二十二日。
たまに、そういう日がある。
何もしなくても何かに押し潰されそうになる日。
これから訪れるであろう未来に、まだ片鱗すら探してない遠い、遥かな未来に怯える日。
押し潰されて、全てが無意味のように感じられる日。
生が無力感で溺れるそんな日。
「…はぅ。」
そんな日は、こっそり誰もいないところで一人、音楽を聞く。昔から大好きなやつ。
の、ピアノバージョン。
ピアノは不思議だ。悲しくもあれば、涼しくもあって、聞いてて泣き出しそうな気持ちになるけど、憧れる。やってみたいって思って、まだ生きていこうって、諦めるには早いって思えさせる。
強引なやつだ。私の感情の揺らぎをいとも容易く、好きなように操れるんだから。
ちょっと聞いただけでみた元気になった。
「あ、こんばんは。」
不安と無力感が少し引いた時、あの子が現れた。どうすればこんなにも、私の居場所がわかるのか。
息一つ乱れてないということは、走ってもないみたいだ。本当にストーカーなのだろうか。
「座る?ここ、私の好きなところだよ。」
そっと椅子のスペースを空いて、促す。
「聞く?片耳あげるよ。」
そのまま一つのイアホンに二人でつける。私が左で、相手が右。お互い座ってる位置と同じで、少し遠くなって外れそうになる。
だから、少し近づいた。
「私、この曲好きなんだ。大好き。いつかこの歌を演奏してみたい。歌ってみたい。全て、私の手で作ってみたいなーって思うの。」
左耳から大好きなピアノの音が流れる。
「お姉ちゃんが聞いてたのを一緒に聞いてたら、いつの間にか好きになってた。」
右耳からは、息をする音が聞こえる。
「これ聞いたら、なんだか…昔のことが思い浮かぶようで、浮かばないような。頭の中で、イメージすらなりかけてないなにかが思い浮かぶの。」
風がふわり、顔を過ぎる。
「不思議なの、本当。あの頃が懐かしいのかな。でも、あの頃のどこが懐かしいのかよくわからない。未練、多分、未練みたいなやつじゃないかな。でも、何が気に入らないのかもわからない。」
冬が近づいてきた。
「戻りたいのかも知れないよ。ただ、無邪気にはしゃいでたあの頃に。」
秋の端っこの風は冷たくて、鼻の先が少しだけじーんってなる。泣きたくなるような感じ。
「まぁ、今も子供だけどね。」
曲が終わる。終わりに向けて静かに、滑らかに。
そして、ぱちっ。
徐々に消えるようで、唐突に消えるような感じ。昔から好きだった。
「うわっ。」
それから流れる最新のポップス。圧倒的な音量差につい声が出てしまう。
「ごめん、うるさくない?」
慌てて音量を下げる。
「あれね、ピアノだけだから、音が暇なの。今時の歌はほかのもいっぱいで、耳が疲れる時もあるんだよね。もう少しは減らしてもいいのに。」
そんな私を微笑ましく眺める視線が感じられた。
「なにー?あ、もしかして私の趣味を嘲笑ったんでしょ?!むー、許さないーっ。」
それが少し、耐え難くて、胸をポンポンと叩いた。




