表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
22/132

第21話

キツネから話を聞いたアキトは改めてキツネを睨み付けた。


「やはりですか…。」

「ええ…、申し訳ありませんねぇ。しかし、これが一番の方法なのです。わかるでしょう?」


アキトは歯噛みをした。予想通りとは言え、シルバーナを危険に晒すことになるのは辛かった。

そこで、敢えて自分の手の内を晒すことにした。


「わかっています…。ですが、もしシルバーナ様が危なくなったら、転移ですぐに退避させますからね。」


アキトの発言に、キツネは少しだけ細い目を開いた。


「アキト君は召喚導術使いで、シルバーナ様と転移契約をしているのですか?」

「…はい、その通りです。」


アキトはキツネにこの事を伝える必要はなかったが、敢えて教える事にした。

危険になればすぐ転移させるという宣言をすることで、シルバーナを転移させた時の混乱を抑えること、危ない事をシルバーナにさせたらいつでも転移させるぞと釘を打つことを狙ったのである。

更に、手の内を明かす事でキツネに対して負債を負わないこと、一応協力者であるキツネの不興をなるべく買わないことなどを考えていた。


(なるほどこれは…、予想以上に使えますね。)


キツネは心の中でほくそ笑んだ。


キツネは最初アキトに興味を抱いておらず、偶々シルバーナを拾って一緒に保護された只の生徒だと思っていた。しかし、シルバーナのアキトへの想いを感じとり、シルバーナを“説得”するための材料として使えると考えを改めていた。


(転移召喚を用いれば、彼女を危険な場所に入れた所で脱出は容易。敵に悟られる可能性のある、護衛役を減らすことも可能。囮を最大限活かすことが出来ますねぇ。)


更に、アキトが召喚導術使いで、シルバーナと転移契約を結んでいることは、彼の計画の成功率を上げる事になると予想出来たため、アキトを重要人物として彼に認識させるに至った。

彼とて好き好んでシルバーナを危険な目に遭わせたい訳ではなく、シルバーナにもしもの事があれば困るのは彼も同じである。シルバーナが殺されればアビス王国との戦争は避けにくくなる。それは彼にとっても忌避すべき事態であった。

更に、将来的には優秀な自分の手駒となって貰う予定の少女をこんな所でみすみす死なせたくは無いとも考えていた。


故に、アキトがもしも事実を述べなければ、キツネはシルバーナに充分安全マージンを採らせた計画を提示する予定であった。皮肉にも、シルバーナを危険に晒したくないといったアキトの想いから出た言葉が、シルバーナが更なる危険を冒すような計画に修正するきっかけとなってしまったのである。


そのような事を考えていたキツネの笑顔は更なる陰を帯び、アキトは恐れを感じていた。


(何を考えていたとしても、ルビィは絶対に守ります!)


アキトの威嚇するかの様な眼差しに、キツネは自分が予想していた以上に警戒されている事を察する。


「余り警戒しないで下さいよ。私は君と“仲良く”なりたいのですから。これから協力してシルバーナ様をお守りするのに、君がその様子では上手く連携がとれませんよ?何処に密偵や暗殺者がいるのかわからないのに、その上私達が仲間割れしていては、更にシルバーナ様を危険に晒してしまいます。君はそれを望むのですか?」

「いえ…、それは…。」

「ならばもう少し私を信用して下さい。私もシルバーナ様を守りたいと思っているのですから。」

「わかり…、ました…。」


アキトはこれ以上対立することは賢明でないと判断し、警戒を幾分か解いた。また余り意味は無くとも、シルバーナは自分の後ろに隠すようにしていた。


「まあまあキツネさん、その位にして下さい。アキト君も構え過ぎですよ。確かにキツネさんは怪しい人ですが、悪い人ではありませんから。もしもアキト君やシルバーナ様にとって余りに危険なことを押し付けようとしてきたなら、先生が彼に指導をして、あなた達を必ず守りますから。」

「さらりと毒を吐きますねぇミノリさん。大丈夫ですよ、アキト君達に無茶なお願いはしません。私も命が惜しいですからねぇ。あなたに指導されると、あの世に召された方が良いと嘆くこと請け合いですから。」

