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【暴食領平定編 西】世界大戦前夜

「……もう一度、やろう」


戦いが終わった直後。


俺が剣を下ろした、その瞬間だった。


ヴァイスがそう言った。


「は?」


思わず聞き返す。


ヴァイスは傷だらけの身体を起こし、こちらを真っ直ぐ見ていた。


「今の戦いは、お前達が勝った。だが――」


その視線が、周囲へ向く。


俺と共に戦った荒くれ者達。


その一人一人を確認するように眺めてから、ヴァイスは再び俺を見る。


「俺は一人で戦ったわけじゃないお前に負けた。なら、次は一対一で決める」


「……まだやるのかよ」


「当然だ」


即答だった。


「この城塞都市には、昔から一つのルールがある」


ヴァイスは剣を構える。


「最強の者が城主になる」


荒くれ者達がざわめいた。


「城主……」


「まさか、今から?」


「おいおい、もう十分だろ!」


だがヴァイスは聞く耳を持たない。


「俺が城主であり続けるには、俺自身が最強である必要がある」


「……なるほどな」


俺も剣を構えた。


さっきまでの戦いで、身体は限界に近い。


それでも、不思議と嫌ではなかった。


霊帝の抱擁は使わない。


もう、あの力には頼らない。


俺は自分の感情を抱えたまま、剣を握る。


「来い」


ヴァイスが踏み込んだ。


速い。


先ほどまでとは違う。


一人で戦うヴァイスは、無駄がない。


剣と魔法。


その全てを自分一人で完結させ、俺の攻撃を受け流していく。


俺も食らいつく。


斬る。


避ける。


魔法を放つ。


その隙を狙って剣を振る。


何度も何度もぶつかる。


それでも――。


最後に立っていたのはヴァイスだった。


「……俺の勝ちだ」


荒い息を吐きながら、ヴァイスが剣を収める。


俺は地面に膝をついた。


「……強いな」


「お前もな」


ヴァイスは手を差し出した。


俺はその手を掴み、立ち上がる。


「なら、俺は城主に戻る」


「そうなるな」


「だが――」


ヴァイスは俺を見る。


「お前達には協力する」


その言葉に、荒くれ者達が顔を見合わせる。


「つまり?」


「俺はここに残る」


ヴァイスは城塞都市を振り返った。


「この街と、こいつらを守る」


荒くれ者達から声が上がる。


「城主!」


「戻ってきたな!」


「やっぱり俺達の城主はあんただ!」


ヴァイスは少しだけ眉を顰めた。


「うるさい」


「照れてんのか?」


「黙れ」


笑い声が広がった。


俺も笑った。


以前なら、こんな光景を無駄だと思っていたかもしれない。


だが今は――。


悪くない。


「じゃあな、ヴァイス」


「ああ」


「戦争になったら?」


「その時は戦う」


ヴァイスは短く答えた。


「お前達の味方としてな」


それだけで十分だった。


俺達はヴァイスと別れ、城塞都市を後にした。


振り返る。


城門の前に、ヴァイスが立っている。


その周囲には荒くれ者達。


もう、あの街は大丈夫だろう。


「行くぞ」


灰崎が言った。


「うん」


俺達はラクスウェルへ向かって歩き出した。


帰り道。


俺はふと、自分の手を見た。


霊帝の抱擁を使っていた頃。


俺は力さえあれば、何でもできると思っていた。


力が無ければ何も出来ない。


だから、感情を切り捨てた。


迷いを捨てた。


余計なものを捨て続けた。


でも――。


最後に俺を変えたのは、力だけじゃなかった。


荒くれ者達の信頼。


誰かを守るための無茶。


理屈では説明できない連携。


そして、俺自身の感情。


迷いながらでも戦い続ける。


それが今の俺だ。


「……力を貸してくれ」


あの言葉を思い出す。


一人で勝とうとするのではなく。


誰かと共に戦う。


それが、今までの俺には無かったものだった。


ラクスウェルが見えてくる。


俺達は城門を抜けた。


「おかえり」


出迎えてくれた仲間達に、俺は頷く。


「ただいま」


西の帝王候補。


ヴァイスとの交渉は終わった。


彼は西の城塞都市に残り、戦力をまとめてくれる。


マモンの目的も、一つ果たされた。


後は――。


東。


そして、来たる帝王戦争への備え。


俺はそう考えていた。


その時だった。


――ゴォォォン。


城内に、鐘の音が響き渡った。


一度。


二度。


三度。


ただの鐘ではない。


緊急事態を知らせる音。


「何だ?」


辺りが騒がしくなる。


兵士達が走り回る。


俺達も顔を見合わせた。


やがて、一人の伝令が駆け込んでくる。


「報告します!」


息を切らしながら、伝令は叫んだ。


「帝王の一人が――」


一瞬、言葉を詰まらせる。


「全世界に向けて、宣戦を布告しました!」


空気が凍った。


誰も、言葉を発しない。


さっきまでの日常が、一瞬で遠ざかっていく。


俺は剣に手を添えた。


帝王戦争。


それは、いつか来るものだと思っていた。


だが――。


いつかではない。


今だ。


世界そのものが、戦いへと動き始めた。


「……始まったな」


マモンが静かに呟く。


その声を聞いて、俺は前を向いた。


怖い。


迷いもある。


それでも、もう逃げない。


一人で戦う必要もない。


俺には、共に戦う仲間がいる。


西にはヴァイスがいる。


そして、この場所にも仲間がいる。


俺は剣を握り直した。


「行こう」


世界大戦前夜。


その夜は、もう終わった。


これから始まるのは――。


俺達が、全てを懸けて戦う戦争だ。

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