表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/145

【暴食の章】最悪の奇病

 空で崩れ落ちるベヒーモスの巨体。


 その影の下で、顕現していた魔獣が次々と斬り伏せられていく。


 主を失った獣は統率を欠き、連携もなく、ただ暴れるだけ。


 そこへ帝王軍の下級騎士たちが押し寄せる。


 数で囲み、確実に削る。


 避難誘導を終えた人員が戻り、武器を手にした者たちも増援として加わる。


 戦える者は全員が前線に立っていた。


 それでも。


 空気が違う。


 たった一矢。


 ベルフェゴールの放った一撃が、戦場の流れを完全に塗り替えた。


 あれほどの存在だったベヒーモスが、空中で解体された。


 その事実が、兵の心を削る。


(押し返せ……!)


 灰崎は歯を食いしばる。


 まだ終わっていない。


 魔獣は残っている。


 戦える者もいる。


 帝王は一人だ。


 だが現実は残酷だった。


 ひとつ、またひとつと魂の繋がりが断ち切られていく。


 最後の魔獣が槍で貫かれ、崩れ落ちた。


 完全な劣勢。


 騎士の一人がこちらへ突撃してくる。


 刃が迫る。


 その瞬間。


 横から何かがぶつかった。


 騎士の体が吹き飛ぶ。


 立っていたのは――人影。


 人の形をしている。


 だが様子がおかしい。


 肌は青白く、瞳は濁り、呼吸は荒い。


 理性を感じさせない動き。


 次の瞬間、その者は別の騎士へ飛びかかる。


 噛みつく。


 血が飛ぶ。


 悲鳴。


 そして。


 噛まれた騎士が立ち上がる。


 動きが変わる。


 瞳が濁る。


 同じように襲いかかる。


「……何だ、これは」


 困惑したその時、背後から声がした。


「遅い」


 振り返る。


「クロノス……!」


 無表情のまま戦場を見下ろす。


「あれがウェンディゴだ」


「ウェンディゴ……?」


「病気だ」


 淡々とした説明。


「感染すれば理性が崩壊し、攻撃衝動が増幅する。噛みつきによって伝播する」


 感染症。


 魔獣ではない。


 人を“変える”病。


 次の瞬間、空間が歪む。


 転移。


 視界が切り替わる。


 硬い金属床。


「ここは……?」


「強欲帝の飛空艇」


 窓の外に戦場が見える。


 そして足元。


「……サミエム!」


 アレクシエル・サミエムが横たわっていた。


 血に塗れ、意識を失っている。


 灰崎は怒りを滲ませる。


「何でウェンディゴなんて使った!」


 クロノスはしゃがみ込み、回復魔法をかけながら言う。


「問題ないだろ」


「どこがだ!」


「本来はベヒーモスの肉体を盾に持久戦に持ち込むはずだった」


 冷静な分析。


「だがベルフェゴールは想定以上に力を溜め込んでいた。一撃で沈んだ」


 否定できない事実。


「手持ちの魔獣も機獣もない」


 戦力は尽きた。


「ウェンディゴは感染症だ」


 淡々と続ける。


「放置すれば雪だるま式に増える」


 感染者が増え、混乱が広がる。


 統率は崩れる。


「敵兵の数を削り、戦線を乱す。合理的だ」


 冷酷な結論。


 灰崎は拳を握る。


 だが反論できない。


 事実として、戦況は再び動いている。


 敵陣が混乱に包まれていく。


 ウェンディゴという“病”が、戦場を侵食していく。


「勝つためだ」


 クロノスはそれだけ言う。


 その瞳に迷いはない。


 冷酷で、合理的。


 文句のつけようがない。


 灰崎は戦場を見下ろす。


 正しいのかどうかは分からない。


 だが――


 確実に、戦いは次の段階へ進もうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