「まあまあ、そう遠慮なさらずに。私の方はいつでも準備万端ですので。」


コウガが2人の間に入り、キツネをアキトから引き離した後、アキトにウインクする。アキトは、コウガがキツネに釘を刺してくれたことや、自分から遠ざけてくれた事を察し、感謝を込めて目礼した。

丁度その時、隣の部屋の戸が開いて、伝統的な服から、動きやすい服に着替えた学園長が姿を現した。


「いよっし!準備完了!そんじゃなコウガ、アキト達は頼むぜぇ。狸、まだいたのか、目障りだからさっさと持ち場戻って悪巧みでもしてな!」

「ふぅ、相変わらずよく吠える犬ですね。全く躾がなってない。」

「んだと!狸が!」


学園長とキツネがまた口論を始めようとした時、戸の外から割と大きな声が聞こえた。


「大旦那様!出発の準備が整いました!」

「お、おう!待ってろ、今行く!」


ヤクモのよく通る声に少し驚き、毒気を抜かれた学園長は、キツネを一睨みした後部屋の戸を開け、そこに侍していたヤクモの横を通り過ぎて玄関に向かって歩いて行った。


「大旦那様がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」

「いえいえ、ヤクモさんも苦労なさっているんですねぇ。」

「それ程でもありませんよ。」


キツネがヤクモに喋り掛けると、ヤクモは何食わぬ顔で静かに答えた。





家の外にはコチヤが運転する車が止まっていた。


「お待たせしました、学園長。他の方々とは学園で落ち合う予定です。」

「おう!わかった。んじゃな!さっさと誘拐犯ぶちのめして戻って来るからよ!」

「学園長、くれぐれも気を付けて下さいよ。」


見送りに出ていたコウガは心配そうな顔をした。それを見た学園長は挑発的な笑みを見せた。


「ハッ!この俺がそう簡単にやられるとでも思っているのか?」

「いえ、学園長は心配していないです。私が心配しているのは、学園長が張り切り過ぎて、誘拐された生徒に間違って怪我させないかを心配しているのです。」

「お、おう。努力するぜ…。」


学園長とコウガが話ている横で、アキトはコチヤと話していた。先ほどの襲撃の際に迎えに来てくれた彼に、アキトは半ば確信しながらも確認のため尋ねる。


「コチヤ先生もやはり、元特殊部隊とかなのですか?」

「ええ、一応。もう引退して長いですから、コウガ先生のように戦えるか心配ですけども。」

「誘拐された生徒も心配ですが、先生達も心配です。余り無理なさらないで下さいね。」

「ええ、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう。」


短く会話を切り上げると、アキトとコウガは車から離れる。そして静かに車は走り出し、学園へ向かって行った。


しばらくアキト達はそれを見送っていたが、学園長達の乗った車と入れ違いになるようにして、複数台の黒い車が来るのに気付いた。


「おやおや、どうやらお迎えが来たようですねぇ。」


キツネが呟いた。その横顔は心なしか険しく見え、口元は笑いを堪えるように歪んでいた。その様子を見て、アキトはシルバーナに耳元で小さく囁き、屋敷の中に入らせた。


やがてその車の内の一台がアキト達の前に止まり、中からスーツ姿の男が現れた。


「おやおや、てっきり警視庁公安部の方がいらっしゃるかと思ったんですけれどねぇ。まさか防衛庁の方がいらっしゃるとは、ただ事ではありませんねぇ。そうでしょう?防衛庁情報捜査本部統合情報部所属シラサギ情報官殿。」


キツネがそう問い掛けると、シラサギはキツネを不快そうに睨み付けた。


「フン!外務省の腹黒狐が、こんな所で何をしている?」

「何をしているって、仕事以外無いじゃないですか。こちらの青年がアビス王国の貴族の方を保護したとの事で、その方を迎えに来たのですよ。そちらこそ何しに来たのです?」


今回の場合、貴族殺害の濡れ衣をヨミ国に着せる様な形の事件となるため、ヨミ国ではまず公安部が担当となる。


「もはやこれは戦争に至るやもしれん問題だ。こういう時にこそ防衛庁の出番であろう、公安部などに任せておけん。私はこの国の国防の為に此処に来たのだ。詳しい話は貴様にしてやる義理は無い。

