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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
23/132

第22話

暴力表現が含まれます。

「さて、これ以上時間をかけては、緊急会見の時間に間に合わなくなる。あなたを会場に連れて行くから準備をして貰いたい。」

「…わかりました。では着替えて参りますので。」


シルバーナはヨミ国入国時に暗殺者に襲われ、逃げ続けていたため着替えていなかった。元は質素ながらしっかりとした生地で出来た上等なワンピースだったのだろうが、山の中を逃げる際に木枝に引っ掛けたのだろうか、あちらこちらが解れ、また土が着いて汚れていた。


「こちらにお召し替えを用意させて頂きました。こちらの部屋でお着替え下さい。」

「うおう!」


先ほどまでお茶を下げていて居なかったヤクモが、いつの間にかシラサギの供のすぐ後ろにいた。

突然の出現に驚いたのか、供の一人が頓狂な声を上げる。


「ありがとうございます、ヤクモ様。シラサギ様、少々お時間を頂けますか?」

「構わないが、私の部下も同行する。」

「おやおや、あなたの部下はそういう趣味がお有りですか?」

「はえ?わ、私の体はまだ貧相で、み、魅力的ではありませんよ?そんなに私の着替えが見たいのですか?」

「いえいえシルバーナ様、あなたは充分魅力的ですよ。それに世の中には、そちらの方が寧ろ良い!という方も残念ながら居りますので。」

「失礼な!私の部下達は小児性愛者ではない!」


シラサギの言葉をきっかけに、ヤクモとシルバーナはくだらないやり取りをし、彼の感情を逆撫でた。彼女達なりの意趣返しであったのであろう。


「私の部下を同行させるのは、何かあった時の為の護衛だ!あの小僧が何か仕掛けるかもわからんからな!もしも部下をつけないとなれば、着替えは認められん。その格好のまま会見に出て貰う!」

「はあ…、全く、冗談の通じない御仁ですね。」

「何が冗談だ!ふざけるな!」

「何を仰いますか。冗談は心の清涼剤、常に笑顔を絶やさず、ストレスを溜め込まない、そんな健康的で充実した人生を謳歌するためには欠かせません!」

「…私にはわからん。それより部下を同行させて着替えるのか、それとも着替えないで行くのかはっきりしてくれ…。」


ヤクモとの不毛なやり取りに嫌気が差し、疲れた表情を見せるシラサギ。その表情を見て満足したのかヤクモは満面の笑みになる。


「気になるのでしたら、部下を同行させて構いません。ただし!シルバーナ様がお召し替えなされている間は、そこの野獣共の卑猥な視線から守るため、そのあられもないお姿は隠させて頂きます!」

「ああ…、それでいいから早くしてくれ…。」


シラサギは付き合いきれないと言った風に首を振り、ぞんざいに答える。


(ンッフッフッフ、ヤクモさんやりますねぇ。なかなか面白い物を見せて貰いました。)

(はあ…、ヤクモさんは通常運転ですね。流石としか言いようが有りません…。)


ヤクモの活き活きとした顔と、シラサギの辟易とした顔を見比べ、キツネを笑いを必死にこらえ、コウガは呆れていた。


「そ、それでは、着替えて参ります。」

「わかりました。それでは此方へ。」

「わ、私も行くぞ!」

「わかりました。あなたはロリコンですね。」

「私にそんな趣味は無い!」


ヤクモは、付いていくと申し出た部下一人とそんな会話を続けながら、シルバーナと別室へと向かう。シルバーナ達が別室に向かったのを確認したシラサギは、改めてコウガ達に向かう。


「それでは、あの娘の用意が出来次第、我々は出発する。念のため言っておくが、我々の後を追うなんて事は考えないことだ。そのせいで変に目立ち、暗殺者達に見付かるなんてたまらんからな。

特にそちらの教師殿は敵に面が割れている。そんな奴が着いて来れば、敵にあの娘の居場所を教えていると同意だ。」

「…私としては、私が居た方が抑止力となると思うのですが。」

「甘いな。この戦いは対等な戦いではない。狩る者と狩られる者の戦いだ。狩られる側はとにかく見つからない事が肝要。見つかればいつ襲撃されるかわからない恐怖に精神が殺されるのだ。

だから我々はとにかく、敵に見つからないように、情報を渡さないようにするために行動する。

貴様を同行させないのは、情報漏洩の可能性をなるべく減らすために重要だ。現に、貴様は襲撃された。これは貴様の情報管理がなっていない証拠だ。そんな男を同行させると思うか?」


