように指示した。敵はどうやら三階を制圧した模様で、エスカレーターを警戒しながら登ってきていた。
「そろそろ仕掛けますか…。」
アキトは、緊張に逸る心臓を抑えながらも、次第に怜悧になる頭で冷静にタイミングを測る。
「居たぞ!上だ!殺せェ!」
敵がアキトに気付いてエスカレーターを駆け登ろうとした時、アキトはエスカレーターのスイッチを入れる。
「のうわっ⁉︎」
急に動き出したエスカレーターにバランスを崩され、敵の動きが鈍る。
「召喚!」
「総員撤退!」
アキトはコウガに貰った閃光手榴弾を召喚して投げつける。敵はすぐにそれに気付いて退散し、少し経ってエスカレーターで爆音が起きる。敵に被害は無かったためすぐに体勢を立て直し、再度エスカレーターを駆け上がろうと近寄ろうとする。
「引くな!例え仲間の屍を乗越えてでも、目的を達成するのだ!」
敵は仲間に犠牲を強いてでも、アキトを殺すつもりのようであった。
(好みではありませんね、その考え方は。)
アキトは、次第に冷たく冷えていく自らの視線に気付かないまま、次の召喚を行う。
「召喚」
「ううわあああ⁉︎」
アキトは続けて自分達が乗って来た車を召喚し、上下エスカレーターの交差地点に横向きで落とす。閃光手榴弾には冷静に対応した敵も、車はさすがに予想外だったらしく、素っ頓狂な声を上げて逃げる。
「召喚、転送」
アキトはエスカレーターから敵が離れた事を確認した後、手榴弾を召喚してピンを抜き、何処かへと転送する。すると数秒後、エスカレーターに落とした車が大爆発を起こす。
「クソッ!車を爆弾代わりに使用したか!」
アキトは、車の中に手榴弾を転送し、燃料タンクを爆発させたのだ。アキト達が車から脱出する前にヤクモの導術を用いて、燃料タンクの近くにアキトの転移陣を描くように頼んだのである。そして、アキトはピンを抜いて車の中に転送してこれを起爆したのだ。
車の窓ガラスは細かく別れて飛んだ為に、武装した男達を傷付ける事は出来なかったが、エスカレーターと車自体は歪に壊れて炎上し、もはやそこを通路として用いる事が困難であった。スプリンクラーが作動して、辺りは水浸しになる。
「ワイヤーを使え!」
「させませんよ。」
男達はエスカレーターの吹き抜けからワイヤーを五階の天井に撃ち込み、それを利用して登ろうとする。しかし、アキトは特殊な鋏(ヤクモから貰った物)を召喚して植物に託し、植物は素早く動いてワイヤーを切る。植物の位置は下からは狙えない為、植物を撃って動きを止める事は出来ない。
「エスカレーターからは無理だ!」
「狼狽えるな!まだ階段がある!」
敵はエスカレーターが登れない事を悟ると直ぐに方向転換し、まだ使える階段を登ってアキトの元に急ごうとする。
「何だこれは⁉︎」
しかしそこに見たのは、油塗れの階段であった。アキトは実家近くに不法投棄されていた廃油を自分の物としており、それを召喚して四階と五階の間の階段に撒いたのだ。御丁寧にも、手摺までしっかり油が塗りたくられている。植物に応戦しながら先に階段についた仲間がゆっくりと階段を登っているが、滑って非常に歩きにくそうであった。
「クソッ!何処までも小賢しい真似を!」
アキトの、地の利を活かした小狡い搦め手戦法に悪態を吐きながら、それでも敵は一刻も早く五階に急ごうとする。すると、階段の上から人影が現れる。
「あのガキだ!」
アキトであった。アキトは撃たれない様に身を隠しつつ何かを召喚する。油塗れの敵の男達は嫌な予感に顔をしかめる。やがて姿を見せたアキトが持っていたのは、やはりと言うか、火のついた松明であった。
「退避、退避ー‼︎」
