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カベタス・サマナー  作者: 休眠熊
21/132

第20話

今回は会話回

「お話の所失礼致します。」


突然、部屋の外から声が聞こえた。ヤクモの言葉であった。


「皆様にお茶を用意しました。」

「おぅ!済まねぇな!」

「ありがとうございます。丁度喉が渇いていたもので。」


ヤクモが慣れた手つきで、4人が座る台に緑茶と茶菓子を置いていく。そして、「どうぞごゆっくり」と一言述べて部屋を辞した。その姿を見届けた後、学園長は真剣な顔付きになり、話の続きを始めた。


「さて、そしてこれからの話だが…、直ぐに嬢ちゃんを連れてソコネ県警察本部に行ってくれ。

そこで緊急記者会見を開く手筈になっている。」

「警察…ですか…。」


アキトは学園長の言葉ひ眉を顰めた。要人を警護するという意味合いでは最適なのだが、現状警察の中に密偵がいる可能性が高いため、シルバーナを危険に晒してしまうと考えたからだ。


「まあそう構えるな。この会見には勿論コウガも護衛として参加させる。さっきの話振りだとお前も参加したいのだろう。覚悟あるなら同伴を許す。」

「ありがとうございます。勿論同伴させて頂きます。」


学園長の言葉に少し安堵し、そして責任感のため更なる決意を固めるアキト。例え頼りなく、弱い自分であろうと、少しでもシルバーナのためになることが出来るならと、使命感に燃えていた。


「悪いなコウガ。護衛対象が2人に増えちまった。」

「いえ、元より私も了承していましたし、望む所です。」


悪びれる様子の欠片も無く学園長は曰い、それが当然とばかりに返答するコウガ。その様子を見てアキトは非常に嬉しくなり、2人に更なる感謝をした。


「それで、会場のセッティングと関係者への周知が出来次第、迎えが来る手筈になっている。それが来るまで此処で待機だ。此処に襲撃してくる可能性もあるが、奴らも人目を引く行動はしたくねぇだろう。外に信頼出来る護衛も張らせているし、いざとなったら頼むぜコウガ。んで、空いた時間で会見の段取りや内容について話を詰める。まずは…」


