↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天下と極道』 ~戦国×任侠=人生は苦難の連続だが、己が信念を貫き我が道を行く~  作者: ダイヤマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/27

第14話 力の差



 翌日の昼過ぎ、大河は繁華街の外れにある喫茶店で、三人の男と向かい合っていた。


「見つかりましたで、大河さん!」


 席に着くなり、真二が得意げに声を上げた。周囲の客が振り返るのも構わず、テーブルへ身を乗り出す。


「昨日話してた紅蓮隊の幹部連中、最近は別の雑居ビルに集まってるらしいですわ!」


「ほう。場所は分かったんか?」


「もちろんです! 知り合いを何人か当たって、ようやく突き止めました!」


 大河は満足そうに頷いた。


「よくやった、真二」


「いやぁ、それほどでも!」


「……顔、にやけすぎやろ」


 隣で勝人が呆れたように呟くと、真二は嬉しそうな表情のまま言い返した。


「ええやんけ! お前なんか昨日から何もしてへんやろ!」


「俺は余計なことせんようにしてるだけや」


「それを何もしてへん言うねん!」


 二人のやり取りを聞きながら、大河は真二から詳しい場所を聞き出した。


 目的の建物は、飲食店や風俗店が立ち並ぶ一角にあるという。紅蓮隊の幹部らしき男たちが、ここ数日、頻繁に出入りしているらしい。


「お前ら、その幹部連中とは面識があるんか?」


「俺は何回かありますよ。まぁ、向こうが覚えてるかは分かりませんけど」


 真二が答えると、健太郎も静かに頷いた。


「……俺も顔は知ってます。でも、あんまり話したことはないです」


「勝人は?」


「まぁ、顔ぐらいは知ってますけど……できれば会いたくないですねぇ」


「なぜだ?」


「面倒なこと言われるん、目に見えてますやん」


 勝人は心底嫌そうに肩を落とした。


 三人とも紅蓮隊に所属していたとはいえ、上層部の事情には詳しくない。幹部たちが何を考え、誰の指示で動いているのかまでは知らないようだった。


(ならば、直接聞くしかあるまい)


