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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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偵察

「え?偵察…、ですか?」

イリスはある日、いつものようにシリウスと古代語の解読をしていた。不意に彼から次に行く島で偵察隊として出向くことになったと聞かされた。その島はあまり誰にも知られていない未開の島で密林が生い茂って、どんな生き物や人が住んでるかもわからないのだという。だからこそ、偵察をする必要があるのだという。

「お前を一人にはするのは些か不安だが俺が留守の間は部屋に籠っていれば大丈夫だろう。鍵もかけているからな。だから、イリス。俺が帰ってくるまでお前は部屋から出ない方がいい。」

「あの、でも…、偵察だけなら私も一緒に…、」

「駄目だ。偵察とはいっても何が起こるのは分からない。まだ船にいる方が安全だ。お前はここに残れ。」

「はい…。分かりました…。」

イリスはシリウスの言葉に頷いた。しかし、

「…船長。悪いがもう一度言ってくれないか。」

「聞こえなかったの?アランも偵察部隊に参加させるって言ったの。」

それは突然の命令だった。島に着いてすぐ、船員は全員、甲板に集められた。イリスもシリウスを見送る為に出てきていたがそこでメアリーがいきなりイリスも偵察に行くように命令したのだ。

「船長…。こいつは偵察や戦い方は素人で使い物にならない。連れて行ったところで足手まといになるだけだ。他の船員を代わりに…、」

「何、私の命令に逆らうの?」

船長がスッと目を細める。その冷たい光を宿した瞳にイリスは心配そうにシリウスを見上げた。

「逆らっているつもりはない。ただ、他に適任者がいる筈だと…、」

「アランだって、このブラッディパンサー号の一員だもの。少しずつ、船員として仕事を覚えていかないとね。…そんなに心配ならお前が傍についていなさい。」

メアリーはシリウスの肩にポン、と手を置いてそう囁いた。シリウスは眉を顰めつつ、

「しかし…、」

「シリウス様。私なら、大丈夫です。」

イリスは咄嗟にシリウスの服の裾を掴んでそう言った。シリウスは数秒黙ったままイリスを見つめ、やがて、諦めたように溜息を吐いた。

「了解した。アランも偵察部隊に加える。」

島に降り立つと、イリスは心が浮足立った。ずっと船の上で生活して久々の陸地に足を踏み入れたのだ。目の前には生い茂った森が広がっている。澄んだ空気が気持ちいい。

「それじゃあ、シリウス。俺達は別の道から行くから。何かあったら、連絡しろよ。」

「ああ。」

シリウスと同じく偵察部隊であるジャミールはそう言って、複数の船員と一緒に森の中に入っていった。偵察部隊は二手に分かれており、後で落ち合うという流れの様だった。

「あの…、森の中でどうやって連絡をとるのですか?」

すると、シリウスは懐からブローチを取り出した。

「これを押すと、相手と通信が可能になる。ブローチを模った通信機のようなものだ。」

「わあ。便利ですね。そんな道具があるなんて知りませんでした。」

「あまり、出回っていない代物だからな。これも、メアリーがミハイルに命じて作らせた魔道具の一種だ。魔力持ちの人間にしか作れない。」

「魔道具…。」

イリスは感心してブローチを見つめた。魔法が便利なのは知っていたがこんなことまで応用できるなんて…。

「さあ、俺達も行くぞ。…はぐれるなよ。」

シリウスに言われ、イリスは慌ててシリウスの後を追った。シリウスと他の偵察部隊の船員達と一緒に森に入った。森の中に入ると、鬱蒼とした木々が覆っており、不気味なほど静かだった。船員達は辺りを警戒しながら歩き続ける。道に迷わないように木に目印を残していく。歩いている途中でシリウスが不意に立ち止まった。勢いよく背後を振り返る。

「シリウス様?」

「どうしたんすか?」

イリスはシリウスの行動に首を傾げ、船員達も訝し気に声を掛ける。

「…いや。何でもない。」

シリウスは首を振って歩き始めた。イリスもその後を追いながらも後ろに何かいたのだろうかと気になり、チラリと後ろを振り返った。が、そこには何もなかった。気を取り直して前へ向き直るが

「ぶっ!?」

急に視界が何かに覆われた。顔に絡みついて粘着性があり、気持ちのいいものではなかった。イリスは慌ててその顔についた何かを払った。よく見れば、それは蜘蛛の糸だった。イリスはサア、と顔色が青くなった。慌てて髪や顔を触り、蜘蛛がいないかを確認する。幸い、変な感触は手に触れずイリスはホッとした。そして、顔を上げた先には…、ひたすらに薄暗い樹木が生い茂る森が広がっており、人の気配も姿もなかった。

「え…?」

ついさっきまでシリウス達がいた筈だ。蜘蛛の糸に気を取られていたといってもたった数秒の出来事だ。それなのに、気付けば周りに誰もいないなどおかしい。せめて、数メートル先には誰かがいる筈だ。けれど、実際にイリスは辺りを見回すが誰の姿も見つからない。この森の中でイリスだけが存在しているだけのようなそんな錯覚まで抱いてしまう。

「シリウス様?シリウス様ー!」

イリスは叫ぶがシリウスの姿はどれだけ捜しても見つからなかった。まさか、はぐれてしまったのか。でも、あんな一瞬で?イリスは必死でシリウスの姿を捜した。

―いない…。どうして?どうして、誰もいないの?

イリスは森の中を走るが人影すら見つからない。皆、一体どこに行ってしまったのだろうか?焦りだけが先んじてイリスは必死に森の奥へ奥へと足を向ける。森を進んでいる内に道から外れてしまったのか来た道も分からなくなってきた。木の葉や枝が顔や腕に当たり、それを払って先へ進んでいくが視界が悪い上に疲れた足がふらつき、木の根に引っかかった。

「あっ…!」

そのままイリスは地面に倒れこんでしまう。う…、とイリスは必死に起き上がる。泥がついた顔を擦って目を開ける。すると、目の前には一匹の子猿がいた。大きな黒い目に白い毛並みの愛くるしい姿の子猿はイリスを見て、「キイ」、と鳴いた。どうして、こんな所に猿が?そう思いながらイリスは痛む足を引きずってイリスは近づいた。

「どうしたの?あなたも迷子なの?」

キイ、と猿は首を傾げる様子を見せて鳴く。その仕草にイリスは状況を忘れて可愛い、と胸をときめかせてしまう。

「野生の猿かな?もしかして、お母さんとはぐれてしまったの?」

イリスは頭を掻いて目をクリクリと動かす子猿を見て、その愛らしさにキュン、となった。

―か、可愛い…!

イリスは思わず手を伸ばした。しかし、次の瞬間、ぐにゃりと猿の姿が歪んだ。そして、イリスは猿の口から放たれた触手で首を絞めつけられた。

「きゃあああ!?」

首を絞めつけられたかと思えば、今度は腕や足、お腹や胸にも何かが絡みつく。ギリギリと身体を締め付けられ、苦痛と恐怖でイリスは悲鳴を上げた。チクリ、と何かが首筋に突き刺さった。イリスはくたり、と身体の力が抜けた。視界が霞んでいく。ぼんやりとした意識でイリスは前を見ると、そこには猿ではなく、巨大な口を開けた謎の生物が無数の触手をうねうねと蠢かせていた。植物を巨大化したようなそんな姿だった。蔓のような形状の触手はイリスを捕らえ、放そうとしない。イリスは恐怖で表情が凍り付くが身体が動かない。そのままイリスは植物の化け物にぱくりと丸呑みされてしまった。イリスの意識はそこで途絶えた。


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