↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
148/309

【嫉妬の章】天を穿つ一射

 丘の上。




 乾いた地面に、足が沈まない。




 それだけで、戦場の感覚が変わる。




 だが、余裕は一切ない。




 背後から迫る圧は変わらない。




 むしろ、近い。




 九尾が、丘へと踏み込む。




 巨大な影が、すぐそこまで来ている。




「……ここだ」




 ヘリオが、低く呟いた。




 その声には迷いがない。




 確信。




 ここが“勝つための場所”だという確信。




 灰崎が視線を向ける。




「……で、どうすんだ」




 問い。




 短い。




 だが、その中には全てが込められている。




 ヘリオは答えない。




 代わりに、懐から何かを取り出す。




 細い筒。




 簡素な構造。




 だが――




「……信号弾?」




 サミエムが眉をひそめる。




「おい、何やって――」




「黙って見てろ」




 ヘリオが遮る。




 次の瞬間。




 筒を、九尾へ向ける。




 真正面。




 挑発するように。




「来いよ」




 小さく呟く。




 そして。




 引き金を引いた。




 ――発射。




 光が、一直線に走る。




 だが、それは遅い。




 あまりにも。




 戦闘に使うには、あまりにも単純で、あまりにも遅い。




 九尾が動く。




 尾が揺れる。




 軽く。




 それだけで。




 信号弾は、あっさりと回避された。




 何の意味もない。




 そう思えるほどに。




 あっけなく。




「……は?」




 サミエムが呆れる。




「おい、それで――」




「いい」




 ヘリオが、短く言う。




 その目は、空を見ていた。




「それでいい」




 灰崎も、同じ方向を見る。




 空。




 何もないはずの、そこ。




 だが。




 違う。




(……来る)




 確信があった。




 あの一撃。




 あの光。




 何度も見た。




 忘れるはずがない。




 空気が、変わる。




 静かに。




 だが確実に。




 張り詰める。




 九尾が、動きを止める。




 何かを感じ取ったのか。




 首を上げる。




 空を睨む。




 次の瞬間。




 ――光が、落ちた。




 一直線。




 音を置き去りにして。




 空を裂き、地上へと叩き込まれる。




 それは。




 ただの光ではない。




 圧。




 質量。




 存在そのものが“貫通”の概念でできているかのような一撃。




 無尽弓グラトニアス。




 その一射。




 九尾が反応する。




 遅い。




 だが。




 完全ではない。




 身体を、捻る。




 直感。




 野生の勘。




 理屈ではない回避。




 その結果。




 光は、胴体を外れる。




 直撃はしない。




 だが――




「……ッ!!」




 次の瞬間。




 尾が、消えた。




 一本。




 二本。




 三本。




 いや――




 全て。




 九つの尾が。




 まとめて。




 なぎ払われた。




 断ち切られるのではない。




 消失。




 存在ごと、抉り取られる。




 防御も。




 反射も。




 全てごと。




 吹き飛ばされた。




 衝撃が走る。




 地面が割れる。




 丘が震える。




 灰崎たちは、咄嗟に踏みとどまる。




 視界が白くなる。




 だが、目は逸らさない。




 九尾が、そこにいる。




 尾を失い。




 その巨体を、わずかに揺らしながら。




「……あ、あ……」




 声が漏れる。




 初めての。




 明確な、動揺。




 そして。




 怒り。




 九尾が、顔を上げる。




 虚空を睨む。




 その視線の先。




 誰もいないはずの空。




 だが。




 確かに、そこにいる。




「……強欲帝、か」




 低く。




 絞り出すように。




 その名を呼ぶ。




 それが。




 九尾に変化してから初めての、“言葉”だった。




 灰崎は、息を吐く。




(……通った)




 あの防御。




 あの無敵要塞。




 それが、崩れた。




 完全ではない。




 だが、決定的に。




 サミエムが、笑う。




「はは……やべえな、マジで」




 その目は、完全に生き返っていた。




「これで、ようやく殴れるってわけか」




 ヘリオが頷く。




「そういうことだ」




 短く。




 だが、確信を持って。




「ここからが本番だ」




 九尾が、唸る。




 尾を失ったその姿は、先ほどまでとは明らかに違う。




 だが。




 弱くなったわけではない。




 むしろ。




 純粋な“獣”としての危険性が、剥き出しになる。




 それでも。




 もう違う。




 灰崎は、一歩前に出る。




 サミエムも、並ぶ。




 ヘリオが、背後に立つ。




 三人。




 並ぶ。




 そして。




 前を向く。




 崩れた防御。




 露わになった本体。




 ここまで来た。




 なら。




 やることは一つ。




 灰崎が、低く言う。




「……行くぞ」




 決着の時が、来た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。