表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
28/132

第27話

相変わらず一文が長くてすみません…。

アキト達が突然目の前からいなくなってしまったため、エミリオは急ぎ部屋の中に戻る。


「…チッ!やられたか…!」


部屋の中には人質の青年の姿は無く、窓は外され風が吹き込んでいた。急ぎ他の部屋も確認して見るが、どこも同じ状態であった。エミリオはパソコンを見てみたが、導術検知機は正常に動いている様であった。


「どういう事だ?これ程の事を導術無しでやり遂げたと言うのか…?」

「エミリオ様!今はそれより逃げた奴らを追うか、撤退して再起を図らねば!どうかご指示を!」


エミリオは訝しげな顔をしていたが、ゴーラの声に意識を現実を引き戻した。


「むぅ。そうであったな…。」


エミリオは状況を確認して少し考えた後、ゴーラに指示を出した。


「待っていろよ…。俺をここまで虚仮にした罪、存分に償わせてやるからな!」


エミリオはその端正な顔立ちを醜く歪め、怨さの声を廊下に響かせた。




一方アキト達は、消えた直後二階下の廊下にいた。目の前には甲冑姿のコウガがいる。近くには一緒に来たであろう特殊部隊の隊員二名がいた。


「アキト君!シルバーナ様!無事で良かった!」

「先生!他の生徒達は大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。皆無事に逃げましましたよ。奴らの部下も皆捕らえました。」


自分よりも他の生徒の安否を気にするアキトにコウガは苦笑を禁じ得なかった。


「そうですか、良かった…。では早速脱出を!」

「わかりました。アキト君はこちらの方達と共に脱出しなさい。」


コウガの言葉にコウガ自身の脱出が含まれていない事にアキトは気付く。


「え…、先生は…?」

「私はまだやらねばならない事があります。」


コウガは犯人達を捕まえる気なのだとアキトは気付く。


「先生…。」

「私を案じる必要はありません。それに、今ここで奴らを逃してしまったら、また何か仕掛けて来るかもしれません。もう、生徒達を危険な目に遭わせるのは御免ですからね…。」


アキトはコウガの強い意志を感じ取り、大人しく引く事にした。コウガはシルバーナの手錠を外し、アキト及びシルバーナと結んでいた転移契約を解約した。


「…コウガ先生、どうかご無事で…。さあ、シルバーナ様、あなた様を転送します。」

「…わかりました。コウガ様、本当にありがとうございます。」


アキトはシルバーナと再契約した。


「そうだ!これを…。」


アキトは自らの服を脱いで、シルバーナに被せ、シーツを外した。シーツはアキトの物でもシルバーナの物でも無いため転移できない、転移先で恥ずかしい思いをさせないためのアキトの思いやりであった。


