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【暴食領平定編 東】 再会

 ラクスウェルの石畳を踏みしめる。


 街は以前と変わらず活気に満ちていた。


 露店からは香ばしい匂いが漂い、冒険者たちの笑い声が通りへ響く。


「これが……人間の都。」


 ヴィオラが周囲を見回し、小さく息を漏らした。


「賑やかですね。」


「毎日こんな感じだよ。」


 僕が答えると、雪月鬼たちも物珍しそうに辺りを見渡している。


「見るもの全てが初めてです……。」


「迷子になるなよ。」


 僕が笑うと、代表の雪月鬼は慌てて姿勢を正した。


「は、はい!」


 その反応にヴィオラも思わず笑みを零す。


 張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。


「零!」


 聞き覚えのある大声が通りの向こうから響く。


 振り向くと、一人の青年が勢いよく人混みをかき分けて駆けてくる。


「やっぱり帰ってきてたか!」


「サミエム。」


 次の瞬間、肩を思い切り叩かれる。


「痛っ!」


「悪ぃ悪ぃ!」


 そう言いながら笑うサミエムの表情を見て、僕も自然と笑ってしまった。


「……戻ったな。」


「ん?」


「その顔。」


「前みたいに笑ってる。」


 サミエムは照れ臭そうに鼻を擦る。


「まぁな。」


「こいつらのおかげだ。」


 親指で後ろを指す。


「おーい!」


「帰ったぞ英雄!」


「また面倒事拾ってきたのか!」


 豪快に笑いながら近付いてくる荒くれ者たち。


 皆、以前よりもサミエムと打ち解けていた。


「毎日よ。」


 サミエムは肩を竦める。


「朝は訓練。」


「昼も訓練。」


「夜は酒。」


「酒飲んだら腕相撲。」


「負けたらまた訓練。」


「地獄だった。」


「はっはっは!」


 一斉に笑い声が上がる。


「暗ぇ顔してる奴は面白くねぇからな!」


「嫌でも笑わせてやった!」


「感謝してるよ。」


 サミエムが照れ隠しのように笑う。


「もう下向いてても仕方ねぇ。」


「前に進むって決めた。」


 その言葉だけで十分だった。


 僕の知っているサミエムが帰ってきた。


「そうだ。」


 サミエムが僕の後ろへ目を向ける。


「紹介してくれよ。」


「ああ。」


 僕はヴィオラを前へ促す。


「ヴィオラ・クラウソラス。」


「白哭峰を治める鉄拳の聖女。」


「今回、新しく仲間になった。」


 ヴィオラは丁寧に一礼する。


「ヴィオラ・クラウソラスです。」


「よろしくお願いいたします。」


「俺はアレクシエル・サミエム!」


「よろしくな!」


 二人は固く握手を交わした。


「雪月鬼って初めて見たぜ。」


 サミエムは後ろの代表たちにも笑い掛ける。


「仲良くしようや。」


 代表の一人が少し緊張しながら頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


「固ぇ固ぇ!」


 サミエムは豪快に笑う。


「もっと気楽でいいんだよ!」


 その一言で、雪月鬼たちの表情も少しだけ柔らかくなった。


 そこへ城門の方から重い足音が響く。


「おや。」


 聞き慣れた低い声だった。


「随分と賑やかじゃないか。」


 人混みが自然と左右へ分かれる。


 その先から姿を現したのは、強欲帝マモンだった。


「戻ったか、灰崎。」


「はい。」


 僕は軽く頭を下げる。


「東方遠征、お疲れ様でした。」


 マモンはヴィオラへ視線を向ける。


「君がクラウソラスの娘か。」


「……はい。」


 ヴィオラは静かに頭を下げる。


「本日より灰崎様へ同行いたします。」


「そうか。」


 マモンは短く頷いた。


「歓迎しよう。」


 その一言だけだった。


 けれど十分だった。


 ヴィオラも少しだけ表情を和らげる。


「さて。」


 マモンが城を振り返る。


「帰還祝いでも——」


「強欲帝様ぁぁぁ!!」


 その場の空気を切り裂くような叫び声が響いた。


 一人の兵士が血相を変えて城門から駆けてくる。


 全員の視線が兵士へ集まった。


 兵士は息を切らしながらマモンの前へ膝をつく。


「緊急報告です!」


 その声色だけで。


 穏やかだった空気が一変した。

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