アキトの考えを悟った男達は急ぎ階段を駆け下りる。階段を転びながらも逃げ終わると、丁度その時に階段は炎に包まれた。他の階段も同様であった。燃える油が周囲に飛び散り、辺りに被害が拡大する。スプリンクラーにより湿っているはいるが、湿気っていない一部の商品に火が燃え移る。
「クソッ!熱くて近寄れん!」
「火に近寄るな!油塗れの自分達の服に燃え移る!」
「早く油火災用の消火器を持ってこい!」
炎に邪魔され、階段を上手く上がれない為に敵は立往生する。暫くの間は階段を使用出来ないであろう。アキトは防火シャッターを閉めて火と煙が五階に入らない様にした後、扉が開かないように細工をした。
「これで良し…と。」
その時、アキトはガラスの割れる音を聴く。アキトは近くの植物を確認すると、それは侵入者有りのサインを送っていた。
(やはり来ましたか…。外側には細工を仕掛けていないのに気付いたみたいですね。)
一部の敵は下の階から鉤付きワイヤを用いて外壁を登り、窓を割って入り込んで来た。外から窓越しに狙われる可能性が有ったため細工が出来ず、ヤクモ操る植物に鍵を掛けさせつつ監視させていたのだが、敵はそこを狙って来たのである。侵入した窓の付近に配置した植物は既に敵にやられてしまったらしい。
アキトは音をたてずに歩き、物影に隠れつつ敵に忍び寄る。ヤクモの植物の監視の目がある為、植物のサインを見てある程度敵の位置はわかる。
(敵は二人、増援も続きますかね…。兎に角一人一人を確実に…。)
アキトは息を殺し、獲物を狙う肉食獣のように距離を詰める。敵は武装した男が二人、辺りを警戒しながら進んでいた。その時、敵がヤクモの植物に気付き、銃撃を仕掛けようとした。そこに決定的な隙が生まれた。
「があっ⁉︎」
アキトは物陰から一人の男に飛び掛かりつつ全身甲冑を召喚、勢いそのままに全体重をかけたタックルで男にぶつかると、その男はアキトと共にもんどり打って倒れ込む。アキトはそのまま素早く男の腕を蹴りつつ銃を奪い取ると、遠くに投げ飛ばす。
「このガキが‼︎うがっ⁉︎」
アキトの襲撃に気付いたもう一人がアキトを殺そうと銃を構えるも、背後から忍び寄る蔦に腕や足を拘束され身動きが取れなくなる、ついでに口も塞がれた為に騒ぐこともできない。
「この野郎!舐めるなァ!」
アキトに銃を飛ばされた男は、急いで体勢を立て直しつつ右手にナイフを構える。一方アキトは腕を高めの位置に置いてファイティングポーズを取る。頭を守るつもりらしい。その格好を見て男は薄く笑う。
(所詮は素人だな、弱点がガラ空きだぜ。)
男が動いて右手のナイフを素早く振るう。狙うは鎧の隙間、アキトの左脇である。しかしその凶刃を振るうや否や、何かに当たって刃が弾かれる。
「しまった!」
ナイフは盾によって防がれた。アキトはわざと脇を空けることで男にその場所を狙わせ、タイミングを合わせて脇に盾を召喚したのだ。
隙が出来た男に対し、アキトは甲冑を転送して身軽になりつつ、間髪入れずに距離を更に詰めて男に肉薄、男の顔に手をかざす。
「召喚」
「ぬあ⁉︎」
アキトは自身の普段着を膨らませた状態で、男の顔に被るように召喚する。顔に服が被さった為男の視界は服の色である白一色になる。
「クソッ!どこだ!」
男はナイフを振り回して見えぬアキトを牽制しようとしたが、脚と腕を取られバランスを崩す。男の右横に回り込んだアキトが、ナイフを持つ男の右手を取り自身の前に固定し、左手で男の前襟を掴み、男の右脚を自身の左脚で絡めて持ち上げつつ、後ろに勢い良く引っ張ったのだ。
「せいや!」
「があ⁉︎」
男はアキトと共に勢い良く後ろに倒れ込む。アキトは男の手を掴んだままだったので男は受け身を取れず、アキトと自身の体重を足した勢いそのまま後頭部を床に強かに打つ。ヘルメットのお陰で怪我は無かったものの、衝撃でナイフを手放してしまい、意識が朦朧としてしまう。
(このまま締め落とす!)
