6話 救出
電話を切った男はすぐさま怜香の元へ向けて走り出した。
クラブミーナに着いた時にはもうガラの悪いチンピラはそこにはいなかった。
だが店のドアがこじ開けられた形跡があった。
(これはいかんな…早く中に入って怜香とやらの安否を確認せねば)
ドアを開けた瞬間、男は大声で叫んだ。
「怜香さーん、大丈夫ですかー。」
男の声がクラブ中に響き渡る。
少し進んで、また大声で叫んだ。
「怜香さーん。大丈夫ですか――」
男が叫んでいる途中で
「大河くっ」
確かに怜香の声が聞こえた。
だが、途中でかき消されたような声だった。
「助けてー」
今度は確かに聞こえた。声の先に行くと例のチンピラが5人そこにいた。
その中の1人が怜香を取り押さえていた。
チンピラの1人が「誰だこいつ、見たことあるか...」
周りのチンピラに声をかけた
「いや、見たことがないな、お前誰なんだ?」
そう聞かれて男は考えた。
(今は別に素のおれでもいいんじゃないか)
浩介もいない、大河を知る者もいない、状況が状況である。猫を被ってる余裕もない。
そう考えた時、男の雰囲気、目つき、佇まいが一気に変わる。
まるで目の前の獲物を狙う虎のような豹変ぶりだった。
「なぜ貴様らに名を名乗らねばならん?
お前ら、俺より偉いのか?どうなんだ?」
威圧感がひしひしと伝わる男の問いかけに
チンピラ5人はたじろぐ。
「おっ…俺らはここらで動いてる紅蓮隊っていうチームだ。」
男の頭にいつもの情報が入ってきた。
紅蓮隊
半グレ集団。詐欺、暴行、恐喝、拉致、監禁などを生業にする。
水仙組の縄張りに隣接する市を拠点とするグループ
男は即座に情報を整理する。
「お前らろくな存在じゃないな。怜香をどうするんだ、根城に連れていくのか?ああっ?」
「俺らも頼まれたことやらねぇといけねぇんだよ。
だから邪魔すんじゃねぇぞ。」
「‥‥‥頼まれた?そうかそうか、では後でその話詳しく聞かせろ。その前に怜香は俺の客人だ。おい、そこの。早く怜香を離せ。」
「てめぇ、調子にのるなよ。数ならこっちの方が有利だ。こんなやつやっちまおうぜ。」
「確かに数ではお前らの方が多い、だがお前らなんぞにこの俺が負ける訳がない。試してみるか?どうなんだ?」
男がそう言った直後、1人のチンピラが男めがけて殴りかかった。
飛んでくる拳を紙一重でかわし、そのまま相手の懐へ入り込んだ瞬間
ドスン、と鈍い音が鳴りチンピラ1人が地面に崩れる。
「面倒だ、いっぺんにかかってこい」
チンピラたち4人がいっぺんに男にかかった。
飛んでくる拳をまたおなじようにひらひらとかわし
すぐさま強烈な拳を1人にねじ込む。
1人、また1人と次々に拳をねじ込む。
ものの10秒もしないうちに4人は冷たい地面に深々と挨拶をしていた。
「たわいもない、運動にもならんわ。」
怜香がその場にへたり込んでいた。
「おおっ忘れておった。怜香、ケガはないか?さっきのチンピラになんかされたか?」
「大河君…‥だよね?なんか全然、雰囲気違うから別人かなぁって…」
その時、2人の背後からバットを持って近づく影があった。
影は少しずつ距離を詰めてくる。
次の瞬間、男めがけてバットを振り上げた。
「大河君危ないっ」
怜香が叫んだ時には、もうバットが大河の顔めがけて振り下ろされていた。
男は振り返ることなく、頭めがけて振り降ろされたバットを片手でつかんだ。
「マジかよっ、後ろに目でもついてんのかよこいつ。」
「たわけ、そんな殺気だだ漏れで来たら誰でもさばけるわ」
そう言って、空いている方の手で拳を握り、相手にねじ込んだ。また1人地面に崩れる。
(怜香の電話では5~6人と言ってたからな、もしかしたらあと1人おると思って警戒しててよかったわ)
「怜香もう大丈夫や、賊はおらんようになったから安心せい」
「本当に大河君なの…?さっきからずっとみてるけど‥‥」
(しまったーー、怜香の存在を忘れていた。大河のことを全く知らない相手だからつい羽目を外し過ぎたわ)
「僕ですよ。大河ですって。さっきはつい気が入り過ぎてしまって、ああ、あと最近、時代劇にはまっていてその影響で変な感じになってしまったんですよ。」
「えーなんか嘘くさいよ~その言い訳。」
さっきまでの緊迫した空気とは裏腹に、
和やかな雰囲気になっていたが、怜香の頬に涙が伝う。
「あれ…ごめん。なんか勝手に‥‥涙が‥‥出てきて。」
その後、堰を切ったように怜香が泣き出した。
「怖かった~大河君、怖かったよ~」
男は何も言わず、泣きじゃくる怜香をそっと抱き寄せた。
その頃
少し離れた場所で1人の男が立っていた。
その視線の先には、大河と怜香の姿があった。
「‥‥‥何でアイツがここにおんねん。くそっ、全部台無しやんけ」
しばらく大河を睨んでいた
「まぁええわ、また仕切り直しや」
そう言ってその人影は去っていった。




