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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
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第25話

「さて、あの犬は今頃どうしているでしょうかねぇ。」


アキトの怯えた顔を見て、『少しやりすぎた』と感じたキツネは、話題を変える為に学園長の話を切り出す。


「学園長に電話を掛けてみますか?」

「いえ、いいでしょう。何か有れば向こうから連絡が有るでしょうし。」


何も無いということは、未だ成果は得られず、生徒はまだ誘拐されたままという事になる。


「ですが、メールくらいは良いのでは?」

「まあ、そうですねぇ。せめて居場所くらいは知っておきたいですねぇ。併せてこちらの状況も伝えておきましょう。」


そういってキツネは自身の携帯を取り出し、学園長にメールを送った。すると、すぐに返信があった。


「ほう?早い返信ですねぇ。よほど暇なんでしょうねぇ。ンッフッフッフ。」


上機嫌に笑うキツネは、内容を見て眉を顰める。


「容疑者を発見し追跡中、ですか…。」

「良い知らせじゃありませんか。何故そのような顔を?」


コウガはキツネの顔を見て不審に思い、問い掛ける。


「ええ、良い知らせではあるのですか、場所が…。」


学園長達の車はソコネ県の県境まで進んでおり、すぐには戻って来れない所まで行っていた。


「この状態ではこちらに何かあってもすぐには駆け付ける事が…。」

「まさか!」


キツネの懸念にアキトが気付く。


「…囮…ですかね…」


コウガが難しい顔をして呟く。学園長は今、身内の実力者を引き連れて遠くに逃げた誘拐犯を追っている。つまり、こちらの戦力が分断されている状況である。


「もしも仕掛けるならば、今が絶好の機会ですね…。」


アキトが呟くと、急に屋敷の電話が鳴り響いた。


「逆探知機を用意します。」


ヤクモが直ぐに屋敷の倉庫から逆探知機を取り出し準備をし、コウガに電話に出るよう目配せする。キツネは部下に緊急の連絡を入れ、アキトは身構える。


「…もしもし、こちらは導力開発総合学園のオオカミ学園長の屋敷です。」

「ついさっきぶりだな。コウガ殿。」


それはエミリオの声であった。コウガはやはり、という顔をする。それを見てヤクモは逆探知しながら学園長に連絡を入れる。


「ああ、学園長達は返さない方が賢明だと思うぞ?あちらの車には確かに我々が誘拐した生徒が乗っているからな。」

「…そちらの言葉を信じるとでも?」

「信じて頂かなくても結構。その時は彼にフェルミ公爵殺害犯となってもらうだけだ。」


コウガは凄まじい形相で電話を睨みつける。その顔にシルバーナは怯え、アキトが宥める。


「…全く、騎士のやることとは到底思えませんね。」

「フッ、返す言葉も無いな。だが我々も引くことは出来ない。」

「そこまでして、騎士団を存続させたいのですか?」

「無論だ。それとコウガ殿、逆探知の為の時間稼ぎなら必要ない。今から我々のいる位置を教えるからな。」

「なんですって?」


コウガは嫌な予感がした。犯人が自分の場所を交渉相手に伝えると言うことは…。


「我々は今、学園の寮を占拠し、生徒を人質としている。生徒を殺されたくなければ、シルバーナ様を今すぐ連れて来い。半刻以内にだ。もしも連れて来るのが遅くなれば、生徒を一人ずつ殺して行く。何か細工をしようとしても殺す。以上だ。」


コウガが驚き何か言おうとする前に電話は切られた。


「先生…。」

「暗殺者達が寮生を人質にしました。」


その短い言葉で察したアキトは絶句する。コウガはアキトの顔を見る事ができなかった。コウガは生徒を大事にしている。そんな彼がこれから口にしようとする事は、アキトを裏切る事になるからだ。


「まさか、シルバーナ様を奴らに引き渡すつもりですかねぇ?」


そんなコウガを牽制する言葉は、意外にもキツネから放たれた。


「わかっていますよねぇ?シルバーナ様を素直に引き渡せば、彼らにシルバーナ様を殺され、アビス王国が報復攻撃する口実を与えますよ?