 大河は残っていたコーヒーを飲み干し、席を立った。


「よし、案内しろ」


「えっ、今からですか?」


「場所が分かったのだろう? ならば行かん理由はない」


「いや、そうですけど……」


 真二が困ったように笑う横で、勝人が深いため息をついた。


「ほんま、休む暇もないなぁ……」


 四人が目的の雑居ビルへ到着したのは、それから三十分ほど後のことだった。


 建物の一階には営業前の飲食店が入り、上階へ続く階段の脇には、煙草を吸う若い男たちが三人ほどたむろしていた。


 真二たちの姿に気づいた一人が、眉をひそめる。


「おい、お前ら……真二ちゃうか?」


「あっ、どうも」


「どうもやないやろ。お前ら、何しに来たんや?」


 男の視線が健太郎と勝人を通り過ぎ、大河のところで止まった。


「……おい、まさかこいつ」


 もう一人の男が煙草を地面に落とす。


「クラブミーナでうちの連中やった奴ちゃうんか?」


 途端に、その場の空気が険しくなった。


 真二が何か言おうとしたところで、大河が一歩前へ出る。


「紅蓮隊の幹部に話がある。通してもらおうか」


「はぁ? 何で俺らがお前を通さなあかんねん!」


「別に暴れに来たわけやない。話をしに来ただけや」


 大河の穏やかな口調が、かえって男たちを苛立たせた。


「お前、自分が何したか分かってんのか?」


「分かってますよ。殴りかかってきた連中を返り討ちにした。それだけの話ですわ」


「この野郎……!」


 男が詰め寄ってくる。


 しかし、大河は退かなかった。相手の目をまっすぐ見据えたまま、静かに言葉を続ける。


「ここで騒ぎを起こしたら、お前らも困るんちゃうか? 上の者に確認してくれたら済む話やろ」


 男は舌打ちしながらも、階段の奥へ姿を消した。


 数分後、戻ってきた男は不機嫌そうに顎をしゃくった。


「……入れや。上で待っとる」


「おおきに」


 大河は軽く礼を言い、階段へ足を向けた。


「大河さん、ようあんな普通に話せますね」


 後ろから真二が小声で尋ねる。


「何がや?」


「いや、相手は紅蓮隊ですよ?」


「知っておる」


「怖ないんですか?」


 大河は振り返り、少し笑った。


「怖がる理由があるんか?」


 その答えに、真二は思わず言葉を失った。


 三階の部屋へ案内されると、煙草の煙が鼻をついた。


 中央には大きなテーブルが置かれ、その周囲に数人の男が座っている。壁際にも若い構成員が立ち、入ってきた四人を値踏みするように眺めていた。


「お前が近藤大河か」


 奥の椅子に座っていた男が口を開いた。


「そうですけど」


「うちの連中をボコボコにして、今度は何の用や?」


「少し聞きたいことがありましてな」


 大河は勧められるのを待たず、空いていた椅子へ腰を下ろした。


 その振る舞いに、幹部たちの表情が険しくなる。


「誰が座ってええ言うた?」


「立ったままやと話しにくいでしょう」


「……舐めとんのか?」


「いえ。話をしに来たと言うたはずです」


 大河は相手の怒りを受け流し、クラブミーナの件を切り出した。


「あの店への嫌がらせ、誰の指示でやったんや?」


 幹部たちは互いの顔を見合わせた。


「……何の話や?」


「とぼけんでもええ。ひと月も嫌がらせを続けて、金も要求せん。何か理由があるんやろ?」


 奥に座っていた男が、苛立たしげに机を叩いた。


「お前に関係あるんか!」


「ありますよ。今は僕があの店の担当ですから」


「水仙組の人間やったな、お前」


「ええ、そうです」


 男は鼻で笑った。


「水仙組の下っ端が、偉そうに口出しすんなや。お前らみたいな弱小組織が、うちに何を言うつもりやねん」


 周囲からも嘲るような笑いが漏れる。


 しかし、大河は怒るどころか、興味深そうに男たちの顔を眺めていた。


(なるほど。こやつらにとっては、組織の名と人数が力のすべてというわけか)


