3話 説教
水仙組事務所 10:30
水仙組の事務所までの道のりは身体が覚えていた為、男は迷うことなくたどり着いた。
事務所の前で誰かが待っていた。
またいつもの情報が頭に流れてきた。
林浩介
35歳 大河の兄貴分で何かと面倒を見てくれている
「おい大河、早くこっちこい。もう若頭待ってるぞ。はよせんとまた何言われるかわからんぞ」
(なるほど、先ほどの声の主はこやつか、どうやら大河とは親しいらしいな)
男は心の中でふと思う。
「さっきも言っていたが、若頭というやつはワシに何の用じゃ」
「‥‥大河、お前そのしゃべり方なんやねん…
また時代劇観すぎておかしくなったんか」
「お前歴史好きって言うてたけど、流石に今のこの状況でそのしゃべり方はまずいで‥‥」
「何を言ってる、ワシは元からこのしゃべり方だ。
何が悪い」
「あーまだ寝ぼけてるかぁ…それかまだ酒抜けてないんか?...」
「まぁどっちにしろそのしゃべり方なんとかせいよ。でないと若頭からど偉い目にあうぞ」
そう言われ男は黙った。
(しゃべり方をなおせなんてどうにもできん)
「ワシはワシじゃ、指図するな」
そう啖呵を切った、その時だった。
またしても大河が浩介と普段話していた記憶の断片が頭へ流れ込んできた。
「浩介さん、何してるんすか」 「僕そんなん知らないっすよ」
過去の会話が脳裏をよぎる
その後男はまた黙った。
(これがこいつのしゃべり方‥‥なんだこの変なしゃべり方。)
(こいつ自体妙にへりくだった感じだな)
(まぁだがさっきと一緒で郷に入れば郷に従う。
くそっ、気に食わんがワシは今1人じゃ。何をしようにもできん。従うしかないな)
「おーーい、大河大丈夫か…腹でも痛いんか?」
「大丈夫です。浩介さん。僕昨日酒飲み過ぎておかしくなってたんですわ…」
男は苦虫を噛み締めたかのような顔で浩介に言った。
「お前なんやねんその顔。おもろ過ぎるやろ。まぁ良かったよ、元に戻って、じゃ行こか」
そう言って2人は事務所に入っていった。
事務所に入ると4~5人の男が立っていた。
その奥にはひときわ立派な椅子に腰掛ける男がいた。
その時また頭に情報が流れる
柳智史
35歳 水仙組若頭 組長の息子
その時男と智史の目があった
開口一番智史は言う
「おいっ大河、一体今何時と思ってるねん。」
「昨日事務所で、明日10時にこいって言ったやろ」
「もうボケてきたんかぁ、一番下っ端のお前が何してんねん」
男は頭に流れ込んでくる知識から、智史の言葉の意味を理解した。同時に自分が罵倒され馬鹿にされていることも分かった。
「すいません。僕昨日酒飲み過ぎて朝起きれなかったんですよ。以後こういうことがないように気をつけますんですいません。」
「そんな謝罪だけで許されると思ってるのか」
言葉では謝っていたが、男は腸が煮えくり返るほど怒っていた。
(面識のないやつにいきなりここまで言われたのは初めてだ。ましてワシにこんな言い方するやつなんぞおらんかった。今この場で切り殺したい)
男は拳を強く握り締めた。爪が掌に食い込みわずかに血が滲んでいる。
それを見た浩介が、すかさずフォローに入った
「若頭すいません。俺が昨日遅くまで飲みに付き合わせてしまってそれで寝坊してしまったんです。
俺の監督不行き届きのせいです。以後気をつけますんで今回は許して下さい。」
「まぁ浩介今回だけだぞ、ちゃんと教育してけよ」
「分かりました。以後気をつけます」
(この浩介ってやつ見所があるな)
ふと男は思った。
浩介が庇ってくれたことで、男の握り拳からも力が抜けていった。
そして話は、男が呼び出された本題へと移った。
「大河、お前この組に入って何年になる?」
頭に情報が流れてくる
「4年になります。」
「お前、4年になるのにまだろくに仕事もできないよな~、組に貢献できないやつはお荷物なんだよ。
お前極道向いてないんじゃないか?もうやめちまうか?」
「そんな、僕なりに頑張ってますけど、なかなか結果に繋がらないだけで…‥」
「そう言っても努力だけで飯が食えるわけじゃないやろ。」
(こいつ、いちいち言い方が癇に障る)
「これからどうするねん?なんか誓約書でも書かせよか?」
「『近藤大河は今後、組に貢献できへんかったら水仙組をやめます。』みたいなもんをな」
(こいつがここの主なのか…?だからこれほど横柄な物言いができるのか?)
(それにしてもたいした器ではないな)
(誰が好き好んでこんなやつの下で働かないといけないんだ。こっちから願い下げや。)
そう思った途端、男はそれを口にした。
即断即決、無駄な時間は使わない。男はそんな気性であった。
「ああ、若頭。分かりました。」
「何が分かったんだ?」
「本日をもってこの近藤大河、水仙組を辞めさ――」
そこまで言いかけた、その時だった。
事務所のドアが開いた。
そこに現れたのは
水仙組組長、柳浩二だった。




