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【嫉妬の章】重ねる刃、削れぬ命

 地面が、鳴っていた。




 踏み込みのたびに、乾いた丘の土が軋む。衝突の余波が、空気だけでなく大地そのものを震わせている。




 九尾――尾を失ってなお、帝王は止まらない。




 断ち切られた尾の根元から血が流れている。確かに致命に近い損傷のはずだ。




 だが。




 鈍らない。




 衰えない。




 むしろ。




 怒りが、純度を増している。




「……化け物が」




 サミエムが低く吐き捨てる。




 その手には剣。




 刃に炎と雷が走っている。焼けるような熱と、痺れるような閃光が同時に刃を這う。




 九尾が吠えた。




 空気が裂ける。




 次の瞬間、突進。




 速い。




 巨体とは思えない速度で、距離が消える。




「来るぞ!」




 灰崎が叫ぶ。




 サミエムが踏み込む。




 迎撃。




 逃げない。




 ここで退けば、全てが終わる。




「――叩き斬る!」




 炎と雷を重ねた剣を振るう。




 さらに風を乗せる。




 三重エンチャント。




 刃が唸る。




 斬撃が空気を裂き、九尾へと届く。




 衝突。




 爆ぜる。




 だが――




「……っ!」




 浅い。




 確かに斬った。




 だが止まらない。




 九尾はそのまま踏み込み、サミエムごと押し潰す。




「ぐっ……!」




 衝撃。




 吹き飛ばされる。




 灰崎が動く。




 魔獣を顕現。




 複数。




 同時に。




 前方へ展開。




 足止め。




 噛みつき。




 絡みつき。




 進行を阻む。




 だが。




 九尾はそれすら踏み砕く。




 一振り。




 一撃。




 まとめて消し飛ぶ。




(……足りない)




 灰崎の奥歯が鳴る。




 その時。




「下がれ!」




 ヘリオの声。




 次の瞬間、前に出る。




 抜刀。




 静かに。




 だが、その刃にはすでに力が宿っている。




 炎。




 雷。




 風。




 さらに――水。




 四属性。




 同時展開。




 刃が、歪む。




 熱と冷気が同時に存在し、電撃が走り、風が収束する。




 相反する力が、衝突せず“成立”している。




「……おい、マジかよ」




 サミエムが息を呑む。




 ヘリオは答えない。




 ただ、一歩踏み込む。




 距離を詰める。




 間合いを制する。




 そして。




 斬る。




 横薙ぎ。




 無駄のない軌道。




 四属性が重なった斬撃が、九尾の身体を捉える。




 衝突。




 今度は違う。




 硬い感触。




 だが。




 止まる。




「……っ!」




 九尾の動きが、わずかに止まる。




 初めての“拮抗”。




 刃と肉体。




 力と力。




 真正面から噛み合う。




 押し合い。




 火花が散る。




 地面が砕ける。




「まだだ……!」




 ヘリオがさらに踏み込む。




 刃に込める力を増す。




 四属性。




 その均衡を崩さずに、出力だけを上げる。




 普通なら不可能。




 一つでも崩れれば、自壊する。




 だが。




 崩れない。




 完全に制御している。




 灰崎の目が細くなる。




(……見えてるのか)




 属性の流れ。




 干渉。




 反発。




 融合。




 全てを。




 だから成立している。




 九尾が吠える。




 力で押し返す。




 純粋な暴力。




 理屈を潰す圧。




 ヘリオの身体がわずかに押される。




 だが、退かない。




「サミエム!」




「任せろ!」




 サミエムが即座に回り込む。




 横から。




 死角へ。




 剣を構える。




 炎と雷。




 さらに風。




 三重エンチャント。




 タイミングを合わせる。




「合わせろよ!」




「言われなくても!」




 同時。




 斬る。




 ヘリオの刃と、サミエムの刃。




 二方向からの斬撃。




 同時圧力。




 九尾の肉体が、わずかに裂ける。




「……効いてる!」




 サミエムが叫ぶ。




 確かな手応え。




 だが――




 次の瞬間。




 九尾が咆哮する。




 力任せに、全てを弾く。




 二人まとめて。




 吹き飛ばす。




「くっ……!」




 地面を滑る。




 灰崎が割り込む。




 魔獣を展開。




 盾代わりに。




 衝撃を受け止める。




 砕ける。




 だが時間は稼げた。




 再び距離が開く。




 呼吸が荒い。




 だが、誰も止まらない。




 九尾も。




 こちらも。




 限界は見えない。




 ただ。




 削り合う。




 斬り合う。




 ぶつかり続ける。




 戦いの熱が、さらに上がる。




 終わりが見えない。




 だが。




 止まれない。




 灰崎は拳――いや、魔道具を握る。




(……まだ足りない)




 このままでは押し切れない。




 決定打が必要だ。




 その時。




 ヘリオが、再び刃を構える。




 呼吸は荒い。




 だが、目は冴えている。




 そして。




 さらに重ねる。




 四属性。




 その上に――




 もう一つ。




 わずかに。




 気配。




 だが、まだ不完全。




 不安定。




 崩れかけている。




 それでも。




「……行ける」




 小さく呟く。




 確信。




 その言葉に、揺らぎはない。




 サミエムがニヤリと笑う。




「やっと見えてきたな」




 灰崎も前に出る。




 戦いは、まだ終わらない。




 だが。




 確実に。




 “次”へと進もうとしていた。



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