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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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シリウスの命令

「足の腫れは引いてきているな。念のため、薬は渡しておく。」

いつものようにシリウスは船員を診察していた。診察した船員の一人に薬を手渡す彼の傍でイリスは必要な包帯やガーゼ、攝子等の必要な物品を渡したりしていた。診察を終えたシリウスと一緒に片づけをしていると、

「シリウスさん。あの…、」

その時、シリウスに船員の一人が近付き、耳打ちしてきた。

「…分かった。すぐ行く。アラン。少し席を外す。それを片付けたら部屋に戻って休んでいろ。」

イリスはシリウスの言葉に素直に頷いた。シリウスを見送ると、

「えーと…、確かこの薬草はこっちの棚に…、この粉薬は赤い瓶…、こっちの丸薬は…、」

イリスは一つ一つを声を出して言いながら確認するように決められた保管場所に戻していく。

「おーい!シリウス。悪いけど、ちょっと…、あれ?アランじゃないか。」

「あ…、」

イリスはデリックの姿に慌てて立ち上がり、会釈をした。

「すみません。シリウス様は今は席を外されていて…、」

「へえ。そう。シリウスはいねえのか。じゃあ、お前でいいや。ちょっとへまやったから手当てしてくれねえ?」

そう言って、デリックは血を流している腕を差し出した。船医であるシリウスの傍にいるイリスは薬の調合だけでなく、船員の診察や怪我の手当てもよく手伝うようになった。お蔭で船員からは彼の世話係兼助手であると認識されている。イリスはシリウスの医術を間近で見ているせいかある程度の応急処置や手当て位はできるようになった。なので、イリスは特に疑問に思うことなく、デリックの手当てをした。

「あの…、この傷どうされたのですか?」

まるで鋭利な刃物で切られたかのような傷跡だった。

「グレン達とちょっとふざけてやり合ってただけださ。あいつってば、熱が入りすぎると加減できなくなるんだよな。」

デリックは気にした風もなく笑っている。きっと、彼らにこんな事は日常茶飯事なのだろう。イリスは全く笑えないが。ふざけていつもこんな怪我をする生活なんてイリスにとっては堪ったものではない。

「とりあえず…、血は止まりました。暫くはこちらの腕はできるだけ動かさないように安静にしていて下さい。また、後でシリウス様に…、っ!?」

不意にイリスが顔を上げるとデリックが至近距離でじーとこちらを見つめていた。驚いてイリスは身を退いた。が、そんなイリスの腕をデリックが掴んだ。

「そう警戒するなよ。…まだ何もしてないだろ。」

「や…、放して…、下さい!」

イリスは振り解こうとするが男の力には適わない。怪我している腕で掴まれているのにびくともしないのだ。

「細い腕だな…。本当に男か?反応も…、男を煽っているようにしか見えない。」

イリスは息を呑んだ。まさか…、バレているのだろうか?イリスは顔色が真っ青になった。

「ああ。いいな。その顔。最高に…、ぞくぞくする。」

「こ、困ります…!し、シリウス様に見つかったらただでは…、」

「残念だったな。シリウスは暫く帰ってはこれないぜ。…俺がそう仕向けたんだから。」

「えっ…?」

「いつもあいつがお前に張り付いて手どころか話しかけるのもできなかったからな。けど、やっとあのうざったい番犬気取りの野郎を引き離せたんだ。…そんな怯えるなよ。ちょっと味見するだけだからさ。な?」

「嫌っ…!」

イリスは逃げるように顔を背けるが逃れることはできなかった。

「だ、誰か…!」

イリスは叫ぶがデリックの手によって塞がれる。イリスはじたばたと暴れる。その際に足元にあった瓶を投げ倒してしまった。

「暴れるなよ。どうせ、毎晩シリウスの相手してるんだろ?」

じわり、と視界が涙で滲む。怖い。誰か助けて…!

「ってええ!」

突然、掴まれた腕の拘束が解けた。次いでデリックの悲鳴が上がる。

「離せ。」

凛とした低い声が間近で聞こえた。イリスはそっと目を開けた。長い黒髪が視界に映った。

「し、シリウス!おい!て、手前…、怪我している腕を掴むなんてひでえじゃねえか!しかも、爪まで立てやがって!これ、絶対傷開いたぞ!」

「うるさい。自業自得だ。」

シリウスが手を離すと、デリックは腕を押さえた。

「ていうか、手前…、船長の所に行ったんじゃ…、」

「そのつもりだったが妙に胸騒ぎがしたから戻ってみればこれだ。」

「チッ…、相変わらず勘だけは鋭い奴…。」

舌打ちをするデリックをシリウスはスッと目を細めて見据えた。

「あれだけ忠告したのにまだ懲りずにこいつを狙っていたのか?…余程、俺を怒らせたいようだな。」

「はあ?何だよ。ちょっとからかっただけだろうが!」

「言い訳はいい。…あの薬はもうお前には調合しない。」

「な、何だと!おい!それはないだろう!まだ何もしてねえのに!」

「アラン。行くぞ。」

シリウスに手を引かれ、その後に続いた。後ろでデリックが叫んでいるがシリウスは全て無視した。

部屋に戻ると、シリウスは手を離して、イリスを見下ろした。

「あ、ありがとうございます…。シリウス様。」

イリスはぺこりと頭を下げた。危なかった…。彼が来てくれなかったらイリスは女だとバレ、貞操の危機に遭っていたかもしれない。そう言って、安堵のため息を吐くイリスにシリウスは

「…全く。目を離したらすぐこれだ。油断ならない。」

煩わしそうに呟き、

「グレンやジャミールは心配ない。あいつらは、根っからの女好きでお前を男だと思っているからな。だが、デリックは男でも女でもいける両性愛者だ。十分に気をつけろ。」

「はい…。あ、そういえば、デリック様に初めて会った時も言っていましたけど、薬って一体何の事なんですか?」

「ああ。いつもあいつからは媚薬を調合するよう頼まれている。」

「媚薬?それを一体何に使うのですか?」

「次の港で女を相手にした時にでも使うのだろう。俺の調合した薬は具合がいいらしいから、よく頼まれる。だから、それを取引材料にすれば大体は大人しくなるのだが…、あいつときたら俺にバレなければいいと思って…、お前なら少し脅せば口止めできると思ったのだろうな。」

否定できなかった。デリックに脅されればイリスはきっと黙ったままでいてしまうかもしれない。俯くイリスにシリウスは

「…心配するな。イリス。」

シリウスはポン、と頭に手を置いた。見上げればシリウスの鮮やかな青い瞳と目が合った。

「お前が俺から逃げ出したり、従順でいる限りはお前を守ってやる。だから、お前はできるだけ俺の傍を離れるな。いいな?」

「はい…。」

最初と同じような命令…。それでもイリスは彼の命令が理不尽には感じず、以前と違って嫌々頷いたりしなかった。不思議と彼の命令はイリスの心にスッと入ってきた。彼は責任感のある人だ。一緒に過ごしていてそれはよく分かる。だから、彼が守ると言った以上、その約束を破ることはない。イリスは不安だった心が和らぐのを感じた。

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