「あ…アキト様…。ありがとう…ございます…。」


急にアキトの匂いに包まれて、シルバーナは頭がおかしくなりそうになる。思わず思い切り嗅ぎたい衝動に駆られるが、理性で抑える。

アキトはそんな呆けた彼女を見て、「疲れているんだ、早くここから出してあげないと」と感じ、寮の外の転移陣に急ぎ彼女を転送した。


コウガに挨拶したアキトは、特殊部隊の隊員達と共に暗闇の階段を気を付けながら降りて行った。


「キツネさん、アキト君を無事確保しました。今部隊の人達と共に寮から脱出します。外の安全確保と、彼らの保護をお願いします。」

「ンッフッフ、任せて下さい。そちらもお願いしましたよ?存分に暴れて下さい。」


コウガはキツネに連絡を入れ、静かに通信を切った。


「さて、生徒達を危険な目に遭わせた張本人達に、今まで生きてきた事を、そしてこれから生きていく事を、存分に後悔させてやろうか…。」


コウガの声は小さく、アキト達には聞き取れなかった。





コウガの連絡を受けたキツネは、寮の近くの建物の中で愉快そうに笑っていた。


「ンッフッフッフ。上手く行きましたねぇ。アキト君の計画に私が修正を加えた作戦、見事にはまりました。」


アキトは、エミリオ達が寮を占拠したと連絡を受けた時から、コウガの能力を利用して人質を救出する作戦を考えていた。


「まさか、コウガ殿に自身を転移させるとはねぇ。」


コウガはその強力な創造召喚に目が行き勝ちであるが、「召喚導術使い」の名に恥じず、転移召喚も使える。

そこで、アキトは敵に伝わっているであろう『アキトがシルバーナと転移契約を結んでいる』と言う情報を利用する事にした。

転移契約は、原則として一人の人物が二名以上の召喚者と同時に転移契約を結ぶことは出来ない。所有権を二重譲渡する事になるためである。だからエミリオ達は、アキトも捕縛して来るだろう。しかし、コウガまでは抑えるのが大変だろうから、外で待つように言って来るはずだ。そうアキトは予想し、自身はシルバーナと契約を破棄し、シルバーナと共にコウガと契約した。

これにより、もしアキトが導術を封じられても、コウガに自身とシルバーナ両方を連れ出させることが可能となり、もしも自身が逃げられずとも、シルバーナを召喚させられる事態にはならないと彼は考えていた。


「そして、寮の代理所有者である管理人から、寮の所有権を借りると。」


寮の機械や備品は、管理を任されている人物の所有物となっている。その人物から所有権を借りれば、それら全てを転移可能となる。(シーツごとシルバーナを転移できたのはこのためである。)


それを利用すれば、手錠や窓を転移して外す事は造作もない。アキトは車に乗っている間に学園長に連絡を入れて、寮の所有権を移す許可を得ていた。そして、コウガが外に残されるとわかった時に、コウガに所有権を移して貰ったのである。


「しかし、偽物の手錠を用意するのは大変でした。なにせ時間がありませんでしたからねぇ。アキト君も無茶ぶりが過ぎますよ。」


アキトはキツネに頼んで寮または警察にある手錠と同じ物を、導術を抑える効果を使えない状態で用意してもらい、自身とコウガに所有権を譲って貰った。これにより、本物の手錠をコウガに転移して貰った直後に、自身の両手に偽物の手錠を“はまった状態”で転移させたのだ。(転移導術は自身の体の近くであれば、その場所に召喚が可能である。通常時、掌の上に召喚するのは、難易度が低いためで有る。)


「まさか、アキト君の転移導術は導術検知機に引っかからないと言うのは、些か予想外でしたがねぇ。」


アキトは自身の導術の危険性の低さとその人柄から、寮内での転移導術の使用を認められていた。

そのため、寮の検知機はアキトの転移導術に反応しない設定になっていた。そして防犯上、その設定は管理人しか帰られないようになっていた。


自身の導術が使える可能性があると考えたアキトは、もし自分が中に連れて行かれる場合には、自身が囮兼偵察役として中の様子を外に伝える手段をキツネに示した。


「ンッフッフッフ。まさかこんな玩具を利用するなんてねぇ。そうは思いませんか?シルバーナ様。おや、聞いていませんねぇ…。」


キツネの近くには、静かに椅子に座り、机に突っ伏す振りをしてアキトの服の匂いを嗅ぐシルバーナと、直径二センチ程度の小さなアルファベットの玩具、アキトの転移陣を記した紙が置いてあった。

アキトは偽物の手錠をしながら、掌を軽く握りしめ、その手の中に密かに玩具を召喚しては、転移陣に転送していた。その記しを利用してキツネに情報を伝え、キツネからコウガに連絡を入れていたのである。この時、アキトは寮内の見回りは偽物の可能性が高いと伝えていた。(ちなみに、コウガが連れて行かれた場合、手錠を交換した後は敵の隙を見てリビングアーマーを召喚し、外のヤクモや特殊部隊と共に敵を一気に制圧する算段であった。)


