三十二日。
「運動しようよー。もっと美人になれるよ?街ゆく誰もが振り向くような美少女に生まれ変わるの。」
相変わらずの日、美羽にだる絡みされる日常の中に、いつもと違うのが一つ。
「ねぇ、あなたもそうでしょー?陽鞠が運動したらもっと可愛くなると思うでしょ?そうだと思ったよー。健康美はなにより美しいんだから。」
美羽と、私達で三人。
「返事しなくてもわかるんだよ。好きな人の不健康な姿より、健康な姿が見たいのは当たり前なんだから。わたしもそうだし。」
言葉なんて聞こうともしない美羽に流されて慌てる姿がなんだか微笑ましい。同時に、自分の意見もまともに言えないのかってがっかりもする。
でもこれは間違った考えだ。美羽は相手が話す隙を一切与えてくれないから。
「美羽が先に健康美を見せてくれたら。じゃあ一緒にやるかも知れないよ?」
「むぅ、嘘つき!絶対やる気ないじゃん。」
ずるずる流れるか、受け流すか。
「バレたー?」
「もうっ。」
美羽とはその二択しかない。わかりやすい。
だから、好き。
「むふふ。美羽ちゃんったら、そんなに私と汗流したいの?」
「……流したいけど、そんな言い方だとちょっと気に入らないな。」
「素直じゃないなー。私、素直なのが好きなのに。」
素直なのが好きって言った途端、ほぼ無意識に私と汗を流したいって言う人が一人。
「…そうやって自分から口にすると、恥ずかしいとか、気持ち悪いとか、思わない?」
ドン引きのような美羽に、慌ててあれこれと言い訳を述べる姿はさながらサーカスのようだった。
ずっと新しいのが現れて、それが予想も出来なかったもので、ぽんぽんと。
「陽鞠はこんな子が相手でいいの…?」
美羽の顔にはだんだん呆れが溜まっていく。
そんな美羽のせいで、ますます慌てる顔が見えた。いたずらしたくなるような、そんな顔。
「嘘だったの?その場のノリで、私と汗を流したいって言ったのかなぁ。私、流されやすい人は嫌なんだけど。」
ピタッ。言葉も、動きも止まった。
それから、はっきりと。
「真顔でそれ言われると…流石にちょっと、気持ち悪いかも。」
人と汗を流したいなんて、汗だくになってタオルで拭きあったりとかしてみたいとか。
かなり、妄想が詳しい。
「まぁ。いつかはそういう日が来るかも知れないよ。頑張ってみて、友達さん。」
「……友達さんって…なんだか、色っぽい呼び方…ラブコメの気高いヒロインみたい。」
美羽の独り言にちょっとだけ頷くのが見えた。
「主役って観点で見ると、ヒロインであってるか……ラブありコメディーありなんだから、二人って案外ラブコメなのかも…?」
二人揃ってうんうんって頷く。
「ぅー!いつの間にそんな恋をしてるなんて!羨ましいよ!わたしもラブコメやりたいよ!」
着いていけないのは私だけだった。




