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三十四日。

「んにゅーぅっ。」

 なんか、変な声出ちゃった。

「なになに?可愛い声が聞こえたぞー?」

 久々にお母さんと一緒に買い物に来たから、やけに疲れてしまったのかも知れない。

「陽鞠は柔らかいねぇ。お母さん、もうそんなに伸ばしたら怪我すると思うよー。」

 のほほんとしたお母さんは好きだけど、ゆったり過ぎて、気が蕩けてしまうのだ。

 こっちまでのろのろになりそうだ。

 怠惰になるとも言える。

「突っつかないの。」

 脇腹を突くお母さんの手を振り払いながら、先を歩く。袋が擦れる音がやけに大きい。

「反抗期なのかなぁ。寂しい。」

「そうだよ。反抗期だし。」

「素直なのに反抗期?えー、ツンデレってことー?」

「ふんっ。」

 怠惰になるのがちょっと嫌なだけで、お母さんが嫌いではないのに、冷たく話してしまう。

 ちょっとだけ、申し訳ない。

 いつもこう思うのなら、やらなきゃいいのに。やってしまうのはどうしてだ。

「ねぇ、陽鞠。」

「…なに。」

 突然と真剣に、ゆったり感が消えたお母さんの声に少しだけ戸惑う。

「聞いたよ。恋人できたんだって?」

「ぁ……うん。」

 恋人じゃなく友達って言い直したかったけど、わざわざ否定する必要もないのだと思って、すぐにやめた。ちょっとした間のせいで、照れてるって思われるのかも知れない。

「陽鞠はその子、好き?」

「ぁん…?」

「ふふーん、まだ好きじゃないんだ。恋愛的な意味で惹かれてるわけではないのか。じゃあ、告白されたんだ。やっぱりうちの子、魅力的なんだから」

 見透かされたようだった。

「きっと思わせぶりはよくないとか思って、陽鞠なりに相手を愛してるんだろうね。」

「……そう。」

 なんでわかるんだろう。

「相変わらずだねー。懐かしー。あなたが赤ちゃんの頃、幼稚園でも同じことあったのになー。覚えてないでしょうけど。」

「幼稚園…?そんな歳に?」

「そうだよ。帰ってきたら急に『こくはくされた!でも好きじゃないし、友達になった!』って言ってくれたもん。お母さん驚いたよー?こんな若いのに、誰も傷つけずによく出来たなーって。」

「ふーん……」

「その後に友達で過ごしてたら、なんだか好きになって…ほぼ付き合ってるようだったよー。あの歳の付き合いなんて、一緒に遊ぶくらいだけどね。お父さん達が意気投合して、あんた達連れて旅行に行ったっけ。これは覚えてる?」

「覚えてない…」

 次々と流れる、私が知らない私の情報が…かなり、面白かった。

「ふふ、陽鞠ったら、あっちの子になる!って言い出してお母さん達困ってたんだよね。お姉ちゃんも嫌!って泣きじゃくってたし。」

 今も昔も、そこそこ私は変わってないのかも知れない。私だけじゃなく、お姉ちゃんも。

「話戻して……その恋人さん、どう思ってるの?昔みたいに将来的には近しい関係になるのかな。陽鞠、人と付き合うのは遅いけど一度分かり合えばかけがえのない関係になるんだから。」

 楽しかった昔話は急に途切れ、お母さんはのほほんとしたいつもに戻って話した。

「陽鞠はどうなりたい?その子と。

「たぶん………」

 お母さんは達者だ。私の心の本音を暴く達者。

「付き合うかも。」

 よくわかんないけど、お母さんには曖昧な私の心をはっきりとしてくれる力があるようだった。

「あらぁ。」

「孫の顔見せてあげる。」

「それはちょっと早いんじゃないかな。お母さん、子供は結婚した後に作って欲しいけど。」

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