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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第2話

「うわぁ…これが携帯電話ですか。近くで見ると面白いですね。アキトお兄さん。」


アキト達はシルバーナの携帯電話の契約の為に、無線通信機器専門店のComodoショップに来ていた。初めて触る携帯電話に、シルバーナは興味津々にしていた。一方アキトは、料金プランの事で悩んでいた。


(やはり通話し放題は必要でしょうね…。インターネットは必要か分かりませんが、メールも出来ればあった方が良いですか。各種保障はと…。)


アキトは様々なケースでの発生する料金合計を計算し、比較していた。いくらシルバーナの為の物を買う為なら金に糸目はつけないにしても、なるべくなら無駄遣いを避けたかった 。


「アキトお兄さん?」

「ああっと、すみません。少し集中してい たものですから。」


シルバーナの声にハッとしたアキトは、シルバーナの方を向いた。彼女を無視していた事を謝った後、店員に向かう。その顔は真剣であった。


「そうだ!家族割引って出来ますか?僕はこの子の家族なので、割引が適用できると思うのですが。」

「ええっ?お二方は家族なのですか⁉︎」


アキトは担当の店員に訊くと、店員は驚いた顔をした。勿論、人族のアキトと導族のシルバーナが家族だと言い出したからである。導族と人族が結婚することはない事はないため、導族と人族が家族である事は可能性としてはあるが、現状ではかなり珍しい。


「ええ、勿論です。この子は僕の妹です。」

「ええ?は、はあ…。」


店員はアキトのあまりにも自信たっぷりな発言に、思わず信じかける。しかし、ニュースでシルバーナの事を知っていた店員は、気を取り直して冷静に対応する。


「戸籍上ではお二方は本当に家族なのですか。」

「あ、いえ、それは…。」


もちろん、アキトの中でシルバーナを妹扱いしているだけであり、法的根拠は何もない。


「ならばこの割引きは適用できません。」

「そうですか…それは残念です。」


アキトは落胆する。しかし、アキト自身も少々苦しいかと感じていたため、おとなしく引き下がった。


「その代わり、特定の相手との会話のみ無料となるプランが有ります。こちらは、家族割引と比べて適用対象人数は少なくなりますが、その人物との会話が中心である場合にはお得なプランとなります。良く恋人同士の方々が利用されていますよ。此方でしたら家族でなくても大丈夫です。」


店員は代案を提示し、アキトの反応を見た。しかし、先に反応を示したのは、アキトでは無くシルバーナの方であった。


「こ、恋人……。アキトお兄さん、これにしましょう。これが良いです。これにして下さい。」

「そうですね。料金も据え置きでお得そうですし、ルビィとの会話が中心となるなら、それで良いですか。それでは、僕の携帯のプランもそれに変えさせてください。」

「畏まりました。」


アキトもその意見に賛同した。その言葉を聞いてシルバーナは心の中で喜びの声を上げる。


(やりました!これで少しだけアキト様に近付けたでしょうか。うふふ、恋人…、良い響きです…。)


シルバーナは妄想してうっとりしながら携帯を選ぶ。しっかりとアキトのとお揃いにする事も忘れない。アキトは嬉しそうな彼女の顔を見て嬉しくなる。


(ルビィ、とっても嬉しそうですね。僕も初めて携帯を持った時、とても嬉しくなりました。新しい物って、ワクワクしますよね。悪用はしないと思いますが、心無い者に騙されないように情報教育は必要でしょうか。)


アキトはシルバーナへの教育方針を固めながら微笑ましく見つめていた。


携帯電話の契約が終わったシルバーナは、ショップを出た後、早速アキトの携帯に電話をしてみる。恐る恐る数字ボタンを押して、期待に胸膨らませながら耳に当てていると、アキトの携帯がなって、アキトがそれに出る。


「もしもし、此方はアキトです。」

「ひやあ!」


シルバーナは耳に当てた小型の機械からアキトの声が聞こえてきて、わかっていたことであったが驚いて変な声が出た。携帯から聞こえるアキトの声は生の声と少し違っていたが、シルバーナの耳はその特徴を確かに捉えた。彼女は、耳元にアキトが話し掛けてきているという錯覚に興奮し、もっと会話をしたい欲に駆られる。


