【暴食領平定編 西】 「共に戦う」
翌朝。
俺は訓練場に立っていた。
昨日の戦いで身体中が痛む。
それでも、剣を握った。
目の前には、いつもの荒くれ者達。
彼らもそれぞれ武器を手にしている。
「今日もやるのか?」
「ああ」
俺は一度、全員を見渡した。
昨日までなら、俺が先頭に立っていた。
俺が攻撃する。
俺が隙を作る。
俺が勝つ。
それが一番合理的だと思っていた。
だが――違った。
「……力を貸してくれ」
自分でも意外な言葉だった。
荒くれ者達が目を丸くする。
「お前が?」
「俺達に?」
「そうだ」
俺は頷いた。
「俺一人では、ヴァイスには勝てない」
少しの沈黙。
やがて、一人の男が笑った。
「最初からそう言えばいいんだよ」
「……悪かったな」
「別にいいさ」
男が武器を構える。
「じゃあ、今日こそ一泡吹かせてやろうぜ」
「ああ」
俺も剣を構えた。
そして、その日の訓練が始まった。
最初に確認したのは、それぞれの役割だった。
前に出る者。
敵の動きを止める者。
魔法で援護する者。
隙を見て攻撃する者。
今までなら、そんなものを考える必要はないと思っていた。
強い者が前に出ればいい。
だが、それではヴァイスには届かない。
俺は一人ずつの動きを見る。
「お前は、俺が攻撃した後に動いてくれ」
「分かった」
「お前は無理に攻撃しなくていい。俺が追い込まれた時だけ頼む」
「任せろ」
言葉にすると、それだけだった。
だが、それだけで少しずつ形が変わっていく。
そして――。
「始めるぞ」
ヴァイスが剣を抜いた。
昨日と同じ。
相手は一人。
俺達は全員。
だが、今日は違う。
「行く!」
俺が先に踏み込んだ。
ヴァイスの剣とぶつかる。
甲高い音。
押し返される。
その瞬間、横から槍が飛び込んだ。
ヴァイスが避ける。
そこへ魔法。
炎が地面を走る。
ヴァイスは後ろへ跳んだ。
俺は追う。
剣を振る。
受けられる。
ならば――。
「今だ!」
背後から盾が突っ込んだ。
ヴァイスが俺への攻撃を中断する。
俺はその隙に身体を捻り、斬り込んだ。
浅い。
だが、ヴァイスの服を掠めた。
「……!」
昨日とは違う。
明らかに違う。
俺が一人で動いているわけじゃない。
俺の攻撃に合わせて、仲間が動いている。
仲間の攻撃に合わせて、俺が動く。
誰かが前に出れば、誰かが支える。
誰かが失敗すれば、別の誰かが穴を埋める。
俺はヴァイスの動きを見ながら、次に来る攻撃を考えた。
だが、その必要はなかった。
「サミエム、右!」
「分かってる!」
仲間の声。
俺は反射的に身体を動かした。
ヴァイスの剣が目の前を通り過ぎる。
そのまま俺は踏み込む。
ヴァイスが受ける。
だが、今度は左から斧。
ヴァイスが弾く。
そこへ魔法。
ヴァイスが魔法を斬り裂く。
煙が広がる。
「今だ!」
俺は煙の中へ飛び込んだ。
剣を振る。
ヴァイスが受ける。
互いの剣がぶつかる。
昨日なら、ここで押し負けていた。
だが。
「押せ!」
背後から声がした。
俺は力を込める。
同時に、仲間達も動く。
ヴァイスが一歩下がった。
さらに一歩。
「今だ!」
全員が一斉に動いた。
剣。
槍。
斧。
魔法。
それぞれ違う攻撃が、一つの流れになっていく。
ヴァイスが防ぐ。
避ける。
弾く。
それでも、完全には捌ききれない。
俺の剣が、ヴァイスの肩を掠めた。
「……!」
初めて。
確かに、届いた。
だが――。
「まだまだだな」
ヴァイスが笑った。
次の瞬間だった。
空気が変わった。
ヴァイスの剣が走る。
「ぐっ!」
一人が吹き飛ぶ。
続けて二人。
魔法を斬り裂き、槍を弾き、盾ごと男を吹き飛ばす。
「くそっ!」
俺も斬り込む。
だが、受けられた。
そのまま剣を弾かれる。
「――っ!」
ヴァイスの蹴りが腹に入る。
身体が浮いた。
地面に叩きつけられる。
「サミエム!」
「まだだ!」
立ち上がる。
周りを見る。
全員、倒れている。
俺も限界だった。
それでも、不思議と悔しくはなかった。
昨日とは違う。
俺一人で挑んでいたわけじゃない。
確かに――。
ヴァイスに届いた。
「……悪くない」
ヴァイスが剣を収める。
「昨日よりはな」
俺は息を整えながら立ち上がった。
「それでも、負けました」
「ああ」
「俺達では、まだ足りない」
ヴァイスは俺を見る。
「そうだな」
そして、少しだけ笑った。
「だが、一人で勝とうとするよりは随分マシだ」
俺は仲間達を見る。
誰もが疲れ切っている。
それでも、笑っていた。
俺も、少しだけ笑った。
まだ勝てない。
それでも。
もう、一人で戦う必要はない。
俺は剣を握り直した。
そしてヴァイスを見る。
次こそは。
そう思った。




