↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
152/309

【嫉妬の章】勝利の裏側

 静かすぎた。




 風だけが、かすかに流れている。




 あれほど激しくぶつかり合っていた戦場が、嘘のように沈黙している。




 だが――




 ぽたり。




 音がした。




 血の落ちる音。




 やけに、はっきりと。




「……なんだ?」




 サミエムが呟く。




 灰崎も視線を落とす。




 赤。




 地面に、滲む。




 新しい血。




 まだ温かい。




 ぽたり。




 もう一滴。




 落ちる。




 どこからだ。




 誰のだ。




 思考が追いつかない。




 だが、身体が先に理解する。




 視線が、上がる。




 そこに――




「……ヘリオ?」




 灰崎の声が、揺れる。




 ヘリオが、立っている。




 だが。




 その胸元。




 刃が、貫いていた。




「……は?」




 サミエムの声が抜ける。




 理解が、できない。




 誰が。




 いつ。




 どうやって。




 思考が空回る。




 静寂が、場を包む。




 その静寂を。




 破壊するように。




「――ははははははははッ!!」




 高笑い。




 場違いなほどの愉悦。




 全員の視線が、そちらへ向く。




 そこに――




「……な、に……」




 サミエムの喉が鳴る。




 立っていた。




 嫉妬帝。




 確かに、倒したはずの存在が。




 ゆっくりと手を上げる。




 顔に触れる。




 特徴的なマスク。




 それを外す。




 素顔が、晒される。




「……なんで……」




 灰崎の声が低く漏れる。




 男は、笑う。




「いい顔だな」




 愉快そうに。




「“勝った”と思った顔だ」




 一歩、踏み出す。




 血に濡れた地面を踏みしめながら。




「安心しろ」




 口元が歪む。




「間違いじゃない」




 その一言に、全員の動きが止まる。




「お前たちは、確かに俺を“殺した”」




 はっきりと、言い切る。




「さっきの俺は、本物だった」




「……は?」




 サミエムの思考が追いつかない。




 嫉妬帝は続ける。




「影武者だがな」




 その言葉。




 だが、その響きは軽くない。




「ただの身代わりじゃない」




 ゆっくりと、指を立てる。




「権能で、“力そのもの”を与えている」




 灰崎の瞳が揺れる。




(……つまり)




「俺と同じ力を持った、俺自身だ」




 あっさりと。




 恐ろしいことを言う。




「だから、お前たちは確かに俺を倒した」




 そして。




 笑う。




「誇っていい」




 皮肉と、賞賛が混ざる声。




「帝王を、正面から殺したんだからな」




 サミエムの拳が震える。




「……ふざけんなよ」




 絞り出すように言う。




 だが。




 嫉妬帝は止まらない。




「だが、意味はない」




 即座に、叩き落とす。




「何度でも作れる」




 指を鳴らす。




「何度でもな」




 口元が吊り上がる。




「何度でも倒してくれていい」




 狂気じみた声音。




「何度でも、作り直してやる」




 高笑い。




 戦場に響く。




 その瞬間。




 空気が、歪む。




 景色が剥がれる。




 幻が、解ける。




 現れたのは――




 騎士団。




 完全武装。




 数。




 圧倒的。




 いつの間にか。




 完全に、囲まれていた。




「……幻術かよ……!」




 灰崎が歯を食いしばる。




 最初から。




 全部。




 仕組まれていた。




 勝利すらも。




 罠。




 絶対的な状況。




 覆せない。




 その時。




「――持ってけ」




 低い声。




 全員が振り向く。




 ヘリオ。




 まだ立っている。




 胸を貫かれながら。




 その手に。




 神器。




 怠惰帝の盾。




「第2目標だ」




 血を流しながら。




 それでも、声は揺れない。




「持って逃げろ」




「ふざけんな!」




 サミエムが叫ぶ。




「一人でどうすんだよ!」




 ヘリオは、答えない。




 ただ。




 それを、投げる。




 一直線に。




 サミエムへ。




「行け」




 短く。




 重い。




「足止めは俺がやる」




「無理だ!」




「行け」




 その一言。




 鋭く、断ち切る。




 灰崎が一歩出る。




「……ヘリオ」




 だが。




「行けっつってんだろ」




 低く。




 強く。




 拒絶を許さない声。




 サミエムの拳が震える。




 悔しさで。




 怒りで。




 それでも。




 理解してしまう。




 これは、命令だ。




「……くそがッ!!」




 叫ぶ。




 灰崎を見る。




 一瞬。




 言葉はない。




 だが通じる。




 頷く。




 二人同時に、走る。




 背を向ける。




 逃げる。




 勝ったはずだった。




 だが。




 全てを覆された。




 背後で。




 再び高笑いが響く。




「逃げろ逃げろ!」




 嫉妬帝の声。




「どこまで逃げられるか、見てやるよ!」




 そして。




 戦闘音。




 激突。




 破壊。




 何かが弾ける音。




 振り返らない。




 振り返れない。




 ただ。




 前へ。




 走る。




 敗北の中へと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。