第24話
タネ明かし説明回です。ツッコミ所が多いと思います。
キツネの要望に答えて、アキトは何故シルバーナを召喚できたのかについて説明を始めた。
「キツネさんは僕に、『迎えに来る者達が敵と内通している可能性がある』と伝えてくれました。」
そもそも、キツネがこの屋敷に来た目的の1つは、その内通者炙り出しの為にシルバーナに協力を求める為であった。
「ええ、確かに伝えましたねぇ。」
「だから僕は、シラサギ達が来るとわかった時、シルバーナ様に『屋敷の中に入っていて下さい。あと、屋敷を出る前に必ずトイレに行って下さい』と伝えました。」
「ふむ、君がシルバーナ様に何か伝えていたのは知っていましたが、そんな内容だったのですねぇ。」
もしも誰かに聞かれていたとしても、普通の事を言っているだけに、詮索されても逃げる事が可能であろう。
「私は最初意味が良く分からなかったのですが、アキト様の言う事だから何かあると思いましたので、何も聞かずに従いました。」
「シルバーナ様が何も言わず従って下さったのは本当に助かりました。もし聞き返されてもしっかり説明している暇もありませんでしたからね。ありがとうございました。」
「いえ…、寧ろ、助けられたのは私の方…。」
アキトにお礼されたシルバーナは赤くなり、発した言葉は尻すぼみに小さくなって行った。
「ということは、トイレで何かした、ということですか?」
「ふふっ、アキト君も男の子ですからね。」
「ヤクモさん…、茶化さないで下さいよ。それに内容は知っているでしょう?」
「アキト君はつれないですね。それでは私が楽しくないじゃないですか。」
話が脱線しそうになったため、キツネが咳払いして話題を戻す。
「1つ確認ですが、あの導術探知機は壊れてなかったのですね?」
「ええ、その通りです。」
「となると、確実に一度は転移契約を解いたのですね?」
「はい。」
キツネが真っ先に疑ったのは、導術探知機が壊れていたもしくは壊した可能性であった。
それならば、転移契約を解いた振りをする事が可能であったからだ。
「では、アキト君はどこで転移契約を再契約したのですか?まさかとは思いますが、トイレの中とか?」
「はい、その通りです。」
「そ、そうですか…。」
まさかの予想が当たり、更にアキトが予想外に淡々としていたため、キツネは二重の意味で驚いた。
(普通はもう少し言うのが憚られると思うのですが、やはり感性がどこかズレている…?)
アキトとしては、シルバーナを助ける為に必死で、そんな些細な事はどうでも良いというスタンスであった。
「僕はまず、シルバーナ様との契約を解いた後、男性用トイレに入り鍵をかけました。そして、そこにある隠し扉を開いて女性用トイレに入りました。」
「…はい?」
余りにツッコミ所のありすぎる話に、思わずキツネは聞き直した。
「いやいや冗談でしょう?何故そんな所に隠し扉があるのですか?百歩譲って隠し扉があったとして、何故それが女性用トイレに繋がっているのですか?」
キツネは至極真っ当な、当たり前の質問をした。
「ええ、初めて知った時は僕もそう思いました。」
アキトの説明によると、数ヶ月程前に、ヤクモの“お茶目”により男性用トイレのトイレットペーパーが隠されたという事件があったという。
「いやいや、ヤクモさん何しているんですか?」
そして、それに気付かず学園長がトイレに入り、困った彼がトイレの壁を壊して、隣の女性用トイレのトイレットペーパーを使ったのだという。
「使用人が使用人なら、主人も主人ですねぇ!」
その後、壊れた壁を普通に修復するのも面白く無いという事で、隠し扉を作ろうという話になったという。
「何故そこでそんな発想になるのか、私にはわかりませんねぇ…」
隠し扉を付けると言い出したのは学園長で、彼は『だって、隠し扉って、男のロマンじゃね!?』と言って自慢するようにアキトに話したという。
「あの犬は子供ですか!今度から子犬って言ってやりましょうかねぇ!」
学園長の妻は既に他界しており、他には使用人のヤクモくらいしか屋敷に居ないため、女性用は完全にお客様専用となっており、普段使う際には全く問題は無いそうな。