アキトは素早く倒れた男の頭側に周り、顔に被さった服を引っ張り首を締め上げる。最初は少し抵抗したものの、やがて男は気を失う。ヤクモの蔦の方を見ると、首を締められたそちらの男も既にグッタリである。
「まずは二人。」
アキトはワイヤを取り出し、蔦に渡す。すると蔦は、器用に動いて気絶した男達をワイヤできつく縛り上げた。心なしか、蔦はイキイキとしているように見えた。
その時、蔦が急に動いてアキトに絡まり、アキトを引っ張る。次の瞬間、蔦に銃弾が撃ち込まれた。敵の後続の仕業である。蔦はピクリとも動かなくなる。引っ張られたアキトは勢いそのままに走り出し、防御の為に甲冑を着た状態で召喚しつつ、逃げ出す。
「逃げたぞ、逃がすな!」
アキトは物陰に隠れ射線に入らないように商品棚の所をジグザクに逃げる。
「追いかけろ!支援する!」
「了解!」
敵の後続は二人である。一人はアキトを追い、一人はその後ろから周りに警戒しつつ後を追う。植物達が邪魔を仕掛けて来るが、次々と縁絶鋼の餌食となる。
(よし、このまま目標を抹殺する!)
アキトは甲冑を着ていた為に速度が遅く、植物の邪魔があってもすぐに追い付き射殺出来ると男は踏んでいた。甲冑の隙間から一発でも中のアキトに弾を撃ち込む事が出来れば、アキトは導術を使えなくなる。導術も使えないアキトを殺すのは、赤子の手を捻る程に簡単であろう。男は勝利を確信して、アキトが曲がった角を曲がる。
「ふん!」
「ぐほっ⁉︎」
しかし、曲がり角を曲がったと思った瞬間、何かが勢い良く男にぶつかる。アキトである。アキトは、角を曲がるとすぐに立ち止り屈んで待機、男が角に来るやいなや飛び出して男の脚を取りつつタックルしたのだ。追い掛ける事に夢中であった男は、注意すべき曲がり角で立ち止まらなかった。アキトは逃げるのに手一杯で、反撃して来るなんて露ほども思わなかった。
アキトは追いかけられながら時々振り返り、男の行動を観察していた。そして、男が早くアキトに追い付く為に曲がり角を注意もせずに曲がるのを見て、反撃できると踏んでいたのである。
男をタックルで押し倒したアキトはそのまま前転して立ち上がり、走り出す。敵の仲間の存在の為、倒した男に止めをさす暇が無かったのだ。倒れた男はすぐに起き上がり、銃を構えようとする。
「召喚、転送」
そんな男の位置を逃げながら確認したアキトは、何やら大きな物を召喚し、またすぐ転送する。男の方からはアキトの身体が邪魔でよく見えない。
「上だ!」
「えっ?」
仲間がそれに気付いて叫ぶが、男が気付いた時には遅かった。
「ぶふっ⁉︎」
男の頭に衝撃が走り、再び男は倒れる。そして全身がずぶ濡れになる。男の頭にぶつかったのは、水の入った大きなタライであった。アキトがシルバーナの身体を洗おうとした時に用意したタライである。
曲がり角の商品棚の上の天井に予め描いておいた転移陣があり、丁度その真下に来るように男を倒し、そこにタライを転送したのだ。タライには水が入っていたが為に、その重量は相当なもので、それをまともに頭に受けた男は意識が朦朧とする。
「くっ、畜生!やりやがったな⁉︎」
「焦るな!またいいようにやられるぞ!」
仲間が男をなだめ、周囲に警戒しつつ男に近寄り、転移陣も銃撃で破壊する。男は痛そうに頭をさすっていたが、何とか意識を正常に戻す。
「動けるか?」
「まあ、何とかな…。」
「そう言えば、木導術使いは?」
「見えないな。大方奴が逃したのだろう。」
男達はヤクモは転移してこの場から逃がされたと判断する。ヤクモ本体がこの場に留まっている方が、アキト達にとっては危険であるためだ。植物は処理しても新たな物を補充できるが、ヤクモ自身に縁絶鋼を撃ち込まれれば、全ての植物が操作不可となってしまう。植物は遠隔操作出来るため、本体を外に逃した方がリスクが少ないのである。
「狙いはガキ唯一人だ。」
