第26話
説明ばかりでテンポが悪いです…すみません。
アキト達を乗せた車は制限時間の五分前に寮に着いた。
寮の前には既に警官隊やマスコミが集まっており、アキト達の車が近付くと、連絡を受けていた警官が誘導する。
「では、手筈通りにお願いします。」
「えぇ、わかりました。シルバーナ様を頼みますよ。一応言っておきますが、もしもシルバーナ様が殺されたら、寮生や警官の犠牲を問わず暗殺者達を拘束し、一連の結果を全てアビス王国の強硬派の責任にします。二国間の感情は悪化するでしょうが、なんとか色々手を回して、戦争を回避させて見せますよ。」
「ええ、覚悟の上ですから。大変申し訳ありませんが、僕達が失敗した時は後始末を宜しくお願いします。」
アキトとコウガ、シルバーナが車から降りると、先ほど誘導していた警官が話かけて来た。
「お話はキツネ外務事務官殿より聞いております。急ぎこちらへどうぞ。」
その警官は寮の入り口近くまでアキト達を案内しつつ、状況を説明する。
「犯人達は寮の中に立てこもり、寮生を人質に取っています。警察が、導族貴族のフェルミ公爵殺害事件の捜査の為に生徒達を寮に待機させていた為、寮生のほとんどが捕らわれています。」
「事件を調査していた警察の方は?」
「『我々の敵は導族であり、敵の術を学ぶ学園の生徒はともかく、同朋であるあなた方は殺したく無い。無論、刃向かうならば容赦はしない。』と言われ解放されたらしいです。寮の管理人や監視員も同様の理由で解放されました。」
「では今寮内に居るのは寮生と犯人達だけですか?」
「部屋のカーテンは全て閉じられ、電気は殆ど消されて灯りは非常灯のみですので、中の様子は良くわかりませんが、おそらくはそうでしょう。」
犯人達はシルバーナの身柄を欲する理由として、彼女の命と引き換えにアビス王国外交官を帰国させ、二国間の国交を断絶させるのが目的であるとマスコミに声明を出していた。
この目的はフェルミ公爵殺害犯人の脅迫内容と似通っていたため、学園生徒が公爵を襲い殺害したという情報と合わさり、寮を襲ったのはその仲間を保護する目的もあるのでは、という憶測も出ていた。
(マスコミの情報はヨミ国内の導族の方々に伝わり、アビス王国に伝わります…。強硬派が発信すれば怪しまれるような情報も、全く関係ない第三者からも発信したとなれば、半信半疑の人達も信じやすくなります…。暗殺者達は上手いことマスコミを利用しますね…。)
敵ながらも、そのやり口にアキトは舌を巻く。
「とにかく今は、そんな事を考えるよりも、人質となった寮生の方々を助ける方法を考える方が重要です!」
アキトは、緊張のため余り関係ない事を考えていた自分の頭を叱咤し、目の前の問題に集中することにした。
キツネの部下が用意した熱源感知装置によると、寮生はある程度の人数が食堂に集められている他に、二階以上の部屋の生徒は自室に監禁されている状態らしく、各階を見回る動きをしている熱源は恐らく犯人達の物だろうとの事であった。
「もしもこちらが何か仕掛けたら、離れた仲間が近くの寮生を殺す形になっているのでしょう。」
人質が離れた所に分散されている為、一度に救出するのは難しく、犯人達を捕らえる方が簡単に思えた。しかし、犯人達も離れた位置に居るため、一度に全て捕らえるのはやはり難しく、細工をする時間も無い。
「………。」
アキトは今の状況に違和感を感じていた。しかし、それは憶測でしかなく、確証が無いため黙っていた。
「それとやはり、犯人達は寮の防犯システムの制御を奪っていました。監視カメラや導術検知機は奴らが利用していると見て間違い無いです。ただ、管理人の話では詳細な設定までは変更されなかったらしいです。」
寮の防犯システムは、全ての出入り口や廊下の随所に監視カメラや各種センサー、更に寮内全域の導術反応を検知する機械がある。それらが犯人達に利用されているため、迂闊に仕掛ける事ができない状態であった。
「そろそろ犯人の指定していた時間です。シルバーナ様、準備をお願いします。」
「……はい。」
警官の呼びかけに、シルバーナは緊張した面持ちで答える。
「シルバーナ様、必ずあなたを守り抜きます。」
「…はい、お願いします。アキト様。」
シルバーナはアキトの言葉に勇気付けられ、目に浮かんでいた恐怖の色が無くなった。
(本当にお強い方です。何としてもお守りします!)