あなたの判断は、アキト君が必死で守った少女を殺し、多くのヨミ国民、アビス王国民を危険に晒すことになります。」


キツネは淡々と事実を述べ、コウガの心を抉る。


「しかし…。」

「幸いにも。」


何かを言いかけたコウガをキツネは自身の言葉で塗り潰す。


「彼らは、マスコミに対してヨミ国内の反導族派のテロリスト集団を名乗っています。つまり、ここで生徒達が殺されても、それは導族では無く人族の犯行になる。」

「貴様ァ!」


コウガは一瞬で移動してキツネを掴み、睨みつける。キツネは冷や汗をかきながらも真っ直ぐコウガを見返す。


ここで生徒達が殺されても、導族に対する反感は強くならず、むしろ反導族派への風当たりが強くなる。更に言えば、ここでヨミ国がシルバーナを守る事でアビス王国に貸しを作り、世論を穏健派に傾ける材料とすることも可能である。ヨミ国民による政府への批判は免れないだろうが、テロリストに屈しない姿勢をアピールし、全てテロリストの責任であるかのように報道すれば、ある程度は抑えられる。


キツネの言いたいことはそういう事だった。コウガもすぐ理解したが、生徒を利用する姿が、例え最善な方法であったとしても許せなかった。


「先生…。」


アキトはコウガの気持ちを痛い程理解した。

その気持ちは正に、アキトがシルバーナに対して抱いた物だった。

更にアキトは、短いながらも住んだあの寮に愛着がある。友達も出来た。彼らを見捨てるなんて出来なかった。

しかし同時に、シルバーナも決して死なせたく無いとも思っていた。

2つの心がぶつかりせめぎ合い、アキトを内側から裂こうとする。

アキトはその痛みに苦悶の表情を浮かべ、状況を打開できない自らの非力を呪った。


(僕は、弱い…。どちらかしか救えないのか…。僕にもっと力が有れば、どちらも救えるのだろうか…。)


不毛なたられば思考に捕らわれ、アキトは頭をかきむしる。


「私、行きます!」


そんな中、静寂と膠着を破る言葉が放たれた。


「シルバーナ様!?」

「本当に…!?」

「…………。」


シルバーナの決意に、アキトは驚き、コウガは困惑し、キツネは無表情になる。


「正気ですか?行けば、高確率で殺されますよ?それも恐らく、アビス王国民を焚き付ける為に凄惨で惨たらしく。なぶられる可能性もありますねぇ。

死後はその体はアビス王国民の前に晒され、アキト君の祖国を攻撃する旗印となるでしょうねぇ。

悪い事は言いません、お止しなさい。

大丈夫です、誰もあなたを責めませんよ。

それよりもこの場を生き残り、アキト君と共に生きたいとは思いませんか?」


キツネはシルバーナを脅し、甘い言葉で誘惑した。それはシルバーナの為のようで、そうではなかった。


「いいえ、キツネ様。」


シルバーナはそんなキツネの心の内を見透かしたかのような眼差しでキツネを見据えた。キツネの表情が曇る。


「私の名はシルバーナ・フェルミ。アビス王国貴族、バイドン・エル・フェルミが孫娘。誇り高き導族に名を連ねる身です!ここでヨミ国の方を犠牲にしてのうのうと生き残っては末代までの恥晒しです!私は逃げません!」

