【暴食領平定編 西】 「最強」
訓練場に、俺とヴァイスだけが立っていた。
周囲には荒くれ者達がいる。
だが、今日は誰も武器を持っていない。
戦うのは俺一人。
相手も一人。
「準備はいいか?」
ヴァイスが剣を肩に担いだ。
「はい」
俺は剣を構える。
霊帝の抱擁は使わない。
もう、あの力には頼らない。
「……始めるぞ」
ヴァイスの姿が消えた。
「――!」
反射的に剣を振る。
金属音。
間に合った。
だが、重い。
腕が痺れる。
そのままヴァイスが剣を滑らせてくる。
俺は身体を捻って避けた。
斬撃が頬を掠める。
距離を取る。
息を整える。
速い。
だが、見えないわけじゃない。
昨日までとは違う。
以前なら、この時点で霊帝の抱擁を使っていただろう。
もっと速く。
もっと強く。
もっと正確に。
そうすれば勝てると思っていた。
今は違う。
俺は自分の足で地面を踏みしめる。
自分の目でヴァイスを見る。
そして――自分で選ぶ。
「行く!」
今度はこちらから踏み込んだ。
斬り上げ。
ヴァイスが受ける。
そのまま横薙ぎ。
避けられる。
ならば三撃目。
ヴァイスの剣とぶつかった。
押し合う。
力では負ける。
俺はすぐに剣を引いた。
その勢いを利用して身体を回転させる。
逆側から斬り込む。
ヴァイスが僅かに身を逸らした。
浅い。
だが、届いた。
「……!」
俺は追撃する。
魔力を足へ。
一気に加速。
ヴァイスの懐へ入る。
剣を突き出す。
ヴァイスが身体を捻る。
同時に拳が飛んできた。
顔を逸らす。
拳が耳元を通り過ぎる。
そのまま剣を振る。
ヴァイスが受ける。
また押し返された。
「まだだ!」
踏み込む。
何度も剣をぶつける。
ヴァイスも一歩も引かない。
剣と剣が何度も衝突する。
金属音が訓練場に響き続ける。
「はぁっ!」
斬る。
「ふっ!」
受ける。
返される。
避ける。
魔法を放つ。
ヴァイスが魔法を斬り裂く。
その瞬間、俺は煙の中へ飛び込んだ。
視界が悪い。
それでも踏み込む。
気配だけを頼りに剣を振る。
――いた。
剣がぶつかる。
ヴァイスの姿が見えた。
俺は笑った。
「捕まえた!」
そのまま力を込める。
ヴァイスが押し返してくる。
強い。
それでも、今度は退かない。
足を踏ん張る。
身体が悲鳴を上げる。
それでも剣を押し込む。
「……ほう」
ヴァイスが僅かに目を細めた。
次の瞬間。
ヴァイスが剣を捻った。
「――っ!」
俺の剣が弾かれる。
身体が開く。
そこへ拳。
咄嗟に腕で受けた。
吹き飛ばされる。
地面を転がった。
「ぐっ……!」
立ち上がる。
腕が痛い。
呼吸も乱れている。
だが、まだ動ける。
ヴァイスが歩いてくる。
「どうした?」
「……まだです」
「そうか」
ヴァイスが剣を構えた。
空気が変わる。
さっきまでとは違う。
明らかに、本気だ。
俺も構える。
怖い。
だが、逃げない。
ヴァイスが踏み込む。
速い。
剣が迫る。
俺は受けた。
重い。
一撃。
二撃。
三撃。
防ぐ。
だが、徐々に押される。
足が下がる。
それでも、頭は動いている。
次は右。
いや、フェイント。
なら左。
――違う。
俺は直感で身体を動かした。
剣が肩を掠める。
血が飛ぶ。
痛い。
だが、その痛みが俺を前へ押した。
「ここだ!」
踏み込む。
ヴァイスの懐へ。
剣を振る。
ヴァイスが避ける。
俺はさらに一歩踏み込む。
魔法を放つ。
ヴァイスが防ぐ。
その隙に斬る。
ヴァイスの頬に一筋の傷が走った。
「……!」
周囲から息を呑む声が聞こえた。
俺自身も驚いていた。
当たった。
ヴァイスに。
ほんの僅かだが。
確かに届いた。
ヴァイスは頬の血を指で拭う。
そして、その血を見た。
「……なるほど」
笑った。
「そこまで来たか」
次の瞬間。
ヴァイスの姿が消えた。
「――っ!」
反応する。
だが遅い。
剣が目の前に迫る。
俺は身体を捻る。
間一髪で避ける。
そのままヴァイスの背後へ回る。
剣を振る。
ヴァイスも振り向きざまに剣を振る。
互いの剣が交差する。
火花が散った。
俺の頬に傷。
ヴァイスの肩にも傷。
互いに一歩下がる。
荒くれ者達は誰も声を出さない。
ただ、俺達を見ている。
息を吐く。
身体は限界に近い。
それでも。
楽しかった。
怖い。
苦しい。
痛い。
それでも、剣を振るうことが楽しい。
霊帝の抱擁を使っていた頃には、感じなかった。
俺は笑った。
「……まだ、やれます」
「そうか」
ヴァイスも笑った。
「なら――」
剣を構える。
「最後まで来い」
「はい!」
俺も構える。
そして二人は、同時に地面を蹴った。
剣がぶつかる。
魔法が弾ける。
互いに譲らない。
一撃。
二撃。
三撃。
何度もぶつかる。
そして――。
最後の一瞬。
俺は全てを込めて剣を振った。
ヴァイスも同時に剣を振る。
互いの剣が交差した。
――勝負は、一瞬だった。