シルバーナがコウガとアキトに守られながら寮に近付くと、玄関の中に銃を持った黒尽くめの男が居るのが見えた。
「そこで止まれ!それ以上近付けば、人質を殺す!何か怪しい動きをしたり俺に何かしてもだ!」
「わかった。これ以上は近付かないし何もしない!」
アキト達は立ち止まり、コウガが叫ぶ。
「アビス王国貴族を差し出せ!」
「私はここに居ます!」
「ならば…、そこの髪の長いお前!そいつを連れてこちらに来い!但し、妙な真似は決してするな!でかい男は元の場所に戻れ!」
黒尽くめの男の言葉にアキトはやはりなと納得する。
(暗殺者達は僕が召喚導術使いで、ルビィと転移契約を結んだ事を知っていますね…。)
アキトであれば、離れて居てもシルバーナを呼び寄せる事が可能である。つまり、シルバーナ一人が連れて行かれても、すぐ脱出させる事が可能である。逆に言えば、アキトを捕らえ、服従させればいつでもシルバーナを捕まえる事が可能となる。
彼らは、アキトとシルバーナが契約を結んだ事を知っているため、シルバーナと共にアキトの身柄も確保しようと考えたのだろうとアキトは踏んでいた。
(となると、彼らの中に精神を操る術を持つものがいる可能性がありますね…。単純に脅せば従うと考えていてくれれば楽なのですが…。)
アキトはそんな事を考えながらコウガに目配せし、シルバーナを庇うようにしながら男に近付く。
「そこで待て。決して動くなよ?」
そう言うと、男は金属探知機でアキトとシルバーナを調べた後、手錠を取り出しアキトを前手に填める。
(これは…。なるほど…。)
それは、寮に常備されている手錠であった。それは填めた者の導術を妨害する効果があり、素行の悪い学園生徒を拘束し、戒めるために使用する物であった。
これを填めている限り、アキトは召喚導術は使えない。アキトはコウガに目でそれを伝えた。
(これは…、寮に置いてある備品ですね…。)
この手錠は警察にも常備されており、密偵のいる暗殺者達ならば簡単に手に入る筈である。
(やはり、テロリストが警察の手錠を使うのは不自然だと思ったのでしょうね。)
シルバーナの手にも女子生徒用の小さな手錠がかけられた。
アキトを先頭にして、シルバーナ、男の順番で暗い廊下を歩く。途中でアキトは各階の見回りをする犯人を確認したが、皆アキトに顔を合わせないようにしていた。
男はアキトに、寮の男子棟の最上階の階段の横の部屋に行くように指示し、アキトはそれに従った。
「ようこそいらっしゃいました、シルバーナ様。」
部屋に入ると、若い男の声が聞こえた。エミリオの物であった。その部屋には他に拘束された一人の男子生徒と、それを見張る男、パソコンを弄る男がいた。
「よし、お前は外の見張りだ。異常に気づいたらすぐに知らせろ。もし敵が来たら人質を取り、盾にして逃げろ。決して捕まるな!」
「はっ!了解しました。」
アキト達を連れてきた男は部屋の外に出て、辺りの見回りに行った。
その男が出て行った後、シルバーナはエミリオを真っ直ぐに見つめ、毅然とした態度で言い放つ。
「さあ!私は言う通り来ました!人質を解放なさい!