「誇りなど…、何になるというのです!誇りじゃ人の命は買えない!ちっぽけなプライドの為に、平和を、民を、犠牲にするおつもりですかぁ!」


キツネは怒りに震え、目を見開き睨みつけていた。常に張り付いていた胡散臭い笑顔は剥がれ落ち、むき出しの彼がそこにいた。


「勿論、私は死ぬつもりはありません。寮生の方々を助け出し、戦争も回避します。」


シルバーナは少しも怯まずキツネを見返した。その姿は気品に溢れ、アキトはとても美しいと感じた。


「そんな事が、本当に可能だと?」


怪訝な顔でキツネがシルバーナを見つめる。


「私一人では無理でしょう。」

「…ならば!」

「ですが此処にはアキト様がいます。コウガ様もいます。ヤクモ様もいます。皆さんで協力しあえば、きっと可能です。丁度先ほど、キツネ様が仰り、皆で実現したように。」

「…………。」


理想論だ、とキツネは反発したかった。それはアキトも少し感じていた。

しかし、なぜか、シルバーナが言うと出来るのではないかと錯覚を覚える。

キツネは自分の中のよくわからない気持ちに揺れていた。


「だから…、どうか力をお貸し下さいキツネ様。私には、あなた様の力も必要なのです…。」


シルバーナの瞳に見据えられ、キツネは彼女に誰かを重ね、小さく呟く。


「…リイン姉さん…。」


それはヤクモ以外には聞き取れない程小さな呟きだった。


「はぁ…。私も焼きが回りましたかねぇ…。」

「…それでは!」

「ええ、このキツネ・イズナ、全力を以てあなた様を支援致しましょう。」


アキトは驚いた。あんなにも胡散臭かったキツネの笑顔が、今はとても自然に思えたからだ。


「シルバーナ様…。ありがとうございます!」


大きな声が居間に響いた。それはコウガが土下座しながら感謝する声であった。


「感謝して頂くのはまだ早いですよ。コウガ様。ですが、必ず寮生の方々を守りましょう。」

「…はい!」


そして最後にシルバーナは、アキトの方を向いて頭を下げた。


「すみません!アキト様。私、また無茶をします!」


それは自らの身を真に心配してくれるアキトへの謝罪であった。


「…大丈夫ですよ、シルバーナ様。」


アキトは頭を下げたシルバーナに近寄り、しっかりと抱き締めた。


「あ…。」


シルバーナは突然抱きしめられた事に驚いたが、抵抗すること無く、アキトの体に身を沈めた。

アキトの鼓動が聞こえる。体温を感じる。アキトの存在がシルバーナを安心させ、また鼓舞させた。


「シルバーナ様はシルバーナ様のしたい様になさって下さい…。僕はあなた様に付いていき、全力であなた様を守るだけです。勿論、コウガ先生やヤクモさん、キツネさんと協力して、ですけれど。」

「…はい…。」


アキトはシルバーナをゆっくりと引き離し、微笑んだ。

シルバーナはその顔がとても愛しくて、思わず触れたい欲求に駆られたが、理性で抑えた。


「さて、そうと決まれば急ぎましょう。時間がありません!」


キツネが部下に指示をしながら叫ぶ。


コウガは急ぎ車を手配しようとした所、屋敷の外でクラクションがなった。見渡せばいつの間にかヤクモが居なくなっていたのでもしやと思い、外に出てみると、車に乗ったヤクモがいた。


「お車の準備は出来ております。すぐにでも出発できますよ。ああそれと、警察の方に寮までの道を空けておくように頼んで置きましたので、結構早く着くと思います。」


キツネは笑って言った。


「流石ですねぇ。ヤクモさん。」


アキトは車に乗るとコウガに語りかけた。


「先生。」

「何ですか?アキト君。」

「絶対に、寮生の皆さんとシルバーナ様を守りましょう!」

「ええ、必ず!」


全員が乗ったことを確認し、ヤクモは車を発進させた。


「それで、作戦なんですが…。」


アキトは充電した携帯を召喚しつつ、コウガとシルバーナに語りかけた。

アキト達を乗せた車は法定速度を超えたスピードで夜道を駆け抜けて行った。

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