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【嫉妬の章】鏡越しの会話

 左右に並ぶ低い建物。


 どこまでも見通せる直線。


 空は青い。


 だが、圧がある。


(……見られてるな)


 直接ではない。


 だが確実に。


 背中に、視線が刺さる。


 サミエムが小さく呟く。


「マジで落ち着かねえな」


「顔に出すな」


 ヘリオが即座に返す。


「“普通”から外れる」


 その言葉通り。


 通行人たちは感情が薄い。


 笑わない。


 怒らない。


 ただ、存在している。


 灰崎は、店の前で足を止めた。


 本屋。


 ありふれた看板。


 だが――


 扉の横。


 小さな鏡。


 何気ない位置にあるそれ。


 視線を落とす。


 一瞬だけ。


 何も書かれていない。


 だが。


 数秒後。


 文字が浮かぶ。


『南三区、巡回増加』


 灰崎は視線を外す。


 何もなかったかのように。


 サミエムがぼそりと言う。


「……マジでやってんのか、これ」


「見るな」


 ヘリオが低く言う。


「“見た”と分かる動きは避けろ」


 理解する。


 これは“読む”んじゃない。


 “流し込む”ものだ。


 情報を。


 視界の端で。


 自然に。


 街を歩く。


 ただそれだけで、情報が入る。


 別の通り。


 パン屋。


 その壁の鏡。


『西門、封鎖準備』


 さらに先。


 水路沿い。


『本屋二名、消失』


 サミエムの顔がわずかに歪む。


「……やられてるな」


「当然だ」


 ヘリオは冷静だった。


「警戒は最大」


 ガルドの死。


 それが、ここまで影響している。


 例外が現れた。


 だから、排除する。


 単純で、確実な思考。


 灰崎は感じていた。


 この街の“流れ”を。


 情報は動いている。


 だが。


 それ以上に――


(……探してるな)


 何かを。


 いや、“誰か”を。


 異物を。


 そして。


 自分たちも、その中に入っている。


 サミエムが小さく笑う。


「歓迎されてねえな」


「当たり前だ」


 ヘリオは短く言う。


 そのまま、角を曲がる。


 視界が一瞬だけ途切れる。


 だが、それも計算されている。


 完全な死角ではない。


 “切れない程度の遮断”。


 その中で。


 ヘリオが紙を取り出す。


 素早く書く。


 灰崎にだけ見せる。


『夜、図書館で合流』


 すぐに破る。


 痕跡を残さない。


 サミエムが呟く。


「めんどくせえな」


「生きるためだ」


 ヘリオの声は淡々としている。


 だが、理解している。


 この街では、これが“普通”。


 日が傾く。


 青空は変わらない。


 だが、光が鈍くなる。


 時間の感覚すら、狂わされる。


 夜。


 図書館。


 外から見れば、ただの古い建物。


 だが、中に入った瞬間。


 空気が変わる。


 遮断。


 外の視線が消える。


 少女がいた。


 昼と同じ場所に。


「……どうだった」


 短い問い。


 サミエムが肩を回す。


「最悪だな」


 正直な感想。


 少女は頷く。


「それが日常」


 紙を取り出す。


 何かを書く。


 差し出す。


『三日以内に動く』


 ヘリオが目を細める。


「根拠は」


 少女は答える。


「消失者の増加」


 一拍。


「異物排除が加速してる」


 つまり。


 時間がない。


 灰崎は静かに言う。


「目標は」


 少女は、迷わなかった。


「嫉妬帝」


 その名。


 それだけで、空気が変わる。


「だが、直接は無理」


 分かっている。


 誰もが。


「だから――」


 少女は続ける。


「近づく」


 段階的に。


 確実に。


「奪われる前に」


 その言葉に、重みがある。


 この街では。


 “持っていること”自体がリスクだ。


 力も。


 地位も。


 全て。


 灰崎は頷く。


 短く。


 戦い方は変わった。


 だが、本質は同じ。


 越えるだけだ。


 奪われる前に。


 届く。


 その一点へ。

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