あなたも誇り高き導族の一員である自負が少しでも有るならば、このような卑劣な真似を今すぐ止めなさい!」
「貴様ッ!エミリオ様に向かって卑劣だと!?」
「控えよ。私を思ってくれるのは嬉しいが、確かにシルバーナ様の言う通りなのだ。」
「…ですが!…わかりました…。」
エミリオの言葉に、生徒を見張っていた男は押し黙る。
シルバーナはその言葉に多少の希望を見出した。
「では…。寮生の方々を解放して下さるのですか?」
「ええ、我らとて無抵抗の人間を見境無く殺害するのは信義に反しますからね。ですが、それは我らが此処を無事脱出できてからの話です。勿論、何もして来なければ危害は加えませんが、もしも何かして来たなら…人質の安全は保証しかねます。」
エミリオの口調は淡々としてはいたが、そこには確かな自信があった。
「勿論、我らが脱出する際にはご同行願いますよ?後、お前も付いて来てもらおうか?」
エミリオは手錠をかけられたアキトに言い放ち、アキトは無言で頷く。
「やけに素直だな?もっと抵抗するものかと思っていたが…。何を企んでいる?」
「僕に今何ができると言うのですか?導術も封じられていますし、あなた方と違い戦う力も乏しいただの学生ですよ?此処で無駄な抵抗する必要も、それで勝利する可能性も無いだけです。」
「フッ!聞いていたよりも腑抜けであったか。つまらん。」
それだけ言うとエミリオはアキトに興味が無くなった様子になる。
すると、生徒を見張っていた男が、パソコンを操作する男に話かける。
「おい、ヘリコプターの到着はまだか?」
「もう少しだ。今こちらに向かっている。そろそろ外の警察に警告を出しておいた方が良い。」
「わかった。俺が出てこよう。導術の反応は?監視カメラに不審な奴は映ったか?」
「…皆無だ。不審な奴は居ないし、導術に関してはついさっき寮の入り口で反応があった後は音沙汰ない。どうやら奴ら、生徒の殺害を恐れて突入出来ないらしい。亜人のくせに一丁前に人の真似事してやがる。笑えるぜ。」
「ハッ!全くだな!」
エミリオの部下達は嘲笑した後、一人が警察への警告の為に部屋を出て行った。
(人族と導族とに得意分野の差はあれど、その命の価値は等しく同じのはずなのに…。こんな人達が誇り高き騎士なのですか?他者を嘲笑う事でしか保て無いような、そんなくだらない誇りを持つ者など騎士ではありません!同じ導族として恥ずかしいです…。アキト様に合わせる顔がありません…。)
シルバーナはとても悔しそうな顔をしていたが、此処で問題を起こす訳に行かないため睨みつけるだけに留め、こらえていた。
「なんだその目は?俺達のやる事がそんなに気に入らないか?」
パソコンを操作していた男は、そんな彼女を見て気に障ったらしく、突っかかって来る。
「…当たり前です!自分達が恥ずべき事をしていると、あなた方の隊長も仰っていたでしょう?」
シルバーナはエミリオの言葉を利用して逃げようとする。
すると、その男は気味悪い笑みを浮かべて言い放つ。
「ハッハッハ!気丈な貴族様だ。だがいつまでその精神が保つかな?」
「…どういう意味です?」
シルバーナは内心予想がついていたが、問い返した。
「お前は、これから恥辱にまみれ、苦しみ喘ぎながら悲劇的に死ぬのだ。そこに転がっている野蛮な亜人の“炎導術使い”のテロリストによって、メチャクチャに犯され殺される。
その様子はカメラに克明に記録され、アビス王国の至る所で流される。そして国民はお前の苦しむ姿に心痛め、ヨミ国を恨むであろう。
だが安心したまえ、その卑劣なテロリストは我ら純血導盟騎士団が見事捕らえ、民の前で処刑する。そしてその暁には、憎きヨミ国の亜人共を根こそぎ滅ぼして見せよう!」
(なかなかに卑劣ですね…)
アキトは冷静な振りをしながら、今すぐ怒り猛りたい心を抑えつける。
エミリオ達は、生徒を人質に取りながら、その生徒に濡れ衣を着せ、犯罪を強要して最後には処刑する。そしてヨミ国を攻撃する旗にするつもりなのだ。
炎導術を使う生徒を選んだのも、フェルミ公爵殺害犯に仕立てあげるため。炎導術さえ使えれば誰でも良かったのだ。
(生徒を誘拐して囮とする事でこちらの戦力を削ぎ、加えて生徒を人質に取る事でルビィや僕を捕え、更にその人質を囮に使った人の代わりに一連の事件の犯人に仕立てあげる。全く持って、此方は奴らの掌の上で踊らされた訳ですね…。)
アキトは巧妙に感情を隠す。しかし、知らず知らず奥歯を噛み締めている事に、当の本人は気付かなかった。
シルバーナはそんな卑劣な言葉を浴びせられても、堂々としていた。
(私一人では、恐らく耐えられず泣き崩れていたでしょう。ですが…)
彼女の手も唇も震えず、足もしっかり立っていた。
(今の私には、学園長様やコウガ様、ヤクモ様にキツネ様、それに…アキト様がいます。)
シルバーナは少しだけ目を閉じる。アキトの笑顔が見える。鼓動が聞こえる。体温を感じる。
体には力が溢れ、心には暖かい物が溢れ、嬉しくてつい鼓動が速くなる。
(私は皆様を…アキト様を信じます!)
