5話 怜香
事務所から出たらもう雨は止んでいた。
頼まれた店に向かおうと歩き出した所で後ろから呼び止められた。
「おーい、待ってくれ~」
浩介だった。
「さっきは親父に助けられたなぁ大河。お前あのままやったらヤバかったで。んで親父来る直前なんか言うとしてたやろ?」「何言うつもりやったんや?」
「兄貴‥‥まぁ終わったことやし次いきましょう。」
「あーお前はいつもそうや。なんかあったらすぐはぐらかす。」
「そんな事ないですよ。ちゃんと言う時は言いますよ。特に兄貴にはね。」
「そうかぁ‥‥まぁそれならええよ。」
少し浩介は照れくさそうな顔をした。
それをみた男は
「兄貴、喉渇きましたね。僕何か飲み物欲しいです。なんか買うて下さい。」
「お前は...すぐ調子にのる。分かった分かった自販機でええやろ?」
そう言って自販機で飲み物を購入した。
「でも良かったわ、いつもの大河に戻って。今日あった時なんて、まるで別人やったで、お前。」
「そうですか、ちょっと酒が残ってただけですよ…」
(よしよし、だいぶこの大河という男のしゃべり方にも慣れてきたな、これやったらなんとかいけそうじゃ)
そう思った矢先、浩介に買って貰ったコーラを飲んだ瞬間、男は口からコーラを吹き出し叫んだ…。
男はあまりの衝撃に勝手に言葉が出た。
「何じゃこりゃー」
隣にいた浩介もびっくりした
「びっくりさせるなよ。こぼしてもうたやんけ」
「すいません。喉に詰まって」
男は苦し紛れにごまかす。
(ここの飲み物や食べ物は、口に入れる前に身構えとかんと身体がもたんぞ)
「じゃアホしとらんでさっさと親父が言ってた店行こか」
「あれ、頼まれたの僕ですけど…」
「見守りや見守り。俺はそっと後ろから見とくだけやから、確認は大河が全部やるんやで。」
「兄貴、暇なんですか?」
「お前、もっぺん言ってみぃしばくぞ」
「冗談ですよ。頼りにしてますよ兄貴。」
そう言って2人は歩き始めた。
10分くらい歩くと目的の店に到着した。
まだ昼頃で店は開いていなかったので、裏口から中に入った。
「すいませ~ん、水仙組からきた者ですけど、誰かいてませんか~?」
そう男が言うと奥から女の人が1人出てきた。
まだ開店前で衣装、化粧などで着飾っていないが、それでも品のある雰囲気の人が出てきた。
女の人を見た男は
(似てるな、あいつに)
「あなたがコウジちゃんの言ってた人~?なんか若くない~大丈夫~?」
コウジちゃん…
男と浩介は笑いそうになる
「大丈夫ですよ、こいつはしっかり頼まれた仕事は最後まで責任持ってやりますので。それと俺もついてますから」
そう浩介が女の人に伝えた。
「兄貴~そこは僕が言うセリフですよ。」
そう言うと男は仕切り直して
「水仙組組員、近藤大河です。組長から店で何か困ってるって聞いて今来たところです。何なりと言ってもらえれば対処できますので、よろしくお願いします。」
女の人はしっかりした物言いに態度を改め
「先ほどは失礼いたしました。クラブミーナ代表の片桐怜香といいます。よろしくお願いします。」
「では早速、何で困ってますか?」
「1ヶ月程前からがらの悪い人らがお店に通うようになったんですよ。最初は特に何もせずお酒飲んでちょっと騒ぐくらいで終わってたんですけど」
「ある時から、キャストに触ったり、しつこく絡んだり、大声で叫んだり、店前に待ち伏せされてたり、だんだんとやることがエスカレートしていって、店の前にゴミ置いていったり。最近は私にも絡んでくるようになってきて、後つけられたり正直ちょっと怖くなってきてて」
「前々からコウジちゃんにはそれとなく言ってたんだけど、あまり迷惑もかけられないし、みかじめ料もほとんど払ってないし、被害っていう被害は出てなかったからね。
でももう限界だからなんとかしてって頼んだの。」
「金とか要求されたりは?」
「それが、何もないねん」
「何も?」
「うん、お金出せとか、何かしろとか、そういうことは一回も言われてない。せやから余計に何がしたいんか分からんくて‥‥‥‥」
そう話し終えると、大河は怜香に一言断った。
「そうなんですね。分かりました。ちょっと待って下さいね。」
男はすぐに浩介のところへ行く。
「大河、なんや気味の悪い連中やな。でもここのケツモチが俺らって分かっていらんことしてるかもしれんな」
「そうなんですか。でもなんでうちって分かったらいらんことできるんですか?」
「うちはここらじゃ弱小組やから、それにつけこんでやりたい放題してくるってことや」
「そういうことですね...‥どこの世も似たようなものやな‥‥」
「大河、今何て言った?」
「いえいえ、独り言ですから、気にせんと」
「兄貴これとりあえず親父に報告した方がいいですよね?」
「そうやな、まず親父に報告してそっからの対応やな」
「怜香さん。とりあえず親父にこのこと報告にいきます。そっから対応しますのでしばらく待っといて下さい。」
「分かりました。お願いします。」
「よし、じゃ1回事務所戻ろか。」
そう言った所で浩介の携帯が鳴る
「もしもし、どないしたんや?あーまたトラブルか~?分かった分かった。すぐそっち向かうわ」
「大河、ごめん。ちょっと急用できたから先に事務所戻っててくれるか?」
「分かりました。元々僕1人の仕事やったし僕から親父に伝えとくんで大丈夫ですよ。」
「すまんなぁ、じゃちょっと急ぐからまたな」
そう言って浩介は走っていった。
「さて、じゃ僕も行くんでまた後ほど来ます。」
「あっ待って、なんかあった時すぐ連絡とれるように番号教えて欲しいねんけど?」
「分かりました。僕、機械もの苦手なんでやってくれますか?」
「えー今時の子やのに変わってるねぇ~?」
そう言って連絡先を入れてもらった
「じゃなんかあったらすぐ連絡して」
「分かったぁ~今日は来てくれてありがとう。」
そう言ってクラブミーナを後にした。
だが、ものの数分後
男の携帯が鳴る。画面には「片桐怜香」の名前が表示されていた。
男はすぐ出た。
「大河君、助けて。さっき言ったガラの悪い男5~6人お店の前に来てドアこじ開けようとしてるねん」
「分かった。すぐ行くからどっか見つからんとこに隠れとき」
そう伝えて電話を切って、男は一目散にクラブミーナへ向かっていった。