貴様こそ引っ込んでいろ、外務省の犬め。黒い噂は聞き及んでいるぞ?今度は何を企んでいる?もし怪しい動きを見せたら私の権限で捕らえるからな!」

「黒い噂とは何のことですかな?身に覚えが全くありませんねぇ。心配しなくても、“私”は何もしませんよ、どうぞ御安心を。ただ、私が何もしない方が良いというのは何でしょう。何か不都合なことでもあるのでしょうかねぇ。後、“犬”呼ばわりは大変不愉快ですので取り消して下さい、直ちに。」

「フン!貴様は人を不快にさせる天才だな、外務省の腹黒“犬”め。もういい!これ以上貴様と無駄な会話をする気はない。早くその貴族とやらを連れて来たまえ。」


すると、アキト達の後ろに侍していたヤクモが声をあげた。


「まあまあ、シラサギ様。外でのお話も何ですし、屋敷の中へどうぞ。お茶も用意致しております。お連れの方々も遠慮無くお入り下さい。」

「チッ!まあここでの騒ぎは近所迷惑であろう。しょうがない、邪魔する。だが、怪しい動きをするなよ。貴族の娘を逃がそうなどと考えないことだな!」


そう吐き捨ててシラサギはお供を伴い屋敷の中に入って行く。


「ンッフッフッフ、わかりやすい方ですねぇ。」


その後ろ姿を見送って、口を開かず鼻から息を通すように笑いながら、キツネは小さく呟いた。




ヤクモはシラサギ達を大きな座卓のある広い居間へと通し、シラサギ達を座らせてお茶を出した。

シラサギの座る場所の反対側にはコウガが座り、アキトがその右、キツネが左にそれぞれ座る。

シラサギのお供は皆、シラサギの後ろに立っており、全員が銃を携帯していた。


「何故貴様が此処にいる?さっさと消えろと言ったのが聞こえなかったのか?」

「ヤクモさんに誘われたからに決まっているじゃないですか。先ほども言いましたが、私は口出ししませんよ。ですが、此処で話を聴く位は良いでしょう?それとも、何か疚しいことでもあるのですかねぇ?」


キツネが挑発すると、シラサギの供の一人が怒り出す。


「貴様!何だその口のきき方は!」

「良い、コイツには何を言っても無駄だ。」


それをシラサギは制し、キツネを無視してコウガの方を向く。


「単刀直入に言おう。そちらが保護したというアビス王国貴族を渡して貰いたい。」

「…シルバーナ様をどうなさるおつもりですか?」

「どうするも何も、警察本部へ連れて行くのだろう?それを私共に任せて貰いたい。」


シラサギの提案にコウガは眉を顰める。


「任せて貰いたい、と言いますが、それは私共に付いてくるな、と仰りたいのですか?」

「無論だ。この件はヨミ国にとって極めて重要な問題であるため、部外者にはこれ以上関わらないで貰いたい。」


アキトは座卓の下で、相手に見えないように強く拳を握るが、表情には出さない。


「部外者ではありませんよ。それに彼女を狙う者達は導術を使うアビス王国の騎士です。私は教師とはいえ導術使いの端くれです。連れて行けば何かお役に立てるかも知れませんよ?」

「何、我々とて国防を預かる身、それなりの実力を自負している。それに聞く限り、その騎士達は例の転移鎧を所持していなかったのだろう?あの鎧は目立つから奴らも持ち込めなかったのだろうな。例の鎧を持たない導術使いなど恐るるに足らん。」


シラサギのいう転移鎧とは、正式には「転移式物質透過装甲」と呼ばれる見た目が騎士鎧に似ているものである。


鎧の表面から内側を連続的転移召喚(転移先と常に空間的に繋げる一種のワープ)術式により、銃弾や爆風をすり抜けることが可能となる。

つまり、何か攻撃を受けたらその部分だけ別の場所に転移し、本体が無事となるように設計された鎧である。


人族は戦争の初めのころは、導族に対して非常に優位に立っていたとされる。

いくら導族が導術を使えたとしても、高度に扱えるレベルの人材はそう多く無く、導族同士の連携も多種族故に人族側と比べ拙いものであった。

加えて、導族の優秀な兵士でさえ、大量の人族による銃撃や爆撃などの遠距離からの飽和攻撃には苦戦を強いられたのだ。


そんな中、導族側に転移鎧を着た騎士団が現れた。彼ら疲弊したり戦況的に不利な時は一瞬で撤退し、銃撃をいくら受けても傷一つ負わず、剣や導術による攻撃を仕掛けてきたため、人族の軍隊は苦戦せざるをえなかったという。