シルバーナの目は真っ直ぐに目の前の男の目を見据え、怯むことは無かった。
「ククッ!良い目をするな。最高だ。これからこの目がどんな絶望を映すのか楽しみだ。」
男は顔を隠す目だし帽の上からでもわかる位に下卑た笑みを浮かべる。
「良し!ならば今から予行演習だ。可愛い叫び声を聞かせてくれよ?」
男は徐にシルバーナに近付くと、その上着を掴み、下着ごと引き裂いた。
シルバーナの服は無惨に千切れ、下から透き通るような柔肌が露わとなる。
体付きは華奢であるが、腰は少しくびれ、胸には女性を確かに感じる2つの膨らみが慎ましいながらも自己主張している。
今はまだ蕾なれど、時が来れば間違いなく美しい花を咲かせるだろう事は確かであった。
「なっ!」
さしものアキトも思わず声が漏れ、急ぎシルバーナをその身で隠そうとする。しかし、その前に大きく威厳ある声が辺りに響き、アキトの体が止まる。
「控えよ下郎!心卑しき哀れな者よ!貴様らがどんな卑劣な真似をしようと私は屈しない!体は汚せても、心は汚せない!
私は誇り高き導族の末席に名を連ねる者、アビス王国貴族シルバーナ・フェルミである。私の誇りは、貴様らの下らぬ誇りとは格が違うと心得よ!」
その堂々とした振る舞いは、アキトのみならずエミリオ達をも畏れさせるに足るものであった。
「クッ!こいつ…。」
「そこまでだ、ゴーラ。」
「エミリオ様!ですが…。」
「それ以上の狼藉は騎士の価値が下がる。我らの騎士団の旗に泥を塗るつもりか?そこから先は亜人のような野蛮人の仕事だ。誇り高き我らはそのような蛮行をすべきでは無い。」
「…了解しました。」
アキトがシルバーナを隠そうと近付くが、エミリオの方が一歩早く彼女に近づき、部屋のシーツで体を隠す。
「私の部下が大変なご無礼を致しました。どうかお許し下さい、姫様。」
そういうとエミリオはシルバーナに臣下の礼をとり、ゴーラやアキト、シルバーナはその姿に驚く。
「あなた様は誠に、素晴らしく気高い心に、花も恥じらう美貌をお持ちだ。正に私が仕えるべき姫に足るお方だ。もしよろしければ、あなた様の騎士に私めを拝命して頂きたい。もし騎士にして頂ければ、あなた様に危害は加えません。」
「エミリオ様!?」
「…あなたを私の騎士に任ずれば、戦争を始めるのを止めて頂けますか?」
ゴーラはエミリオの言葉に更に驚き、シルバーナは冷静に交渉する。
「それは出来ません。これは私の騎士団の存続の為なのです。もしあなた様に騎士に任じられても、肝心な騎士団が無くなっては示しがつきませんから。」
くだらない、アキトは心底思った。エミリオはシルバーナを見ていない。自分の理想の姫像を彼女に重ね、その騎士となる理想の自分に酔っているだけだ。だから体面を気にするのだと。
理想の姫に仕え、栄光ある騎士団を率い、戦場で華々しく活躍して戦功を挙げ、王国の人々から喝采を浴びる。そんな理想の自分になる為に、この男は周りの全てを利用している。
そうアキトが思った途端、アキトの視線の温度が下がる。心底この男に興味が無かった。ただ、お陰でシルバーナをいかに守るか、それだけに意識を集中する事が出来た。
「ならば、私はその話を拒否します。」
シルバーナは淡々と言い放つ。すると、エミリオはその反応は予想通りと言ったように肩を竦める。
「フッ、やはりですか…。わかってはいましたが、残念です。しかしまあ良いでしょう。物語は幸せな結末ばかりでは有りません。
敵に攫われ非業な死を遂げた美しい姫の無念を晴らすため、悲痛なる思いを秘めながらも大義の為に闘う…、そんな騎士物語もまた美しい…。」
エミリオは自らが悲劇の主人公となる姿を妄想し、悦に浸る。
(…そんな事の為に…、なんてくだらない!)