シラサギの言葉にコウガは押し黙る。


「まあ、あの小僧が敵のスパイかも知れんから、襲撃は貴様の責任では無いのかも知れんがな。」

「…彼は、そんな事はしません!」

「フン!どうだかな。そういえば、あの小僧は何をしている?怪しい動きをしていないか?」


シラサギは部下に問い掛ける。すると一人の部下がインカムで連絡し、アキトを監視している仲間と連絡を取る。


「現在、男子トイレ前にて見張っているそうです。アラカミ・アキトはトイレに閉じこもり嗚咽を漏らしている様です。しばらくは出て来ないかと。」

「ハッ!泣くとは情けない、女々しい餓鬼だ。泣けば疑いが晴れるとでも?くだらん。引き続き監視を続ける様に伝えろ。」


しばらくすると、着替えを終えたシルバーナが別室より現れた。


「シラサギ様、お待たせ致しました。」


綺麗なドレスに身を包み、化粧をして身を整えた少女は、年相応の可愛らしさを持ちながらも、少しだけ大人の色香を放っていた。


「フッ、馬子にも衣装というやつか…。」

「それはいささか失礼な発言ですよシラサギ様。大丈夫ですよシルバーナ様、あなたが美しいのはそこのロリコンが保証します。」

「もう…勘弁して下さい…。」


シラサギは誰にも聞こえないように小さく呟いたつもりが、何故かヤクモに聞こえていて驚いた。

シルバーナに続いて現れたヤクモは心なしか肌に艶が出ており、対照的に付いて行ったシラサギの部下は大分疲れた様子であった。


「シラサギ情報官殿、私は、もう、駄目かも知れません…。任務遂行の邪魔になるかもしれないので、此処で私を任務から外して頂きませんか…?」

「な、何を急に言い出すのかね!?」


聞けば、あれからヤクモにずっと弄られ続け、言葉の暴力によりすっかり心が折られてしまったらしい。


「この程度で弱音を吐くとは情けない、女々しい御仁ですね。本当に男ですか?よくそのご様子で軍人になれましたね。シラサギ様、もっとしっかり教育しないと使い物になりませんよ?大体上に立つ者が…」

「わかった!わかったから!もういいから!」


ヤクモが標的をシラサギに変えそうになったので、シラサギは慌てて話を切る。


「そ、それでは我々はこれで失礼する。見送りは不要だ。この方を乗せた車を特定されたくない。」


複数台の車は、全て別々のコースを使って会場へと向かう。囮を複数用いて暗殺者達を攪乱するつもりらしい。


「シラサギ様。」

「何かね?」

「少々お花を摘みに行きたいのですが…。」

「ああ、構わない。おい、誰か付いて行け。」

「屋敷の事はご存知ないでしょう?私がご案内致します。護衛の方もどうぞ?」


シルバーナの言葉にシラサギが了承し、部下を付けようとした。しかし、ヤクモが案内役を務めるそうなので、部下達は皆一様に押し黙り、率先して動こうとする者はいなかった。


