第12話 潜入、精〇搾乳工場
『地上部分は空っぽだ。倉庫の地下が入り組んでるぜ』
「ルートは共有しました。こんな場所に大胆ですねぇ」
パトカーから戻って来た瀬十陸さんが、ヘッドセットを耳にパカケーを操作する。
「一応は見回りをやるんだよね?」
「キャッツヘルシティはエリアに近く定期的なチェックを行います。ただ、この頃は特に殉職を避けろと上がうるさいんですよねぇ。誰かの手が入る横道を記録しても、調査には数十人態勢で挑むため簡単にできません」
「警察も色々と大変かー」
巡回すら銃で蜂の巣に合う危険性と隣り合わせなのは容易に想像がつく。皆が巳家のように撃たれて平気なわけがないし。死亡率を下げて安全な仕事アピールは人員を集めるのに必須か。
「E案件はどういう意味を持つんだ?」
「緊急対処案件で特に男の子が巻き込まれてる犯罪かなー」
男女比が偏る世の中では重大なカテゴリーに当たるんだな。全ての男を管理下に置いて安全を図るパワープレイは、さすがに人数が少なくても難しそうだし。金儲けの犠牲になることはあるか。
「護衛しますので先に戻るのはいかがでしょう」
ここのアジトが重要な施設なら仲間がやってくるかもしれない。瀬十陸さんの提案はありがたいが、まだ警戒を続ける巳家を残すのもなと首を振る。
今後リスクを考えて社会見学の禁止令が出たら、直接的に現実を知る機会も失われる。せめて、どんな犯罪が行われているのかを確かめたかった。
しばらくすると上空で音が聞こえ始めて大型のヘリが飛んでくる。近くでホバリング状態になると、黒のボディスーツに身を包む女性たちがロープで降りてきた。機械的な背骨に関節部のプロテクターがスタイリッシュだ。
十人を超える規模で倉庫に向かい、そのうちの三人が車の周囲を守る。両手に持つのは拳銃よりもサイズが大きくアサルトライフル未満の銃器だ。装備は肩当てと腰当て程度で身体のラインが目立つ。警官ではなく完全に兵士の風貌だった。
さらに、装甲車両が五台も走ってきて事態の深刻さが分かる。
「あれ、あの人……」
「男性保護官ですねぇ」
止まる車から降りた、濃紺の作業服を着る姿は明らかに男。やつれてるので年齢は読めなかった。
「心に傷を負う被害者へ女が接触しちゃうと、余計にダメージを与えかねないしさ」
犯罪の現場で働くとは驚きだ。それも同性を助けるためだなんて、気概を持つ人物がいるんだな。兵士に囲まれながら担架を引いて倉庫へ入って行った。
「ついでに俺も入れるか?」
「前向きだねー」
男性保護官とやらの仕事ぶりは見ておきたい。きっと、種馬以外に役割があれば手心を加えてもらえる可能性が生まれる。控えめで清楚にお淑やか、加えて歪みなき性癖の女性と出会うのは望み薄だ。覚悟を決めても人類再興へ捧げる尻に限界はあった。
『今回はちっとばかしキツイぜ』
「そんなに酷いんだ?」
『精〇搾乳工場だな、こりゃ』
「わお、初めてにはしんどいかー」
何かとんでもワードが聞こえたんだけど?
「武達ちゃん、やっぱり大人しくしとくのがいいと思うよ」
「いや、行かせてくれ」
「精神的ショックで寝込んじゃうと困るしなー」
「なら手前で男性保護官を見学したい」
平然と過ごせれば資質ありの証明になる。働き先の確保に頑張るか。
「でもなー」
『ま、気分が悪くなったら戻ろうぜ』
「これが救世主男の子……素晴らしいですねぇ」
車を降りて瀬十陸さんとダクスさんの二人とは別れ、斑柄と藤雉に挟まれて歩く。周りで警戒を行う三人の兵士も黙ってついてきて、万全の態勢だ。
倉庫に入ると謎の機械が並んでいた。3Dプリンターと異なるのは錆び付きで分かる。
奥の小部屋に地下へ続く階段があり慎重に進む。電気系統は生きていて狭い通路が灯りに照らされる。配管や扉などに、どこか潜水艦っぽさを感じる構造だ。もちろん乗ったことはないが。
明らかに新しい血の跡を発見すると近くに縦長の袋が置かれる。この膨らみは、おそらく巳家が処した犯罪者だ。兵士の方々による後始末か。
藤雉の背中を追い右に左に先を行くと別の死体袋が三つ現れる。奥には広めの部屋が存在し、多くの人が待機中だった。
「へーい、全員来たな」
「お疲れちゃーん」
巳家とも合流できたが頬や服の至る所に血が付いている。まさか撃たれたとは信じられない元気さで一安心だ。
「っ!」
「おっと?」
突然、やつれた男性保護官が正面の開いた扉から飛び出してくる。隅へ蹲り身体を震わせるので、横に屈んで声をかけた。
「ひっ……!」
「あ、俺は男です」
帽子とマスクを外し、笑顔でアピールする。声音と共に分かってもらえたようで、ホッとした表情に変わった。
「すみません……少し気持ち悪く……」
「あとは任せてください」
こんな状態では作業を続けるのも難しい。ここはピンチヒッターの出番だろう。
「もー、まずはチラッと覗くだけね」
正面の扉に近づいみると、向こうは通路の片側にスペースが設けられる空間だ。紫色のライトが怪しく光り、天井に様々なケーブルが垂れ下がる。壁際の機械類は重低音を響かせて稼働中か。
そして、最も異様なのが段差に三つ並ぶ透明な浴槽だった。澄んだ色付きの液体で満たされるため反射により見えづらいが手前は空っぽで、残り二つに人の身体が入っていた。
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