「あ、アキトお兄さん…。」

「何でしょう?」

「……こ、これから宜しくお願い致します!」

「はい!こちらこそよろしくね。ルビィ。」


シルバーナとしてはもっと色々な会話をしたかったが、会話内容が思い付かずただの挨拶になる。しかし、それでも彼女の精一杯の勇気は、アキトの声を耳元で聞くという褒美に報われた。


「さあ、そろそろ学園長先生の所に行きましょう。」

「わかりました。アキトお兄さん。」


アキトは携帯を切り、シルバーナもそれに倣う。


「ああ、そうだ。忘れる所でした。アルバイト休む連絡をしなくては。」


アキトは、今日は引越しで時間が無くなるだろう事を見越してアルバイト先に休みの連絡を入れた。その後ヤクモに向かい、学園長の屋敷に向かうように願い、ヤクモは了承した。そして、 アキト達はヤクモの車に乗り込んだ。


「ふう…。」

「ヤクモさん?どうしたのですか?」

「いえいえ、少しばかりハエがいましてね。」


アキトは周りを確認したが、それらしき姿は見えなかった。

ヤクモはアキトに気にするなと言い、車を発進させた。その後には蔦に巻かれた何かが置かれていた。




「こちらニシカタ。発信機は排除されました。予定変更して目標を目視にて追跡し、作戦を開始します。」


ヤクモの車が店の駐車場から見えなくなると、店から見て道路の反対側にある駐車場に停めてあった黒い車の中で寝たふりをしていた男が無線で何処かに連絡をする。


「了解した。気を付けろ、発信機が見つかったのなら、此方の動きは勘付かれているはずだからな。」

「わかっています。それでは、また後で。」」


無線の向こうから聞こえる声は、男に簡潔に答えた。それを短く返答した男はすぐに無線を切る。


「魔族は敵、それを信奉する裏切り者も敵です。我等が愛するヨミ国に仇なす輩め、その汚らしい存在でこの国をこれ以上穢れさせはしませんよ。その死体の一欠片も、血の一雫も、飛び散り染み込んだ地面ごと、残らず纏めてそっくりそのまま奴らの魔窟に返して差し上げましょう。」


男は走り去ったアキト達の車の向かった方向を鋭く睨みつけ、呪詛を呟いた。そして、アキト達を追い掛けようと車を発進させようとした時に異変に気付く。


「な、何ですかこれは!」


見ると、いつの間にか男の足に蔦が絡まっている。男が必死に振り解こうとするもそれはきつく纏わりつき、男の足の自由を奪う。男は慌てて仲間に連絡を入れようとしたが、無線を蔦に奪われてしまう。ならばと拳銃を取り出すが、腕にの蔦が巻きついて拳銃を奪われる。


「く…しまった…。」


男は自らの失態を悟る。男は既に仲間に連絡を入れてしまったため、仲間からは異常なしと判断されている。そして、次の定時連絡まではまだ時間がある。仲間が異変を察知するまで時間が掛かってしまう。


(落ち着け、この車には発信機が付いている。このままこの車が動き出さなければ、すぐに仲間が異変に気付いて…。)


すると、蔦がハンドルとアクセルペダルに絡みつき、車を操作し始めた。その向かう方向は、アキト達の向かう先と反対であった。


「くそ!かくなる上は!」


身動きを封じられ、操作される車の向かう先は恐らく警察であろう。尋問されて組織の事を話す訳にはいかない。そう感じて男は即座に自決の覚悟を決める。


「ふぐおっ!」


しかし、舌を噛み切ろうと口を開けた瞬間、口の中に蔦が入り込み、それを阻止されてしまう。そのまま全身を蔦に巻かれ、完全に拘束される。もはや自決は不可、男は打つ手を失う。


(万事休すですか…。)


男が諦めかけた時、不意に無線の通信が入る。しかし、男は身動きが取れないため、そのまま放置せざるを得ない。すると、無線から一方的に声が聞こえてきた。


「ニシカタ、お前の犠牲は無駄にはしない。」


その言葉に蔦は反応して、車の戸を開け男を放り投げる。そして、蔦が一気に増殖して車を覆い尽くすや否や、車は爆発を起こし、蔦は弾け飛んだ。爆発の規模が運転席の人物を吹き飛ばす程度であり、更に蔦が爆発の衝撃を緩和したため、周囲への被害は無かった。


