【世界大戦編】城壁の攻防
地面が揺れていた。
遠くから響いてくる足音。
それが一つや二つではない。
数え切れないほどの兵士が、こちらへ向かっている。
俺は城壁の上から、その光景を見下ろしていた。
ヴェルディア軍。
その数は多い。
だが、まだ慌てる必要はない。
「弓兵、構え!」
ヴァイスの声が響く。
城壁の上に並んだ兵士達が、一斉に弓を引く。
その動きに迷いはなかった。
俺も剣を握る。
眼下では、敵軍が少しずつ距離を詰めている。
盾を構えた兵士達が前へ出る。
その後ろには槍を持った兵士。
さらに後方には魔法を使う者達がいる。
正面から城塞を落とすつもりらしい。
「まだだ」
ヴァイスが言う。
誰も矢を放たない。
敵が近づく。
さらに近づく。
城壁の下まで、あと少し。
俺は息を止めた。
「今だ!」
一斉に矢が放たれた。
空を埋めるような矢の雨が降り注ぐ。
「盾を!」
敵軍の前列が盾を掲げる。
矢が盾へ突き刺さる。
何本も。
何十本も。
それでも敵は進んでくる。
「次!」
ヴァイスの声。
今度は魔法が飛んだ。
炎。
雷。
風。
城壁の上から放たれた魔法が敵陣へ叩き込まれる。
爆発が起こる。
前列が崩れた。
だが、その後ろから別の兵士が前へ出てくる。
俺は城壁の下を見た。
敵は多い。
だが、こちらも負けていない。
敵が城壁へ近づけば、上から攻撃できる。
敵が門へ集まれば、門の防衛部隊が迎え撃つ。
敵が散れば、こちらから魔法を撃ち込める。
城塞という場所が、俺達の味方をしていた。
「サミエム!」
ヴァイスが叫ぶ。
「右側!」
見る。
城壁の右側へ敵が集中している。
「分かった!」
俺は走った。
階段を駆け上がり、城壁の端へ向かう。
そこでは、敵兵が梯子を掛けようとしていた。
「させるか!」
剣を振る。
梯子を掴んでいた兵士を狙う。
敵が怯んだ。
その隙に、別の兵士が梯子を蹴り飛ばす。
城壁の下へ落ちていく。
「次!」
また一人。
今度は二人。
俺は剣を振る。
城壁の上へ上がろうとする敵を、一人ずつ押し返していく。
後ろから味方の攻撃も飛んでくる。
「左!」
「任せろ!」
声が飛び交う。
俺も応える。
敵を斬る。
次の敵へ向かう。
また一人。
さらに一人。
城壁の上へ敵を上げない。
それだけを考える。
しばらくして。
敵軍が城壁から離れていった。
「敵が下がっていくぞ!」
誰かが叫ぶ。
見る。
確かに敵が後退している。
俺は息を吐いた。
「……押し返した」
「まだだ」
隣に来たヴァイスが言う。
「勝ったと思うな」
「ああ」
俺も分かっている。
戦争は、こんなに簡単なものじゃない。
だが。
今は俺達が押している。
敵軍は城壁を突破できていない。
門も破られていない。
防衛は成功している。
そう思った。
その時だった。
敵陣の奥で、動きがあった。
「……何だ?」
敵軍の中央から、別の部隊が前へ出てくる。
大きな武器を持っている。
複数の兵士がそれを運んでいた。
「攻城兵器か」
ヴァイスが呟いた。
俺は目を凝らす。
巨大な杭のようなものが取り付けられている。
「門を狙ってる」
「当然だ」
ヴァイスが即座に指示を出す。
「門の防衛を増やせ!」
「了解!」
「弓兵、あれを狙え!」
一斉に矢が飛ぶ。
敵の前列が盾を構える。
攻城兵器を守るように、兵士達が前へ出た。
矢が盾へ突き刺さる。
魔法が飛ぶ。
敵兵が倒れる。
それでも、残った兵士達が攻城兵器を押して進んでいく。
「門を守れ!」
俺も城壁を走った。
門の上。
そこには防衛部隊が集まっている。
巨大な門の向こうから、何度も衝撃音が響いていた。
ドン。
ドン。
ドン。
門が揺れる。
「持ちこたえろ!」
誰かが叫ぶ。
門を守る者達が踏ん張る。
俺も加わる。
その直後。
轟音。
門が大きく揺れた。
「くっ……!」
全員が身構える。
だが、門はまだ壊れない。
「まだだ!」
ヴァイスが叫ぶ。
「絶対に開けるな!」
敵の攻撃が続く。
それでも門は耐えた。
俺は剣を握り直す。
ここは俺達の街だ。
この城壁も。
この門も。
簡単には渡さない。
しばらくして。
攻撃が止まった。
「……止まった?」
誰かが呟く。
俺は門の向こうを警戒する。
静かだった。
敵軍は一度、距離を取っている。
「今のうちに補修を!」
ヴァイスが指示を出す。
兵士達が動き出す。
破損した場所を確認し、門を補強する。
俺も周囲を見渡した。
城壁にはまだ余裕がある。
敵を押し返せた。
門もまだ守れている。
このままなら――。
そう思った。
その時。
「敵が来るぞ!」
城壁の上から声が響いた。
俺は顔を上げる。
遠くから、再び敵軍が動き出していた。
今度は正面から。
さっきよりも多い。
「第二波だ!」
誰かが叫ぶ。
「全員、配置につけ!」
ヴァイスの声が響く。
兵士達が持ち場へ戻る。
俺も剣を構えた。
再び、矢が放たれる。
敵軍が盾を構える。
魔法が飛ぶ。
敵が倒れる。
それでも進んでくる。
城壁の下まで近づいたところで、敵兵が一斉に梯子を立てた。
「来るぞ!」
俺は城壁の端へ向かう。
敵兵が登ってくる。
一人。
二人。
三人。
俺は剣を振る。
登ってきた敵を押し返す。
別の場所では、味方が敵を止めている。
城壁の上は激しい戦場になっていた。
「右を支えろ!」
「左も来てる!」
「魔法を使える奴は下を狙え!」
声が飛び交う。
俺も敵を斬る。
息が荒くなる。
だが、まだ戦える。
敵を押し返す。
城壁の上から落とす。
「よし!」
再び、歓声が上がった。
敵は下がっていく。
俺は息を吐いた。
「……また押し返した」
「この程度なら、まだ守れる」
ヴァイスが言った。
その時だった。
地面が大きく揺れた。
ドンッ――!
全員が振り返る。
門の方向。
巨大な門が、大きく傾いていた。
「……まさか」
次の瞬間。
轟音と共に、門の一部が崩れた。
敵兵が一斉に押し寄せる。
「門が破られた!」
叫び声。
敵が街の中へ入ってくる。
俺はヴァイスを見る。
ヴァイスは崩れた門を見つめていた。
そして。
「全員、街へ下がれ!」
その声が響いた。
城壁での戦いが終わる。
次の戦場は――街の中だ。
俺は剣を握り直した。
まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが、本当の防衛戦だった。