とそこで、部屋の外からヤクモの声が聞こえた。


「お話の所度々申し訳ありません。」

「何だ?茶ならまだ十分あるぜ…ってコウガ、お前飲むの早えな…。」

「いやはは…、先ほど年甲斐もなく少々はしゃぎすぎてしまいまして…。」


学園長とコウガのやり取りを無視してヤクモは続けた。


「学園長にお客様です。何でも今すぐ会いたいそうで。」

「何だぁ?まだ迎えには早すぎるし、今日は別に誰かと会う予定なんざ組んでねぇぜ?今は緊急自体だ。大した用事じゃなけりゃ帰ってもらえ。」


学園長の言葉にヤクモは少し逡巡した後、答えた。


「ええと、いらっしゃったのはキツネ様です。」


その名前を聞いた学園長は露骨に嫌な顔をする。


「んだぁ!?あの狸かよ!」

「おやおや、随分な仰り様ですね。」


ヤクモのと違った声がしたかと思うと、ゆっくりと部屋の戸が開かれ、一人の男性が入ってきた。

その男はスーツ姿の細身の中年男性で、糸目が特徴的であった。


「誰が入って良いっつった?この狸が。」

「犬に入室の許可を求める必要がありますか?あと私はキツネです、間違え無いで下さい。」

「誰が犬だ!俺はオオカミだ!」


口論する2人を唖然とした顔で見つめるアキトは、横に居るコウガに質問する。


「もしかして、さっき先生が仰っていた、学園長と懇意にしている政府関係者って…、あの方?」

「え、ええ…、彼はキツネ・イズナ外務事務官。アビス王国との外交に携わる方です。学園長とはそれなりに長い付き合いだと聞いています。」

「懇…意……?」

「まあ…、そこは言葉の綾というやつですよ…。」


アキトがコウガに困惑の眼差しを向けると、コウガはその視線を避けるように目を背けた。


「ふう…、躾のなっていない犬の相手は疲れますね。」

「はあ…、言ってろ狸が。んで、何しに来たんだ?わざわざ口論しに来た訳じゃねぇだろ。」

「最初からそう冷静であってくれれば、此処まで疲れることも無かったでしょうに…。」


学園長とキツネは互いに息を整えると、キツネが話を切り出した。


「此処に来たのは情報の確認と共有のためです。あなたにアビス王国貴族の話をしたのは私ですからね。聞きましたよ?何でもそちらのフェルミ公爵令嬢が悪漢に襲われたと。」

「あぁ、幸いうちのコウガが撃退したがな。」

「それも聞き及んでいます、流石はミノリ殿ですね。“元特殊部隊所属”の肩書きに嘘偽りありませんね。」

「あ…、そのことは…。」


キツネの発言に狼狽えるコウガに、学園長は片眉を釣り下げる。


「なんでぇコウガ。お前まだ言って無かったのか?丁度良い機会だ、アキト達にも知ってもらいな。」

「ミノリ殿は元は導術犯罪を専門にする特殊部隊の一員だったのですよ。故あって今は教師になっていますけどね。」


学園長の言葉にキツネが続けた。アキトは少し驚いた表情を見せたが、すぐに納得する顔を見せた。


「そうなのですか…。さっきの戦いで先生が只の教師で無いことはわかっていましたが、元特殊部隊だったとは…。道理で強い訳ですね。」

「アキト君は驚かないのですか…?私が怖くないのですか…?」


コウガはアキトの反応に肩透かしを喰らい、戸惑いの表情を見せた。

コウガとしてはアキトとは今の教師と生徒の関係という状態を気に入っており、元特殊部隊ということでアキトがよそよそしくなることを嫌い、聞かれなければそのままにして置こうと考えていた。

そんな不安そうなコウガにアキトはニッコリと笑った。


「はい、過去が何であれ、先生は先生です。僕の中では何も変わりませんよ。先生がかつて何者であったとしても、今は僕の大好きな尊敬する先生なのですから。寧ろ先生の過去を知れてとても嬉しいですよ。」

「アキト君…、うう…、教師やってて良かった…。」


アキトの言葉に思わずコウガは涙ぐむ。するとそれを意地の悪そうな表情の学園長が茶化す。


「良かったなあコウガ。お前を慕ってくれる生徒ができて。アキト、コウガが教師をやるってなった時、俺は無理だっつったんだぜ。『お前の面じゃ生徒泣かせて嫌われるから止めとけ』ってな。

何せ特殊部隊時代から強面のせいで仲間からも避けられてて、ついた徒名が『ぼっち騎士団』だってんだからな。がっはっは、笑っちまうだろ?」

「『孤高騎士団』ですよ!こ・こ・う!その徒名は私の能力が由来で、私の人間関係は関係ありませんよ!止めて下さいよその徒名嫌いなのに!」


学園長の言葉にコウガは檄昂した。そんなコウガを愉快そうな表情で学園長は眺めていた。


「だがぼっちだったのは本当だろ?」

「うう…、確かに皆さん何となく私を避けていましたけど…、避けていましたけど!それでも話しかけてくれる人位いましたし!知人と呼べる人だって居ましたし!友人と呼べる人は一応、いたかな?親友は…、うう…。」


次第に声が小さくなって意気消沈していくコウガ。その様子を見て学園長は満足気な表情を浮かべた。


「ちっと言い過ぎたか、悪かったなコウガ。嫌なヤツと口論して少しばかりムカついてな。だがありがとな。おかげでスッキリしたぜ。」

「私に八つ当たりしないで下さいよぅ…。」


2人の茶番を何も言わず見ていたキツネは、やり取りが終わったことを見計らって話しを始めた。


「さて、盛大に話しが脱線したところで、話を元に戻しましょうか。」

「誰のせいだと思ってやがる。」

「あなたのせいでしょう?」


また険悪なムードになりかけた所で、更に険悪な表情のコウガがそれを遮った。


「いい加減にして下さい2人とも!今は争っている場合じゃ無いでしょうが!」

「お…、おう。すまねぇコウガ。」

「ははは…、申し訳ありません。」


コウガの強い言葉と怖い表情に、学園長とキツネは恐れおののいた。


(うわぁ…、先生かなり怒ってますね…。さっき散々弄られたこと根に持ってる感じです。この状態の先生はかなり怖いんですよね…。)


