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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第3話

「凄い渋滞ですね。此処がこんなに混むなんて殆ど無いのに…。」


アキトは車窓から外を眺めながら呟いた。どうやら向かう方向の先に何かトラブルがあったらしく、車道にびっしりの車の列は遅々として進まなかった。

港町という事もあり、それなりに普段から通行する車両の数も多いが、首都圏と比較すればそれでも普段から大渋滞する程ではなかった。しかし、交通関連で何か問題が有れば、すぐに渋滞が起きる程度には交通量はあった。

おかげで、本来ならとっくに学園長の屋敷に着いているはずが、未だにたどり着けないままであった。


「おかしいですね。何か事故があったのでしょうか。」


不審に思うアキトは、外に出て確かめようとする。しかし、急に腕に何かが巻かれドアから手を離してしまった。腕に絡みついたのは、ヤクモの創った蔦であった。


「ヤクモさん…?まさか!」


アキトはヤクモの行動に事態を察する。


「出来ればアキト様達には不安な気持ちを抱かせたくなかったのですが、相手が予想以上に強硬な手段を用いて来そうですので、致し方ありません。」


すると、ヤクモの腕から生えた蔦が一気に伸び、アキト達の乗る車を覆い尽くす。次の瞬間、車に大量の銃弾が降り注ぐ。アキト達の車の側まで近付いていた男達が急に銃撃を仕掛けて来たのである。弾は蔓に当たり、蔓が何本か弾け飛ぶが、次々と増殖する蔓を貫き車に達することは叶わなかった。


「くうっ!」

「きゃあ!」


アキト達は突然の銃撃音に思わず身を屈めた。一方ヤクモは涼しげな顔で蔦を操り、外にいる男達を拘束する。


「ぐあっ⁉︎」

「ぬおっ⁉︎」


男達は蔦に巻かれ縛られ身動きを封じられ、銃は取り上げられ破壊され使用不可にされる。襲撃犯が捕まった事で銃撃音は止まるが、周辺は襲撃の影響でパニックに陥り、女性の叫び声や子供の泣く声が聞こえて来た。


「御察しの通りです。我々の命が狙われております。今度は正真正銘本物の反導族団体ですが。」

「今度は人族が相手ですか…。ルビィ、申し訳ありません。」


アキトはヨミ国人の凶行を、同じヨミ国人としてシルバーナに詫びた。


「いえ、アキトお兄さんの所為では有りませんから…。」


シルバーナはアキトに気にしない様に願った。アキトもそれを了承したが、彼女の哀しそうな顔を見て心で嘆いた。しかし、何時までもこのままではいけないと思い、思考を切り替える。


「これからルビィを学園に転送します。後であなたの携帯に此方から連絡をいれます。」

「ですが、それではアキトお兄さん達は…。」

「わかってください。銃が相手では、あなたの導術は意味が有りません。それに此方にはヤクモさんも居ますから、大丈夫ですよ。」

「うう…。」


シルバーナの呪導術・導子引導は、導術に対しては絶大な効果を持つが、人族の武器である銃には全くと言って効果がない。つまり、今この場において、シルバーナは完全に足手纏いであった。


「…わかりました。ですが、必ず無事に帰って来てください。アキトお兄さん、ヤクモ様。」

「有難うございます、シルバーナ様。」

「約束しますよ、ルビィ。」


シルバーナとしては全くの不本意であったが、彼女自身を守りながらの行動となれば、尚更アキト達は危険に晒されるであろう。素直に従い、足手纏いの彼女がこの場を離脱する事で、アキト達を身軽にした方が得策と判断した。


そして、せめてもとシルバーナはアキトにしっかりと抱き付いて身体に彼の匂いを擦り付ける。アキトは抱きつく彼女の頭を優しく撫でる。


「そちらでもし何かあれば、すぐに僕の携帯に連絡を入れて下さい。転送!」


アキトは導術を使用してシルバーナを学園の召喚導術実習施設に転送した。いつも訓練で使用している所である。シルバーナを無事に転送できた事を確認した後、アキトはヤクモに向かう。


「さて、如何しましょうか。ヤクモさん。」


アキトの声は落ち着いていたが、幾分か強張っていた。恐怖の感情が出て来たらしい。ヤクモはそれが、護るべき者を無事に逃す事が出来た安堵感により使命感、責任感が無くなり、自分自身の身の危険を意識する余裕が出来てしまった為に来るものと判断した。


「まずは落ち着きなさい。その精神状態では、いつも通りに動けませんよ。もしアキト様の身に何か有れば、シルバーナ様は深く傷付き嘆かれます。それをあなたは良しとしないでしょう?あなたの身体は、シルバーナ様の身体だと思って扱いなさい。」