「しかし、私の部下の支援もなかなかだったでしょう?アキト君。」


キツネは今まさに脱出しようとしているアキトのいる方を向いて口角を上げる。

キツネは部下の雷導術使いに、寮の外から防犯システムにクラッキングさせてシステムを乗っ取らせ、カメラと検知機に異常が出ないように細工をさせていた。この細工は寮の防犯システムが繋がっている警察から行われたため、寮の検知機には引っかからなかった。

無論、エミリオ達にバレないように慎重に事を運ぶ必要があり、画面を注視されていれば違和感に気づかれた可能性がある。そこでアキトはエミリオ達の様子を伺い、システムクラッキングを行う機会を狙っていた。

折りよくエミリオ達がシルバーナに釘付けとなった時、アキトはキツネに連絡を入れて、クラッキングを成功させた。


そして、コウガとヤクモはそれぞれ見回りと警告に出てきた導族を音もなく捕らえ、特殊部隊はエミリオ達から離れた場所を制圧し、生徒達を静かに連れ出した。

エミリオ達のいる階とその下の階は流石に気付かれる可能性が高かったため、コウガはリビングアーマーを大量に呼び出し、窓を召喚して音を立てずに外し、外側から一気に人質を確保し、窓から脱出したのである。


「後は暗殺者達を全員捕まえれば、こちらの大勝利ですねぇ。ンッフッフッフッフ。」


キツネはこぼれ出す笑みを抑えられない様子であった。

しかし、そんなキツネの喜びに水を差す話がやってきた。


「少しよろしいですか?」

「おや、ヤクモさんでは有りませんか、何でしょう?」

「屋敷の木々達が、不審者が来ていると告げています。」


ヤクモの顔は真剣であった。屋敷の木々達では捕らえられない程の実力者が来たのである。その目的は明白であった。


「証言者である蛇型導族を取り戻しに来ましたか…。」

「幸い、速い為に上手く捕らえられないだけで、捕らえた場所にまでは辿り着いてはおりません。」

「しかし、何があってもいけないですねぇ。ここは特殊部隊の人達に任せ、あなたは急ぎ戻って下さい。」

「しかし、よろしいのでしょうか?」


ヤクモは言いし得ない不安に駆られていた。それはキツネも同じであったが、敵の残党が居るのなら、みすみす逃す訳には行かない。


「人質は皆解放され、こちらの戦力は充分、敵も二人捕らえて無力化してあります。ここは私達だけで充分でしょう。」

「…わかりました。急ぎ戻りますので、よろしくお願い致します。」


ヤクモは自身が運転して来た車に乗って、猛スピードで走り去って行った。


「やれやれ、何やら雲行きが怪しくなって来ましたねぇ。」


キツネは寮の方を細い目で睨みつけた。

彼から少し離れた所には別の男が座っており、そんなキツネをさり気なく見つめていた。





コウガは音を立てず階段を上り、最上階まで来たとき、狙っていた獲物の後ろ姿を見つけ、その首目掛け獣の如く一気に襲いかかった。


「…フン!」


しかし、獲物はコウガの音の無い襲撃に反応し、身を左に捩って倒れながらよけつつ、右手に持った剣を翻し、回転を利用してコウガを斬りつける。


「ハァ!」


背面から襲い掛かる凶刃をコウガは前方宙返りしながらかわし、そのまま目の前の壁にヒビを入れながら着地、全身のバネを利用して体勢の崩れた獲物に再び襲い掛かろうとする。


「うおおおっ!」


獲物は自身に向けて風を吹かせ、コウガの目眩ましをしながら、勢いを利用して後ろに飛び退く。コウガはそのまま床に突撃し、獲物のいた場所のコンクリートの床を右手で抉り取り、壁まで亀裂を走らせる。獲物はうっすらと冷や汗をかく。


「ふぅ…、全く、まるで獣だな、背後から襲い掛かってくるとは。その甲冑姿には似つかわしくないぞ?コウガ殿。」

「わざと背を向けていたのに、白々しいですよ。あなた方のような騎士の道にも、人の道にも外れるような外道には、獣の礼を取った方が良いかと思いましたので。そうは思いませんか?騎士エミリオ。」