アキトが軽く肩を竦めていると、隣からすすり泣く声が聞こえた。


「うえ…、ひぐ…、怖いよう…。」


シルバーナがコウガの剣幕に泣いていた。


「ああ!シルバーナ様、大丈夫ですよ!先生はあなたに怒っているのではありませんから!」

「うわ!す、すみません!あなたを泣かせるつもりは…。」

「うわぁ…、こんな小さな娘泣かせたよコイツ…。」


シルバーナの号泣にアキトは慌て、コウガは狼狽え、キツネと学園長はコウガを責めるような視線を送った。

やがてアキトに抱き抱えられあやされて落ち着いたシルバーナを見届けて、キツネは咳払いを一つして仕切直した。


「さ、さて、今度こそ本当に話の続きです。」

「お、おう、そうだな。」

「私の顔って、そんなに怖いのでしょうか…。」


今度こそ学園長は挑発しなかった。流石に自重しようと思ったからである。コウガは落ち込み体育座りをしていた。よく見ると指で畳に『の』の字を書いていた。


「学園長、あなたの所に伝えた様に、フェルミ公爵の公式の訪問予定は明日でした。しかし、実際に来たのは一昨日、で良いのですね?シルバーナ様。」

「…はい、その外交官の方は、日時を誤魔化せば待ち伏せの可能性は少なくなるからと。後ヨミ国に護衛が用意されているからと、目立つためこちらから護衛は付けない方が良いとも言っていました。お祖父様は納得の行かない顔をなさっていましたが、ヨミ国への旅券発行には彼の協力が不可欠でしたから…。」

「しかし、こちらにそれについての内容は一切報告されていません。故に、あなた方がこの国に来るのは明日と勘違いしたままだったのですよ。あなた方に用意した護衛を付けることも出来ませんでした。

アビス王国の外交官はきちんとこちらに報告したと言っています。内容が内容なので、非公式な回線で外務省職員に口頭で伝えたとも言っていましたが。」

「その職員の方は…?」

「特には連絡を受けていないと言っています。レコーダ-にもその様な会話は記録されていませんでしたし、細工された形跡もありませんでした。」

「ではやはり…。」

「ええ…、決定的な証拠はありませんが、恐らくその外交官もこの襲撃に一枚噛んでいるでしょうね。」


シルバーナが悔しげに歯噛みをしていると、アキトはそっとシルバーナの手を握り締めた。シルバーナはそれで幾分か落ち着きを取り戻したようであった。


「それでここからが問題です。あなた方を入国審査した出入国管理局の人間が今、行方不明なのです。」


シルバーナは戦慄する。学園長は眉を顰め、コウガも姿勢を正して真剣な眼差しになった。


「つまり…、その方が密偵ということですか?」

「ええ…、恐らくは。入国審査をしている最中に、警備員に扮した暗殺者達に追われたのですね?」

「…はい、なので、私もお祖父様も荷物を全て捨てて逃げ出したのです。」

「その方にあなた方が訪れることは事前に伝えてありました。だからこんな出来事があったにも拘わらず、只の密入国者として現場で処理し、詳しい事を何も上に報告しないのはおかしいと、事情聴取を行おうとした時、既に彼は行方を眩ませていました。」


キツネの話を聞いて、学園長は彼を詰るような口調で口を挟んだ。


「ハッ!そいつは不祥事だな!」

「ええ…、全くです。」


それをキツネはどこ吹く風というように受け流し、話を続ける。


「更に、逃げたあなた方を暗殺者達が襲ったあの山での出来事も、担当した警察は只の地震と失火による山火事として処理していました。これも、現場を担当した警察官の上司が行方不明になっています。」