シルバーナは心から彼らを恥じた。そして、この様な無様な姿を見たアキトが他の導族まで嫌いになってしまうのではと心配し、少しだけアキトの顔を見る。
しかしそこにあったのは、純粋にただシルバーナを心配するアキトの顔であった。エミリオ達を憎み、導族を見下す様な素振りは一切無く、ただひたすら彼女の事を思う姿がそこにあった。
そんなアキトの姿を見て、アキトの心を少しでも疑ってしまい、自分が嫌われるかもと心配してしまった自らの心を深く、深く恥じた。
(私は…、なんと浅ましく卑しい者なのでしょう…。アキト様を疑いました、勝手にも自分がどう思われるか心配してしまいました…。私は自分が恥ずかしい!)
シルバーナは恥と後ろめたさの為、アキトの方を見れなかった。
また、アキトが自分の裸を見ていたかも知れない事に今更ながらに気付き、エミリオ達に見られても何も感じなかった心が、今は火を噴く位に熱くなっていた。顔は赤く染まり、体は少し縮こまり、さっきまでの威風堂々たる姿から、恥じらう乙女へと変貌していた。
そして、ほんの少しだけ、本当に少しだけではあるが、その事にシルバーナは興奮してしまった。はしたない自分に気付き、更に深く己を恥じた。
シルバーナを見ていたエミリオは、そんな彼女の変化を目敏く見つけ、察する。
「…なるほど、あなたには既に騎士がいましたか…。それがあんな不甲斐ない亜人だとは、比べられる私は非常に遺憾です。可哀相に、きっとあなたはあの盗賊に騙されているのですね…。ですがご安心を、この騎士エミリオ、見事決闘にて奴の化けの皮を剥いで見せましょう!」
「ッ!お、お止め下さい!アキト様は騎士ではありません!決闘などなさらないで下さい!」
エミリオはアキトを睨み付け宣言し、シルバーナはアキトを危険な目に遭わせたく無くて懇願する。
「おい貴様、私と決闘だ!私も導術は使わず、貴様に武器も渡してやろう!剣ならば手錠されていても使えるであろう!貴様も姫の騎士を自負するならば、まさか拒否するなど無いだろうな?
安心するが良い。もしもみっともなく命乞いをし、自らが盗賊であると自白するならば、命までは取らぬ。盗みが二度と出来ぬ様に両手を使えなくする程度で勘弁してやろう。」
しかしエミリオはそんな懇願を歯牙にもかけず、ゴーラに彼女を抑え、邪魔しない様に見張っておくように指示をする。
(相当頭に血が上っているみたいですね。僕を殺せば、僕を連れてきた意味が無くなるのに…。
まあ、此処まで来れば目的達成まで後少し、僕を殺した所で余り変わり無いのでしょうね。単に僕が命乞いすると決め付けているだけなのかも知れませんが。)
アキトは少しシルバーナの方を向いて逡巡した後、エミリオを見て喋る。
「…ええ、構いませんよ?ただ、その前に質問はよろしいでしょうか?」
アキトは無表情のまま許可を求めた。エミリオは少し苛つく素振りを見せたが、すぐに余裕の表情を見せた。
「フッ!下らぬ時間稼ぎだ。そんなに自らの化けの皮が剥がれるのが嫌か?この卑しい盗賊め!