 大河は椅子に座り直すと、穏やかな口調で続けた。


「僕からの要求は二つだけです」


 人差し指を立てる。


「一つ。今後、クラブミーナには一切手を出さんこと」


 続けて中指を立てた。


「二つ。誰の指示であの店に嫌がらせをしていたのか、説明してもらうこと」


「……それだけか?」


「ええ。この二つを守ってもらえるなら、これ以上揉めるつもりはありません」


 幹部の一人が、呆れたように笑い始めた。


「ハハハ! お前、ほんまに頭おかしいんちゃうか?」


 別の男も椅子から立ち上がる。


「お前、ここがどこか分かって言うてんのか?」


「分かってますよ。せやから、こうして話をしに来たんです」


「舐めとんのか!」


 怒鳴り声が部屋に響き、真二が思わず前へ出ようとした。


 だが、その腕を健太郎が掴む。


「……真二、待て」


「でも、あいつら……!」


「真二、まだ動くな」


 大河は振り返ることなく告げた。


 真二は歯を食いしばったものの、それ以上は動かなかった。


 その様子を見た幹部が、今度は三人へ視線を向ける。


「そういや、お前らもおったな」


 男は真二を指さした。


「お前ら、誰の許可を取って紅蓮隊を抜けたんや?」


「……別に、あんたらの許可なんかいらんでしょ」


「何やと?」


 真二は一瞬ためらったが、大河の背中を見てから言葉を続けた。


「俺らはもう、あんたらの言うこと聞くつもりありません」


「裏切り者が偉そうに!」


 幹部の一人が椅子を蹴り飛ばし、真二へ殴りかかった。


 その瞬間、大河が動いた。


 男の拳が真二へ届くより早く、大河の手がその手首を掴んでいた。


「……何っ?」


 男が驚いて腕を引こうとする。


 しかし、大河は離さない。


「話し合いは、ここまでということやな」


 先ほどまで浮かんでいた笑みが、大河の顔から消えた。


「てめぇ、離せや!」


 男が空いた手を振り上げた。


 大河はその動きに合わせて身体をずらし、男の勢いを利用して床へ倒した。


 鈍い音が響く。


「ぐあっ!」


 あまりにも一瞬の出来事だったため、周囲の男たちは反応が遅れた。


「こいつ!」


「やってまえ!」


 二人の男が同時に飛びかかってくる。


 大河は椅子から立ち上がり、一人目の拳をかわすと、相手の懐へ踏み込んだ。腹部へ短い一撃を入れられた男が身体を折り曲げる。


 続く男が横から殴りかかるが、大河はその腕を受け流し、体勢を崩したところへ足を払った。


 男は机の端にぶつかり、そのまま床へ転がった。


「な、何やこいつ……!」


 部屋の空気が一変した。


 人数では圧倒的に有利なはずだった。


 ところが、目の前の男は慌てる様子もなく、次に動く相手へ視線を移している。


 大河にとって重要なのは、相手が何人いるかではなかった。


 誰が先に動くのか。誰が怯み、誰が勢いだけで突っ込んでくるのか。


 それを見極めれば、狭い室内で全員を同時に相手取る必要はない。


「うおおっ!」


 真二も飛び出した。


 襲いかかってきた男の拳を受けながらも、構わず前へ踏み込み、強烈な一撃を叩き込む。


「おらぁ! さっきから偉そうにしやがって!」


 倒れた相手をさらに追いかけようとしたところで、健太郎がその肩を掴んだ。


「……真二、もうええ」


「離せや! まだこいつ……!」


「もう倒れてる」


 健太郎の低い声に、真二はようやく足を止めた。


 一方、勝人は戦いが始まった時点で、すでに部屋の隅へ移動していた。


「はぁ……やっぱりこうなるんか」


 面倒くさそうに呟きながら、倒れた椅子を避ける。


 そのとき、壁際にいた男が健太郎の背後へ回ろうとした。


「あー、健太郎。後ろ」


 気の抜けた声だったが、健太郎はすぐに振り返った。


 殴りかかってきた男の腕を受け止め、そのまま押し返す。男は後ろによろめき、壁に背中をぶつけた。


「……ありがとう、勝人」


「ええよ。俺まで巻き込まれたら嫌やし」


 勝人はそう言うと、再び壁にもたれかかった。


 それから数分も経たないうちに、部屋の中は静まり返った。


 床には倒れた男たちが呻き声を上げ、立っている者も大河へ近づこうとはしない。


 大河は乱れた服を整えながら、奥にいた幹部へ歩み寄った。


「さて、もう一度聞こうか」


 幹部の顔から、先ほどまでの余裕は消えていた。


「クラブミーナへの嫌がらせは、誰の指示や?」


「……知らん」


「本当に知らんのか。それとも言えんのか?」


「……」


 男は唇を噛み、視線を逸らした。


 大河はしばらく待ったが、それ以上追及することはしなかった。


 ここで無理に口を割らせたところで、得られる情報が正しいとは限らない。それに、今の男たちがすべてを知っているとも思えなかった。


「ならば、話は簡単や」


