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【世界大戦編】倒れない軍勢

 撤退したはずの敵軍から、再び角笛が鳴り響いた。


「……早すぎる」


 城壁の上で、ヴァイスが呟く。


 俺も敵陣を見下ろした。


 さっきまで激しい戦闘が行われていたとは思えない。


 敵軍は再び隊列を整え、こちらへ向かっている。


「もう来るのかよ……!」


 兵士の一人が声を上げた。


 当然だった。


 俺達はこの数度の戦いで、敵を何度も押し返している。


 円形広場。


 狭い路地。


 屋根の上。


 街そのものを使った防衛で、敵軍を削ってきた。


 少なくとも、次の攻撃までには時間がある。


 そう思っていた。


「ヴァイス」


「ああ」


 ヴァイスは敵軍から目を離さない。


「数を確認する」


 城壁に並んだ兵士達が敵軍を見渡す。


「……一、二、三……」


 数える。


 そして。


「……多い」


 兵士の顔が強張った。


「どうした?」


「さっきと……あまり変わってません」


「何?」


 俺も目を凝らす。


 確かに。


 敵軍は多い。


 多すぎる。


 さっきまで街の中に押し込まれ、何度も倒されたはずなのに。


 その数が、大きく減っているようには見えなかった。


「見間違いじゃないのか?」


「分かりません……」


 ヴァイスが剣を抜く。


「関係ない」


 その声に、兵士達が振り返る。


「来るなら迎え撃つ。それだけだ」


「……はい!」


 俺も剣を握った。


 不安はある。


 だが、俺達にはこの街がある。


 城壁だけじゃない。


 広場も。


 路地も。


 屋根も。


 全部が俺達の武器だ。


「来るぞ!」


 敵軍が動き出した。


 大地を揺らしながら、正面から押し寄せてくる。


「弓兵!」


「構え!」


「魔法兵、待機!」


 矢が一斉に放たれた。


 空を埋め尽くす矢。


 続いて魔法が降り注ぐ。


 先頭の敵兵が次々と倒れた。


「撃て!」


 さらに矢を放つ。


 敵の隊列が崩れる。


 俺は城壁から飛び降りた。


「サミエム!」


「俺も出る!」


 街路へ着地する。


 敵兵が目の前まで迫っていた。


 剣を振る。


 最初の一人を斬り倒す。


 続けて二人目。


 三人目。


 後方から味方の魔法が飛んでくる。


 敵兵が吹き飛んだ。


「押し返せ!」


 俺達は一気に前へ出た。


 敵を路地へ誘導する。


 そこは、以前と同じ場所だった。


 狭い。


 敵は横に広がれない。


 左右の建物。


 屋根の上には味方がいる。


「今だ!」


 屋根から矢が降り注ぐ。


 敵軍が混乱する。


 俺はその隙を逃さない。


「うおおおおっ!」


 正面から突っ込む。


 敵兵を押し返す。


 さらに一歩。


 もう一歩。


 敵が後退していく。


「いける!」


 誰かが叫んだ。


 その声を聞いて、俺も思った。


 やっぱりだ。


 この街なら戦える。


 敵がどれだけ多くても。


 この防衛網を使えば――。


 その時だった。


 倒れていた敵兵が立ち上がった。


「……え?」


 俺の動きが止まる。


 さっき俺が斬った兵士だった。


 鎧には傷がある。


 血も流れている。


 それでも。


 その兵士は剣を握り直した。


「おい……」


 敵兵がこちらを見る。


 そして、再び走り出した。


「――!」


 俺は咄嗟に剣を振った。


 今度こそ、敵兵は倒れた。


 だが。


 後ろから別の兵士が押し寄せてくる。


「サミエム!」


「分かってる!」


 剣を振る。


 受ける。


 弾く。


 斬る。


 敵兵が倒れる。


 それでも。


 また来る。


 また来る。


 また来る。


「なんだ……こいつら……!」


 周囲でも異変が起きていた。


「倒したはずなのに!」


「こっちもだ!」


「まだ来るぞ!」


 防衛線が押され始める。


 屋根からの攻撃も続いている。


 バリスタも撃ち込まれている。


 それなのに。


 敵軍が減らない。


「ヴァイス!」


 俺が叫ぶ。


 城壁の上からヴァイスがこちらを見る。


「……分かってる」


 その顔から、余裕が消えていた。


「広場へ誘導する!」


 ヴァイスが叫ぶ。


「第二防衛線を使え!」


「了解!」


 俺達は敵を押しながら後退する。


 円形広場。


 これまで何度も敵を叩き潰してきた場所だ。


 敵軍が広場へ入る。


「門を閉じろ!」


 鉄門が落ちる。


 逃げ道を塞ぐ。


「撃てええええっ!」


 建物の上から矢が降り注ぐ。


 魔法が炸裂する。


 バリスタの巨大な矢が敵の隊列を貫く。


 敵兵が吹き飛ぶ。


 倒れる。


 広場が煙に包まれる。


「今だ!」


 俺達が一斉に突撃した。


 敵軍を押し込む。


 何人も倒れる。


 あと少し。


 そう思った。


 だが。


 煙が晴れた。


 俺は息を呑んだ。


 広場には、まだ敵兵が立っていた。


「……嘘だろ」


 ヴァイスの声が聞こえた。


 倒れている敵兵もいる。


 だが、その後ろから。


 新たな敵兵が次々と前へ出てくる。


 まるで。


 最初から、この程度の損害など存在しなかったかのように。


「押せ!」


 敵軍が動いた。


 今度は俺達が押し返される。


「ぐっ……!」


 剣を受ける。


 一人。


 二人。


 三人。


 敵が多い。


 多すぎる。


 俺は後退した。


「サミエム!」


「まだやれる!」


 踏み込む。


 斬る。


 敵兵を倒す。


 だが、別の敵兵がすぐに目の前へ現れる。


 終わらない。


 まるで。


 敵軍そのものが、倒れるという概念を持っていないようだった。


「撤退!」


 ヴァイスの声が響く。


「一度、広場を捨てる!」


「でも!」


「いいから下がれ!」


 俺達は路地へ戻った。


 鉄門が閉じる。


 敵軍が広場を埋め尽くす。


 その光景を見ながら、俺は荒い息を吐いた。


 これまで。


 俺達は勝っていた。


 街を使えば、敵を押し返せた。


 何度攻められても、防衛線を変えれば戦えた。


 なのに。


 今は違う。


 敵を倒している。


 確実に倒している。


 それでも。


 敵軍が減らない。


 ヴァイスが剣を握り締める。


「……おかしい」


 その言葉を、俺は否定できなかった。


 広場の向こう。


 煙の中から、敵兵達がゆっくりと姿を現す。


 傷だらけの者。


 血を流している者。


 鎧が壊れている者。


 それでも。


 誰一人として止まらない。


 そして。


 再び、角笛が鳴った。


 敵軍が前進する。


 今度は。


 俺達の防衛線へ向かって。


 街を守っていたはずの俺達が。


 少しずつ。


 街の奥へと追い込まれていく。


 ――何かがおかしい。


 その答えは、まだ見えない。


 ただ一つだけ。


 俺達は初めて。


 この戦争で、本当の敵を見た気がした。

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