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【暴食領平定編 西】 城主ヴァイス

 翌朝。


 目を覚ますと、昨日と同じ部屋だった。


 窓から差し込む光は強い。


 身体に痛みはない。


 当然だ。


 昨日の戦いで傷らしい傷は負っていない。


 俺はベッドから立ち上がり、身支度を整える。


 扉が開いた。


「時間だ。」


 昨日と同じ兵士だった。


「分かりました。」


 俺は剣を腰に差す。


 廊下へ出る。


 昨日と同じ道を歩き、闘技場へ向かう。


 ただ、一つ違うことがあった。


 昨日よりも、周囲の視線が多い。


 すれ違う者達が俺を見る。


 何かを話している。


 聞き取れないほど小さな声。


 だが、昨日の戦いについて話していることくらいは分かる。


 俺は気にせず歩いた。


 闘技場へ入る。


 既に観客席には多くの人間が集まっていた。


 昨日より多い。


「来たぞ!」


「昨日の奴だ!」


「今日は誰とやるんだ?」


 歓声が上がる。


 俺は中央まで歩く。


 砂を踏みしめる。


 そして、昨日と同じ場所を見る。


 最上段。


 そこにヴァイスがいた。


 黒髪。


 細身の身体。


 腰に差した剣。


 昨日と何も変わらない。


 ただ、今日は一人だった。


 俺と目が合う。


 ヴァイスが立ち上がった。


「昨日の戦い。」


「見ていた。」


「はい。」


「どうだった?」


 質問の意味が分からない。


「勝ちました。」


「そうだな。」


 ヴァイスは階段を下りてくる。


 観客達が静かになっていく。


 一段。


 また一段。


 ゆっくりと闘技場へ降りてくる。


 そして俺の前で足を止めた。


「お前、強いな。」


「ありがとうございます。」


「だが――」


 ヴァイスは俺を頭の先から足元まで眺めた。


「弱い。」


「……。」


 一瞬、意味が分からなかった。


「昨日の戦いを見て、そう判断したのですか?」


「ああ。」


「矛盾しています。」


「何がだ?」


「私は勝ちました。」


「一人相手にな。」


 ヴァイスは即答した。


「それが何か?」


「別に。」


 ヴァイスは笑う。


「一人に勝った程度で、自分が強いと思うなら好きにすればいい。」


「……。」


「ただし、この街では通用しない。」


 俺は周囲を見る。


 観客席にいる者達。


 昨日のガルドもいた。


 腕を組みながら、こちらを見ている。


 他にも何人かいる。


 昨日は気付かなかった。


 いや。


 気付く必要がなかった。


 彼らは俺が戦った相手ではない。


「今日も一人ですか?」


「違う。」


 ヴァイスが指を鳴らす。


 反対側の門が開いた。


 男が二人、入ってくる。


 昨日とは違う顔。


 二人とも武器を構えている。


「二人。」


「昨日より一人増えただけです。」


「そうだな。」


「なら問題ありません。」


 霊帝の抱擁が身体を包む。


 白銀の魔力が全身を巡る。


 昨日と同じ感覚。


 思考が研ぎ澄まされる。


 身体能力が上がる。


 敵の動きが遅く見える。


 勝てる。


 そう判断した。


「始めろ。」


 二人が同時に動いた。


 右から剣。


 左から斧。


 昨日より速い。


 だが、まだ対応できる。


 身体を沈める。


 剣を避ける。


 斧を受け流す。


 一人目の懐へ入る。


 斬る。


 ――と思った。


「っ!」


 剣が止まる。


 相手の剣が俺の斬撃を受けていた。


 その隙に、もう一人が横から迫る。


 身体を捻る。


 斧を避ける。


 反撃。


 だが、今度は最初の男が追ってくる。


「……。」


 二人が離れない。


 一人が攻撃すれば、もう一人が隙を埋める。


 俺が一人へ狙いを定めれば、もう一人が必ず割り込む。


 連携。


 昨日の相手とは違う。


 だが。


 俺は焦らない。


 攻撃を避ける。


 受ける。


 間合いを取る。


 そして、片方の足を払った。


「ぐっ!」


 男が体勢を崩す。


 その瞬間、もう一人へ踏み込む。


 剣を振る。


 相手の武器を弾く。


 さらに一歩。


 喉元へ剣を突き付ける。


「……終わりです。」


 男が動きを止めた。


 俺は振り返る。


 倒れていた男も、既に立ち上がっている。


「二人でも、問題ない。」


 そう言った。


 観客席から歓声が上がる。


 だが。


 ヴァイスだけは笑っていなかった。


「なるほど。」


 小さく呟く。


「確かに強い。」


「なら、先ほどの言葉は?」


「弱い。」


「……。」


 また同じ言葉。


 俺はヴァイスを見つめる。


「何が弱いのですか。」


「全部だ。」


「剣も。」


「考え方も。」


「戦い方も。」


 胸の奥に、僅かな苛立ちが生まれた。


 久しぶりに感じる感情だった。


「具体的に言ってください。」


「教える必要はない。」


「……なぜ?」


「自分で気付かなきゃ意味がないからだ。」


 ヴァイスは背を向ける。


「今日は終わりだ。」


「待ってください。」


 呼び止める。


 ヴァイスが振り返った。


「俺は、お前をここから出すつもりはない。」


「ですが――」


「強くなれ。」


 その言葉だけを残し、ヴァイスは闘技場を去っていった。


 俺はその背中を見送る。


 強くなれ。


 その言葉が頭に残った。


 俺は既に強い。


 霊帝の抱擁がある。


 これまで何度も、それで勝ってきた。


 なのに。


 なぜ、あの男は俺を弱いと言う。


「……分からない。」


 初めてだった。


 自分の力に対して、疑問を抱いたのは。

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