8話 組への報告
浩介がクラブミーナの中へ入ると、すぐに
紅蓮隊のチンピラが地面に伸びてるのを見つける。
浩介はしばらくその光景を眺めた後、大河へ視線を向けた。
「おい、大河。これ一体どういうことやねん?」
「殴りかかってきたんで、ボコボコにしました。正当防衛ってやつですわ」
「正当防衛って‥‥‥」
浩介は改めて、床に伸びてる男たちを見てそのあと大河を見た。
「お前全く無傷やんけ!!大河、今日本間にどないしたんや。そんな喧嘩強かったか?なんか変なもんでも食うたんか?」
(この浩介は大河とは親しい間柄やからあまり派手にやり過ぎると疑われて面倒だ)
「兄貴…‥‥実は‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「僕‥‥‥」
大河が急に口ごもったため、浩介の表情が真剣になる。
「ど、どうしたんや?」
(さて、どう答える)
男は必死に考える。
(そういえば俺の身近に稽古ばかりしている奴がいたな…‥‥)
(よし、これでいくか。)
男はそのことを思い出し浩介に告げる。
「前から身体鍛えてて、自分でも知らんうちになんか強くなってたみたいですわ」
「‥‥‥‥‥」
浩介は無言で大河を見る。
「それにしても、急に強くなり過ぎーー」
そう浩介が言いかけた時にすかさず男は割って入った
「あっ兄貴、それよりもっと重大な事があるんです。コイツら紅蓮隊っていう連中の下っ端らしいんですわ」
「紅蓮隊‥‥‥‥この辺縄張りにしてる半グレ集団か」
「そうです。それで、こいつらが怜香さんを襲ってて。そこで僕が駆けつけたって感じなんですわ」
「怜香さんが襲われた!!!」
浩介の表情が一変した。
「怜香さんは無事なんか?」
「はい。今はあっちで落ち着いて休んでます」
浩介は明らかに安堵して、2人は怜香の元へ向かった。
「怜香さん。大河から聞きました。怪我とかしてませんか?」
「浩介さん。大丈夫ですよ。大河君がすぐ来てくれて、助けてくれたので」
「ほんまに良かったです。大河ようやった!!」
浩介は胸を撫で下ろすと、大河の肩を叩いた。
「怜香さんと別れてからまだクラブの近くにいてて、すぐ行くことができたんです。不幸中の幸いですわ」
「そうかそうか。じゃ早速事務所戻ってこのこと、親父に報告しにいかなアカンな」
「そうですね。まだこの紅蓮隊のチンピラから情報という情報は聞けてないので、それも含めて早く事務所いきましょう」
浩介は頷くと、怜香へ顔を向けた。
「怜香さんは念のため、組の誰かに家まで送らせます。取り敢えず一緒に事務所まで来てもらってもいいですか?」
「分かりました」
怜香はそこで少し考えるような仕草を見せた。
「家まで送ってくれる人、私が指名してもいいかしら?」
「ええですけど‥‥‥」
その直後、怜香の視線が男へ向けられた。
(んっ、なぜ俺を見る)
「大河君に送ってほしいんだけど‥‥いいかな?」
(なぜ俺を指名する‥‥‥面倒そうだな。何か理由つけて断るか)
「僕ですか…‥いや~僕今から事務所行って親父に今回のこと報告しやなアカンのですよ」
「怜香さん。少し待ってもらえるんなら、報告ぐらいやしそんな時間かからんと思うから大丈夫やと思うで」
(浩介ーー!!余計なことを言うな)
「少しくらいやったら全然待ちますよ」
「‥‥‥‥‥‥」
逃げ道を塞がれた。
「あーそうですか…‥分かりました。じゃ報告終わり次第、僕が送ります」
(なんで俺がこんな面倒なことを)
口では了承したものの、どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「えっ私送るの嫌?」
「えっ」
「ひどいっ、あんな事があって、すごく傷ついている私を‥‥‥どうでもいいと思ってるんや‥‥‥」
