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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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後悔

泣かせるつもりはなかった。シリウスは酒瓶を煽り、髪をぐしゃりと搔き乱した。船長の手前、イリスに執着していると悟られるわけにはいかなかった。だから、あえて突き放したような言葉を言った。まさか、それを聞かれていたとは思わず。そればかりか…、あんな場面まで見られた。イリスには絶対に知られたくなかった。あの女との歪な関係を。軽蔑するかと思いきや、イリスはよりにもよって自分とメアリーが恋人だと誤解した。…船長と恋人など想像するだけでも身の毛がよだつ。だが、よく考えればイリスの性格上、そう誤解するのも仕方がない。爛れた生活を送っていた海賊の自分とは違い、イリスは純粋培養で箱入り娘だ。そういった関係になるのは恋人か夫婦だけだと思っているのだろう。…世の中には情や愛などなくても打算と利益だけで身体を繋げる男女が幾らでもいるというのに。シリウスははあ、と溜息を吐いた。誤解を解こうと思ったらイリスは船長に渡さないでと懇願した。つまり、イリスはあのシリウスの言葉を真に受けたのだ。確かに自分はそう言った。けれど、自分がイリスを船長に差し出すような男だと思われていた。その事実はシリウスを苛立たせた。イリスは少しもシリウスを信頼していなかったのだ。それだけではなく、イリスは自分が船長の代わりだと思っていた。そして、自分を手元に置いているのは船長への鬱憤を晴らす為ではないかと。その言葉で何かが切れた。気が付けばイリスを押し倒していた。そこまで言うのなら望み通り犯してやると激情に駆られた。どうせ、イリスにとってシリウスの評価は最悪なものだ。今更、それが悪くなったところで大して変わらない。いい加減、限界だった。男と二人っきりでしかも、同じ部屋で生活しているというのにイリスは警戒心がないのか夜は無防備に眠り、シリウスの傍を離れようとせずにいつも一生懸命について回り、絡まれた船員や幹部から追い払ったり、少し世話を焼いただけでシリウスに満面の笑顔で礼を言う。こちらを安心しきった眼差しで見つめる。それがまるで親にはぐれないように必死に後を追いかける雛鳥の様で何故か心が温かくなった。イリスと一緒にいるのは心地よかった。男に慣れていない様子だったからそういった気配は見せないように配慮していたがそんな自分が馬鹿らしく思えた。今まで我慢していたものが一気に放たれてしまった。彼女の悲鳴も表情もどれも嗜虐心を煽るだけで止まらなかった。触れた肌は柔らかく、吸い付くようで甘い匂いがした。気が付いた時にはイリスは泣いていた。彼女は本気で嫌がっていた。当然だ。好きでもない男にあそこまでされて、平気でいられるはずがない。嫌だ、やめてと何度も言っていたのにそれを無視して無理矢理事に及ぼうとした。あれで自分への評価は地に落ちただろう。元から、そこまで高くもなかったが。シリウスは自嘲する。いつ以来だろう。あそこまで感情が高ぶったのは…、自分にもまだこんな人間らしい感情があったとは思っていなかった。あの日以来…、感情など消え失せてしまったのだと思ったのに。

―何て恐ろしい人なの…!あんたは人間じゃない!悪魔…、まるで悪魔だわ!あんたには心がないの!?

ナイフを振りかざし、泣き叫んでこちらを睨みつける女の姿が思い浮かぶ。

―本当に…、お前は人形みたいだな。その顔だけではなく、中身まで…、何をしても何をされても動じない。お前の心は氷の心臓でできているのか?

揶揄するように笑う男の姿。

ああ。そうだ。その通りだ。彼らにそう言われるずっと前から…、シリウスの心は凍り付いていた。だから、自分が心を動かされることはないと思っていた。ましてや、愛や情といった下らない感情に動かされることはないのだと。そう思っていたのに…、シリウスは視線を落とした。指に嵌められた銀の指輪が目に入った。これをしておいて良かった。もし、これを嵌めていなかったら…、イリスは…。そこまで考えてシリウスは深く深く息を吐きだした。イリスといると、調子が狂う。次に何をするか分からない。少しの間、時間が必要だ。

―暫く…、あいつとは距離を置いた方がいい。

銀の指輪がキラリ、と怪しげに光った。


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