第6話 変態と変身
「おせーぞ、お前ら」
明るいクリーム色のお洒落ボブに丸いメガネをかけた女子が手を上げる。名前は巳家キャリーで右耳に複数のピアスをつけるのが、おっかなく感じた。
ブラウスに赤と黒のチャック柄スカート姿は普通だが。ハーネスや腰、太もものベルトがアクセサリーと共にいかつく映る。そこへ網タイツが加われば個人的に近づきがたい代表のファッションだ。
「真上ちゃんには行ってこいの許可をもらったんだけどさ、斑柄ちゃんと巳家ちゃんを連れてくように言われてね。くぅ、二人きりのデート計画が!」
「餌をぶら下げて出歩くのは藤雉じゃ足りねーよ」
「車でドライブなら平気でしょ」
「その油断が命取りだ」
三人で警戒が必要なほどの世紀末は想定外だ。というか、陰で餌って呼ばれてんの?
「さて、着替えて日が暮れる前にサクッと楽しもう!」
「テーマはバンドでいいか」
「合わせるの好きだねー」
とにかく、危険がある以上は全てお任せだ。藤雉の背中を追い、エレベーターを出た右側に向かう。コンクリートっぽい壁には扉があり、入ると縦に長い部屋が現れた。左右に大量の服が並ぶ様子は圧巻だ。
「武達、脱がしてくれよ」
巳家がニヤリと笑い両手を広げる。誘惑はドスケベホイホイの罠。捕まれば、ぶっ飛んだ性癖に蹂躙されてしまう。
「世話すんだから見返りはマストだ」
「ダメでーす。今日の巳家ちゃんは任務扱い、ただのお仕事でーす」
「はぁ?」
「でもね、武達ちゃんは義理堅くエロエロな男の子。いいとこを見せてポイントを稼いだら、もうすごいよ」
「……」
ポイント制が広まるのはまぁいいとして。黙って悪い顔するのやめません?
「しゃーねーな。ニコニコタダ働きで我慢すっか」
巳家は鼻歌交じりに服を選びだす。周りに比べて華奢な体型は不思議と力強さがある。控えめな胸も膨らみは綺麗でツンと上をむ……。
「って、おい!」
慌てて回れ右で視線をそらす。
「何でブラジャーを着けてないんだよ……」
潔い脱ぎっぷりに間に合わず。まともに両の眼で捉えてしまった。
「おれか? 着けてたら苦しいしな」
「セクハラはポイントにマイナス査定でーす」
「勝手に見てきたんじゃねーか」
「配慮をお願いしまーす」
後ろにいた斑柄も険しい表情で耐えている。着替えには訓練で居合わせて、巳家がどんな人間か知ってるだろうに。欲望は抑えて凝視をやめろ。
「はーい、二人はこれ持ってそっちね」
「かーっ! 仲良く着替えっこかよ!」
服を渡されて途中の短い通路から小さな部屋に移る。壁のラックには拳銃やナイフなど物騒なアイテムが掛かっている他、様々な工具が置いてあった。こういう物を目の当たりにすると、より社会の異常性を実感するな。
斑柄が脱ぎ始めたので背を向けて、こちらも着替える。上はカップ付きのタンクトップでドクロのデザインが派手だ。下はロングスカートなため女装の意図が伝わった。体型を隠すジャケットには鋲が打たれ、ゴテゴテな印象を受ける。
「似合ってますよ」
「そりゃどうも」
お互いに新鮮な服装を眺める。肩出しの長袖に革のぴちぴちズボンは、いつもと違う魅力に溢れていた。
衣裳部屋に戻ると藤雉がショートパンツ、巳家がミニスカートで二人とも、へそを晒す際どさだ。
「武達ちゃんはこれもね」
マスクに手袋と帽子で男の要素は、ほぼほぼゼロに近づく。
「おれがメイクしてやるよ」
手を引かれて武器部屋の正面にもある通路を進み、色々な道具が積まれた別の部屋に入った。
「藤雉! ギターケースに武器を詰めてけよ!」
「ほーい」
奥の化粧台で丸椅子に座り、されるがままに目元を別人へ変えられていく。マスクを着けるため最低限で構わないが。
「ロングウィッグ姿も見てーけど帽子をかぶるんだしな」
完全に遊ばれてるか、これ。
「あぁ、斑柄のやつが羨ましいぜ。ケツも舐め放題かよ」
「そういうのはちょっと対応外で……」
「マジ? 恋人のくせに?」
「恋人だからこその気遣いだ」
「ヤリてーことだらけなのに、そりゃないぜ。百ポイントぐらい稼いだら、さすがによくねーか」
「ポイントはまぁ……信頼関係次第で……」
「へぇ、拒絶せずに望みを残すんだな」
水色の瞳が嗜虐的な笑みを見せる。言葉を間違えたか?
「おー! 武達ちゃんがすっかり女の子だ!」
メイクを終えると拍手で褒められる。悪い気はしないのが自分でも意外だ。
「じゃー行くか」
部屋を出て広い空間に戻る。いくつも立つ太い柱には、地下にありがちな電灯が備わっていた。
どこへ向かうのか疑問に視線を彷徨わせると、何台もの車が駐めらている。初めに思った通りに駐車場なのか。ファミリーカーから高級車に軽トラまで種類は多様だった。
「街なかを歩くなら途中で降りる?」
「盗まれても面倒だしな」
「おっけー」
二人が選んだのは軍用にありそうな濃緑色の小型車両だ。後部座席に斑柄と乗り込む。幌屋根が珍しく外観より余裕はあった。
「出発するよん」
巳家は助手席に座り、藤雉の運転で車が動き出した。
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