怜香は今にも泣きそうな顔で、その場にうずくまった。
男は目に見えて焦り始めた。
「そんなことないですよ。怜香さんを家まで送れるなんて、とても光栄ですよ」
必死になって怜香をなだめる。
すると怜香が顔を上げた。
「べーー嘘だよっ。大河君ちゃんと送ってね」
「もうからかうの止めて下さいよ~」
(この女‥‥‥苦手かもしれん)
「ほんならそろそろ行こか。」
浩介が声をかけると、それに2人は頷きクラブミーナから出ることにした。
その前に床に転がってた紅蓮隊達を浩介と大河が無理やり起こして車まで歩かせた。
「ワゴン車できて正解やったわ」
そう浩介が言ってチンピラ達をワゴンに乗らせた。
「怜香さんは助手席乗って下さい」
「分かりました。よろしくお願いします」
大河もワゴンに乗り込む。
10分くらい車が進み、水仙組に到着する。
先に浩介が入りその後、紅蓮隊の連中がぞろぞろ入っていき、最後に怜香と大河が事務所に入る。
事務所の中に入ると、大河らに視線が集まる。
「なんや、えらいぞろぞろ入ってくるの」
最初に口を開いたのは水仙組の相談役の加藤勝だった。
40歳。組長である柳浩二からの信頼も厚く水仙組を支えている。感情で動くというよりも合理的で、冷静に物事や状況を見ることのできる男だ。
加藤は大河に向かって喋りかけた。
「大河、コイツらあれか、‥‥‥紅蓮隊の連中か?」
「はい、知ってるんですか?」
「知ってるも何もここら辺で最近好き勝手やってる半グレ連中やから、嫌でも情報は耳に入ってくる」
加藤の近くにいた他の組員が大河に話しかける。
「お前また、なんかやらかしたんか?」
長野伸介。
大河と同い年で、上の人間には愛想よく振る舞う一方大河のことは一方的にライバル視してる男。
長野が呆れた顔で大河を見ている。
「いきなりな物言いやな、なんもやらかしてへんわ」
(こいつはいきなり何を言っているんだ。顔を見ているだけで腹が立つ)
「ほんなら、なんで紅蓮隊の奴らがぞろぞろおんねん?」
「それを今から説明するところや、黙って聞いとけっ」
そのやり取りを少し離れたところで聞いていたのは
水仙組若頭にして組長の息子、柳智史だった。
紅蓮隊を見た瞬間、ほんの少しだけ眉が動いた。
しかし、これに気づく者はいなかった。
「さっきからギャーギャーうるさいの~ここはいつから動物園になったんや?昼寝もでけへんやんけ。」
「親父もう夕方やから昼寝じゃないですね‥‥‥」
ボソッと加藤が呟く。
「勝~いちいち揚げ足を取るなっ!!分かっとるわ」
そうガミガミ言いながら奥から組長、柳浩二が現れる。
「で、どないしたんや…‥」
組長は紅蓮隊の連中を見るや否や、
「なんやこのチンピラは?新手のセールスマンか?入部希望者か?にしては‥‥‥顔がみんな残念やなぁもうちょいましなやつ連れてこい。出直してこい!!」
また組長の漫才が始まったと組員は思い笑いだす。
浩介がやれやれといった顔で対応する。
「親父‥‥新手のセールスマンでもないし、入部希望者でもないです。ってか入部希望者ってどういう意味ですか?ここは学校のクラブですか?」
「冗談やないか、ジョーダン。で、ほんまのとこどちらさんなんや?」
「実はクラブミーナで色々ありまして」
「ミーナで?」
組長の表情が変わる。
そして、その後ろにいた怜香を見つける。
「怜香ちゃんやないかっ!!一体どないしたんや?」
「こっからは当事者の僕が説明します。クラブミーナでこの紅蓮隊の連中が怜香さんを襲ったんです」
「‥‥なんやて?」
組長は紅蓮隊の連中に視線を向けた後、大河に視線を移した。
「大河。詳しく話してくれ」
「はい、分かりました」
この時はまだ、水仙組の誰も知らなかった。
この一件が、組の行く末を大きく変えることになるとは‥‥‥。




