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【暴食領平定編 西】 「五人戦」

 四人に負けた翌朝。


 俺は、昨日の戦いを何度も頭の中で再生していた。


 大盾。


 槍。


 剣。


 魔法。


 四人の動き。


 俺がどこへ動いても、必ず誰かがそこを塞いだ。


 攻撃を仕掛ければ、別の誰かが援護に入る。


 魔法使いを倒しても、三人の連携は崩れなかった。


 そして最後には、俺の動きを完全に封じられた。


「……。」


 敗因は明確だ。


 俺の力が足りなかった。


 もっと速ければ。


 もっと強ければ。


 もっと一撃が重ければ。


 あの四人が連携を完成させる前に、全員を倒せた。


 つまり。


 必要なのは、さらなる力だ。


 俺は右手を見る。


 白銀の魔力が僅かに揺らめいている。


 霊帝の抱擁。


 感情を捨てることで、肉体と魔力を極限まで引き上げる禁忌のエンチャント。


 今までだって、この力に何度も救われてきた。


 ならば、答えは簡単だった。


「もっと使えばいい。」


 呟いた瞬間。


 白銀の魔力が強くなる。


 胸の奥にあった苛立ちが消えた。


 悔しさも。


 恐怖も。


 迷いも。


 必要ない。


 ただ、勝つために必要なことだけを考えればいい。


「今日こそ、勝つ。」


 俺は立ち上がった。


 闘技場へ向かう。


 昨日以上の歓声が待っていた。


「来たぞ!」


「昨日の四人戦の奴だ!」


「今日は五人らしいぞ!」


 五人。


 聞いた瞬間、俺は相手を確認した。


 大剣。


 槍。


 大盾。


 短剣。


 そして魔法使い。


 昨日より一人増えただけ。


 ならば。


 問題ない。


 俺は剣を抜いた。


 霊帝の抱擁を、さらに深くする。


 身体中を白銀の魔力が駆け巡った。


 心が静かになる。


 余計なものが消えていく。


 視界が澄む。


 相手の動きが、手に取るように分かる。


「始め!」


 五人が動いた。


 大盾が前。


 その横を槍が並走する。


 大剣が一歩遅れて続く。


 短剣使いは側面。


 魔法使いは最後方。


 完璧な隊列。


 俺は迷わない。


 最初に魔法使い。


 昨日と同じだ。


 俺は一気に側面へ回る。


 大盾が反応した。


 だが、遅い。


 大盾の横を抜ける。


 槍。


 避ける。


 大剣。


 剣で受ける。


 短剣。


 身体を捻る。


 魔法。


 火球が飛んでくる。


 避ける。


 まだ行ける。


 魔法使いとの距離が縮まる。


 あと三歩。


 二歩。


 一歩。


 剣を振る。


「――!」


 杖を弾いた。


 そのまま柄を腹へ叩き込む。


 魔法使いが倒れた。


 五人から四人。


 昨日と同じだ。


 だが、俺は止まらない。


 大盾へ向かう。


 斬る。


 受けられる。


 もう一撃。


 盾が軋む。


 槍が来る。


 避ける。


 短剣が迫る。


 弾く。


 大剣。


 受ける。


 重い。


 だが。


 昨日よりも身体が軽い。


 霊帝の抱擁を深くした効果だ。


 俺は一歩踏み込む。


 大剣を弾く。


 そのまま槍使いへ。


 斬る。


 浅い。


 もう一撃。


 今度は確実に捉えた。


 槍使いが倒れる。


 残り三人。


「……。」


 まだだ。


 ここからだ。


 三人なら勝てる。


 昨日も三人には勝った。


 ならば。


 勝つ。


 大盾が迫る。


 真正面から受ける必要はない。


 横へ回る。


 短剣が来る。


 受ける。


 大剣。


 避ける。


 大盾。


 もう一度。


 盾を蹴る。


 相手の身体が僅かに浮いた。


 その隙に大剣使いへ。


 剣を振る。


 弾く。


 もう一撃。


 腕を斬る。


「ぐっ!」


 武器が落ちた。


 残り二人。


 大盾と短剣。