「はい、わかりました。ありがとうございます。」


アキトはヤクモの指摘により、自分が恐怖している事に気付き、深呼吸する。まだ緊張は取れなかったが、幾分か落ち着いて来た。

その様子を見て満足したヤクモは、アキトにこれからの行動について話し始める。


「蔦を通して外を見た所、今捕らえた者達以外にも複数、武装した男達が此方に警戒しつつ近付いて来ているようです。」

「迎え撃ちますか?」


アキトは拳銃と盾を召喚し、ヤクモに判断を仰ぐ。


「出来ればアキト様には戦って頂きたくはないです。あなた様を守りながらですと、私が本気が出せないですからね。ご存じの通りこの車は防弾仕様ですし、先ほどの銃弾でしたら貫けないのも蔦を通してわかりました。アキト様は車の中に隠れて頂いて、その間に私が外に出て敵を全て拘束します。」


ヤクモは本来、木々を操り罠を張り、敵を待ち伏せする事を得意とする導術使いである。誰かを護衛をしながら闘う事は余り得意では無く、防御も攻撃も何方も半端なものになってしまう。昨夜のエミリオを助けた青年を逃したのは、アキト達を守る事に専念した為に他ならない。


「すみません…。」


アキトはヤクモの手を煩わせる事に謝罪した。敵が銃を使うプロの殺し屋集団が相手では、導術を用いても真っ向から対決するのは、アキトには荷が重かった。アキトは守られるだけの歯痒さを感じ、シルバーナの気持ちを少しだけ理解した。


「さて、それでは私は少々ゴミを掃除して参りま…。」


ヤクモが言い掛けた時、一発の銃弾が車の防弾ガラスに当たる。銃弾はガラスに弾かれしまったが、ヤクモの蔦をやすやすと貫いていた。


「なっ⁉︎」


アキトは驚き、ヤクモは一気に真剣な表情になり再び蔦を張る。しかし、続く銃弾も蔦の壁を突破し、防弾ガラスに弾かれる。明らかに、ヤクモの導術が無効化されていた。


「まさか、縁絶鋼製の銃弾⁉︎」

「厄介な物を持って来ましたね…。」


縁絶鋼製銃弾は、導術を無効化する銃弾である。先の戦いで導族の転移鎧を無力化する為に構想されたものであったが、接触しなければ転移を無効化できなかったため、接触する前に転移してしまう転移鎧に効果が無い事が判明した結果計画は中止したものである。今は導術を用いた犯罪者に対抗する手段として少量のみ生産されている。


(私にとっては少々キツイですね。)


ヤクモは今、導子を多量消費する“木生導術”を使用して植物を創り出し、防御に充てている。その際、導子節約の為に、操作しやすい柔らかな植物の蔦を作り出し、必要に応じて硬さを与えている。その植物に銃弾が当たると、植物は操作が不可能となり、硬くしていた効果も無効化されてしまう。つまり、今のヤクモの導術では銃弾から身を守れないのである。


「…それになるほど、考えましたね。」


ヤクモは近くの木々が皆、支配不可になっている事に気付く。ヤクモの木操導術は、対象の植物全体を支配しなければ上手く発動しない。敵は縁絶鋼製銃弾を辺りの木々に撃ち込み、ヤクモの導術が影響を及ぼせない様にしたのである。


(私が木導術の使い手であると伝わってしまったのは、些か不用心でしたね。ある程度導術対策をしてくる事は予想済みでしたが、まさか入手し辛い縁絶鋼を多量に持ち出してくるとは…。シラサギ達が裏で手を回していたのかも知れませんね。)


縁絶鋼はその効果から、導族にとって非常に忌み嫌われる物である。故に、戦争が集結した後はアビス王国の国民感情を気遣い、民間での製造を完全に禁止し、国が一括管理するようにしている。

そして、限られた用途と決められた機関にのみ一定量の縁絶鋼を供給する決まりになっている。その為、反導族団体が簡単に手に入れられる代物では無い。


しかしどこで手に入れたのか、敵の男達は大量に縁絶鋼製銃弾を保有している様であった。次々と銃弾が車に当たり、ヤクモの額に汗が滲む。襲撃者達はジリジリと距離を詰めてくる。


「車で突破しようにも道は彼らの車に塞がれました。持ち上げて退かすにも縁絶鋼が厄介ですね。かと言ってこのままこの車の中に居てはジリ貧です。」

「やはり此処は…。」

「ええ、大変申し訳ありませんが、状況が変わりましたので、先程の話は無かった事にして下さい。ただ、このままうって出るのは下策、身を隠す障害物の多い場所を探しましょう。」


ヤクモは、自身の導術では、この車を守り切るのは難しいと判断したため周囲を確認し、近くに雑貨店がある事を確認した。


「左側の扉を出て直ぐ、雑貨店が有ります。障害物が多いですし、そこに身を隠しましょう。」

「わかりました。それでは少し宜しいですか?提案が有るんですが。」


ヤクモはアキトの話を聞いて、快諾した。


「さあ、彼らを驚かせてあげましょう。」

「はい、頑張ります!」


ヤクモとアキトは固い握手をした。

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