エミリオの売り言葉に買い言葉を返すコウガ、両者の間には緊張が走る。


「ついさっきした約束ではあるが、早速果たそう。あなたに決闘を申し込む。負けたら大人しく盗賊を捕まえるための人質となって貰おうか。」

「決闘は望む所ですが、私が負けたとしても、人質として大人しくあなた方に従うとお思いですか?」

「従わなくても、貴様を瀕死にすれば、あの盗賊は貴様を助けに戻るであろう?こちらにはその用意がある。」


エミリオの不敵な笑みに、コウガは薄ら寒さを感じた。


(何を仕掛けて来ようと、必ず勝って、奴らを捕まえる!)


コウガは自らを鼓舞し、エミリオに向かい合う。


「さて、そろそろ始めようか。立ち会い人はいないが、まあ良かろう。」


エミリオは自身を覆う黒い布を取り去る。すると、煌びやかな騎士鎧が現れた。


「なるほど、すぐに逃げず、その鎧を着込んで待っていたと言う訳ですか。」

「左様、あなたがやってくるのはわかっていたからな。例え不利な状況下であろうと逃げ出さず、騎士の正装を以てあなたと相対し勝負するのが礼儀と思ってな。」

「その心遣いはありがたい。おかげであなた方を取り逃がさずに済む。」


エミリオは薄く笑い、コウガは凶悪に笑う。


「では、行くぞ!私の全力を以て相手をしよう。」


エミリオは集中する。すると、エミリオの周りの大気が揺らぎ、屋内に強い風が巻き起こり、耳をつんざく音が辺りに響き渡る。


「天に座し、空を統べしは偉大な覇者。その身に纏し威風におののき、万難皆避け道譲り、その手に掲げし怒号に恐れ、万物皆裂け道空ける。

我は覇者の威光を継ぎし者。願わくならば、勝ち鬨の便りを疾風に乗せて、天空あまねく響かん事を。

風操導術・厄避ケル鎧。音操導術・萬裂ケル剣。」


エミリオの詠唱が終わってみると、エミリオの周りには何もなく、ただ静寂が訪れる。

しかし、エミリオの体表に渦巻く大気の鎧が、剣から響く小さくも鋭い音が、コウガには見え、また聞こえていた。


「ふむ…、では、こちらも全力でお相手致しましょう。」


コウガはエミリオの本気に対し、失礼の無いように本気で戦う事にする。そして、コウガもまた集中し、寮に響き渡る大きな声で詠唱する。


「民の為に戦場に散った数多の誇り高き騎士達よ。汝らに今一度、民の為に戦う体と名誉を与えん。

今こそ集え!我こそは大志有りと謳う者共よ!

剣持て槍持て弓を持て!誇りを以て迎え討て!そしてその身を盾として、愛する民草守りぬけ!

創造召喚、現れろ!人型土獣リビングアーマー・レギオン!」


コウガの大きな声が響き渡ると、コウガの後方の空間が歪む。その歪みからコウガの着る物と同じ甲冑が五列に並んで現れる。その数は百を超え、廊下を所狭しと埋め尽くしていた。その一体一体が強い覇気を持ち、中身は無いながら、その幻の瞳でエミリオを睨みつける。


「これは少々、分が悪いか…。しかし、こんな逆境を乗り越えてこそ英雄!感謝するぞコウガ殿。私はこの戦場を乗り越え英雄となる!」

「あなたは本当に騎士バカですね…。呆れて物も言えません。そこまで望むので有れば見せましょう。戦場とは、如何に騎士道とは程遠い、卑怯で暴虐に満ちた物であるのか…。」