召喚術を使えるアキトなら、次々植物を召喚してしまう為、幾ら植物一つ一つを処分してもすぐに補充されてしまう。勝利する為には、植物を倒すよりもアキト自身を素早く殺害する事が必要であった。男達は付近の植物を処分しつつ、アキトを探す。と、先を行く男が何かを見つけて身を隠す。
「標的を発見。」
少し離れた曲がり角の棚の影から此方を覗くような甲冑の頭が見えた。先の方だけしか出ていないので、例え狙撃で当てても致命傷にはならないだろう。しかし、その場所は店の隅であり、逃げ道は少ない。
「目標を見つけた。隠れて此方の出方を伺っている模様。付近に植物は目に見える範囲では無さそうだ。」
「どうする?仲間が来るまでここで待つか?」
男は考える。アキトがもしも動いて外に出て来れば殺害が可能である。おそらくアキトもそれを懸念しているのであろう、先程から動く気配がない。このまま監視を続けていればアキトは無闇に動けない。
「いや、挟み撃ちにしよう。俺がここから奴を狙う。お前はもう一方の道を塞ぐように回り込んでくれ、奴を逃げられないようにして一気に決める。」
「わかった。奴を見失うなよ?」
「任せろ。そっちも植物には気を付けろ。何かあったら言ってくれ、すぐに支援する。」
作戦が決まると、仲間は警戒しながら男から離れて行った。男はアキトを見張りつつ、いつでも引き鉄を引けるように構える。
「どうだ?見張られている気分は。少しでも顔を見せてみろ、その瞬間お前はあの世行きだ。まあ、このまま動かなくても、どのみちお前に先は無いがな。」
男はスコープで甲冑を観察し、不審な動きが無いか神経を尖らせる。今ならば、例え数センチ動いただけでもそれを発見できると錯覚してしまうくらいに、男は集中していた。
「それにしても、本当に微動だにしないな…。まるで置物のよう…。」
そう思った瞬間、男の首に何かが巻き付き締め上げられる。
「がっ⁉︎」
男は慌てて銃を離し、首巻き付いた物である蔦を掴んで引き離そうとするも、強靭な蔦は千切れない。
(なぜ、蔦がこんな所に…。近くに植物は無かったはず…。)
男が後ろを無理矢理向くと、そこには“甲冑を着ていない”アキトが隠れながら、“小さな花の生えた植木鉢”を持っているのが見えた。蔦はそこから伸びていた。ナイフも抜かれており、蔦を切る手段は封じられていた。
(あの甲冑は囮か!)
男は自分が嵌められた事を悟る。アキトが甲冑を着ている事、植物の位置は固定である事などの先入観を利用されたのだ。
アキトは逃げ隠れた後、植物の知らせで敵の行動を知るとヤクモが作った木人形を召喚し、続けて着ていた甲冑一式を木人形に被せて召喚して固定し、これを囮とした。そして、小さな植木鉢を召喚し、植木鉢の中の花を使って男に攻撃した。
道中は見張りの植物からの指示に従って動いていた為、見つかる事なく移動できた。そして、敵が一人になった所を背後から襲ったのだ。
(やはり、小さな植物の蔦では、力が不十分ですね…。)
ヤクモの木操導術は、操る対象に大きく影響を受ける。小さな花では、それなりに強度を上げる事は出来ても力自体は弱く、抵抗する相手を無理矢理締め上げる程の力は無かった。
男は蔦が切れないことを悟ると、玉砕を覚悟して一矢でも報いようと足掻く。
(ここでただやられる位なら…!)
男は蔦を引っ張っていた両手を離し、一度落としたアサルトライフルを急ぎ取り上げアキトを狙おうとする。例え外したとしても、銃声で仲間に気付かせる目的もあった。
(させません!)
アキトは物影から飛び出して鉢を放り投げる。花はもう一本蔦を出して男の反対側の商品棚の上を掴み、自身を固定しつつ男の首を引っ張る。蔦に引っ張られ、男は無理矢理立ち上がらされる。
(ぐおおあ⁉︎)
アキトは一気に距離を詰め、無理矢理振り返ろうとする男のライフルを、発砲される前に掴む。勢いそのままに、男の手首を中心にライフルを上方向に半回転させつつ、銃床で男の顎を打ち抜き、返しで腹部を強打、続けて顎を思い切り打ち上げると、男は衝撃で気を失いかける。その隙に蔦は思いっきり男の首を締め上げると、男は敢え無く失神した。
(あともう一人!)