また、隠し扉は精巧に作られており、学園長やヤクモ、コウガやアキトくらいにしか開けられないため、他の人間が悪用するのは難しいのだ。
「いえ、問題はそこじゃないと思うんですがねぇ…。それに何ですかその無駄に高いクオリティ。」
ということで、アキトはシルバーナと再契約するために、そのトイレを利用する事にした。シラサギ達がいくら用心深くても、少女の花摘みまで監視するのは憚られるだろうと考えたからだ。
「はぁ…、まあ、“色々”と良くわかりました。何か疲れましたねぇ…。」
ツッコミ疲れたキツネは、用意されたお茶を飲んで溜め息をついた。
「それで最初に僕は、紙とペンとテープを召喚して、『隣の壁が開いて、アキトが現れるので驚かないで下さい。』と書いた紙を、女性用トイレの戸の内側に付けました。」
「トイレに入って戸を閉めた時はびっくりして声が出そうになりました。」
「すみません、急に現れた方がびっくりするんじゃないかと思いましたので。」
「まあ、そうでしょうねぇ。」
その後、隠し扉を閉めたアキトは、録音機を召喚して、シルバーナが来るまで嗚咽を録音し続けた。そしてシルバーナが来た時にリピートにして嗚咽を再生したという。
「なるほど、細工の仕込み中にアキト君がトイレの中にいるという先入観を監視に抱かせ、また仕込み時の音を掻き消すのに使いましたか。」
「私はアキト様が泣いているお姿を思って泣きそうになりました…。」
「ありがとうございます。シルバーナ様。」
トイレに入ったシルバーナが張り紙に気付いただろうタイミングで、アキトは隠し扉を開き、急ぎシルバーナに再契約を行なった。
「花摘みの前後でシルバーナ様の雰囲気が変わったのはその為でしたか。アキト君の状態を見ての態度としては妙に思いました。」
ちなみに、ヤクモが事前に監視役の軍人を精神的に追い詰め、更にシルバーナの花摘みを外で監視していた時も絶えず苛め続けていたため、監視役がアキトの細工による違和感に気づく事は全くなかった。
「ヤクモさんは流石ですねぇ…。そこまで考えてましたか。」
「いえいえ、私はただ楽しんだだけですよ。ふふふっ。」
「…流石ですねぇ。」
更に言えば、妙にシラサギが饒舌で重要事項を簡単に喋ったのは、彼が飲んだお茶にヤクモが自白剤に近い物を仕込んでいたためである。この自白剤は、お酒を飲んだみたいに気を大きくして判断力を低下させ、喋るべき内容でないことまで喋らせる効果を持つ物である。厄介にも本人にその自覚が殆ど無い特徴を持つ。
「…やっぱり流石ですねぇ、ヤクモさん。…まさか、このお茶にも入れていたりとか?」
「ふふふっ、大丈夫ですよ。あなたを自白させると、色々知ってはいけない事を喋りそうですからね。」
「そうして貰うと大変助かりますねぇ。」
キツネは笑みを崩さなかったが、少し顔色が悪かった。
「それにあの薬は、身内や味方には学園長以外には使用するつもりはありませんから。」
「何故学園長だけ?」
「決まっていますよ。面白いからです。自分の失態や秘密について色々喋ってくれるので、弄る内容に事欠かないのですよ。ふふふっ。」
「何か、あの犬に同情してしまいますねぇ…。」
ヤクモの言葉を聞いて、キツネが珍しく学園長に同情する。
「後、コウガ先生が上手く導術探知機を回収して頂いたのも助かりました。あのタイミングで回収して頂けなければ、また探知機を使用されていた可能性も有りましたから。」
「アキト君がトイレに行ったあたりで見当がつきました。まあ、事前にヤクモさんがシラサギを疲れさせて頂いたかなければ、あんなに素直に返して貰えなかったかも知れませんがね。」
「正にあうんの呼吸ですねぇ。アキト君とミノリ殿の絆は素晴らしいですねぇ。」
キツネが大袈裟に誉める。
「いや、それ程では…。それよりもキツネさん、何故私の呼び方が『ミノリ殿』何でしょうか?私としては『コウガさん』と呼んで欲しいのですが…。」
コウガが照れ隠しのため話題を変える。
「いえ、なんとなくそう呼んでいただけなので、気に入りませんでしたか?」