コウガは召喚した騎士達の中に入って行き、小さく叫ぶ。


「やれ。」


その指示を受けた甲冑達は、一斉にエミリオに襲いかかった。


「なっ!まだ名乗りも…。」


狼狽えるエミリオを無視して、騎士達はエミリオを取り囲み逃げられない様にして攻撃を仕掛けた。




一方アキトが一階までたどり着いた時、天井を何かが“すり抜けて”落ちてきた。


「敵!?皆下がれ!」


暗闇の中に全身を騎士鎧に身を包んだ男が立っていた。アキトを先導した隊員が、それにいち早く気付き、アキトを敵から遠ざけながらもう一人の隊員と共に銃撃する。甲冑は身じろぎ一つせず、ただその場に仁王立ちする。


「な!なんだと!」


甲冑は傷一つ付いて居なかった。それどころか、銃弾がすり抜けている様子であった。


「あ~んらぁ~、よく見るとあなた達も、とってもイ・イ・オ・ト・コ。今日は大漁ねぇ〜。嬉しいわぁ〜。」


甲冑姿に似つかわしく無い緊張感の無い声が廊下に響く。その甲冑の中には猫目が見え、隊員を品定めするような瞳で見つめていた。


「う、うわああああああ!?」


背筋におぞましい寒気が駆け登り、恐怖した隊員は手に持つ銃を再び甲冑に向け、撃ち続ける。


「あらあらぁ~。乱暴ねぇ~?でもいいわ。私も激しいのが好・き・よ。だけど今はだぁ~んめ!後でたっぷり楽しませてあ・げ・る。だからちょっとだけ、大人しくしててね?」