 勝てる。


 そう判断した。


 だが。


 大盾が前に出た。


 短剣がその後ろへ。


 俺が大盾を攻撃する。


 短剣が狙う。


 避ける。


 大盾。


 斬る。


 短剣。


 避ける。


 大盾。


 受ける。


 短剣。


 斬る。


 攻撃を繰り返す。


 それでも倒れない。


「……!」


 おかしい。


 俺の速度は上がっている。


 判断も速い。


 なのに。


 倒せない。


 大盾の男が踏み込む。


 盾が迫る。


 避ける。


 その瞬間、短剣が足を狙う。


 跳ぶ。


 空中で身体を捻る。


 着地。


 大盾。


 短剣。


 二人が同時に来る。


 俺は剣を振った。


 短剣を弾く。


 大盾を斬る。


 ――浅い。


 大盾の男が笑った。


「まだだ!」


 踏み込んでくる。


 俺も踏み込む。


 力では負けない。


 そう思った。


 だが。


 盾が身体にぶつかった。


「――っ!」


 吹き飛ばされる。


 地面を転がる。


 立つ。


 短剣。


 大盾。


 二人が迫る。


 避ける。


 斬る。


 受ける。


 また避ける。


 だが、身体が重くなってきた。


 魔力の消耗。


 呼吸が乱れる。


 それでも霊帝の抱擁を解除しない。


 むしろ、さらに魔力を注ぎ込む。


「もっと……。」


 力を。


 もっと。


 速く。


 強く。


 圧倒する。


 そうしなければ勝てない。


 白銀の魔力が膨れ上がる。


 身体が再び軽くなった。


 大盾。


 避ける。


 短剣。


 弾く。


 大盾。


 斬る。


 今度こそ。


 男が膝をついた。


「ぐ……。」


 倒れる。


 残り一人。


 短剣使い。


 俺は剣を構えた。


 だが。


 足が動かない。


「……。」


 力が入らない。


 呼吸が苦しい。


 霊帝の抱擁が身体を酷使している。


 それでも。


 剣を握る。


 短剣使いが迫る。


 避ける。


 反撃。


 しかし。


 遅い。


 短剣が腕を掠める。


「っ!」


 血が流れる。


 さらに一撃。


 受ける。


 剣が弾かれる。


 拾おうとする。


 その前に、短剣が喉元へ向けられた。


 動けない。


 観客の声が消えた。


「勝負あり!」


 俺はその場に膝をついた。


 五人。


 負けた。


 魔法使いを倒した。


 槍使いも。


 大剣使いも。


 大盾も。


 四人倒した。


 それでも。


 最後の一人に負けた。


 俺は地面を見つめる。


 力が足りなかった。


 ただ、それだけだ。


 ヴァイスが闘技場へ降りてくる。


「よくやったな。」


「……。」


「五人相手に、四人まで倒した。」


「でも、負けました。」


「ああ。」


 ヴァイスは否定しなかった。


「だから?」


 俺は顔を上げる。


「もっと力が必要です。」


「そう思うか。」


「はい。」


 ヴァイスはしばらく俺を見つめていた。


 何か言いたそうな顔だった。


 だが、結局何も言わなかった。


「今日は休め。」


 それだけ言って去っていった。


 俺は立ち上がる。


 部屋へ戻る。


 身体中が痛い。


 魔力もほとんど残っていない。


 それでも。


 俺は霊帝の抱擁を解除することができなかった。


 いや。


 したくなかった。


 この力が足りなかった。


 だから負けた。


 ならば、もっと使えばいい。


 もっと深く。


 もっと強く。


 もっと感情を捨てればいい。


「……次は、勝つ。」


 そう呟いた。


 その言葉に、もう悔しさはなかった。


 敗北への怒りもない。


 ただ一つ。


 もっと強くならなければならない。


 その考えだけが、静かに残っていた。

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