一昨日、シルバーナ達が襲われた山はアキトが住む寮から少し離れた位置にあり、そこで小規模な地震と山火事が起きたことはアキトもニュースで知っていた。


「あの地震と火事はフェルミ公爵がタウロと戦ったせいで起きたのですね…。」


アキトは納得した。そして、シルバーナを警察に連れて行かなくて本当に良かったと思った。


「それだけではありません。あなた方が先程襲撃された時も、まるで襲撃を支援するかの様に道路を封鎖し、救援の足を遅らせていました。これはまだ疑惑の段階ですがね。」

「はい…、そのことは薄々感じていました。」


アキトの答えにキツネは一つ頷くと、学園長に向いた。


「ついでに言えば、あなたの身内にも密偵の疑惑が出ていますよ。」


すると学園長はそっぽを向いて力無く答えた。


「わーってるよ、んなこたぁよ…。」


その様子を気にも留めず、キツネは話を続け、アキトが応対する。


「何にせよ、政府関係者にも、警察関係者にも、ひいては学園関係者の中までも密偵が入り込んでいるという訳です。」

「…なかなかに厳しい状況ですね…。」

「ええ…、しかし此処までしても、彼らはシルバーナ様を捉えられなかった。これにより密偵の存在が明るみになり、警戒され、シルバーナ様を襲撃しにくくなったことでしょう。」

「だと良いのですが…。」


キツネの言葉に未だ不安の拭えないアキト。するとキツネはアキトに近づき、その細い目でアキトの瞳を見据えた。アキトはその目にそこはかとない不安を感じ、少し後退り距離をとる。


「ええ…、アキト君の懸念は尤もです。故に、更に不穏分子を叩かねばなりません。そうでしょう?」


アキトはキツネの言葉に少し考え、ある事に思い至り、一つ釘を刺すことにした。


「無いとは思いますが…、まさかシルバーナ様を囮に使おうとか考えていませんよね?」


アキトは疑問口調であったが、心の中では確信していた。この男ならば、やる、と。


「おやおや、何か勘違いしてはいませんか?私はただ、シルバーナ様の安全性を高めるために、一緒に力を合わせましょうと言っただけですよ?」

「もしその方法が、シルバーナ様を危険な目に遭わせないというなら、喜んで協力致します。」


アキトは取り付く縞なしと言った雰囲気を出していた。しかし、キツネに意外な所から援護が入る。


「あの…、私なら大丈夫…です。」

「シルバーナ様!?」


キツネの謂わんとしていることや、アキトの気持ちを察したシルバーナは、自ら囮役を志願した。


「私なら…、囮に最適ですから。」

「しかし…、あなた様を危険な目に会わせる訳には…。」


渋るアキトに対して、シルバーナは落ち着いた口調で話す。


「危険なことは承知しております。ですが、私に出来ることならば、私が最適であるならば、させて頂きたいのです…。」

「シルバーナ様…。」


シルバーナは護られてばかりの現状を憂い、少しでもアキトの力になりたいと、そう強く願って申し出た。


(普通ならば、止めるのでしょう。何莫迦なことを言ってるんだと諫めるのでしょう。しかし…)


アキトも気持ちは全く納得していないが、頭では理解していた。

密偵や暗殺者達を炙り出すためには目の前の少女を囮にするのが一番効果的であろうと。

もしも敵を一掃できなければ、また襲撃に怯えなければならないだろうと。また、この少女が決して弱く無く、強い意志を持つ人物であり、その意志を無碍にすることは彼女に対する冒涜だろうとも考えていた。

そして、自分には転移導術があり、いざとなれば少女を自分の場所に召喚することで危険から逃がすことが可能であるため、アキトは彼女の提案を真正面から否定出来なかった。


(それでも、駄目だと言いたい!ですが、この目を見ていると…。)


それが自分の弱さ、甘さだと、痛烈に自覚していたが、最後まで彼女を止めることが出来なかった。


「もっと僕に、力があれば…。」


目の前の少女を、危険から守り通すことが出来るのに…と言葉に表さずに続けた。


「アキト様…どうか御自分を責めないで下さい。それに、先程も約束したではありませんか。互いに助け合って生き抜こうと。私はアキト様達ばかりに負担をかけるのは嫌です。アキト様に護られるのでは無く、互いに支え合う様になりたいのです。」


