第3話 交換条件
朝の教室には、だらけた空気が漂う。寮が近くギリギリまで睡眠に時間を割けても、それを見越した夜更かしで眠たくなるのだ。昨日は特に色々あって悶々とベッドの上を転がった。
皆が集まるのを斑柄と確認して、そろそろやるかと席を立つ。二人で教壇に上がり前を向いた。
「お? どしたん君ら」
すぐに注目が集まって寝ぼけた顔や疑問に首を傾げる様子を見渡す。
「俺たち、付き合うことになった」
「……はぁ!?」
流れた沈黙は一瞬で騒ぎに変わる。
「いやいやいや! ダメだってば!」
「抜け駆け禁止!」
「や、ヤッたのか……お前ら!」
見事に詰め寄られて、あれやこれやと矢継ぎ早に聞かれた。おい、股間を触ったの誰だ?
「今日はやけに賑やかだな」
朝礼前に報告だけ済ます予定がクラスメイトはしばらく静まらず、真上先生がやってきた。
「武達くんが斑柄さんと付き合うなんて言い出しました!」
「私は二番目でも構わんぞ」
止めてくれるかと思いきや、ふざけたノリで肩を組んでくる。
「……胸が当たってます」
「わざとだ」
「先生セクハラ禁止!」
知ってた返しも尻の穴がキュッと締まる。嬉しいはずの感触が素直に喜べない身体になってしまったな。
「まぁ座れ、お前ら」
そして、散々騒ぎに混ざったうえで先生らしく場を収める。
「まず武達は精子観察中だ。性行為は禁止だぞ」
今はコールドスリープ後の各種検査を継続で受けている最中。種馬の期待も何かしらの問題があると、また人類再興の道が遠くなるとか。
「斑柄も分かってるな?」
「まだ処女膜はあります」
「まだってぶち破る気満々か!」
「武達の子供を第一に孕む権利は彼女や妻に与えられる。他がちょっかいをかけるのはやめろよ」
「ぐぬぬ……!」
付き合う申し出に承諾した理由がこれだ。遅かれ早かれぶち抜かれる、という指摘はさすがに怖い。まさにハーレムな状況も餌になるのは勘弁だった。
斑柄には交換条件を出されたが、大層な内容ではない。安心できる相手と協力関係を結べたのはラッキーだ。
とりあえずは、自分への接触に改めて釘を刺してもらえた。
「先生が一番セクハラ魔人だよね?」
「私はお前たちと違って偉いんだ」
「ぶーぶー!」
授業が始まると皆も落ち着いて、休み時間には俺より斑柄を囲んで質問攻めにする。表情は険しいけどあれか、ボディタッチが多いし内心は喜んでるんだよな。
昼休みの食堂では念のため二人で隣同士に座る。本当に付き合ってるのかどうかを疑われても面倒だった。
「あ! カップルが並んで教室を出て行くよ!」
放課後になったあとも注目の的で困る。
「恋人は一緒に帰るものですよね」
「くそがあああ!」
意外と後ろをついてくるクラスメイトはおらず、寮に続く渡り廊下を歩く。校舎も合わせてコンクリート系の無機質な建物だ。
やはり、現状の社会を考えると凝ったデザインに作る意味は薄いのか。様々な人が住む町並みを見てみたいけど、そんなチャンスが訪れる気配はかった。
寮では制服のまま斑柄の部屋へ入る。真っ当な恋人なら甘いひとときを過ごすんだろうな。
「じゃあ、女子への耐性をつける計画を練るか」
「お願いします」
早速、尻の安全を得た交換条件に着手しよう。
「クラスで大人しいのは誰になるんだ?」
「うーん、控えめなのは錆咬さんでしょうか」
フルネームは錆咬甲だったな。全員を必死に覚えた際、見上げる背の高さと一致させたっけ。話しかけられた覚えもないし適役か。
「呼び出す人物は決定で一旦、手をつなぐ方向性でいこう」
斑柄が自然に振る舞えるラインは謎なので、簡単なことから試すべきだ。
「理由は任せてください」
軽快なトークで普通に誘導できそうだが。付き合う宣言と同じ日は、いくらなんでも怪しまれて流れに支障が出るか。まぁ日を改めたとてな気はする。
「あとは……特になし?」
「武達さん頼りです」
ずさんにもほどがある計画だな。俺の尻が蹂躙されて、斑柄の女好きが露呈したところで命には無関係。当たって砕けろで尊厳をベットだ。
パカケーを手にオワイプで連絡を取ってみる。
【武達@Takedachi】
『暇?』
【錆咬@Sabikame】
『暇、です』
反応のスピードに若干戸惑うが。放課後時間に携帯をパカパカしてれば気づくか。
【武達@Takedachi】
『斑柄の部屋に来れる?』
【錆咬@Sabikame】
『今すぐ』
積極的な勢いを短い文字数に感じ、インターホンが鳴る。いや、扉の前で待ってたレベルに早くて驚く。廊下を走るな、なんて校則はないし超ダッシュですっ飛んできた?
危険度は一瞬で増したが玄関に行き扉を開けると、頭ひとつ分以上も高い錆咬が立っていた。
「……どうぞ」
無表情の迫力に負けず部屋へ招くと頷かれる。身長も相まってか、黒髪がより長く見えた。
「こんにちは」
「うん」
斑柄と錆咬は自然な動作で挨拶を交わす。二人とも黒いセーラー服を着るが、リボンは地味な灰色だ。スカートはロングもロングで、深いスリットが入っている。ガーターベルトに尻すらチラリとは……。
「黒髪に黒いセーラー服、横に並んだら姉妹と言われても納得のビジュアルだな」
「竿姉妹になれるかは錆咬さん次第です」
「え?」
また妙なことを口にしてと顔を見たら、険しい表情で睨まれた。
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