↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
183/309

【怠惰の章】根下の門(六)

『力ではない』


 頭の奥へ響いた声は短かった。


 だが。


 重かった。


 意味が。


 理解が。


 否応なく胸へ沈んでいく。


 次の瞬間。


 ズン――ッ!!


 地下全体が震えた。


「っ!?」


 足場が跳ねる。


 今までとは比べ物にならない。


 根脈が波打つ。


 巨大な生物の筋肉が蠢くように、床そのものが持ち上がり、沈み、裂け始める。


 壁。


 床。


 天井。


 全部が生き物みたいに動く。


「下がれ!!」


 サミエムが叫ぶ。


 直後。


 根壁が爆発した。


 槍。


 いや。


 森そのものが牙を剥く。


 数十本。


 一斉。


 突き出される。


 暴風。


 轟音。


 灰崎は転がるように避けた。


 服が裂ける。


 熱風。


 数センチ横を根槍が通過していた。


「洒落になんねぇ!!」


 背後。


 諜報員の一人が盾で受ける。


 瞬間。


 吹き飛んだ。


「がっ……!」


 地面へ叩きつけられる。


 死んではいない。


 だが息が止まっている。


 重い。


 威力が明確に上がっていた。


 試験段階が変わった。


「また来る!」


 地図係が叫ぶ。


 小妖精。


 群れ。


 今度は動きが違う。


 連携が精密になっていた。


 前。


 横。


 上。


 視線誘導。


 囮。


 死角。


 完全に戦術だ。


 しかも。


 地形変化と噛み合っている。


 足場が崩れた瞬間を狙う。


 視線が逸れた瞬間へ刺し込む。


 悪質。


 だが。


(違う)


 灰崎は息を整える。


 考える。


 観察。


 法則。


 ここまでずっとそうだった。


 妖精。


 蒸樹蛇。


 根道。


 全部。


 突破口がある。


 理不尽じゃない。


 そして。


『力ではない』


 さっきの言葉。


 それ。


 ヒントだ。


 間違いなく。


「灰崎!!」


 サミエム。


 反射。


 小妖精三体。


 死角。


 来る。


「魂を縛れ――魂鎖!」


 青白い鎖が弾ける。


 空中停止。


 一瞬。


 サミエム。


 一閃。


 木片が飛ぶ。


 だが。


 また来る。


 終わらない。


「キリがねぇ!」


「違う!!」


 灰崎が怒鳴った。


「倒すのが正解じゃねぇ!」


 一瞬。


 全員止まる。


「じゃあ何だ!」


 サミエムが斬りながら叫ぶ。


 灰崎は歯を食いしばる。


 分からない。


 でも。


 ヒントはある。


 力ではない。


 資格。


 森へ至る。


 ここ。


 ユグドラシル。


 共生。


 妖精。


 案内。


 試験。


 頭の中で繋がり始める。


 そして。


 視界へ映る。


 白い妖精。


 案内役。


 逃げない。


 戦わない。


 でも。


 ずっと近くにいる。


 鈴を鳴らす。


 導く。


 待つ。


 試す。


 そして。


 小妖精たち。


 役割。


 群れ。


 連携。


 単独で動かない。


 大妖精。


 森。


 環境。


 全部。


(……協力?)


 違う。


 もっと近い。


 共生。


 役割。


 支え合い。


「サミエム!!」


「何だ!!」


「一人で突っ込むな!!」


 怒鳴る。


「俺見てる! 諜報員は地図係守れ! お前は前だけ見ろ!」


「命令か!」


「違う!! 役割分担だ!!」


 その言葉。


 一瞬。


 空気が変わった。


 チリン。


 鈴。


 妖精。


 少しだけ近づく。


 まるで。


 続きを見たいように。


 サミエムが息を吐く。


 短く。


 少し迷う。


 そして。


「……了解」


 初めてだった。


 任せる言葉。


 全部抱え込まない返答。


 魂の色。


 揺れる。


 責任感。


 焦り。


 その奥。


 ほんの少し。


 軽くなる。


 灰崎が叫ぶ。


「右後ろ!」


 斬る。


「上!」


 一閃。


「段差来る!」


 サミエムが跳ぶ。


 諜報員が地図係を支える。


 隊列が崩れない。


 小妖精が入り込めない。


 少しずつ。


 噛み合う。


 戦場が変わる。


 そして。


 灰崎は気付く。


 大妖精。


 見ている。


 攻撃している。


 でも。


 急所へ来ない。


 殺し切れる瞬間があるのに。


 しない。


 確認。


 試験。


 資格。


 なら。


 見せるべきものがある。


 力じゃない。


 倒すことじゃない。


「……そういうことか」


 灰崎が呟く。


 汗が顎を伝う。


 肺が熱い。


 でも。


 繋がった。


「森ってのは、一人じゃ生きられねぇ」


 誰へともなく言う。


「全部役割ある」


 炎。


 水。


 岩。


 土。


 まだ知らない。


 でも森だ。


 絶対そうだ。


 支えている。


 共生している。


「資格ってのは――」


 言いかけた瞬間。


 ズン。


 地面が再び震えた。


 今度は真正面。


 巨大な根壁が開く。


 道。


 いや。


 試練。


 一本だけ。


 細い足場。


 その先。


 大妖精。


 静かな目。


 そして。


 頭へ響く。


『証明せよ』


 今度は少し違った。


 冷たくない。


 測る声音。


『汝らは、支え合えるか』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。