猫目の男は素早く隊員の一人に近付くと、手にもつ剣で銃を叩き潰す。同時に隊員を掴んで壁に投げ飛ばし、肩と足に向かって長い針のような武器を投げて突き刺す。


「ぐああああ!」

「ああ!いい悲鳴!とてもそそられるわ!でもダメ、ダメよワ・タ・シ。今はお仕事優先、我慢よぉ~。でも仕事が終わったら、ぐへへ。」


文字通り壁に釘付けになった隊員を見て、体を捩らせ悶える甲冑男。もう一人の隊員はアキトの安全と自らの貞操の危機に、冷静に逃げる事を選択した。


「お前の献身は忘れない!」

「おい!逃げるのは良いが後で助けに来い!絶対だぞ!」

「わかっている!」

「後、なるべくなら早く頼むぅ~!」

「そっちのいい男も逃がさないわよぉ~!」


アキトは“命までは”取られないだろうと判断し逃げ出す。しかし、殿を勤める隊員が敵の素早い動きに捕らえられ、押し倒される。


「私からは逃げられないわよぉ!」

「俺に構わず早く行けぇ!」

「…すみません。」


甲冑男が隊員に釘を突き刺し動きを止めている間に、アキトは振り返らず逃げる。


「待ちなさあ~い!」


甲冑男はアキトに飛びかかろうとするが、沢山の足音が聞こえそちらに気を向ける。


「いたぞ敵だ!かかれぇ!銃は使うな!仲間に当たる!」


そこには銃声に気づいて駆けつけた特殊部隊達がいた。


「んもぅ!良いところなのに!あたしの体は1つ、そんなに大勢が相手じゃ体力が保たないわよぉ!」


甲冑男は増援を無視し、アキトを追い掛けようとする、しかし、


「アキト様!」


部屋の窓の外から聞こえるシルバーナの声に、アキトと甲冑男は驚く。


「シルバーナ様!なぜ!」

「私なら!その男の甲冑の効果を!」

「目標は~っけ~ん!」


銃声が聞こえ、アキトが危ないと思ったシルバーナは、いてもたってもいられず、キツネの制止を振り切りアキトの元に急いで駆けつけたのだ。

シルバーナは何やらアキトに伝えようとしたが、その前に甲冑男がシルバーナめ掛け飛びかかる。

壁をすり抜け一気にシルバーナに近寄るが、


「召喚!」

「にゃあ!?」


シルバーナが目の前から消えたため、甲冑男はそのまま飛び出して言った。


「どうして来たのですか!?今すぐ転送を!」

「お待ち下さいアキト様!私ならあの男の鎧の効果を打ち消せます!」

「なんですって?導術が使えるのですか?」

「逃っがさないわよぉ~!」


アキトはシルバーナの話の詳細を知ろうとしたが、そんな暇を男が見逃す筈がない。


「危ない!」


一気に距離を詰める男に、アキトは危うく捕まりそうになるが、特殊部隊員に突き飛ばされ回避する。代わりに隊員が男に捕まり壁に叩きつけられる。


「早く逃げろォ!」


隊員の叫びに、アキトは急ぎシルバーナを連れて逃げ出す。 隊員達がそれを守ろうとするが、


「邪魔するんじゃないわよぉ!」


自分達の攻撃は悉くすり抜け、敵の攻撃はこちらに当たる圧倒的に不利な状態に、隊員達は為す術なく倒れていった。ちなみに皆いい男だったため、殺された者は1人も居なかった。


「当たれぇ!」


甲冑男がアキトの方を向くと、少し離れた場所から丸い物を男に向かって投げつける所であった。


(爆弾?残念だけど効かないわ。)


しかし、勿論そんな物は当然すり抜けていった。男は顔を綻ばせアキトに目標を定める。


「残念だけど、あなたはちょっと好みじゃないわ。特に顔が。」


そう言うや否や、一気にアキトに飛びかかる。その毒手がアキトを襲おうとした時、


「召喚!」


アキトは手のひらにさっき投げた爆弾らしき物を召喚しながら仰向けに床に倒れる。意表を突かれた甲冑男は思わず召喚されたものを凝視する。一方アキトは、近くの机の下に隠れてうずくまるシルバーナと共に目を閉じていた。


「…しまっ!」


男が気付いた時には既に遅く、男の目を強烈な閃光が襲った。


転移鎧には弱点が幾つかある。1つは導術に弱いこと、これは転移鎧に施された術式が精密なものである為に、他の導術の影響により上手く作動出来なくなるためである。

戦争が泥沼化したのは、人族側に有力な導術使いが現れ、銃と共に攻撃を仕掛けてきたため、転移鎧の優位性が崩れてしまった事も大きな要因であった。

また、攻撃する際には剣や手を転移しないようにしなければ、こちらの攻撃もすり抜けてしまうし、足の裏を転移しないようにしなければ地面をすり抜けてしまう欠点も抱えている。そして他の欠点はとしては、


「あああああ!目が、私の目がぁ!」


光や音のような物には転移が作動しない事であった。これは、もしもそれまで遮断してしまったら、その場の状況が分からなくなってしまうためである。

勿論、設定を変える事である程度の強度の音や光に反応して、耳や目のみ転移させる事が可能ではある。しかし通常、昼間の太陽光程度の光は遮断されない。夜の闇に慣れた目には、昼間の如き光は例え一瞬であろうとやはり応えた。

アキトの上を飛び越え、その先の廊下になんとか着地をした男は、目を押さえて悶絶する。アキトが用いたのはコウガから貰った閃光弾で、閃光のみの仕様の物であった。


「シルバーナ様!今です!導術を!」

「ッ!、させないわよぉ!」


よく見えない状態で転移鎧の弱点である導術を使われるのを防ぐため、使われる前にアキトを殺そうと、声のする場所に向かい突撃する。しかし、その直線的な動きを読んだアキトに避けられる。


「こちらです!」

「なめるんじゃないわよぉ!」


頭に血が上り、男は剣を振り回す。


「ここです!」

「ぬあ!?」


アキトは袈裟掛けに斬りつけようとする前に懐に飛び込む。アキトは男の腕や体をすり抜けて男に肉薄、転移していない攻撃状態の剣の背に、先ほどエミリオから借り貰いし、召喚した剣を当てて勢いを付ける。


「がああああ!?」


男は異変に気づきはしたが、袈裟掛けに切った剣を止める事が出来ず、男は“自身の足”を切ってしまう。


転移鎧は、転移鎧に加えられた攻撃に対応する部分を他の場所に召喚することにより、攻撃をすり抜ける事が可能となる。これは、空間を歪めて他の場所と繋げる転移導術の応用技術である。