放り投げられた男は、受身を取りながらコンクリートの地面を転がった後すぐに起き上がり、周囲を確認する。蔦は無事な部分が蠢いていた為、また捕まってしまわないようにと、男はすぐその場を離れた。そして、人気の無い場所まで来ると携帯を取り出し、先ほどの声の主に連絡を取る。


「こちらニシカタです。ミナカタさん、手助けありがとうございました。」

「気にするな。こちらこそ済まなかった。敵に情報を漏らす訳にはいかなかったのだ。」

「承知しています。私は祖国の為ならいつでも死ぬ覚悟はできています。なので今回の事も、死んだら死んだで情報を漏らさず死ねるのですから、それで本望でした。」

「…すまないな。」


電話の先から聞こえる声は冷静なものであったが、幾分か申し訳無さそうな色が混じっていた。ニシカタにはそれで充分であった。


「それよりも今回の事で分かりました。魔族に与する裏切り者の導術使いは木導術の使い手、かなりの実力者です。しかし、敵である私を逃した辺り、甘い所もあります。付け入る隙は有るでしょう。」

「わかった。お前は大丈夫か?もし怪我などをしているならば、今回の作戦から離脱しても構わないぞ?」


ニシカタは、蔦に投げられた衝撃で外れた自身の肩を見やる。


「私なら大丈夫です。怪我など有りません。」


しかし彼は何も無かったかのように平然と答えた。


「それでは私はこれより作戦行動に復帰します。この命、どうぞ使い潰して下さい。」

「…わかった。その命、私が預かろう。祖国のために死んでくれ。」

「喜んで。」


ニシカタは携帯を切り、自力で肩の脱臼を治すと、作戦行動中の他の仲間と合流するべく道路を駆け抜けて行った。




(まさか部下を此処まで簡単に切り捨てるとは…。)


蔦を遠隔操作で操っていたヤクモは、眉一つ動かさずに冷静に判断する。


(やはり、キツネ様の言った通りでしたね。昨日の今日で動くとは、流石に予想外でしたが。)


ヤクモは、今朝の内にキツネと今後の事について話し合っていた。

そこでキツネは、エミリオ達が隠れ蓑に利用した、反導族を掲げるテロリスト集団の一派が、近い内にアキト達に仕掛けてくる可能性がある為、警戒するようにとヤクモに伝えていた。

ヤクモは自身の部下を様々な反導族団体に潜入させ諜報を行わせているのだが、その諜報員の一人が襲撃の情報を掴んだらしい。


(昨日の夜にエミリオ達が偽の声明を出してしまいましたからね。更に、今朝も会見で事件に導族の非がない事も宣言しました。今彼等の立場は圧倒的に不利。切羽詰まっての行動でしょうか。)


反導族団体は、今回の寮襲撃事件の犯人に仕立て上げられている。主犯は政府の人間となっているが、掲げる内容は似ているため、自然、槍玉に挙げられることになる。そして、警察や政府が介入してくれば、団体は基盤を失い、力を失って行くであろう。ゆえに、力がまだ残っている今の内に、何か仕掛けてくる事は予想できた。


(シルバーナ様の事は、報道により大まかな居場所は知られていますからね。あとは何人か諜報員を動員すれば、私達の事は見つける事も可能でしょう。何にせよ、襲撃してくるとは、余り良い考えとは思えませんね。)


エミリオ達が起こした一連の事件の所為で、警察は反導族団体に対して警戒するようになっている。そんな中、昨日に今日と事件を起こそうものなら、更に非難が強くなり、警察も強硬手段に打って出るであろう。彼らの行為は、自身の団体の解体を早めるものに他ならなかった。


(それでも、緩やかな衰退を許容するよりはマシと、判断したのでしょうか。主義主張を隠し、目の前の保身に縋るより華々しく散りたいと、そう思ったのかもしれませんね。窮鼠猫を噛むとは言いますが、少々追い詰めすぎたのかもしれないですね。まあ、彼らに同情はしませんが。)


ヤクモは車の後部座席で仲良く話すアキトとシルバーナをバックミラーで見ながら、彼らの幸せを願った。

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