「まあ、余り名字で呼ばれるのが好きで無いので…。」
「何を言っているのですか?ププッ、ミノリさんは自らの顔の怖さと名字の可愛さのギャップが面白いのに。ふふっ」
「ああもうヤクモさん!恥ずかしいから理由も話したくなかったのに!」
しかしヤクモに弄られ、更に恥ずかしい思いをしてしまった。
「さて、皆さんの活躍のおかげで犠牲を出さず、此処までの成果が出せました。本当に感謝しますよ。」
「いえ、殆どはキツネさんの仕込みのお陰ですよ。車全てに盗聴器つけるとか、返されたシラサギの部下を捕まえたり、別動部隊の位置を調べたり、僕らが協力しなくても大丈夫だったんじゃないですか?」
アキトは暗に、シルバーナを巻き込む必要はなかったのでは?と言っているようであった。
「いえいえ、シルバーナ様が協力しなければ確実な証言は得られなかったでしょうし、アキト君がいなければ簡単に脱出させる事は出来ませんでした。ヤクモさんのお陰で尋問も短時間で済みましたし、コウガさんのお陰で別動部隊を一気に制圧出来ました。私は確かに計画はしましたし、部下は優秀ですが、あなた方がいなければもっと苦労したでしょうねぇ。」
もちろん、もっと危険の少ない方法も考えていたが、実入りも少なくなるため、確実にシラサギ達を追い詰める材料が手に入らない可能性も高かった。
もし此処で彼らを追い詰める事が出来なければ、今後もまだシラサギ達がシルバーナの脅威となっていただろう。
「だから、この成果は皆さんのお陰なのです。それに、もしもアキト君が計画に乗ってくれなければ、そちらのお三方もここまで協力的にならなかったでしょうねぇ。だから、本当にアキト君には感謝しているのですよ。」
キツネは暗に皆を巻き込んだのはアキトの責任もあると伝えていた。
(わかっていますよ、そんな事は…。)
アキトも理解していた為、キツネを否定することはなかった。
「だから、訊きたかったのです。何故アキト君は、気に入らない私の意見を聞き入れて下さったのでしょうかねぇ?」
そう問い掛けるキツネの顔は、とても黒く見えた。アキトは、自らの嫌いな部分を彼の中に見たようで、とても不愉快な気分になる。
(ええ、そうです。僕は、彼と同じ汚い人間です。でも、ならば、だからこそ…。)
アキトはその嫌悪感を丸ごと飲み込んで自らの物とする。
「…シラサギと話してみてわかりました。彼は、シルバーナ様を護るためには絶対に排除しなければならない存在だと。」
アキトは強く手を握る。それは、シラサギへの敵愾心ではなく、シラサギを追いつめる為にシルバーナに危険な目に合わせた自分の判断と実力不足の不甲斐なさを恥じるがためであった。
「ただ、その為にシルバーナ様を危険に晒し、痛い思いをさせてしまいました…。」
「アキト様…。私は気にしておりません…。どうか御自分を責めないで下さい…。」
「シルバーナ様…。僕は大丈夫ですよ。だからそんな顔をしないで下さい…。」
アキトは、優しく健気なシルバーナを見つめ、そして覚悟を決める。
「キツネさん、お願いがあります。」
「…何でしょう?」
それは、今までのアキトとは無縁であった気持ちを受け入れる覚悟であった。
「…潰して下さい、あの人達を。二度とシルバーナ様に危害を加えられないように…。その地位も富も権力も、シルバーナ様を排して利を得ようとするその心も!二度と起き上がれない位に完膚無きまでに叩き潰して下さい!!せめて、シルバーナ様がこれから安寧に暮らして行けるように…。」
アキトの声は自然と熱を帯び、ドス黒い心が持ち上がる感覚をアキトは覚えた。しかし、その途中から急速にその心は萎み、アキトの声も小さくなって行った。シルバーナの心配そうな顔を見たからである。見ると、コウガもヤクモも驚いて心配する顔をしていた。
ただ一人、キツネだけはとても愉快そうであった。
「ええ、ええ!よろしいでしょう!アキト君の願い、確かに聞き届けました!心配は要りませんよ?私が責任を持って、必ず彼らを潰して差し上げます!」
珍しく興奮した様子のキツネの顔に、アキトは自分の顔を見た気がした。
キャラがブレブレですみません。




