【世界大戦編】違うという恐怖
敵軍が迫ってくる。
街の奥。
狭い路地を挟んで、俺達と敵が向かい合っていた。
「来るぞ!」
敵兵が一斉に走り出す。
俺も剣を構えた。
正面から受ける。
剣がぶつかった。
「――っ!」
押し込まれる。
後ろへ下がる。
だが、その瞬間。
「今だ!」
ヴァイスの声が響いた。
左右の建物から兵士達が飛び出す。
敵軍の側面を挟む。
「押し返せ!」
俺達が一気に前へ出た。
敵兵が後退する。
そのまま左の路地へ逃げていく。
「追え!」
俺も走る。
だが。
「待て!」
ヴァイスの声が飛んだ。
俺は足を止めた。
「追いすぎるな!」
「……!」
前方を見る。
逃げていた敵兵達が、急に止まっていた。
そして。
後ろを振り返る。
仲間がいる。
右にも。
左にも。
周囲の兵士達が、同じように立ち止まっている。
誰も先へ進まない。
「……何してる?」
俺が呟いた。
次の瞬間。
一人の兵士が前へ出た。
すると。
その隣も動いた。
さらに、その隣も。
まるで最初から決められていたかのように。
全員が同じ速度で前へ出る。
「今だ!」
ヴァイスが叫んだ。
屋根から矢が降る。
敵軍の中央を貫く。
「ぐあっ!」
「うおっ!」
敵兵が倒れる。
俺達も一斉に突っ込んだ。
「押せ!」
敵軍を押し込む。
また分断する。
敵兵が左右へ散る。
今度はヴァイスが、その動きを見逃さなかった。
「右へ逃げた奴を追うな!」
兵士達が止まる。
「左を塞げ!」
命令通りに動く。
敵兵の逃げ道が消えていく。
「そこだ!」
俺が踏み込む。
敵兵の剣を弾く。
そのまま斬り払った。
敵兵が地面へ倒れる。
別の兵士が俺へ向かってくる。
斬る。
倒す。
また一人。
倒す。
「いける!」
味方の声が上がる。
敵軍が後退する。
俺達はさらに前へ出た。
その時だった。
敵軍の一人が、横の路地へ逃げ込んだ。
俺は追おうとした。
だが。
その兵士の隣にいた別の兵士が、同じ方向へ走った。
さらにもう一人。
その後ろも。
「……」
俺は動きを止めた。
まただ。
一人が動く。
周りが追う。
それだけなら、ただの連携に見える。
だが。
違う。
先頭の兵士が何か指示を出しているわけじゃない。
周囲を確認しているわけでもない。
ただ。
隣が動いたから。
自分も動いている。
「ヴァイス!」
「ああ!」
ヴァイスも気づいていた。
「なら、もっと動かすぞ」
ヴァイスが剣を振る。
「左の兵を後退させろ!」
味方が動く。
敵軍が追ってくる。
「右側、前へ!」
別の部隊が進む。
敵兵も進む。
俺は敵軍の横へ回った。
すると。
敵兵達も一斉に向きを変えた。
「……!」
俺は反対側へ走る。
敵も反対側へ。
また走る。
また敵も走る。
まるで鏡だった。
「こいつら……」
俺は息を呑んだ。
俺達が戦術を変えるたび。
敵軍も変わる。
だが。
それは敵が俺達の戦術を読んでいるわけじゃない。
周囲の兵士が動いたから。
それに合わせているだけだ。
「だったら!」
俺は一気に後退した。
敵兵が追ってくる。
路地を抜ける。
広い通りへ出る。
俺が止まる。
敵兵も止まる。
「今だ!」
屋根の上から魔法が落ちる。
「――っ!」
敵軍の前列が吹き飛んだ。
後ろの兵士達が止まる。
その瞬間。
俺達が一斉に突撃した。
「押せええええっ!」
敵軍が崩れる。
今度こそ。
明確に。
敵軍が後退していく。
「やった!」
「押し返せ!」
味方の声が響く。
俺も前へ出る。
敵兵を斬る。
倒す。
また斬る。
敵軍がさらに下がる。
優勢だ。
間違いない。
俺達は、再び戦場を取り戻していた。
だが。
敵兵の一人が倒れた。
治癒魔法が飛ぶ。
傷が塞がる。
その兵士が立ち上がる。
隣の兵士も立つ。
さらに隣も。
一人。
また一人。
全員が立ち上がる。
俺は剣を握ったまま、その光景を見つめた。
「……またかよ」
倒しても。
立つ。
瀕死でも。
立つ。
そして。
周囲が立てば、自分も立つ。
そこに迷いはない。
恐怖すらない。
ただ。
同じ場所へ戻る。
同じように剣を構える。
同じように前を見る。
「ヴァイス……」
「ああ」
ヴァイスは答えた。
その顔に笑みはない。
「俺達が分断すれば、こいつらは弱くなる」
「……でも、また集まる」
「そうだ」
敵軍が少しずつ集結していく。
まるで磁石に引かれるように。
誰かが命令しているわけではない。
それでも。
離れた兵士達は、仲間のいる場所へ戻っていく。
俺はその光景を見ながら、ふと思った。
「……なあ」
「なんだ?」
「こいつらにとって、仲間って何なんだ?」
ヴァイスは答えなかった。
ただ敵軍を見る。
その時。
敵兵の一人が、別の兵士へ声をかけた。
「立て」
「……」
「みんな立っている」
倒れていた兵士が、震えながら起き上がる。
「そうだ」
別の兵士が言う。
「みんなと同じだ」
その言葉を聞いて。
倒れていた兵士は剣を握った。
「……はい」
立ち上がる。
そして。
全員が同じ方向を向いた。
俺は背筋に寒気を覚えた。
忠誠心じゃない。
仲間を守りたいわけでもない。
国を愛しているわけでもない。
ただ。
みんなと同じだから。
それだけだった。
「……恐ろしいな」
ヴァイスが呟いた。
俺は頷く。
敵軍が再び前進する。
俺達も構える。
今度は。
さっきまでとは違う。
敵が何を考えているのか。
少しだけ分かった。
そして同時に。
分かってしまったからこそ。
俺達は、初めて理解した。
こいつらを崩すには。
ただ倒すだけじゃ足りない。
戦場で。
こいつら自身に。
「違う」という恐怖を突きつけなければならない。