しかし、単に空間を歪めただけでは、加えられた攻撃も当然歪められた空間を通り抜け結局攻撃は当たる事となる。

しかし実際には、与えられた攻撃はすり抜ける。これは、転移可能対象とそうでない物との差を利用している。つまり、転移鎧は召喚導術使いの“所有物”であるため転移するが、それ以外の物体は“所有物では無い”ため転移しないのである。

ゆえに、アキトは“所有物”である鎧に、同じ“所有物”である男の剣を当てたのだ。これにより、男の足が転移された先に同じく剣も転移され、転移先で切ってしまったのである。


「あ、足がぁああああ!」


鎧があったため、足を切断こそしなかったが、鎧は変形していた。その鎧は、鎧としての本分は真っ当したが、精密な術式は破壊され、転移鎧としての強みは失われてしまった。


「はあああああ!」


アキトはコウガに貰った銃を召喚し、変形した部分に向けて撃ちまくる。


「ギヤガアアア!」


転移鎧は転移が出来ず、足に銃弾が突き刺さる。慌てて手で守ろうとするが、その手を銃弾はすり抜け肉に食い込む。余りの痛みに男は遂に失神し、次の瞬間消え去った。


「はあ、はあ、撤退、はあ、しましたか…。」


転移鎧を着込む者は、召喚術者と転移契約を結んでいる。よって、男の異変に気付いた召喚術者に召喚され、消え去ったと考えられた。この撤退方法があった為劣勢でも戦力が余り減らず、人族側も攻め切れなかったと伝えられる。


「申し訳ありませんアキト様…。」


肩で息をするアキトにシルバーナは頭を抑えて近寄り、謝る。


「何故、謝るのですか?」


アキトはよくわからず聞き返す。


「転移鎧を無効にすると言いながら、お役に立てませんでした。それどころか、アキト様にご迷惑を…。」


シルバーナは転移鎧の転移効果を無効化する術を持っていた。しかしタイミングを逃し、アキトに連れ回され、物陰に隠れて目を瞑るように言われその通りにし、呼ばれたと思って急ぎ頭を上げたら頭を机にぶつけて悶絶し、やっと出て来た時には戦闘は終わっていた。逸る気持ちが思い切り空回りした形であった。


「迷惑だなんて思っていませんよ。」


アキトはあっさりと否定する。


「シルバーナ様が来てくれたお陰で、奴が隙を作ってくれましたから。」


事実、シルバーナに気を取られていなければ、アキトは甲冑男に攫われ、シルバーナを召喚させられていた可能性も高かった。あの場所には導術使いが皆無で、アキトの転移導術も鎧の無効化には効果が無い。(同じ転移導術であり、干渉しにくい為である。)よって、あのままではアキト達に対抗策はほぼ皆無であったのだ。


「そういえばヤクモさんは?」


シルバーナが来なくても、強力な導術使いであるヤクモが来ていれば、あの男程度造作もなかったはずと、アキトは考えた。


「ええと、ヤクモ様は…。」


シルバーナは事情を話し、アキトは納得した。


(ヤクモさんの事は相手に伝わっていなかった筈ですが…。あの蛇型導族が捕まった際伝えたのでしょうかね?何にせよ、今回は見事にしてやられてしまいました。)


アキトは顔を心配そうに覗き込むシルバーナを見て微笑んだ。


「何にせよ。あなた様が無事で良かった。」

「あうう…。」


アキトの笑顔にシルバーナは顔を真っ赤に染め、俯く。


「…ですが、アキト様はやはり凄いです!導術無しであの転移鎧に勝つなんて!」


シルバーナは目を煌めかせてアキトを見るが、アキトはばつが悪そうに目を背ける。


「いや、あの勝利は、まぐれでしたし、まあ知識がありましたし…。」


アキトは歴史の授業でテストに出ないトリビアを良く話す為に不人気な先生の小話もしっかり聞いていた。転移鎧の弱点を自慢気に話す先生の顔が特徴的だったため、良く覚えている。また、自身が転移導術使いであるため鎧の原理についても気づいていた。