シルバーナは瞳を潤ませ、懇願するかの様にアキトの目を見つめた。


「はあ…、僕はやっぱり弱いなあ…。」


アキトは参ったとばかりに片目を瞑り、頭を掻いて後ろ髪を弄り、小さく呟いた。




(アキト君ですか…、これはなかなか使えそうですね。)


そんな2人のやり取りを見ていたキツネは、周囲の誰もが気付かない位に少しだけ、口角を吊り上げた。


「おぃ狸、いい加減本題に入ったらどうだ?」


学園長がキツネに振ると、キツネは今度は露骨に口角を吊り上げた。


「おやおや、わかってしまいましたか。」

「たりめぇだろ?お前が来るときは、大体ロクな事じゃねぇんだ。情報の共有なんて平和的な事柄じゃてめぇは動かねぇ。もっと何か企んでいて、それに協力させる為にしか動かねぇ腹黒狸なんだからな。」

「だから私は狸ではなくキツネですって。大体…」


キツネが何か言い返そうとした時、不意にキツネの携帯が鳴った。


「少々失礼致します。」


アキト達から離れ、部屋の隅でキツネは自身の携帯を取り出し、会話を始めた。そして短いやり取りの後、神妙な面持ちでこちらを振り向いた。


「皆さん、特に学園長、落ち着いて聞いて下さい。タウロが病院から抜け出し、逃亡しました。あと、炎導術を扱う生徒一人の行方がわからないそうです。」

「な…!?」


キツネの言葉にその場の全員が絶句する。


「ちょっと待ちやがれぃ!どういうことだ?タウロに監視は付けてなかったのか?」

「付けてはいました。しかし、どうやら奴の仲間が扮した偽の監視が、交代と称して監視を遠ざけ、タウロを奪取したそうなのです。」

「それじゃあ、導術追跡機は…」

「残念ながら…、タウロの意識がはっきりした所で使用しようとしていましたから…。」


導術はイメージが重要となる。故に、導術追跡機を使用する際には被験者の意識がはっきりしていることが基本となる。意識の無い状態で使用した場合、追跡機の精度が低くなるため、証拠としての信頼性が著しく損なわれる。


「奴ら、タウロの意識が回復する前に、タウロを奪還したかったのでしょう。導術追跡機によって明確な証拠を握られる前に。」


導術追跡機によりタウロの導癖と、証拠の骨に残った導癖が一致すれば、この襲撃はアビス王国の手の者の仕業であることは明白となる。


「そして、炎導術を扱う生徒が行方不明ですか…。」

「ええ、此方も取り調べの為に生徒のお宅に訪問しようとしたら、既に強盗が入って生徒を人質にして逃走した後だったとのことです。犯人達の行方は現在不明です。」

「その強盗は、恐らくその生徒を代わりの犯人に仕立て上げる為に奴らが…。」


外交官の証言と一致する特徴を持つ人物が攫われ、もしも洗脳または脅迫などにより偽の自白をさせられれば、アビス王国強硬派はこれ幸いとヨミ国を非難し、攻める口実を与えることになる。


「タウロは最悪どうでもいい!だがなぁ!うちの生徒に手を出すのは絶対に許さねえ!」

「ええ…、これはキツい指導が必要ですね…。」


生徒が攫われたことに烈火の如く怒り狂う学園長と、冷静ながらも目に冷たい炎を灯して薄く笑うコウガ。


「全く以て同感ですが、お二方共少し落ち着いて下さい。現在タウロと生徒両名は追跡中です、新たな情報が入り次第連絡が来るようになっていますから。」

「ケッ!密偵だらけの警察なんか信用出来るか!」

「全く反論出来ませんねぇ。ですが、あなた方も情報や人手が不足しているのも事実、警察も全ての人間が密偵であるのは不可能でしょうし、もたらされる情報全てが偽物とも限りません。どうでしょう、ここは協力という形を採ってみては?」


