第11話 救世主男の子とドンパチ騒ぎ
海上輸送で運ばれるタイプの巨大コンテナが並ぶ景色は壮観だ。斜めに五段も積まれてカラフルさが際立った。
「あれも家なんだぜ? 住み心地は意外とイケるって噂だ」
コンテナハウスは断絶前にも存在したはず。ある物は利用しろの精神か。
徐々に周りが荒れ始めると路面電車のレールもなくなる。道はひび割れてしまい、メンテナンスの滞りが分かった。
電柱と街灯の数が減って夕暮れ時に不安が増す。逆さに潰れるコンビニの残骸へ車が突き刺さり、球形タンクがいくつも転がる様子はまさに終末だ。
「右に通れそうな場所はあるか?」
「ありまーす」
瓦礫の間に不自然な砂利道が現れ車を走らせる。傾いたビル同士が支え合って生まれる三角形の空間はゲートに見えた。
「こういうとこは、なーんかやだよね」
「武達を連れて来るとこじゃねーな」
「きみさー、ちゃんと警戒しなさいよ?」
「任せろって!」
本当に危険があれば引き返すと信用はしてるけど、心配に眠気は覚める。ガタガタと身体を揺らしながら先を進み、重なる車へ蔦が絡まるオブジェを横目に植物の生命力を感じた。
「お、そろそろだぜ」
地面がコンクリートに変化、原形をとどめる建物が現れる。ガソリンスタンドにボーリング場と、工場のような倉庫が建っていた。
「車が駐められてんな。ちょっくら行ってくるか」
「警察には連絡済みです」
「応援の到着前に終わるかなー」
「余裕だぜ。片付いたら犯罪者のアジト見学な!」
面白半分に踏み入れていいものなのか。巳家は車を降りてギターケースから折りたたみ式のナイフを複数服に仕込ませた。
「念のため通話をつないどいてくれよ」
「ほいほーい」
藤雉がパカケーを手に、ディスプレイ側の背面へくっつく円形の装飾を外す。いや、それ外れたんだな。隠れたマイクが伸びると完全に片耳用のヘッドセットだった。
「さぁ皆殺しの時間だ」
巳家は物騒なセリフを残し倉庫に向かうが、まずは逮捕を目指すとかあるだろうに。刑務所などの収容場所にコストをかけるぐらいなら、なんて理由すらあり得るのが怖いところだ。
ヘッドセットを取るのに苦戦すると斑柄が世話を焼いてくれる。ロックがあるのねと学び耳にかけた。
通話はアプリで共有されて鼻歌が聞こえてくる。緊張感のなさが伝わるな。普通、仲間が大量にいる想定で動くものだと思うが。
そして、短く息を吐いたと同時に物音が続く。
『へい、一人始末完了!』
「そんな騒いじゃってさー。どんどん来ちゃうよ」
『手間が省けて助かるぜ』
車の中でさえ肩に力が入る。さらに銃声が響いてドキリとした。
『ひゅー、三人でアサルトライフルのぶっ放しかよ』
さすがにマズいのではと斑柄を見るが、片方の眉を上げる仕草で焦りは皆無だ。藤雉も同様の態度を取るのは信頼で合ってる?
銃声はすぐに鳴り止み、上機嫌に鼻を鳴らすのが伝わった。
『ま、ちょちょいのちょいだ』
「被弾は?」
『何発か食らったかもな』
「バカだねー」
え、銃で撃たれたんだよな?
「手当てに戻るべきじゃ……」
「巳家ちゃんは死なずの脳筋で通ってるから」
『ジャムは獣や無生物だけに限らねーんだよ』
なる、ほど……つまりは人型のジャム? 正直ピンとこないが超能力と考えれば納得……できるか? 非現実的に感じるのは終末経験の浅さゆえだろうかと諦める。
しかし、ヘッドセット越しに続くドンパチ騒ぎを心配せずに聞けと言われてもな。銃撃を受けて平気でいられるとは到底思えなかった。
「お、警察様の到着じゃん。早かったね」
一台のパトカーが荒れた道を走ってきて近くで止まる。白黒カラーに馴染みはあるが、バンパーにガードが付いていたりで装甲が厚い。フォルムに治安の状況が読み取れた。
降りてきたのは二人の女性警官だ。濃紺の上着に黒のタイトスカートの制服は、行政機関にしては色気が漂う。
「柄の悪い車が駐められていますねぇ」
黒緑に金が混じる髪色の警官が、助手席側の窓から覗き込む。上着の開き具合が随分で、トラ柄のブラジャーが見えていた。網タイツを穿いてるし目のやり場に困る格好だ。
後ろに立つもう一人の警官は上着を全開にタンクトップ姿だが、丈が短めでへそが出ている。前を切り揃えた黒髪に凛々しい顔つきも、背の高さと筋肉質な身体のせいで怖く映った。
「ラムちゃんやっほー」
「斑柄さんの連絡で何かと思いましたが、藤雉さんもですか」
「今、巳家ちゃんが掃除中だよん」
「それはそれは、事後処理が大変になりますねぇ。そちらは新入りの方でしょうか」
「聞いて驚け! 我らが救世主男の子! 武達役馬ちゃんだ!」
「おっと、失礼しました」
警官の二人ともが上着を閉める。そういう配慮があるんだな。教室じゃパンチラが当たり前の環境なため新鮮だった。
「私は瀬十陸羊と申します。下の名前が羊なのでラムと呼ばれがちです」
「自分はダクス・マールです」
これはどうもと挨拶を返す。
「外出時とはいえ、女装をさせるのは関心しませんが。理由あってのことでしょうか」
「武達ちゃんを舐めてもらっちゃ困る。斑柄ちゃんと恋人同士だし、不健全男子代表のビッチなんだよねー」
その紹介は語弊の塊で否定したくなる。普段、どれだけ誘惑に耐えていると思ってるんだ。主に身の危険を感じてだけど。
「……コールドスリープから目覚めた噂は本当だったんですねぇ」
どうやら大々的には知られていないらしい。瀬十陸さんがまた上着を開けて、ダクスさんも筋肉を見せてくる。こちらの反応を窺う視線に戸惑いつつも、頷いておいた。
「カーセックスさせてくれませんか?」
突然のストレートな言葉で面を食らう。肉食獣の眼光にキュッと尻の穴が締まった。
「ダメでーす。ハネムーン期間は斑柄ちゃん専用だし、外部の人に貸す余裕は……」
『おい、E案件だ』
「げ、マジで? ラムちゃん、E案件だってさ」
「……すぐに報告します」
ふざけた空気が一瞬で張り詰めて、瀬十陸さんがパトカーに走る。何か厄介ごとが起きたのは明らかだった。
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