アキトは周囲を警戒しつつ銃を置き、花を男の位置から死角の場所に隠す。衝撃音が聞こえた為に、男の仲間はすぐに駆けつけるであろう。アキトは急いで身を隠す。すると予想通りすぐに男の仲間が駆け付ける。
「おい!大丈夫か!何があった!」
仲間は周囲を警戒しつつ慌てて男に近寄る。男は完全に気を失っていた。そしてやはり、仲間が男を気にかけるその瞬間をアキトは狙っていた。
「ぬおっ⁉︎」
仲間もまた、一度はそこに来ていたが為に、近くに植物があるなんて思わなかったのであろう。急に飛び出した蔦に反応出来ず、銃に絡み付かれる。しかし、蔦の力はそれ程強くないので、仲間の男は無理矢理蔦を引き離そうとする。だが、アキトはその隙を逃すつもりは無かった。
「ぐっ!」
背後から一気に近付いたアキトは紐を召喚し、蔦と格闘している男の首に引っ掛け、半転してそのまま男を背負う。アキトは紐を思いっきり後ろに引っ張り、蔦は銃と男の身体を前に引っ張る。二つの力に男は引き延ばされる。男はジタバタするが、紐が更に首に食い込み、また仰向けに持ち上げられて踏ん張れないためにどうしても振り解けず、暫くして酸欠により気絶した。
「はあ、これで四人…。」
アキトは緊張のために溜息をついた。しかし、ここが踏ん張りどころと気合を入れ直す。気絶した二人を紐で縛りながら辺りを警戒していると、更なる侵入者の報せがあった。
「今度は4人ですか。流石に、これだけの数では厳しいですね…。防火シャッターもそろそろ破られるでしょう…。そうなると、数で押し切られますか。」
敵も愚かでは無い。アキトと植物の連携が手強いと判れば、戦力を分散させず、集めて投入して来る事は予想できた。
もはや奇襲をかけても、一度に倒し切れないが為に反撃される可能性が高く、そうなれば防御面に不安が残るアキトは危ないだろう。新たに植物を召喚して迎え撃つのも考えたが、大量の縁絶鋼を持つ増援に対応しきれるか疑問である。
「見張りの植物が、次々やられて行って居ますね…。」
敵の男達は、互いに助け合いながら次々に植物に縁絶鋼を撃ち込んで行く。植物達も男達から奪った銃を使って応戦したが、次々と仕留められていく。アキトは拘束した二人を通路の端に置くと、自身の位置を知られないように移動しつつ、甲冑や木人形を召喚してそばに置く。
ヤクモの木導術は、離れた植物を複数操る事が可能である。しかし、離れる程に制御は難しくなり、複数同時に操作する事も勿論難しい。加えて建物の中に植物を召喚した事も、木導術の効果を弱らせていた。(木導術が最も力を発揮するのは自然の中であり、建物の中など人工物に囲まれているとかなり弱体化してしまうという特徴がある。)そして、縁絶鋼所有の複数の相手ではやはり分が悪かった。
「このままでは不味いですね…。」
敵は、防火シャッターに到着してこれを開ける。そして丁度消火が終わった下からの増援を三階に招き入れる。その数は十人。そして、屋上や階下に繋がる階段を占拠して、アキトの逃げ道を塞ぐ。植物も粗方狩られ尽くされ、監視用植物は無くなり、完全にアキトは取り囲まれた。
此処で有りったけの植物を召喚しても、恐らくすぐに撃退されるであろう。そして、多勢に無勢のアキトが殺されるのも時間の問題である。何か別の手を考えなければならない。
アキトは意を決して、手元の植木鉢に作戦を提案する。植木鉢の中の花はくねくねと動き、任せておけといった風に茎を逸らした。
「では、いきますよ!」
アキトは開けた所で召喚を行った。そして、数多くの相手と戦うための武器を呼び寄せた。
窒息で気絶させた場合、放って置くと死んでしまいます。
作中では明言していませんが、きちんと植物が後で蘇生処置を施しています。