 大河は男の前で腰を落とした。


「お前らが答えられんのやったら、頭に聞くまでや」


「……頭?」


「紅蓮隊のリーダーや。会わせてもらおうか」


 男の表情が強張った。


「そ、それは……」


「何や、まだ話し合いが必要か?」


 大河が静かに尋ねると、男は慌てて首を振った。


「分かった! 連絡する! せやから、もう手ぇ出さんといてくれ!」


「最初からそうしてくれたら、こんなことにはならんかったんやけどな」


 大河は立ち上がり、三人を振り返った。


「お前ら、怪我はないか?」


「俺は大丈夫です!」


 真二が元気よく答える。


「……俺も平気です」


 健太郎も頷いた。


 最後に勝人へ視線を向けると、本人は退屈そうに欠伸をしていた。


「俺は何もしてへんので」


「そうか」


 大河は小さく笑った。


 真二は勢いがあり、健太郎は周囲をよく見ている。そして勝人は、どうにも掴みどころがない。


 まだ三人を十分に理解したわけではないが、少なくとも同じように扱うべきではないだろう。


 その頃、別の場所にいた丹波望のもとへ、一件の電話が入っていた。


『丹波さん、大変ですわ!』


「何や、そんな慌てて」


『近藤大河が、幹部連中のところに乗り込んできまして……!』


「へぇ」


 丹波は椅子に深く腰掛けた。


「ほんで?」


『話し合いにならんで、喧嘩になったんですけど……幹部連中、みんなやられました』


「……ほんまに?」


『はい。しかも、あいつらリーダーに会わせろ言うてます』


 丹波は一瞬黙り込んだ後、声を上げて笑った。


「ハハッ! もうそこまで行ったんか!」


 電話の向こうの男は、丹波の反応に戸惑っているようだった。


『笑い事ちゃいますって!』


「いやいや、すまんすまん。それで、誰か大怪我でもしたん?」


『いや、そこまでの怪我はないみたいですけど……』


「ほな、ひとまずええやろ。詳しい話は後で聞くわ」


 通話を終えると、丹波は携帯電話を机へ置いた。


 大河が幹部たちの居場所を突き止めること自体は、予想していた。


 だが、これほど早く直接乗り込み、しかも相手を倒してしまうとは思っていなかった。


「近藤大河……なかなか無茶するやん」


 丹波は笑みを浮かべたまま、窓の外へ目を向けた。


 喧嘩が強い人間なら、紅蓮隊にも何人かいる。


 しかし、聞いた話が正しければ、大河は最初から暴れるつもりで乗り込んだわけではないらしい。


 交渉を持ちかけ、相手が拒絶した末に衝突となった。


 そして勝った後も、幹部たちを必要以上に痛めつけず、リーダーとの面会を要求したという。


「腕っぷしだけの男やないみたいやな」


 もっとも、今回の出来事だけで大河の器を判断するつもりはなかった。


 弱い相手に勝つことと、組織を動かすことは別の話だ。


 紅蓮隊の今後について思うところはあっても、丹波にとっては今の地位も居場所も、簡単に捨てられるものではない。


「さて、次はどうするんやろなぁ」


 丹波は楽しそうに呟き、机の上の缶コーヒーへ手を伸ばした。


 一方、大河たちは雑居ビルを出たところだった。


 幹部からは、リーダーへ連絡を入れるという返事を取りつけている。


 ただし、いつ、どこで会えるかについては、まだ返答がない。


「大河さん! あいつら、思ったより大したことなかったですね!」


 真二が興奮した様子で拳を握った。


「そうかもしれんな」


「次はいよいよリーダーですね!」


「ああ」


 大河は通りの向こうへ目を向けた。


 紅蓮隊の幹部たちは、人数と組織の威勢を頼みにしていた。


 だが、その上に立つ者まで同じとは限らない。


 どのような人物が組織を率いているのか。それを見なければ、紅蓮隊という集団の本当の姿は分からないだろう。


「……これで終わってくれたらええんですけどねぇ」


 勝人がため息交じりに呟いた。


「何や勝人、もう帰りたいんか?」


「当たり前やろ。昨日から歩き回って、今日は喧嘩までして……俺、何でこんなことしてるんやろ」


「お前、ほとんど戦ってへんやんけ!」


「せやから疲れたくないんや」


 真二が呆れた顔をすると、健太郎が小さく笑った。


 大河もそのやり取りに口元を緩めたが、すぐに表情を引き締めた。


「次は、紅蓮隊の頭や」


 三人が大河へ視線を向ける。


「さて、どんな男が出てくるんやろな」


 その声には、恐れも焦りもなかった。


 ただ、まだ見ぬ相手への興味があった。


 紅蓮隊との争いは、いよいよその頂点へ近づこうとしていた。


 そして大河は、まだ知らない。


 自分がこれから対面する男が、想像しているような人物とは大きく異なることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。