↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
258/301

【暴食領平定編 西】 連携

 翌朝。


 闘技場へ向かう廊下を歩きながら、昨日の言葉を思い返していた。


 ――強くなれ。


 ――弱い。


 何度考えても、答えは出ない。


 俺はこれまで、力不足で負けたことはほとんどない。


 霊帝の抱擁を使えば、身体能力も思考速度も大きく向上する。


 剣術だって、これまで積み重ねてきた。


 ならば、何が弱い。


「……。」


 扉が開く。


 闘技場へ出る。


 昨日より観客が多い。


 どうやら、この街では俺の戦いが話題になっているらしい。


「来たぞ!」


「昨日も二人相手に勝った奴だ!」


「今日は何人だ?」


 歓声が飛び交う。


 俺は気にせず中央へ進む。


 反対側の門が開いた。


「……三人。」


 三人の男が歩いてくる。


 一人は剣。


 一人は槍。


 そして最後の一人は盾を持っている。


 昨日の二人とは違う。


 装備だけではない。


 立ち位置も違う。


 三人の距離が一定に保たれている。


 互いの死角を補える位置。


「始めろ。」


 ヴァイスの声が響く。


 三人が動いた。


 最初に盾持ちが前へ出る。


 その背後から槍。


 さらに横から剣。


 役割が明確だった。


 俺は正面から盾持ちへ踏み込む。


 霊帝の抱擁が身体を強化する。


 盾を避けて、脇へ回る。


 そのまま斬る。


 ――届かない。


 盾持ちが身体を捻り、俺の進路を塞いだ。


 同時に槍が飛んでくる。


「っ!」


 身体を逸らす。


 槍が頬を掠めた。


 反撃。


 槍の柄を斬る。


 だが、その瞬間には剣士が迫っていた。


 剣を受ける。


 重い。


 一撃を弾く。


 もう一度踏み込む。


 今度こそ盾持ちの懐へ入る。


 だが、槍が横から突き込まれる。


 俺は後ろへ跳んだ。


 三人は追ってこない。


 距離を保ったまま、こちらを見ている。


「……。」


 なるほど。


 理解した。


 俺一人に対して、三人がそれぞれ別の役割を持っている。


 ならば――。


 最初に盾持ちを潰す。


 踏み込む。


 速さを上げる。


 盾へ剣を叩き込む。


「ぐっ!」


 盾持ちの身体が沈む。


 その隙を狙い、槍が来る。


 避ける。


 剣士も来る。


 受ける。


 そして――。


「そこだ。」


 盾持ちの脇を抜けた。


 槍使いへ接近する。


 槍は近距離では不利。


 そう判断した。


 一閃。


 槍を弾く。


 もう一撃。


 武器を落とさせる。


「終わりです。」


 剣先を突き付ける。


 その瞬間。


 背中に衝撃が走った。


「――っ!」


 吹き飛ばされる。


 地面を転がる。


 何が起きた。


 起き上がる。


 盾持ち。


 まだ倒れていない。


 俺が槍使いへ向かった瞬間、盾で背後から殴りつけてきたらしい。


 そして、その間に剣士が距離を詰めている。


 三人の位置が戻っていた。


「……。」


 厄介だ。


 俺が一人を狙えば、残り二人が必ず補助する。


 ならば。


 最も弱い場所を探す。


 視線。


 足。


 呼吸。


 重心。


 全てを見る。


 霊帝の抱擁によって研ぎ澄まされた思考が、最適解を探す。


 ――右。


 盾持ちが僅かに遅れている。


 そこを狙う。


 踏み込む。


 剣士。


 無視。


 槍。


 避ける。


 盾。


 斬る。


「なっ――!」


 盾持ちの腕を打ち、武器を落とさせる。


 そのまま身体を反転。


 剣士の剣を弾く。


 槍使いへ踏み込む。


 だが。


「――!」


 三人が同時に動いた。


 俺を囲む。


 逃げ道がない。


 剣。


 槍。


 拳。


 三方向から攻撃が来る。


 俺は身体を低くする。


 剣を避ける。


 槍を弾く。


 拳を受ける。


 そして一歩下がる。


 荒い呼吸が漏れた。


 初めてだ。


 三人を相手にして、ここまで追い詰められたのは。


 観客が沸いている。


「いいぞ!」


「囲め!」


「逃がすな!」


 俺は剣を握り直す。


 負けるわけにはいかない。


 ここで負ければ、ヴァイスの言葉が正しいことになる。


 俺は強くない。


 そんなはずはない。


 なら――勝つ。


 再び踏み込む。


 今度は、無理に一人を狙わない。


 攻撃を受け流し、隙を作る。


 三人の動きを見る。


 一人が動く。


 もう一人が合わせる。


 そして最後の一人が穴を埋める。


 ならば。


 その連携が完成する前に――。


 斬る。


 盾。


 弾く。


 槍。


 避ける。


 剣。


 受ける。


 身体を回す。


 盾持ちの足を払う。


 倒れる。


 残り二人。


 槍使いが踏み込む。


 剣で受ける。


 力を流す。


 そのまま懐へ。


 柄で腹を打つ。


 崩れた。


 残るは一人。


 剣士。


 互いに構える。


 男が笑った。


「やっと一対一だな。」


「……。」


 一対一なら負けない。


 そう思った。


 踏み込む。


 剣が交差する。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 男の剣を弾く。


 喉元へ剣を向ける。


「勝負ありです。」


 男が剣を下ろした。


 歓声が上がる。


 三人。


 勝った。


 だが、俺は素直に喜べなかった。


 勝つまでに時間が掛かった。


 そして何より。


 最後まで、三人の連携を完全には崩せなかった。


 俺が一人ずつ倒していったから、勝てた。


 もし最初から三人が完璧に動いていたら。


 結果は違っていたかもしれない。


 観客席を見る。


 ヴァイスが立っていた。


 俺と目が合う。


「……。」


 ヴァイスは何も言わなかった。


 ただ、ほんの僅かに笑った。


 その表情が、妙に気に障った。


 俺は剣を鞘へ収める。


「次は何人ですか。」


 ヴァイスは答えない。


 代わりに、背を向けた。


「明日だ。」


 それだけ言い残して、闘技場を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。