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【世界大戦編】街そのものが城塞

 門が破られた。


 敵兵が街へ雪崩れ込んでくる。


 城壁の上から見下ろしていた俺は、剣を握り直した。


「全員、下がれ!」


 ヴァイスの声が響く。


 防衛兵達が一斉に城壁から降りていく。


 俺も続いた。


 階段を駆け下り、門の内側へ。


 そこにはすでに敵兵が入り込んでいた。


「来るぞ!」


 前方から敵が押し寄せてくる。


 俺は剣を構えた。


 斬り込む。


 一人。


 二人。


 三人。


 だが、敵の数が多い。


 門を抜けた勢いのまま、次々と街の奥へ進んでくる。


「サミエム!」


 ヴァイスが叫んだ。


「こっちだ!」


 俺は敵を斬り払いながら、ヴァイスの後を追う。


 街の中心部へ向かって走る。


「待て!」


 敵兵が追ってくる。


 俺達は戦いながら後退していく。


 だが、逃げているわけじゃない。


 そう気づいたのは、いくつかの角を曲がった後だった。


「……ヴァイス」


「気づいたか」


「ああ」


 俺達は、敵を一つの方向へ誘導している。


 道幅が少しずつ狭くなっていく。


 建物が近づく。


 そして。


 突然、視界が開けた。


「ここは……」


 巨大な円形の広場。


 街の中心に位置する、広い空間だった。


 敵兵が次々と広場へ入ってくる。


 俺は思わず足を止めた。


「ヴァイス?」


「まだだ」


 ヴァイスが振り返る。


「そのまま進ませろ」


「……分かった」


 俺達は広場の奥へ下がる。


 敵兵が追ってくる。


 十人。


 二十人。


 さらに後ろから続々と入ってくる。


 気づけば、広場にはかなりの数の敵兵が集まっていた。


 その時。


 ヴァイスが右手を上げた。


「閉じろ」


 ガシャンッ!


 広場へ入ってきた道の一つが、鉄格子によって塞がれた。


「何だ!?」


 敵兵が振り返る。


 別の道からも、同じように鉄の門が降りてくる。


 広場へ続く道が次々と封鎖されていく。


「なっ……!」


 敵兵達がざわめいた。


 俺は周囲を見渡した。


 広場は円形。


 その周囲を高い建物が取り囲んでいる。


 そして。


 その屋上に、人影が現れた。


「構えろ!」


 ヴァイスが叫ぶ。


 一斉に弓が引かれる。


 建物の屋上。


 窓。


 路地の奥。


 そこから防衛兵達が姿を現した。


 俺達は囲まれていたんじゃない。


 敵が囲まれていた。


「撃て!」


 矢が降り注ぐ。


「うおおおっ!」


 敵兵が盾を構える。


 だが、盾を構えた瞬間。


「魔法!」


 建物の窓から炎が飛び出した。


 爆発。


 敵兵が吹き飛ぶ。


 別の場所から雷が走る。


 風が渦を巻く。


 広場の中で敵軍が一気に崩れ始めた。


「バリスタ、準備!」


 聞き慣れない声が響く。


 俺は顔を上げた。


 建物の上に設置された巨大な兵器。


 その先端には、巨大な矢が装填されている。


「撃て!」


 ズドンッ!


 空気を震わせる轟音。


 巨大な矢が広場を横切った。


 敵兵をまとめて吹き飛ばし、そのまま地面へ突き刺さる。


「次弾!」


「装填!」


「急げ!」


 次のバリスタが動き出す。


 敵軍が混乱していた。


 逃げようとする。


 だが、逃げ道がない。


 進もうとしても防衛兵がいる。


 左右へ動こうとしても、円形の広場では建物に囲まれている。


 後ろへ戻ろうとしても、道は封鎖されている。


「こんな……!」


 敵兵の一人が叫ぶ。


 俺は剣を握った。


「今度はこっちから行くぞ!」


 俺が広場へ飛び込む。


「サミエム!」


 ヴァイスが叫ぶ。


「無茶をするな!」


「大丈夫だ!」


 敵兵の間を駆ける。


 正面から剣を振る。


 一人。


 横から槍。


 身を捻って避ける。


 そのまま斬り返す。


 背後から別の敵。


 だが、その敵の足元へ矢が突き刺さった。


「助かった!」


 俺は振り返らずに走る。


 敵の注意が散っている。


 上から。


 横から。


 建物の中から。


 あらゆる方向から攻撃が飛んでくる。


 俺達が街を使っている。


 ただ、それだけだった。


 なのに。


 それだけで戦場は大きく変わっていた。


「押せ!」


 ヴァイスが叫ぶ。


 防衛兵達が一斉に広場へ降りてくる。


 敵兵を押し返していく。


 俺も前へ出る。


 剣を振る。


 敵が後退する。


 さらに追う。


 広場の奥へ追い詰める。


「退け!」


「下がれ!」


 敵軍の声が重なる。


 ようやく封鎖が一つ開いた。


 そこから敵兵が外へ逃げていく。


 俺達は追撃する。


 だが、ヴァイスが手を上げた。


「追いすぎるな!」


 俺は足を止めた。


 敵兵が街の外へ逃げていく。


 広場には倒れた敵兵と、防衛兵達の荒い息だけが残った。


「……勝ったのか?」


 誰かが呟く。


 俺も息を整える。


 さっきまで門を破られた。


 街へ敵が入り込んだ。


 もう防衛線は崩壊したと思った。


 だが。


 今は違う。


 敵を街へ引き込んだことで、俺達は戦場を選べるようになった。


「ヴァイス」


「何だ?」


「この街……最初からこういう構造だったのか?」


「ああ」


 ヴァイスは広場を見渡した。


「昔からある構造を利用しているだけだ」


「利用してるだけって……」


 俺は周囲を見る。


 建物。


 路地。


 広場。


 そして屋上。


 それぞれが繋がっている。


「城壁だけが城塞じゃない」


 ヴァイスが言った。


「この街全部が城塞だ」


 その言葉に、俺は街を見渡した。


 さっきまで敵の侵入を許した場所。


 そこには今、まだ戦える兵士がいる。


 建物の屋上には弓兵。


 窓の向こうには魔法兵。


 街の各所には防衛兵が配置されている。


 敵がどこへ進んでも、こちらには戦う場所がある。


「……なるほどな」


 俺は剣を握り直した。


 城壁を破られた。


 門も壊された。


 それでも。


 この街には、まだ戦う場所が残っている。


「ヴァイス!」


 遠くから兵士が走ってくる。


「東側から敵が戻ってきます!」


「分かった」


 ヴァイスが即座に振り返る。


「第二防衛線へ移動する」


「まだやるのか?」


「当然だ」


 ヴァイスが笑った。


「街は広いからな」


 俺も笑った。


「なら、まだまだ戦えるな」


「ああ」


 俺達は走り出した。


 城壁を失った俺達の戦いは、終わっていない。


 むしろ。


 ここからが、この街の本当の戦い方だった。

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