この転移鎧の登場により戦況はやや人族側不利の状態で膠着状態に陥り、アビス王国で故デモロド王が当時の父王を誅殺して和平に踏み切るまで泥沼の戦争が続くこととなった。


「ですが、万が一という事も有りますので…。」


シラサギの言葉に尚もコウガが食い下がると、シラサギは苛つき始めた。


「貴様はあれか?我々が信用出来ないとでも?」

「いえ、そう言う訳では…。」

「ならばプロフェッショナルである我々を信じていれば良いのだ!これ以上口答えするならば、翻意有りとして貴様を捕らえねばならない。」

「そんな…。」

「御託は良いから早くその貴族を此処に連れてこい!」


出されたお茶を一気に飲み干し、シラサギは叫んだ。

コウガはアキトに目配せして、アキトはシルバーナを連れ出しに行こうとした。


「待ちたまえ。怪しい動きをされても困る。私の部下も連れて行ってもらおう。」

「…わかりました。」


感情の無い口調でアキトは答え、シラサギの部下一人と共にシルバーナを迎えに行った。しばらく後に、居間の戸が開き、アキトと共にシルバーナが現れ、シラサギに会釈して挨拶した後、アキトの隣に座る。


「はじめまして。私はアビス王国貴族、バイドン・エル・フェルミ公爵が孫娘、シルバーナ・フェルミと申します。お目にかかれて光栄です。」

「挨拶は結構だ。早速だがあなたをソコネ県警察本部に護送する。我々とご同行願おう。」

「…わかりました。ただ、私一人では不安なのです。ミノリ様も一緒に来て下されば嬉しいのですが…。」


シルバーナは、全く見ず知らずの人族のみに囲まれての移動は不安だと告げる。


「それには同意しかねる。あなたは暗殺者に狙われているのだ。ミノリ殿は教師、我々プロの軍人とは違う一般人だ。あなたはそんな人を事件に巻き込むおつもりか?巻き込んで何かあった時に責任はとれるのか?あなたはそんなに無責任で身勝手な方では無いはずだ。」

「わ…私は…そんなつもりでは…。」


シラサギの責めるような言葉にシルバーナはうろたえた。アキトは心で悔しく思いながらも、怪しまれないように無表情を貫く。だが、そっとシルバーナの肩に手を回し、彼女を優しく支えた。


「わかったなら、早速我々に付いて来て貰おう。っとその前に。」


シラサギは何かを思い出したかのような顔をした。


「あなたに何か導術がかけられていないか検査をさせて貰う。」


シラサギの言葉にアキト達は動揺する。そしてコウガが代表して質問した。


「何故その必要が…?」

「決まっている。敵に何か仕掛けられていないか調べるためだ。導術の中には相手の心を支配して、思うがままに操る術もあると聞く。もしも敵がこの方に何か暗示を仕掛け、公共の場所でヨミ国を挑発する言動をとるよう仕向けてみろ?大問題になるぞ。」

「しかし、その様な装置をお持ちなのですか?」


導術が掛かっているか探査する機械は開発されているが、まだ試作段階であり、実用性に不安があるため防衛庁は正式採用していない。

防衛庁の予算も年々削られており、実用性の低い装置を無理して所有する余裕が無いためだ。


「我々は所持していないが、学園にはあるだろう?」


といってシラサギは部下に指示すると、部下はその機械を持って来た。


「なっ!学園から持ち出して来たのですか!?」


コウガが絶句する。そもそもこの機械は学園で開発したものであり、試作段階ではあるが一応形となったものを学園に展示してあった。シラサギ達はそれを持って来たのである。


「無論、“許可”は取って持って来た。此処で使用したら直ぐにでもそちらに返そう。」


何食わぬ顔でシラサギは答える。コウガは苦い顔をした。


「では早速調べさせて貰おう。」


するとシラサギの部下達がシルバーナの体に、装置のパラボラアンテナ状の部分を向けてスイッチを入れた。様々な数値を装置に入力していくと、ある数値を入力した際に反応があった。それは転移召喚導術であった。


