【世界大戦編】同じという弱点
「……なら、利用できる」
ヴァイスが呟いた。
敵軍を見つめたまま、剣を構える。
「何を?」
俺が聞く。
「奴らが全員同じように動くなら」
ヴァイスの目が細くなった。
「同じように動かせばいい」
俺は敵軍を見る。
確かに。
さっきから敵兵達は、周囲に合わせるように動いている。
一人が前へ出れば、周りも前へ出る。
一人が止まれば、周りも止まる。
それが弱点になるということか。
「どうする?」
「簡単だ」
ヴァイスが指を立てる。
「隙を見せる」
「……わざと?」
「ああ」
ヴァイスは街の奥を指差した。
「右側の防衛線を崩す」
「でも、そこを抜かれたら――」
「抜かせるんだ」
その言葉に、俺は理解した。
「敵を誘導する」
「そういうことだ」
ヴァイスが兵士達へ指示を飛ばす。
「右側を下げろ!」
「了解!」
防衛線が動いた。
これまで固く守っていた場所から、兵士達が一斉に後退する。
敵軍から声が上がった。
「押せ!」
敵兵が一斉に前へ出る。
予想通りだった。
一人が進む。
その周囲も進む。
さらに後ろも続く。
気づけば、敵軍の大半が右側へ集中していた。
「今だ」
ヴァイスが呟く。
その瞬間。
左右の建物から兵士達が飛び出した。
「撃て!」
矢が降る。
魔法が炸裂する。
敵軍の側面が崩れた。
「――っ!」
敵兵達が振り返る。
だが遅い。
後方の路地からも兵士が現れる。
敵軍は完全に囲まれていた。
「行くぞ!」
俺も飛び込む。
剣を振る。
一人。
二人。
三人。
敵兵が倒れていく。
「押し返せ!」
西軍が一斉に前へ出た。
敵軍が後退する。
今度は俺達が押す番だった。
「やった……!」
兵士の一人が声を上げる。
だが。
倒れた敵兵の身体から、再び治癒魔法の光が生まれた。
「……!」
俺は足を止める。
傷が塞がっていく。
完全ではない。
それでも。
兵士は立ち上がった。
剣を拾う。
そして、仲間のいる方向へ戻ろうとする。
「待て!」
俺が叫んだ。
兵士が振り返る。
「もう戦える状態じゃないだろ!」
「……」
「逃げろ!」
兵士は困惑した。
逃げる。
その言葉の意味を考えているようだった。
「……どこへ?」
「どこでもいい!」
「でも」
兵士は周囲を見る。
敵軍は分断されている。
仲間の姿が見えない。
兵士の顔に、明らかな恐怖が浮かんだ。
「みんなは……?」
「知らない」
「……」
「自分で決めろ」
俺はそう言った。
兵士は動かなかった。
剣を握ったまま。
ただ立っている。
「どうすれば……」
小さく呟いた。
その姿を見て、俺は息を呑んだ。
こいつは。
自分で決められない。
戦うことを選んでいるんじゃない。
みんなが戦っているから戦っている。
だから。
みんながいなくなれば。
何をすればいいのか分からない。
「……あっちだ!」
遠くから声が聞こえた。
敵軍の兵士だった。
分断された仲間を呼んでいる。
その声を聞いた瞬間。
目の前の兵士が動いた。
「……あっち」
走り出す。
「待て!」
俺が手を伸ばす。
だが、兵士は振り返らなかった。
声のする方向へ。
ただ真っ直ぐに走っていく。
ヴァイスも、その光景を見ていた。
「……分かった」
「何が?」
「こいつらの弱点だ」
ヴァイスは敵軍を見渡した。
「分断すれば、個人になる」
「……」
「そして個人になった瞬間、判断できなくなる」
ヴァイスが剣を構える。
「だから、仲間を集めようとする」
その言葉通りだった。
分断されていた敵兵達が、少しずつ一つの場所へ集まり始めている。
誰かが呼ぶ。
別の誰かが応える。
その声を追って、また別の兵士が動く。
バラバラだったはずの敵軍が。
再び一つになる。
「だったら」
俺は剣を握った。
「何度でも分断する」
「ああ」
ヴァイスが笑った。
「この街なら、それができる」
俺達は再び動いた。
路地を封鎖する。
敵を別方向へ誘導する。
屋根の上から兵士達が移動する。
敵軍が集まろうとすれば、その前に道を塞ぐ。
右へ逃げれば、左から攻撃。
左へ逃げれば、後ろから攻撃。
敵軍は少しずつ押し戻されていく。
「押せ!」
「まだだ!」
「もう一度分断する!」
俺達は戦った。
今までとは違う。
ただ倒すのではない。
敵を一つにさせない。
それだけで。
戦況は変わった。
敵軍が後退する。
俺達が前へ出る。
再び。
城塞都市が機能し始めた。
「……勝てる」
誰かが呟いた。
俺も、そう思った。
だが。
遠くから声が響いた。
「集まれ!」
敵兵の声。
一人。
また一人。
別の場所からも声が上がる。
「こっちだ!」
「ここへ!」
「みんな来い!」
分断された敵軍が、再び動き始めた。
俺は目を疑った。
さっきまで敵兵を分断していたはずなのに。
奴らは迷いながらも。
何度でも仲間のいる場所へ戻ってくる。
そして。
一人が戻れば。
その周囲も戻る。
さらにその周囲も。
また同じ隊列が作られていく。
ヴァイスが静かに呟いた。
「……同じであることが、こいつらにとっての生き方なんだ」
俺は敵軍を見た。
誰も疑っていない。
誰も怒っていない。
誰も、自分が異常なことをしているとは思っていない。
ただ。
みんなと同じ場所へ戻る。
みんなと同じように剣を構える。
みんなと同じように戦う。
そして。
また前へ出る。
敵軍が一斉に動き出した。
俺達も剣を構える。
「来るぞ!」
ヴァイスが叫ぶ。
俺は歯を食いしばった。
せっかく取り戻した優勢が。
また崩れ始めていた。
それでも。
今度は分かっている。
こいつらは、ただ強いわけじゃない。
この軍隊そのものが。
「同じであること」だけを支えにして、何度でも立ち上がる。
ならば。
俺達はその同じという力を。
もう一度、打ち崩すしかない。