だがまあ良いだろう。貴様はここで死ぬかも知れないのだからな。」
「ご配慮感謝します。」
エミリオの許可を得たアキトは、気になっていた事を聞く。
「あなた方は、最初から学園を利用するつもりだったのですか?」
「…いや、そんな事は無い。」
「ならば何故、学園の事務室に密偵を忍ばせたのですか?」
シルバーナ達を襲うために、入国管理局や警察に密偵を忍ばせるのはわかる。しかし、学園の事務室に密偵を忍ばせる必要性は感じられない。
「まあ、一つの保険と言う奴だ。」
「…フェルミ公爵を、誤って導術で殺してしまった時のため、そして情報収集のためですか。」
導術で殺してしまった場合、犯人をヨミ人にするためには、その人物は導術使いのヨミ人である必要が出てくる。
そして、フェルミ公爵は導術を使わない攻撃には守りが固いため、銃により殺すためには導術で弱らせる必要が出てくる。その加減を誤れば、殺害してしまう可能性は充分にある。
そして、犯人として導術を使えるヨミ人を用意する際、力も強く無く、候補となる者の人数も多い学園の生徒が標的になるのは想像に難くない。
そして、学園の生徒の能力や住居などの情報を得るには、事務室に密偵を潜ませる事が最適に思えた。
加えて、導族関係の情報は警察、民間を問わず、学園に良く寄せられる。学園に専門家が居るためである。
シルバーナ達が逃げ出したとしても、その関連の情報が来る可能性が高いため、情報の窓口である電話に盗聴器を仕掛ける事も理に叶っていた。
「フッ!だがそのお陰でお前達の情報まで手に入れる事が出来たがな。先見の明があるとは思わないか?」
「ええ、そうですね。」
偶然だろうとアキトは思ったが、そんな事はお首にも出さない。
得意になっているのだから、なるべく情報と時間を稼ごうとアキトは考える。
「あなたは、シルバーナ様がこの場に来ない可能性は考えなかったのですか?」
「それは無論考えた。だがあのコウガ殿が生徒を見殺しにするとは考え難いし、もし来なかったとしても、テロリストの“仲間”を確保する必要があったからな。シルバーナ様を殺せなくても、それだけあれば戦争は引き起こせる。」
「シルバーナ様を狙う必要は…なかったのですか。」
「無論、シルバーナ様を悲劇的に殺せば、更に簡単に確実に起こす事が可能であるがな。」
アキトは、キツネの言葉に従わなくて良かったと安堵する。
「もうそろそろ良いであろう?迎えのヘリコプターが来てしまったぞ?」
外からけたたましいプロペラ音が聞こえてきた。エミリオ達の仲間のヘリだろう。寮の屋上に止まった模様である。
「ええ、そうですね。」
時間は充分稼げたな、そうアキトは感じて話を切り上げる事にした。
アキトとエミリオは部屋を出て廊下にでる。ゴーラはシルバーナを連れて立会人として決闘を見守る。部屋の中には人質となった青年のみが残された。
「そら、貴様用の剣だ。」
エミリオが少し離れたアキトに剣を投げる。アキトは手錠をしたままでその剣を持つ。だが持ち慣れない上、手錠をしたままなので構えは不格好である。エミリオはそんなアキトを見て嘲笑する。
「フッ!騎士らしからぬ姿だな。剣もまともに持てぬとは無様極まりない。」
エミリオの嘲笑にゴーラも笑うが、アキトは平然としている。
「そう言えば気になったのですが…。」
部屋の扉がしまったのを確認して、アキトは問い掛ける。
「…ヘリコプターが来て撤退する時間になっているのに、見回っている仲間などが全然集まりませんね。」
「フハッ、貴様も騙されたか!見回りさせているのは寮生達だ!監視カメラで見ていて、逃げたり不審な動きをすれば友を殺すと脅してな!捕まるかも知れない位置に仲間を配置などさせると思うか?まんまと騙されたなこの愚か者めが!」
最初から見張りなど居なかったと、エミリオはアキトを嘲笑しながら暴露した。この事件はあくまでもヨミ人テロリストが犯人である必要があるため、導族の仲間が捕まり犯人であると明らかになる事が何よりも避けるべき事態であった。
「いえ、それはわかっていました。僕が言いたいのは、ついさっき辺りの見回りに行った仲間と、警告に出て行った仲間の事ですよ。」
「…なんだと?」
エミリオは携帯で部下と連絡を取ろうとしてみたが、返事はなかった。
更に、外に何かが大量に一斉に落ちるような音が聞こえた。
「ま…まさか…。」
エミリオの脳裏に甲冑の姿が浮かぶ。
「き…貴様ァ!何をしたァ!」
檄昂したエミリオはアキトの胸倉を掴み睨みつける。アキトはエミリオを無視してシルバーナを向いて微笑み、シルバーナは頷いた。そして改めてエミリオを無表情に見つめ、淡々とした口調で喋り出す。
「それとあと一つだけ、僕は何も“今すぐ”あなたと決闘するなんて、一言も言っていませんよ?」
「な…何を…?」
エミリオはアキトの言っている事の意味がわからず、聞き返そうとして、出来なかった。
「何ィ!?どういう事だ!」
なぜなら、アキトと、加えてシルバーナは、忽然と姿を消してしまったから。