「おい、お前行け。」

「ええ!?そんなあ!」

「これが最後の任務だ。これが終わったらお前は帰って良い。」


シラサギは先ほどヤクモに付いて行き、精神的ダメージを受けた部下に命じた。彼を捨て駒として、他の部下へダメージを波及させない様にしたのだ。


「おやおや、この女々しい御仁は少女のお花摘みを覗く性犯罪者でしたか。人として終わっていますね。」

「はあ…、もう帰りたい…。」


疲れた様子の部下は、更に憔悴しきった顔で力無くヤクモに付いて行った。


「おい、餓鬼を見張っている部下に連絡だ。奴に目を付けられる前に退散させろ。」


シラサギは部下にそう命じ、疲れた様子で頭を抱えた。


「すみません、シラサギ殿。」

「今度は何かね…。」

「導術探査機をお返し願います。」

「ああ…、返してやれ…。」


もう話したくないと言った様子のシラサギは、コウガの催促におざなりに答えた。



しばらく後にシルバーナと部下が戻って来た。部下は完全に疲れ切った顔をしており、ヤクモは更に肌に張りが出ていた。シルバーナはすっきりとした顔をしていた。


「それでは、今度こそ行くぞ。それではな、邪魔した。」


するとすぐにヤクモは部下とシルバーナを伴い屋敷を出て行った。一分一秒も早くこんな所から出て行きたいという気持ちが彼らの横顔から滲み出ていた。

ヤクモの贄にされた哀れな部下はお役御免ということで先に帰らされた。

夜の闇に隠れて気付かれないようにシルバーナを乗せた車は、囮の車と共に出発し、ソコネ県警本部に向かって行った。

シラサギ達が出て行ったのを見計らい、コウガは男子トイレの前に立つ。


「さて、首尾はどうでしたか?アキト君。」

「何とか上手く行きました。ヤクモさんのお陰です。」


男子トイレの中からアキトが出て来たが、その目は腫れてはいなかった。


「ンッフッフッフ、では、我々も動き始めましょうかねぇ。」

「キツネさん、あなたはさっきこの件に関わらないって…。」

「ええ、この件に“私”は動きませんよ。私は情報を提供し、指図するだけで、実際に動くのは私の部下やあなた方ですからねぇ。」

「…本当にいい性格をしていますね。」


詭弁を弄するキツネに呆れるコウガ、アキトは2人の様子を見て幾分か緊張が和らいだ。


「ンッフッフッフ、さあ、狩りの時間です。シラサギ殿の言っていた事は合っていましたねぇ。

確かにこれは“狩る者”と“狩られる者”の戦いですよ。」

(ああ…、やっぱりこの人は信用しちゃいけませんね…。)


今までで一番黒い笑みを浮かべるキツネを見て、アキトは改めて彼を用心することにした。



シルバーナを乗せた車の中には運転手、助手席にシラサギ、後部座席にシルバーナを挟んで部下2人がいた。車の後ろはカーテンで閉められ外からは見えず、車は防音仕様で中の音が漏れない様になっていた。


「おい、盗聴器か発信器が付けられていないか確認しろ。」


シラサギが部下に命じると、部下は金属探知機を取り出し、シルバーナの体を調べる。すると、ドレスの襟に反応が有り、そこから小さな発信器が現れた。すぐに部下はそれを潰して車外へ捨てた。


「フン!やはりな、あの男のやりそうな事だ。だが、詰めが甘かったな。この俺がその程度の事、気付かないと思ったのか?俺がわざと探知機でしばらく調べなかった事で、油断したな。ざまあ見ろ。」


シラサギは忌々しそうに呟いたが、顔はにやけていた。キツネの悔しがる顔を思い浮かべて上機嫌になっている様であった。彼を出し抜いたことが余程嬉しかったらしい。


「さてと、これで我々に気付かれたことが奴らに伝わった訳だ。奴らが何か仕掛けてくる前に、こちらも仕事を終わらせてしまおう。」


発信器が潰されても、その直前までの位置は知られてしまっている。キツネの事だから必ず部下を出して追わせるはずだ、奴らが追い付くまで少し時間はあるだろうが、余裕は無かろう。そう考えたシラサギは、部下に命じてシルバーナを暴れないように取り押さえる。


「な、何をするのですか!!」

「うるさい黙れ!魔族のスパイめ!」

「なっ…!」


シルバーナは絶句する。

魔族とは、導族に対する蔑称である。『魔』という字の意味はアビス王国でも忌み嫌われる。そのため、『魔族』では無く『導族』という呼び名にした経緯がある。

その言葉を自分に浴びせられ、更に謂われの無いスパイ疑惑かけられ、ショックの余り体が震える。


「貴様は憎きアビス王国のスパイだ。そして貴様達は我々ヨミ国に対して戦争を仕掛けようとしている。」


そんなシルバーナを無視してシラサギは続ける。


「そこで我々防衛庁は、スパイを捕獲し証言を取り、それを以て内閣にアビス王国との戦争を進言する。『先にこちらから仕掛けなければ負けてしまう』と声高らかに宣言する。もはや戦争は避けられず、緊急時のため急遽特別防衛予算が組まれるだろう。我ら防衛庁の地位も上がり、我々を蔑ろにする奴らも減るはずだ。もう税金の無駄遣いだなんて言わせん!」


