三十九日。
「もう声ががらがらなのー…」
カラオケから出て、がらがらでいつもより低めの声のまま声を出す。こうやって声が沈んでる時は、抵抗が感じられてちょっと楽しい。
楽しいってちょっとおかしいのかも。
「あんま歌ってないくせにがらがらになりやがってさぁ。ほぼ私だけだったじゃん。」
三時間弱歌い続けて疲れたのは私だけじゃなくて、いつもよりがらがらで鈍い声が文句を言う。
「もうちょっと抑えたらあと一時間はいけたのに。」
二人でカラオケ。仲良しだな。
「君が急にロックに曲げたせいでしょ。私悪くないもん。雰囲気に乗っただけなんだから。」
未だに興奮は少し残っていて、歩幅がずれたりずれなかったりと、忙しなく動く。
肩を並べたり、ならべかかったり。
「はぁー?先にくたばったくせにっ。サビは全部私に投げっぱなしだったじゃん。」
私が先に進んでも、遅れてしまっても。
「いーや。もっとやれたし。諦めが早いのよ。歌はもっと踏ん張って、傷ができない体勢をなるべく維持するゲームなのよ。」
慌てて私に合わせようとしない。
「文句あんのー?耐久力も、カラオケの点数も、私の方が高いですけどー。」
変わった。
「そうよ。もっと崇めてもいいんだぞ?」
焦ることなく、お互いの音を奏でる。
「んふふ。ちょっと気持ち悪い。」
不協和音は、いつの間にか和音になっていた。
「私のこと好きすぎじゃんー。」
最初から和音だったのを、今更気づいたのか。
「言わなくてもわかってるって。好きって言葉は軽いと信頼されないのよー?」
それとも。
「慎重に、ね?バラード歌う時みたいにさ、一文字一文字に心を込めて話すの。」
奏でる音が前とは違うものになったのか。
「今のキモかったー、ぃやぁっ、それやめてっ。」
嫌そうに顔を顰めて耳を塞ぐ。それを見て、追い打ちをするようにもっと意地悪な声で好きを放つ。
好きって言葉も冗談で言える間柄。
だんだん、恋人とは遠くなる気はするけど…
「違う違う!そんなもんで愛を勝ち取れると思うか!お手本聞かせたげるから、ちゃんと聞きなさいっ。」
それはそれで、楽しみだ。
恋愛感情がいなくなった私たち。
きっと、今よりもっと、楽しいのだろう。
「ちゃんと目を見て、熱を込めて言うの。」
今は、少しだけ胸が苦しいから。
「好きだよ。」
楽しいから苦しいって、変なの。
「どぉ?きゅんってした?」
人の心はやっぱり脆いものだ。
「ぶぶー。まだまだだな。」
脆くて、ちょっとこねこねしたらすぐ形が変わってしまうのだ。
「まだ私をきゅんきゅんさせるには百年早いんだから。出直して来い!」
だが、脆いから。
弄ぶのが楽しいのだ。弄ばれるのも、楽しいのだ。