学園長の怒声をものともせず、キツネは提案をする。幾分か冷静なコウガはそれに対して懸念を伝えた。


「それには一理ありますが、こちらの情報が敵に筒抜けというのは…。」

「その点については大丈夫です。こちらの動きの情報は渡さずに、警察からの情報を頂きます。」

「え…、それは大丈夫なのですか…?」

「ええ、大丈夫です。私の“お友達”に頼めばある程度融通は利かせて貰えますよ。我々の行動を邪魔しようとした者は捕らえて構いません。」


アキトはキツネの“お友達”という単語に若干の黒さを感じ、『この人はやはり信用できない』と強く感じた。


「チッ!無償の情報提供、こちらの情報は伝えず邪魔をしねぇってんなら、まあ手を貸してやらんでもねぇ。」

「理解して貰えて良かったですよ、ええ。」


一先ず、警察と協力と言って良いのかわからない提携をすることを了承した学園長は、これからの指針を示す。


「よし!そうとなったら急ぎ行動だ。コウガは悪ぃがアキトと嬢ちゃんの護衛を引き続き頼むぜ!

今回は俺も出る!生徒の捜索の方は任せろ。他の信用できる奴ら全員連れてきて街中を探し尽くしてやる!」

「私も生徒の捜索をしたかったのですが…仕方ありませんね。学園長、任せましたよ。」

「おうよ!コウガもアキト達をしっかり守ってやんなあ!」


学園長はヤクモを呼ぶと、誰を応援に呼ぶか詳細を伝え、自身も出掛けるための準備を始めた。


「さて、私達は会見に備えましょう。この騒ぎで此方の警備は薄くなります。気を引き締めるように。」

「この様な事態なのに、会見を開いて大丈夫なのでしょうか?」

「その気持ちはわかりますが、会見を開くのが遅くなればなるほど、アビス王国に対する感情は悪化します。

私達はシルバーナ様を守りつつ、戦争を防がねばなりません。この場でシルバーナ様を守るだけなら其処まで困難でも無いでしょう。しかし、戦争が始まれば導族であるシルバーナ様や他のヨミ国内の導族の方達は皆拘束されるでしょう。そして、アビス王国内は強硬派が主流となり、穏健派であるシルバーナ様を守る後ろ盾が無くなり、危うい立場となるでしょう。

シルバーナ様をこの場で守れても、戦争が始まればどの道厳しい状況になります。そうならないために、私達は私達のできることをしなければなりません、わかりますよね?」

「…はい…。」


コウガの諭すような言葉に、アキトは反論する術を持たなかった。

アキトは弱い。富も地位も権力も戦闘力も無い。だからこそ、弱い自分でも大切な少女を守りきれる様に、事態を大きくしてはいけない、少女の敵を作ってはいけない。

アキトはそれを充分理解していた。理解していても、納得は出来なかった。シルバーナが嫌だと言えば、アキトはコウガの制止を振り切り、何処までも逃げる覚悟があった。


「アキト様…、私も精一杯頑張りますから。一緒にこの難局を乗り越えましょう!」


しかし、シルバーナは逃げなかった。彼女はアキトよりも強かった。彼女の凛とした表情が、アキトには眩しく、羨ましかった。アキトは弱い自分を認め、少女の強さに甘える他なかった。


「…わかり、ました…。僕も全力であなた様を守ります。」

「はい!よろしくお願いします!」


アキトの返事に満面の笑みを浮かべて答礼するシルバーナ。アキトは絶対にこの笑顔を守ると心に誓った。


「はぁ…、またまた話に横槍が入ってしまいましたねぇ。」

「ケッ!そういやそうだったな。だが、もう時間がねぇ。手早く話な!」


キツネの溜め息混じりの嘆きに、隣の部屋で着替えていた学園長は戸を開けず大声で答えた。


「言われなくてもその積もりですよ…。」


そう言うとキツネは、アキトに胡散臭い満面の笑顔を向け、アキトは思わず身構えた。


「実は、アキト君とシルバーナ様に協力して頂きたいことがあるのですよ…。」


アキトはシルバーナの手を強く握り、キツネを睨むようにして、その言葉の先に耳を傾けた。

先生をいじるのが楽しいです。

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