シラサギの言葉は少しずつ熱を帯び、顔は怒りのため赤くなる。


「始めから、私を利用するつもりでしたか…。」

「利用だなどと人聞きの悪い。魔族の小娘如きが人間様に刃向かうんじゃねえよ!」


シラサギはシルバーナを怒鳴りつけ、シルバーナは目に悔し涙を溜めて押し黙る。


「それでだ、貴様には証言をして貰いたい。我々は貴様ら魔族と違って心が広い。もし素直に従えば、痛い目に遭う事は無い。」

「私に、嘘の証言をしろと!?」

「嘘では無かろう。貴様達魔族はヨミ国と戦いたがっているではないか。」

「くっ…!確かにその様な方々も居ますが、私は違います!私は戦争など望んでいません!」


確かに導族の一部はヨミ国と戦争しようとしている。その事実を知る彼女はシラサギの言葉を真っ向から否定できなかった。


「フン!貴様らがしたいのは『戦争』ではなく『蹂躙』だろう?おい、やれ。」

「くっ!?きああああああ!?」


シラサギが部下に命じると、部下はスタンガンに似た物を取り出しシルバーナに押し付けた。

すると、気絶しない程度の電流が彼女の体内を暴れまわり、痛みのため思わずのけぞり叫ぶ。


「どうだ、白状する気になったか?」

「はあ…はあ…、だ、誰が…。」

「やれ。」

「ああああああああ!?」


シルバーナが痛みのためのた打ちまわり、それを部下が2人掛かりで抑えつける。彼女の端正な顔は、痛みと悔しさの涙と鼻水で汚れていた。


「まだ白状しないのか?吐けばスッキリするぞ。だが中身は出すなよ?防衛庁所有の車を魔族の吐しゃ物て汚したくないからな。」

「………。」

「おい。」

「わかりました!わかりましたから…。もう…止めて下さい。」

「フン!案外早く折れたな。所詮はガキということか。ならば、早速証言して貰おうか。と言っても、その状態では言葉を考えるのも酷だろう。喜べ、此処に我々が用意した紙がある、この紙に書いてある内容を読み上げろ。」


その紙には、まるでドラマの台本のような形で、導族が何を企んでいるのか、如何に人族を恨んでいるのかについての妄想が描いてあった。

一部事実のような部分もあったがほとんどは事実無根の酷いでっち上げであり、中には『大量殺戮用導力兵器を開発し、ヨミ国を狙っている』という文章もあった。

シルバーナは悔しそうに呻いたが、観念したのかゆっくりと読み上げ始めた。しかしその声は恐怖に震え、泣き声も折り混じりながらのものであった。


「ああ、待ちたまえ。今レコーダーを用意する。いいか、くれぐれも余計な事は喋るなよ?後、泣き声は止めろ、尋問で無理やり吐かせたと思われる。自白は強要であり無効だなんて抜かす奴らもいるからな。もっと不敵に傲慢に証言するんだ。」


シルバーナは悔しさに歯軋りをしながらも、大人しくシラサギに従った。


「良し、まあこんなものだろう。」


シルバーナの嘘の証言をレコーダーに収めて満足げなシラサギに、シルバーナは尋ねる。


「一体、誰の差し金ですか…?」


平時ならば怒鳴りつけるシラサギであるが、目的を達成できて気が大きくなったのか、饒舌に語り始める。


「我らの偉大な指導者である防衛庁副長官殿だ!ゆくゆくはこの国のトップとなるお方だ良く覚えておけ!平和ボケしているヨミ国民の腐った性根を叩き直し、やがてこの国を世界一の軍事大国に育てあげる!我らはその手足となり働き、やがて新生ヨミ国の大幹部になるのだ!クッハッハッハッハ!」


シラサギは高笑いする。シルバーナはそんな彼を憐れみの表情で見つめていた。


「可哀想な人…。」


シルバーナの呟きは、喜びに酔っていたシラサギに水を差した。


「なんだと?魔族のガキが。」

「可哀想だと言ったのです。自分達の出世の為に、他国と積極的に争い、自国の民に要らぬ被害を強いるその心が、とても醜くて可哀想だと、そう言ったのです!あなた方は国を守る軍人ではありません!盗賊です!平和を乱し利を得ようとする大罪人です!」

「貴っ様ぁあああ!言うに事欠いて盗賊だと、こんなに愛国心溢れる人間様に大罪人だと!せっかく無傷で治安最悪な刑務所にぶち込む程度に抑えてやろうと思っていたのに、今此処で殺してやろうか!」


シルバーナの言葉にシラサギは檄昂する。しかし、シルバーナは何食わぬ顔で続ける。


「そんな風に上から目線で他者を貶め、傲慢になるから…。」


シルバーナを抑える部下が拳銃を取り出し構える。


「…足元を掬われるのですよ。シラサギ様。」


シルバーナは薄く笑い、次の瞬間忽然と姿を消した。


この作品はフィクションです。登場する人物、団体の名前は現実に存在するものと一切関係ありません。

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