「やはり何か仕掛けられていたか。これは何だろうな?術者は…。」


この機械は導術追跡機の機能も備えており、アキトに反応有りと機械は伝えていた。シラサギは薄い笑みを浮かべてアキトに言った。


「君かね?この術をかけた術者は。すぐに解きたまえ。」

「何故ですか?私はシルバーナ様の味方ですよ?この術はシルバーナ様に暗示をかける類の物ではありませんし、いざとなればシルバーナ様を安全な場所に転移できます。今解く必要性を感じません。」


アキトが動じない体で素っ気なく答えると、シラサギは凶悪な笑みを浮かべた。


「ほほう?我々に刃向かう気かね?」

「そのつもりはありません。僕はただ、シルバーナ様の身を案じているだけです。」

「案じている、ねえ。会ったばかりの奴をそこまで心配するとはな。益々怪しい。」

「…何が怪しいのですか?」

「単刀直入に言おう。お前にはスパイの疑いが掛かっている。」

「なっ!」


シラサギの言葉に、我慢して無表情を貫いていたアキトも明確に狼狽える。シラサギは鬼の顔を取ったかの様な自慢気な表情になる。


「驚くとは図星かな?考えてもみたまえ、お前達は学園の寮からこの屋敷までの間に、狙ったかのように襲撃を受けた。これは内通者がいなければ出来ない事だ。その内通者がお前ならば話は繋がる。更に、もしもこの方が逃げ出したとしても、転移契約が有ればすぐ呼び戻せるからな。」

「アキト様はそのような事はなさいません!それに、転移契約は私が望んで行ったことです。」


シラサギの発言に憤ったのは、アキトではなく、寧ろシルバーナの方であった。


「ならば、我々を信じて転移契約を解く事が出来るはずだ。今すぐ解くならば、疑惑は一先ず保留としよう。もし解かないならば…。」


そこでシラサギは言葉を切り、アキトとシルバーナを各々一瞥した後、強調するようにわざと小さめな声で2人の耳元に語りかけた。


「アラカミ・アキトをスパイ容疑で拘束し、尋問しなければならない。」


アキトとシルバーナは戦慄し、コウガはシラサギを睨み付けていた。


(わざわざ導術を探査する機械まで持ち出して来たと言うことは、始めからアキト君の事を知っていなければ余りに不自然です。学園長はキツネ殿を毛嫌いして私にしかその内容を伝えていませんし、だとすれば学園の電話に盗聴器が仕掛けられていましたか…!何にせよ、この人達いえこの人は、恐らく奴らと繋がっていますね。)


一方キツネは、飄々とした雰囲気は崩さずに、細い目をシラサギに向けていた。


(まさかアキト君の事を知っていたとはねぇ。あの犬にも困ったものです。それにしても、彼の派閥が怪しい動きをしているとわかってから、密かに間者を忍ばせておいて正解でした。

タウロの監視交代に彼が一枚噛んでいるという部下の調査結果も真実味が増しました。やはり彼は黒ですねぇ。

さて、どうしましょうか。アキト君が使えないとなればプランを元に戻した方が無難ですかねぇ。)


キツネがそんなことを考えていると、アキトは悔しそうな顔をして口を開いた。


「…わかり…ました…。転移契約を…解除します…。」

「アキト様…。」

「あなたも彼の言葉を聞き入れたまえ。そうすれば取り敢えず彼は捕まらない。それともあなたは彼をヨミ国に仇なす犯罪者に仕立て上げたいのか?」


シルバーナはシラサギの言葉に檄昂しかけるが、アキトの顔を見てなんとかこらえた。


「…わかりました。私も転移契約の解除に同意します…。」


アキトは転移契約陣を紙に描き、シルバーナをそこに立たせて、転移契約を解除した。


「これで…よろしいですか…?」


シラサギが部下に命じて調べさせると、確かに契約は解除されていた。


「よろしい、では早速退場願おうか。刃向かえばどうなるかは言わなくてもわかるな?」

「はい…、わかりました…。」


アキトは転移契約陣を描いた紙を折り畳むとそれを持ち、居間を出て廊下を歩いて行く。

それを見届けたシラサギは満足そうに頷いた。


「ルビィ、僕はあなたを必ず守り抜いて見せます。」


廊下を一人歩くアキトは、真っ直ぐ前を向いて正面を睨みつつ、小さく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