耳が使えるように閃光のみの弾を用いて目を眩ませ、シルバーナの導術という言葉をわざと発する事により敵を焦らせ、焦った敵の攻撃を利用して敵の鎧を攻撃し、転移不可となった部分を集中放火する。

我ながら綱渡りのような荒い作戦だったとアキトは嘆息する。


(特に剣に剣を当てて勢いを付ける部分、あれをもう一度やれと言われてもできる自信が有りません…。ですが、ルビィを危険な目に余り合わせずに済んで良かった。)


アキトはシルバーナの言葉に、一度は彼女の助けを借りて撃退しようと考えた。しかし、机の下に縮こまる彼女を見て、その気は失せてしまった。故に、アキトがシルバーナを呼んだ時、彼女が机に頭をぶつける姿にほっとしていた。彼女が何もせず隠れていれば、甲冑男に狙われる可能性は低いと考えたからである。


「さあ、あなた様を転送しますので、キツネさんに頼んで増援をお願いします。僕は部隊の人達を介抱して…。」


アキトがシルバーナにこれからの予定を話そうとした時、突然寮内のスピーカーからエミリオの声が響いた。


「聞こえているか?盗賊。」


アキトは嫌な予感がした。エミリオの声が聞こえると言うことは…。


「貴様の師のコウガは捕らえた。殺されたく無くば、姫様を連れて最上階に来い!今すぐだ!」


アキトは歯を食いしばった。コウガを倒す程の実力者ならば、アキトに敵うはずが無い。みすみすシルバーナを危険な目に遭わせるだけである。今から作戦を練るにしてもアキトにはもうカードも時間も無い。しかし、コウガを簡単に見捨てるには、アキトは優しすぎていた。


「くう、うう…。先生…すみません…、僕は…。」


アキトは目に涙を溜め、心が引き裂かれる様な痛みに耐える。今まさにアキトは、コウガを見捨てようとしていた。


「諦めてはなりません!」

「…シルバーナ様?」


アキトの理性がコウガを切り捨てようとした時、シルバーナの声に心が揺れた。


「私達で、コウガ様を助けに行きましょう!」

「しかし…、僕の力では…。」


アキトは食い下がる。いくら何でも無謀過ぎると理性は告げて、それでも先生を助けたいと心は願った。


「私の力、アキト様にお教えします。」


シルバーナは意を決してアキトに自身の特異な力を伝えた。それを聞いたアキトの顔は、驚愕を隠せなかった。


「本当ですか⁉︎凄いじゃないですか!これならエミリオに勝てるかもしれません!」

「え?アキト様は、何とも思わないのですか?」


シルバーナは不安そうにアキトに尋ねる。


「え?何とも思わないわけないじゃないですか。あなた様のお陰で、光が見えました。有難うございます。」

「ああ…ああ!アキト様ぁ!」


シルバーナは人目をはばからずアキトに抱き付く。アキトの体温や鼓動、匂いに包まれて恍惚とした表情を見せるシルバーナではあったが、すぐ理性を取り戻し、気を取り直してアキトに向かう。


「さあ!行きましょう!」

「…わかりました!ですがその前に…。」


アキトは逸るシルバーナを優しく抑えた。


「もし勝てないと思ったら、僕はあなた様を転送して自害します。あなた様は必ず生きて帰って下さい。」

「そんな!アキト様!」


アキトの非情な言葉にシルバーナは涙目になる。


「僕はその位の覚悟で挑みます。これは僕のわがままですからね。もちろんそうならない為の努力は最大限しますけどね。」

「アキト様…。わかりました。必ず勝ちましょう!」


シルバーナの強い瞳にアキトは勇気付けられた。


「はい、では行きましょうか。作戦なんですが…。」


アキトはシルバーナと共に、エミリオが待つ最上階へとしっかりとした足取りで登って行った。

しっかりと繋がれた彼らの手の中で、互いの思いが体温と共に交感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