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【世界大戦編】生き残るための戦い

 防衛線が崩れた。


 爆発によって崩れた建物。


 瓦礫に埋もれた路地。


 煙に覆われた街。


 敵軍は、その隙間を埋めるように押し寄せてくる。


「全員、聞け!」


 ヴァイスの声が響いた。


 俺は剣を握り直す。


 周囲には、傷ついた兵士達。


 いや。


 兵士なんて呼び方をするのも違うのかもしれない。


 こいつらは元盗賊。


 元傭兵。


 戦場で生き残ることだけを覚えてきた奴らだ。


 ヴァイスが剣を掲げる。


「隊列を捨てろ!」


 一瞬。


 誰も動かなかった。


「……は?」


 誰かが間の抜けた声を出した。


「聞こえなかったか?」


 ヴァイスは笑った。


「隊列も、陣形も、作戦も全部捨てろ!」


「ヴァイス!」


 俺は思わず叫んだ。


「それじゃ軍隊として戦えないぞ!」


「知ってる」


 即答だった。


「軍隊としては下策だ」


 ヴァイスは敵軍を見る。


「だからこそ、こいつらにはそれが一番いい」


 敵軍が迫ってくる。


 全員が同じ速度。


 同じ方向。


 同じように武器を構えている。


 その光景を見て。


 ヴァイスは笑った。


「お前ら、自分が一番生き残れると思う方法で戦え」


「……勝手に?」


「ああ」


「仲間を待たなくていいのか?」


「待つ必要なんかない」


 ヴァイスは叫んだ。


「生き残れ!」


 その瞬間だった。


 戦場が変わった。


「だったら、俺はこいつを貰うぜ!」


 敵兵の一人と交差した盗賊が、その腕を掴む。


 敵兵が振り下ろした剣を受け流す。


 そして。


 そのまま剣を奪った。


「おい!」


 敵兵が叫ぶ。


「返せ!」


「嫌だね!」


 盗賊は笑いながら走る。


 奪った剣を振り回し、別の敵兵へ突っ込んだ。


「こいつらの武器、意外と使いやすいぞ!」


「だったら俺にも寄越せ!」


 別の盗賊が敵兵へ飛び込む。


 剣を奪う。


 さらに別の男が槍を奪う。


 弓を奪う者までいた。


 敵軍の武器が。


 敵軍自身を攻撃し始める。


「何をしてるんだ……」


 俺は呆然とした。


「盗賊ってのはな」


 隣にいた男が笑った。


「目の前に使える物があったら、使うんだよ」


 敵兵が武器を振る。


 それを盗賊が避ける。


 腕を掴む。


 奪う。


 蹴る。


 逃げる。


 また別の敵へ飛び込む。


 まともな戦い方じゃない。


 連携もない。


 作戦もない。


 なのに。


 敵軍の隊列が乱れていく。


「こいつら、邪魔だ!」


 敵兵が叫ぶ。


 だが、その声に反応する仲間はいない。


 敵軍は全員が同じ方向へ進もうとしている。


 その中に。


 勝手に動く盗賊達が入り込んでいる。


「俺はここが危ない!」


 傭兵の一人が叫んだ。


「なら俺は反対だ!」


 別の男が叫ぶ。


「好きにしろ!」


「言われなくても!」


 二人は別々の方向へ走った。


「おい! 戦線を離れるな!」


 敵ではない。


 味方の兵士が叫んだ。


 だが、傭兵は振り返らない。


「死ぬ場所で戦うほど馬鹿じゃねえ!」


 そう言って、建物の影へ逃げ込む。


 次の瞬間。


 そこを敵兵が通り過ぎた。


 傭兵は息を潜める。


 一人。


 二人。


 三人。


 敵が通り過ぎる。


 そして最後尾の兵士が背を向けた瞬間。


「今だ!」


 傭兵が飛び出した。


 背後から一撃。


 倒れた敵兵の武器を拾う。


 そのまま別の路地へ逃げる。


「……あいつ」


 俺は思わず呟いた。


 ヴァイスが答える。


「あいつらは戦場で正しいことをしてるんじゃない」


「じゃあ何をしてるんだ?」


「生き残ってる」


 その言葉が。


 妙に胸に残った。


 敵軍は、戦場全体を見ている。


 命令に従い。


 同じ方向へ進み。


 同じ敵へ向かう。


 だから。


 一つの場所が崩れれば、全体が影響を受ける。


 だが。


 俺達は違った。


 右へ行く奴。


 左へ行く奴。


 敵の武器を奪う奴。


 逃げる奴。


 隠れる奴。


 危険を察知して別の場所へ移る奴。


 誰も俺達の思い通りには動かない。


 だからこそ。


 敵にも読めない。


「サミエム!」


 ヴァイスが叫ぶ。


「お前も好きにやれ!」


「俺も?」


「そうだ!」


 敵兵が迫る。


 俺は剣を構えた。


 いつものように。


 正面から斬り込む。


 ――いや。


 違う。


 俺は周囲を見る。


 正面には敵。


 右には崩れた建物。


 左には細い路地。


 屋根の上には味方。


 なら。


 俺が一番生き残れる場所は。


「ここだ!」


 俺は左へ走った。


 敵兵が追ってくる。


 路地へ入る。


 敵も入る。


 その瞬間。


 屋根から男が落ちてきた。


「悪いな!」


 敵兵の武器を奪う。


 そのまま奥へ走る。


 俺は逆方向へ飛び出した。


「なっ――」


 敵兵が振り返る。


 そこへ俺の剣が入る。


 敵兵が倒れる。


 俺は止まらない。


 そのまま次の敵へ。


 目の前で。


 戦い方が崩れていく。


 だが。


 それは敗北への崩壊じゃない。


 これまでヴァイスが作ってきた「軍隊」という形を。


 自分達の生き方へ戻しているだけだった。


 盗賊は盗む。


 傭兵は逃げる。


 そして。


 生き残れる場所を探して戦う。


 軍隊として見れば。


 最悪だ。


 命令には従わない。


 隊列も維持しない。


 味方を置いて逃げることすらある。


 それでも。


 敵軍の中心が崩れ始めていた。


「押し返してる……?」


 俺は息を切らしながら呟いた。


 ヴァイスが笑った。


「ああ」


 そして。


 敵軍を見据える。


「俺はこいつらを、軍隊にしたかったわけじゃない」


「……」


「こいつらが生きてきたやり方を、捨てさせたくなかっただけだ」


 敵兵がまた突っ込んでくる。


 その横から盗賊が飛び出した。


 武器を奪う。


 傭兵が別の路地へ逃げる。


 敵が追う。


 その背後から別の仲間が襲う。


 誰も同じことをしていない。


 誰も同じようには動かない。


 なのに。


 敵軍は少しずつ押し込まれていく。


 ヴァイスが剣を握り直す。


「これが俺達の戦い方だ」


 その声は。


 敵軍へ向けたものなのか。


 自分自身へ向けたものなのか。


 俺には分からなかった。


 ただ一つだけ。


 はっきりしていた。


 この街で。


 今まで一番バラバラだった奴らが。


 初めて。


 一つの軍隊よりも強くなっていた。

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