拒絶
結局、シリウスは朝になっても帰ってこなかった。イリスはベッドの上に腰掛けた状態でぼんやりとしていた。そっと袖を捲って手首を見ると、昨日の縛られた跡が残っていた。イリスはそっと赤くなった跡をなぞった。
―シリウス様。一体、どうして…?それに、最後のあの表情…。
心が苦しい。昨日された行為は怖かったがそれよりもイリスはシリウスの最後に見た表情が忘れられない。支度をしなきゃと立ち上がり、着替えをする為に服を脱ぐと鎖骨や首に赤い鬱血跡が残っていた。昨日、シリウスにつけられた跡だった。そっと鬱血跡に手を触れる。
―何か…、理由があったのかもしれない。シリウス様は考えなしに行動するような方じゃないし…、まだ少し怖さはあるけど…、それでも、聞いてみよう。そうすれば…、
イリスはシリウスと話をしようと決意した。けれど、シリウスはいつまで経っても帰ってこなかった。我慢できずにイリスはシリウスの姿を捜そうと部屋を出て行った。甲板に出てみるがそこに、シリウスはいない。何だかいつもより、騒がしいな。見れば、船が港に停泊していた。イリスはきょろきょろと辺りを見回した。
「よお。アランじゃないか。そんな所で何してるんだ?」
「今日はシリウスは一緒じゃねえのか?珍しいな。一人だなんて。」
声を掛けてきたのはグレンとジャミールだった。イリスは二人に頭を下げて挨拶をすると、
「あの…、シリウス様はどこにいるかご存知ないでしょうか?昨日の夜から姿が見えなくて…、」
「シリウス?さあ…、あいつは気付いたらいなくなって気づいたら現れているからなあ。」
「そう…、ですか…。」
シュン、となったイリスにジャミールが
「何だ?喧嘩でもしたのか?」
「いえ…、喧嘩というか…、」
「お。シリウスじゃねえか!」
グレンが指さした方向に目を向ければそこにはシリウスがいた。イリスは急いで駆け寄った。
「シリウス様!」
イリスは彼を呼び止めるがシリウスはそのまま背を向けたまま立ち去ろうとする。イリスは再度シリウスを呼ぶと、漸く立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。
「…何だ。俺は忙しい。手短にしろ。」
「あ、あの…、お話したいことがあって…、」
「それは今すぐしなければならないことか?」
「い、いえ…。今すぐでなくても…、」
「なら、次の機会にしてくれ。」
「あ、あの…、シリウス様。お忙しいのなら何かお手伝いできることはありませんか?」
「結構だ。一人で事足りる。」
「ま、待ってください!」
そのまま背を向けるシリウスの袖を掴んで引き止めるがその瞬間、バシッとイリスの手は振り払われた。
「…触るな。」
今までにない冷たい表情で拒絶の意を示すシリウスにイリスは呆然としたまま手を下ろした。声が出ない。何か言わなければならないのに。彼の明確な拒絶にイリスは何を言えばいいのか分からなくなった。そのまま、去っていくシリウスの後姿をイリスはただ見送るしかできなかった。




