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【世界大戦編】最凶の突撃

 敵軍が動いた。


 俺達も構える。


 また同じだ。


 敵兵が一斉に前へ出る。


「迎え撃て!」


 ヴァイスの声が響いた。


 屋根から矢が降る。


 魔法が敵陣を薙ぐ。


 何人もの兵士が倒れた。


 それでも。


 残った兵士達は止まらない。


 倒れた仲間の横を通り過ぎる。


 前へ。


 前へ。


 ただひたすらに。


「来るぞ!」


 俺は剣を握った。


 敵兵が目の前まで迫る。


 一人を斬る。


 二人目を弾く。


 三人目の攻撃を避ける。


 その時だった。


「――下がれ!」


 ヴァイスが叫んだ。


 今までとは違う声だった。


 俺は反射的に後ろへ跳ぶ。


「何だ!?」


「奴らの動きを見ろ!」


 言われて、敵軍を見る。


 先頭の兵士達が。


 何かを身に着けている。


 鎧の内側。


 身体に固定された異様な装備。


 それを見た瞬間。


 俺は嫌な予感を覚えた。


「……何をするつもりだ?」


 敵兵達は止まらない。


 誰かが叫ぶ。


「行け!」


 一人が走る。


 その隣も。


 さらに隣も。


 全員が同じ速度で。


 同じ方向へ。


「待て!」


 俺は叫んだ。


「お前ら、何を――!」


 敵兵の一人がこちらを見る。


 その顔には怒りも憎しみもなかった。


 ただ。


 静かな表情。


「みんな、行きますから」


 次の瞬間。


 激しい爆発が起きた。


「――ッ!」


 視界が白く染まる。


 轟音。


 衝撃。


 建物の壁が揺れる。


 地面が跳ねた。


 俺の身体が吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 瓦礫の中へ叩きつけられた。


「サミエム!」


 ヴァイスの声が聞こえる。


 耳鳴りがする。


 立ち上がろうとした。


 その瞬間。


 もう一度。


 爆発。


「――!」


 今度は別の場所。


 さらに。


 もう一度。


 街のあちこちで爆発が起きる。


 防衛線が崩れた。


 建物が崩れる。


 兵士達が吹き飛ばされる。


「何なんだよ……!」


 俺は立ち上がった。


 視界の先。


 敵軍がいる。


 いや。


 敵軍というより。


 次々と突っ込んでくる兵士達がいる。


 誰かが倒れる。


 爆発する。


 その隙間を、別の兵士が走り抜ける。


 止まらない。


「撃て!」


 味方が攻撃する。


 敵兵が倒れる。


 だが。


 別の兵士が突っ込んでくる。


 また爆発。


「下がれ!」


 ヴァイスが叫ぶ。


「全員、第二防衛線まで下がれ!」


 俺達は後退した。


 だが。


 敵軍は追ってくる。


 瓦礫を越えて。


 崩れた建物を抜けて。


 何人倒れても。


 何人傷ついても。


 止まらない。


「なんでだ……!」


 俺は叫んだ。


「なんで、そこまでして戦えるんだ!」


 返事はなかった。


 ただ。


 敵兵が一人、俺の前を走り抜ける。


 その身体は傷だらけだった。


 治癒魔法の光が、かすかに身体を包んでいる。


 それでも走っている。


 そして。


 仲間と同じ場所へ向かっていく。


「お前らは……!」


 俺は叫んだ。


「死にたくないんじゃないのか!」


 兵士が振り返る。


 一瞬だけ。


 不思議そうな顔をした。


「死にたくない?」


 その言葉を理解できないようだった。


「……みんなが行くから」


 そして。


 また走る。


「――っ」


 言葉が出なかった。


 ヴァイスが隣に立つ。


「……最悪だ」


 低い声だった。


「何が?」


「奴らは、自分の命を捨てているんじゃない」


 ヴァイスは敵軍を見る。


「自分の命を捨てるという判断すらしていない」


 その言葉に。


 俺は息を呑んだ。


 そうだ。


 こいつらは覚悟を決めているわけじゃない。


 恐怖を乗り越えているわけでもない。


 ただ。


 みんなと同じように動いている。


 みんなと同じように突っ込む。


 みんなと同じように傷つく。


 みんなと同じように倒れる。


 そして。


 みんなと同じように。


 また前へ出る。


「……これが」


 俺は敵軍を睨んだ。


「均一化ってやつなのかよ」


 答える者はいない。


 敵軍が再び押し寄せる。


 爆発。


 轟音。


 崩れる街。


 防衛線がまた一つ消える。


「ヴァイス!」


「ああ!」


 俺達も後退する。


 もう円形広場は使えない。


 屋根も。


 路地も。


 これまで積み上げてきた防衛戦術が、爆発によって次々と壊されていく。


 街そのものが。


 少しずつ削られていく。


 敵軍は止まらない。


 そして。


 その後方では。


 治癒魔法が次々と光っていた。


 倒れた兵士達が起き上がる。


 また戦列へ戻っていく。


「……まだ来る」


 俺は呟いた。


 ヴァイスが剣を握り直す。


「ああ」


「これだけやられても?」


「ああ」


「どうやって止める?」


 ヴァイスは答えなかった。


 ただ。


 迫り来る敵軍を見ていた。


 その目に初めて。


 明確な焦りが浮かんでいた。


「……このままじゃ」


 ヴァイスが呟く。


「この街が持たない」


 また爆発が起きた。


 西の城塞都市を守るために築かれた防衛線が。


 大きな音を立てて崩れ落ちた。


 そして敵軍は。


 その瓦礫を踏み越え。


 何事もなかったかのように。


 また前へ進んできた。

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