9話 小さな一歩
大河はクラブミーナでの出来事を組長に詳しく話した。
「ざっとこんな感じです。僕1人でやったんでなかなか骨おりましたよ」
「ほんまかぁ?それにしては全然ピンピンしてるやんけ。」
「強がりですよ強がり。そこらじゅう悲鳴あげてますわ…」
「まぁでも大河!!ようやった。お前に任して正解やったわ。そうやな…‥これからクラブミーナの担当、大河お前やってみるか?」
(これはええ機会やな、ある程度の地位までいっといた方が、何かと動きやすいからな)
「ほんまですか?喜んで引き受けます」
「怜香もそれでええか?」
「私は全然、大河君でいいですよ~」
怜香は上機嫌で返事をした。
そこへ智史が割って入る。
「親父、ちょっと待って下さいよ。あそこは俺の管轄ですよね!!なんで大河なんて下っ端に任すんですか?」
「智史~1つぐらい譲ったれよ~。お前は若頭やし他にも何個も担当持ってるやろ~」
「そうですけど、それとこれとは話が違いますよ…‥‥」
「アカン。もう決めたことや、諦めろ。それに代表の怜香ちゃんがそれでいいって言ってんねんやからもうそれで決まりや。はい、この話はおしまい。次いこか。」
「‥‥‥分かりました」
智史は渋々それを承諾する。
(大河のやろ~なんでお前やねん…)
そんな智史をよそに、怜香は嬉そうに大河を見る。
「大河君、これからよろしくね」
「はい、こちらこそ、これからお願いします」
「んで、次はなんでこのボンクラどもが怜香を襲ったかやな?」
紅蓮隊の男たちをみながら組長は話を切り替えた。
「そうなんですよ。コイツらに聞いてもリーダーに命令されたしか言わないんですよ‥‥‥でも一応、リーダーの連絡先は分かってるんで、ここでかけさせましょか?」
「そうやなそれが一番手っ取り早いな」
大河は1人のやつに電話かけるように指示した。
「リーダーに電話かけろ。それで今までの出来事話して今自分らの置かれてる状況説明せぇ」
「分かりました‥‥‥」
そう言って男は震える手で電話をかけ始めた。
何度か呼び出し音が鳴った後、相手が出る。
「スピーカーにしろ」
大河すかざず指示する。
「おい!!終わったらすぐ連絡入れるって約束やろ。なんでこんな遅いねん?」
「リーダー‥‥‥実は失敗して今、水仙組の事務所にいてるんです‥‥‥」
「水仙組‥‥‥」
ブッ‥‥
ツー。ツー。ツーーー。
水仙組の名前が出た途端に電話は唐突に切れた。
「すいません。電話切れました‥‥‥」
紅蓮隊の1人がそう告げる。
もう1度かけさせるが今度は繋がらない。
「はぁーー‥‥‥お前ら、ヘマしたから捨てられたな」
組長が呆れたように頭を搔く。
「お前らもお前らやけど、そのリーダーっちゅう奴もろくな奴ちゃうの~。仲間を簡単に切り捨ておる」
「お前らの拠点とかはないんか?」
加藤が尋ねた。
「僕らは下っ端の下っ端なんで、その紅蓮隊の集まりとかにも呼ばれたりはなくて、電話で指示出されるだけなんですよ」
「ふーん‥‥‥」
加藤は腕を組み、男たちをじっと見つめる。
「1つ気になるやけどな」
事務所にいた者たちの視線が加藤へ集まった。
「1ヶ月前から店に嫌がらせがあって、でもその間金の要求もないし、はたまた店を奪おうとしたわけもない…‥‥」
「加藤さん。そうなんですよ。」
大河がすかさず喋り出す。
「僕も怜香さんから話聞いて、なんかおかしいなって思たんですよ。」
ただ暴れるだけやったらここに執着せず他にいけばいい。
じゃなぜ‥‥‥別の目的がある。
加藤と大河はその時ふと同じような考えをした。
大河は純粋にこう思う。
(この加藤とかいう男、なかなか頭が切れるようやな)
「お前ら、ほんまに何も聞いてへんのか?」
加藤が再び紅蓮隊の男たちへ尋ねる。
「ほ、ほんまです。僕らは言われたことやっただけで」
「誰かに頼まれたとか、そういう話も?」
「分かりません。‥‥‥リーダーからは何も‥‥‥‥」
それ以上、紅蓮隊に繋がる情報は出てこなかった。
事務所に重い空気が流れる。
大河は黙って考える。
(これ以上コイツら情報を引き出すのは無理そうだな‥‥‥)
それなら、この場はいったん収めた方がいい。
そしてーー。
大河は紅蓮隊の奴らを見てまたしても考える。
(コイツらは、俺がもらうとするか)
「親父、これ以上コイツらからは何も出んと思います。一旦、この件僕に預けてもらってもいいですか?」
「そうやな…‥コイツら締め上げても、下っ端やし何も出えへんやろな」
組長は少し考えてから頷いた。
「よし、分かった。この件は大河に任せるわ」
「ありがとうございます。後、この紅蓮隊の連中も僕に預けてもらっていいですか?」
「コイツらを?」
組長が不思議な顔をする。
「お前、なにする気や?」
「僕ちょうど困ってたんですよ。僕の代わりに色々やってくれる人いてないかなぁ~って思ってたら
6人も僕の目の前にいてるんで。これはラッキーと思いまして」
大河は笑う。
紅蓮隊の男たちは顔が引きつった。
「まぁ、ここにおってもしゃないしな。ええよ、大河に任せるわ。あんまいじめたんなよ」
「ありがとうございます。分かってますよ。ぎょうさんコキ使いますわ」
「それをいじめる言うてんねん」
組長が笑った。
「よっしゃ。加藤の方でも、この紅蓮ナンチャラのこと調べといてくれ。こいつらだけやったらええけど、後ろで糸引いてる奴もおるかもしれんからな。頼むわ。」
「分かりました。こっちでも調べときます。」
「じゃ大河、何か分かったらすぐ連絡やぞ」
「分かりました」
「よし。この件はこれで一旦終わりや。」
「じゃ僕は怜香さん送っていきますわ」
「おう。しっかり頼むで」
組長はそこでニヤリと笑う。
「あっ‥‥今度はお前が怜香ちゃん襲ったらアカンぞ。な~んてな!!ガハハ八八八!!」
「親父‥‥‥勘弁してくださいよ~」
大河は呆れた顔で返事をした。
(この男は下品なことばかり言うやつだな)
「さぁさぁ、早くみんな解散しろ。もう野郎どもがこんなせせこましい所にわんさかおったら息詰まるわ。あっ怜香ちゃんは関係ないからね」
組長は上着を手に取った。
「ほな、俺はちょっくら可愛いお姉ちゃんところ行ってくるわ」
そう言って颯爽と事務所を後にする。
残された組員たちは、やれやれといった顔でその背中を見おくっていた。
「浩介さん、とりあえずこの紅蓮隊の奴らここで見といてもらってもええですか?僕怜香さん送ったらすぐまた事務所戻るんで。」
「おお。分かったわ。その間ちゃんと見とくわ。
後、下にオレの車置いてるからそれ使ってええからな」
浩介がそう言って車のキーを差し出す。
「ありがとうございます。安全運転で行ってきますわ。」
(まぁまたいつもの様に情報が流れてくるから、車の扱いも問題ないはずだ)
「何かお前がそんな事言うと怖いな…‥‥」
「無事に帰ってきますわ」
「いちいちオーバーやねん。早よ行ってこい」
そう言われ、大河は怜香とともに事務所を出た。




